例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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夏の羽、束ねて









木の実を見付けた。
そう言って、子供の片割れはするすると気を登り始めた。

登り始めた親友を見上げる子供は、はらはらと少し心配そうな目をしている。


克弘も一緒に登ってみたらどうだ、と何度か相楽は促してみたが、克弘は首を横に振るばかりだった。
もともと活発ではないし、左之助ほど身軽でもない克弘は、そう言った遊びごとが不得意だ。
それに、自分も一緒になってはしゃぎ始めたら、左之助を止める人がいませんから、とも笑って。



今日も今日とて、その姿勢は変わらず、克弘は落ちるなよ、と木を登る左之助に声をかける。






「こんぐれェ平気でェ。落っこちたってなんともねェよ」
「ない訳ないだろ。怪我したらどうするんだ」
「だからしねェって」






枝にも頼らず、幹に両腕と足を引っ掛けてしがみついているだけの左之助。
木登りが得意でない克弘には、危なっかしいようにしか見えない。


克弘の心配など何処吹く風で、左之助はまた上へ上へ。

程なく、目当ての木の実に手が届く場所まで辿り着く。
半身を幹に委ねたまま、もう半身は木の実へ腕を伸ばした為にがら空き。
克弘は益々心配になった。







「左之助ーッ」






まともな足場もないから、克弘には左之助が今にも落ちそうに見えて仕方がない。
けれども、やはりその当人は、平静とした顔で枝に生る木の実へと腕を伸ばした。






「ほら見ろ、克! アケビ!」
「判ったから、早く下りて来い!」






もう危なっかしくて、克弘の方が我慢できなかった。


降りろと言われた左之助だったが、構わず、片手で幾つか実をもぎ取った。
それを地面に放り投げると、慌てて克弘がそれを捕まえる。
二個程地面に落ちたが、実が割れてくれれば返って食べ易い。

見下ろした親友の腕に、落とした分の実が納まっているのを見て、もういいかと頃合。
ついでにもう一つもぎ取って、片手に持ったまま、細い幹を蹴った。







「左之、」







悲鳴に近い克弘の声が響いた直後。
すとん、と軽い音と共に、地面に着地。









「な、平気だろ?」











木の葉の羽根を舞い散らせ、地上に降りた君。

夏の日差しのように笑うから、結局適いやしないのだ。













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真冬に木の実ってあんまりないよなあ(滝汗)。
と言うか、お題にちゃんと添えてるかも甚だ不安……
インスピレーション優先なもんで…


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両手に抱えられるだけの花









この国には、四季がある。
それに合わせて、咲く花も変わる。







まるで場違いのように咲き誇る花畑。
冬である事さえも忘れさせるような、福寿草の黄色が地面を埋め尽くし、所々にナズナの白。

その中で、駆け回る子供が二人。







「左之、ちょっと待て!」
「克が遅ェんでェ、早く来いよ!」







きゃんきゃん高い声を上げて、跳ねては転び、転んでは起き上がり駆ける子供達。

少し前まで遊び相手をしていた大人達は、既に降参。
残った子供二人だけが、今も無邪気に走り回っている。
遊びにかける子供の体力は、本当に無限だ。



明朝に雨でも降ったのか、空気はしっとりと濡れ、吹く風が心地良さを感じさせる。
花弁にも露が残り、降り注ぐ光をきらきらと反射させていた。

その真ん中で生き生きと遊ぶ子供達を、誰が止められるものか。






「オレは普通だ! お前が早過ぎるんだよ!」
「ンな事ねェって」






少し遅れる克弘を待って、左之助は立ち止まる。
克弘は既に息が上がりかけていたが、左之助は至ってけろりとしていた。
そんなに疲れるほど遊んだか? と左之助は首を傾げる。


疲れた、とばかりに克弘がその場に座り込んだから、左之助の方が克弘の下に赴いた。
花畑の真ん中に座り込んだ子供二人は、大人達に背中を向ける格好になっていた。






「もう駄目だ。疲れた」
「なんでェ、根性ねェな。オレぁ全然足りねェぞ」
「お前とオレを一緒にするなよ」






そのまま、克弘は其処から動かなくなる。
左之助はしばらく周りをウロウロして続きを促したが、克弘は動かなかった。

無駄だと悟ると、左之助も克弘の隣に腰を落として落ち着いた。














それから、四半刻が経った頃。




じっとしていたと思っていた子供二人が、立ち上がって此方に駆けてきた。
その手に抱えられたものに、相楽はおや、と目を瞠る。







「隊長ー!」
「相楽隊長ー!」






元気に呼んで駆けてくる子供二人。
しゃがんで待っていれば、すぐ目の前まで来て、肩で息をして立ち止まり、






「隊長、これどうぞ!」
「和え物にしたら最っ高に美味いっスよ」
「お前、ずーっとその話ばっかだろ」
「いいじゃねェか、克も好きだろ。菜っ葉の和え物」






両手いっぱい黄色を抱えて、交わす会話は子供らしく食い意地が張ったもの。













今日の夕飯は、案外豪勢なものになりそうだ。













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なんか春のイメージが私の中にはあるんですが、菜の花もナズナも、冬のうちから咲いてます。
子供は綺麗だなんだと言うよりも、やっぱり食い意地(笑)。


死待ち蝶










羽をもがれた蝶々は、
地を這うのみの蝶々は、


ただ終焉を待つだけの、誰も知らない死待ち蝶。








目指していた未来への道標が、消えてなくなった。
それは、あまりにも唐突に。


泣く暇もなく。
怒る事も赦されず。
まるで子供が蝶の羽を捥ぐように、気付けば跳ぶ術を失った。

其処には仕方のない事情もあり、赦されない筈の現実もあり。
斬り捨てられた事実だけが、ただただ冷酷に突き付けられる。



せめて子供は死なせはしまい。
せめて、未来に繋がる希望は摘ませまい。

摘み取る羽さえ揃わぬ子供を、冷たい土の上で、寒空の下に眠らせはしない。


だから、見付からぬように願って、葉の影にひっそり隠して、置いて行く。







未来が見えない。
未来に跳ぶ為の羽がない。

地の上、近くやって来るのは無念と言う名の終焉。





春を待てずに、終焉を待つだけの、我等は誰も知らない死待ち蝶。











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また崩壊時……!
つ、次はあったかい話を考えます……(土下座)


さよならが痛いんじゃないの










子供を二人、置いて。
それが一番、心残りだった。





息子があれ位の歳だった。
孫があれ位の歳だった。

笑って駆け寄ってくる姿が、生意気でも愛しくて。
遠い家に残した子供達を思い起こさせる幼さが、愛しくて守りたくて。
いつか理想が現実となって、帰るべき場所に帰った時、この子供達と同じ笑顔で迎えてくれるんじゃないかと、
そんな小さなささやかな、けれども何よりも強い強い願いと希望を持たせてくれる子供が、二人。


大人でも辛い真冬の行軍を、子供二人は大人と同じ速さで歩いた。
時に攘夷志士に襲われようと、彼らは決して恐れなかった。
勇気でもあり、無謀でもあり、それが彼ららしくて愛しくて、彼らに未来を託したいと思った。



だから、子供二人を置いて行く。







「留守を頼むぞ」







子供と一緒に残る、準隊士に隊長から声がかかる。
大人達は既に大方の予想は出来ているのだろう―――――その表情には悲愴が浮かぶ。
それでも一度歯を食い縛ると、はい、とはっきりとした返事があって、隊長は目を窄めた。


それから、大人達に囲まれて、不安げに此方を見ている子供二人に歩み寄る。

膝を折って目線の高さを合わせる隊長に、一人が泣きそうな顔で、それでもぐぅと口を噤んだ。
隣に立っていたもう一人の子供が、握り締められた親友の手を掴んで握り締めた。
繋ぎ合った幼い手は、小さく震えている。








「大丈夫」







心配するな。
そう言って、隊長の手が二人の子供の頭を撫でた。

その手が離れて、一人の子供の肩が揺れた。
立ち上がった隊長を追いかけるように、二対の瞳が敬愛する人の顔を追い駆ける。



歩き出す隊長に従い、残留を命じられた少数の者だけを残して、進み出す。
擦れ違い様、小さな子供二人の頭を撫でて。




繋ぎ合った小さな手は、何度も自分達へも向けられた。
時に笑い、時に怒り、拗ねて、また笑って。
出来る事なら、これからもずっと、理想が現実になって彼らが大人になるまで、それを見ていたかった。


まだ若い。
まだ幼い。

その未来を、摘み取ってしまっては行けない。






遠くなって、隊長、と呼ぶ声が聞こえた。
駄目だと止める、高い声がする。






誰も振り返らなかった、誰も立ち止まらなかった。
先頭を歩く人は何処までも真っ直ぐに、きっと既に心は決めている。

振り返っていはいけない、これは言葉にしない「さよなら」。
子供二人の気持ちを置き去りにした、「さよなら」。
言ってしまえば、子供達は泣いてしまうから、きっと一緒に行くと言うから、だから言わない。


自分達の運命への、腹は決めた。
だがどうあっても、子供二人の事は誰にも話すまい。
言えばきっと残党狩りに遭ってしまう。

彼らは希望。
目指した理想へ向かう、一筋の光。











ただ、願わくば。


現実した理想の世界で生き抜く子供達を、この眼で見たかった。














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……崩壊時の話でごめんなさい。
一応、隊士の誰か視点のつもりです。



壁に耳あり障子に目あり










宿に泊まっている最中の会議の時、子供二人は大抵その場から外された。

一人は素直に従じるが、もう一人は納得行かないと言う顔をする。
それは別に反抗しているとか言う事ではなく、敬愛してやまない隊長の傍から離れるのが嫌なのだ。


大人達からの言い分としては、町宿にいる時ぐらい、子供達には好きに過ごさせてやりたかった。
行軍の間は、周囲の大人を追いかけて歩かなければならない彼らに、その日一日位は遊んで良いぞと。
町で団子でも買って、物見でもしてくれば良いからと。



隊長直々に暇を言い渡されて、子供はようやく町に出て行く。
傍を離れる口実として、隊長から少々の小遣いを渡されて。

二人並んで宿を出て行くのを見届けてから、軍議は始まった。








それから半刻程だろうか。

ふと相楽の頭が揺れて、傍にいた隊士がどうかしましたかと問う。
と、相楽は小さく首を横に振り、なんでもないと言い、地図に視線を落とした。


隊士はしばらくどうしたのかと疑問に思っていたが、やがて気付いた。
じっと向けられている、二対の視線を。



茶を淹れ直す振りをして、廊下へと続く障子を見た。
きっちりと閉じていた筈のそれは、ほんの少し、隙間を開けている。
外は曇り空で光が少ないから、影の形は部屋内にはなかった。

なかったけれど、其処から覗く視線が誰のものであるのかなど、考えなくても直ぐに判る。
時折聞こえる、ひそひそとした少し高めの声を聞かなくても。


そっと横目で窺い見ると、子供二人は手に何かを持っていた。
葉で包まれたもの、恐らく団子か饅頭だろう。
二人でたらふく食べても良いのに、わざわざ土産に買って持って帰ってきたのだ。

特にやんちゃな子供の方は、町を楽しむのも良いけれど、早く此処に戻って来たかったのだろう。
だから宿を出てから、たったの半刻程で帰って来たのだ。
まだ会議中とは判っていても、出来るだけ傍にいたいから。
大人しい子供は、いつものように、やんちゃな子供に付き合っての行動だろう。





子供二人はこそこそと、早く会議が終わらないかと窺っている。
しかし残念、もう暫く長引きそうである。





ややもすると、其処で立っている事に疲れたのだろうか。
一人がその場に座り込んで、此処で座るなともう一人が腕を引っ張った。
座った子供は渋々立ち上がり、そっと障子を閉めて、とたとた向こうへ行ってしまった。

が、その後。
壁越しに隣の部屋からカタリと言う音がして、遂に相楽が噴出した。


隊長である相楽が我慢し切れなかったものだから、他の面々も次々噴出した。
口を押さえて辛うじて耐えはしたものの、クツクツ喉から上がる笑いは抑えられない。




バカ左之、と高い声がした。
なんだと、と続く声。

それから、しんと静かになる。











壁の向こうで、早く終わらないかと待つ子供達。


悪いがもうしばらくだけ、良い子で辛抱していてくれよ。













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どんどん赤報隊時代を捏造してますね、自分(汗)。
ちびっこ大好きなんです。

大声出し合った後で、二人で「しーっ」とかしてればいい。