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悴む手足を摺り合わせて、その場凌ぎでもいいから熱を求める。
寒さには強い方だと思っていた左之助だったが、それでも今夜は随分と冷える。
傍で蹲る克弘は眠ってしまったけれど、時折、温もりを求めるようにもぞもぞ動いて中々落ち着く様子がない。
被っているのは冷たくて堅い布一枚で、それを子供二人で一緒に使っている。
子供同士密着している分、一人で寝るよりかはマシだろうが、やはり寒いものは寒かった。
その寒さの所為で眠気も飛んでしまって、左之助は夢の世界に逃げ込むことも出来ない。
背中越しの克弘の熱は、触れ合った部分は確かに心地良いのだけれど、反面、手や足の冷えがどうも際立つ。
耳もジンジンとした痛みを訴えるし、鼻水の啜りすぎて鼻が痛いし。
よく眠れるもんだなと、周囲を囲む大人達と、背中越しの友人の気配を感じながら思う。
けれども、冷えた冬の空は、決してそればかりではなく。
空を見上げてみれば、澄み渡った空気の向こうに沢山の星が光る。
沢山の光の粒が散りばめられた空。
それは、飛び出してきた故郷で、妹と二人手を繋いで見上げた空とよく似ている。
雪を運んできた曇天が過ぎ去った後、空気は冷えて澄み渡り、キレイな空が広がった。
月の光が、星々が、灯りの少ない村を照らして帰り道を示す。
空から降り注ぐ淡い光を頼りに、引いて田んぼのあぜ道を歩いた。
無数の星の数を指差し数える、妹の手を引いて。
(右喜―――――泣いてねェかな)
よく泣いていた妹。
いつも後ろをついて来た妹。
左之助が近所の子供と喧嘩をする度、右喜はわんわん泣いた。
近所の家の人が飼っている犬に吼えられると、怖いと言って左之助に抱きついて泣いた。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、と言って、左之助の手を捕まえると、ようやく安心したように笑った。
そんな妹を残して、父親と盛大な喧嘩をして、左之助は家を飛び出した。
母親が何か言っていたような気がするけれど、何だったかはもう思い出せなくなっていた。
今日のような寒い日の夜、右喜と二人、一枚の布団で一緒に寝た。
今克弘としているように背中合わせではなく、向き合って、小さい体が寒くないように抱き締めて寝た。
右喜は最初はモゾモゾ動いて、その内自分の納まるところを見つけて、眠るのだ。
故郷も今日は寒いだろうか。
同じような星が見えるほど、空気は冷えて透明だろうか。
手を繋いであぜ道を歩いたあの日と同じ空が、あの地でも見れるのだろうか。
(…………遠いもんだな)
同じ空の下にいる筈なのに。
此処から見上げる星は、あそこで見た星と同じ距離だと思うのだけど。
指差し星を数える妹の手は、そのまま星を掴みそうだった。
畑仕事の帰り、父が一緒の時は肩車されて、左之助よりも高い場所で星に手を伸ばしていた。
今よりもっと右喜が小さい時、まだ物心がついて間もない頃。
空でキレイに光る星が欲しいと言われて、じゃあいつか取って来てやるなんて言った気がする。
……あの時は、本当にいつか星に手が届くような気がしていた。
そうして、いつか星を手に掴むことが出来たら。
金平糖みたいなその粒を、妹にあげられるものだと。
――――――だけれど今、此処から見える星は、あの日の記憶よりも随分遠くにあって。
いつか取ってやると約束した小さな妹は、随分遠くにいて、自分は遠くに来てしまって。
「届かねェな―――――――………」
小さな村を飛び出して。
尊敬する人の傍らで、沢山のものを見た。
そうして、夢と現実を知って。
夢と言う星を掴もうとしても、泣きたくなる程その実現は遠いものであると知って。
知る度、空に手は届かないのだと、あの日の約束が遠退く気がして。
手を伸ばしてみる。
届く訳もない空に。
小さな手よりも小さな星の粒は、こんな手の中になんて収まってくれない。
それでもいつか、届くのだろうか。
夢が現実になる日が来るように、いつか届く日が来るだろうか。
果てのない空の向こう、光る星を捕まえて、約束を果たせる日が。
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現代パロとか色々考えましたが、家族ネタに落ち着きました。
……書き出してから方向決まった感もあります。
たまには家族の事を考える日もあったんじゃないかなぁと。
「ん?」
後ろを歩いていた弥彦の声に、前を歩く左之助が立ち止まって振り返る。
弥彦はじっと左之助を見ていた。
目は左之助の顔に向かっていて、だから当然、左之助が振り返れば視線がかち合う事になる。
「なんでェ?」
「いや……?」
無遠慮に見つめられての左之助の問いは、無理もないもの。
しかし弥彦は首を傾げて、不思議そうにするばかりで、一向に問いに答えようとしない。
訳の判らない奴だと、左之助はくるりと背中を向けて、また歩き出す。
その背中を、また弥彦の目が追い駆けた。
背中にじりじりとした視線は感じられたものの、左之助はそれ以上気にしない事にして歩を進める。
「ったく、嬢ちゃんも人使いが荒いぜ」
「白味噌と赤味噌と醤油だよな」
「一気に買う必要あんのか? 大体、二月前に剣心が買ってたんじゃねェのかよ」
「買ったぜ。オレも一緒だった」
もう使い切ったのか? と言う左之助に、さぁ…と弥彦は言葉を濁すばかりだ。
だが確かに、味噌や醤油、薬味の減りが最近早い。
その原因は、神谷道場の家事一切を引き受けている緋村剣心ではなく、現道場主である神谷薫にある。
料理の下手さに定評のある薫であるが、恵に揶揄われて一念発起を起こしたらしい。
剣心に教わることなく、台所で悪戦苦闘しているのを弥彦はよく目撃している。
成績はあまり芳しくない様子であったが、頑張っているのを邪魔する気にはならないので、(生来の口の悪さのお陰で時々揶揄う事はあるが)彼女の気が済むまでやりたいだけやれば良いと思う。
ただ、出来上がった料理の味見をさせられる事にだけは、逃亡と言う手段を取らせて頂くが。
「でもいいじゃねェか、買出しぐらい。左之助はいつもタダ飯食ってんだからよ」
「へーいへい」
有り余っている体力と腕力の使い所は、こんな所にある。
また、左之助も別に薫に言われての買出しを厭うている訳ではあるまい。
なんだかんだと言って、こうして彼女希望の諸々をきちんと買い揃えて戻るのだから。
夏の日差しが、広い背中を照らす。
その背中で、見慣れた一文字が誇らしげに佇んでいた。
弥彦は、なんとなくその背中の一文字を見つめて歩いた。
一番最初に見付けた時には、はっきりきっぱり、妙な野郎もいるもんだと思ったものである。
今となっては、すっかり見慣れた背中になったけれど。
――――――その背中に、時々、
(……気の所為か?)
傍の川の水面で反射した陽光の一閃が、弥彦の瞳を一瞬射抜いた。
網膜が痛いと叫んだので、手の甲でごしごし擦る。
そうして離した、そのほんの僅かな一瞬に、
(誰かいる、訳ねェよな)
時には後ろに。
時には隣に。
ほんの少し離れた位置に。
誰かが見守るように寄り添っているように、見える気がするのだけど。
「おいコラ、置いてくぞ」
振り返って響いた声に、一度瞬きしてみれば。
其処には見慣れた顔があるだけで、やっぱり気の所為だよなぁと思う。
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[アマデウス : 神に愛される]……なんですけども。
左之助って、神も仏も頼りそうにないなぁι
色々悩んだ結果、左之助にとってある種の神と言ったら、やっぱり隊長かなーと行き着きまして。
幽霊になってまで左之助の前に現れた隊長とか、色々妄想が(笑)。
其処からこんなの出ました(また雰囲気モノ!)
拍手に弥彦初登場。
子供の方が霊感あるって言うよね。
一人で見上げた夜の空は、何処までも遠く、昏く、闇に覆われていた。
星も月も意味を成さないほどに。
嘗て大切な人と見上げた空を、星を、月を、今は一人で見ている。
酒で酔いかけていた頭はすっかり冷めていて、返って頭を冷静にさせていた。
自分が可笑しくなったのではないかと思うほど、心中は静まり返っており、漣一つ立ちそうにない。
直ぐ傍で修達が寝転がっている。
かぁかぁと暢気な寝息を立てる男達は、夜が明けるまで目覚めそうにない。
人によっては、天道が空高く上るまで、瞼を開けることはないだろう。
自分も同じほどに酒を飲んでいたと思うのに、どうして酔えないのか。
思えば、酔い潰れるほどに酒を飲んだ記憶がない。
酒が回って寝るのは、どうやら、“眠り”ではなく“気絶”らしい。
だったら夢を見ることもないだろうから、それ程に呑んで呑んで、潰れてしまいたい。
女々しい事を言うつもりはないが、左之助だって偶にはそんな事を考える日もある。
揺らしても音の鳴らない徳利を蹴る。
ゴロゴロと転がったそれは、銀次の頭に当たって止まった。
その向こうで、宵太が寝ている。
あちこち転がる徳利の中から、まだ一本だけ中身が残っているものを見付けた。
それも直に空になるだろうが、構わず、左之助は液体を猪口に注ぐ。
一思いに煽れば、喉の奥が焼け付くような、強い酒精。
連れ立つ者達と大騒ぎするのも好きだが、一人で月見酒というのも、嫌いではない。
だが出来れば、それは程々に酔いの回った時が良い。
いやになるほど冷静な時は、昔を思い出して今と無意識に比べてしまう。
この東京に来て知り合った者達と。
遠い昔に絶たれた人々と。
別物であるそれらを比べるだけ無駄な事で、意味のない事であるとも判っている。
けれどもどうしても、思い出さずにはいられない。
寒い空の下。
寒くないかと問われて、平気ですと答えた。
本当は手が痛いくらい悴んでいたけど。
あの人は、今思えば、きっとそれも判っていたのだろう。
私は少し寒いなァ、暖を取りたい、と言って抱き締めてくれた腕。
嬉しいやら、申し訳ないやら―――――恐れ多くて大慌てした左之助を、あの人は放さなかった。
それが酒の席の話で、ひょっとしたらあの時、あの人は酔っていたのだろうか。
表情はあまり変わっていなかったような気がするのだが。
風に当たろうと言って、あの人は自分を酒の席から連れ出した。
宴会の空気に馴染めそうになかった幼馴染も一緒に。
そうして三人、喧騒の傍らの静かな一角で、何をするでもなく、冷えた空の月を見上げていた。
真冬の澄んだ空気に、空は綺麗な色をしていて、その中に月があった。
青白い仄かな光を放ちながら。
あの日から、幾年月が流れて、今。
時代が変わり、周囲が変わり、自分自身も変わったけれど。
空の月は、見える形こそ変えつつも、其処にあるのは同じ存在。
違う場所で、同じ月を、見ている。
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喧嘩屋時代の左之助。
……克左之で書いても良かったかなと、書きおわってからふと考えた(遅)。
どうすれば綺麗に飛べるのか、
どうすれば綺麗に翼が出来るのか、
途中までしか教えてもらえなかったから、此処にあるのは出来損ないの翼だけ
完成した見本を失って、
曲がった骨組みを直してくれる添え木もなくて、
間違っている事を教えてくれる人もいなくて、
あちこちぶつかりながら飛んでいた
滅茶苦茶な形になった、出来損ないの翼のままで
風が捉えられなくて、
何度も何度も地面に落ちて、
ぐちゃぐちゃの翼がもっと折れて歪んでいく
それでも飛ぶことを止めることだけが出来なくて、
歪な翼で必至になって足掻いていた
何処をどうすれば真っ直ぐ飛べるのかなんて事、
誰も教えてくれなくて
落ちた翼を受け止めたのは大地だけで、
通り過ぎる人達は、鳥が落ちた事にも気付かなかった
ただ、
もっと高く、もっと高く、
もっともっと天より高く飛びたくて、
そうすればいつか、教えてくれた人達に、もう一度会えるような気がしたから
見えない空を目指して、出来損ないの翼で飛んだ
地面に落ちてしまう度に、
思い出すのは、最初に翼を見せてくれた大好きな人で、
どうしてあの人はもう教えてくれないんだろうと泣きたくなった
出来損ないの歪な翼で、どうやって真っ直ぐ飛べるのか
ぐちゃぐちゃになったまま直らないのに、どうすればあの人達のように飛べるのか
もう誰も教えてくれないから
出来損ないの翼のままで、あちこちぶつかりながら飛んで行くしか出来なくて
だけどいつかは、
出来損ないの翼の鳥でも、何処までだって飛んで行ける
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喧嘩屋時代の左之助は、まさにこの言葉そのままだったんじゃないかと。
見送ろう。
過ぎ行く影を見送ろう。
志半ばに消える灯と、その灯の影を見送ろう。
誰も見送らないのなら、その存在を知る者だけで見送ろう。
涙でもいい、笑顔でもいい、見送ろう。
見送らなければ、影は存在していなかった事になる。
嘘が真に、真が嘘になってしまう。
その灯と、その影が、どんな形と色をしていたか、知っているのはほんの僅かな者だけだ。
後は噂が一人歩き、灯も影も形を変えて色を変え、本来の形と色を見失う。
だから、その前に見送ろう。
影がぼやけてしまう前に、見送ろう。
そのままの形で、空に溶けて行けるように、見送ろう。
見送る影は、人が思うよりも余りに多く。
見送る人は、影よりもずっと少なくて。
だから、存在を知る者だけで見送ろう。
その方が混じりけのない形と色のままで見送れる。
真実の灯と影の形と色で見送れる。
見つめ送る人の中、二人の子供が泣けずに空を見ていた。
ともすれば、見送る影になる筈だった二人の子供。
見送る影に置いていかれた、二人の子供。
誰よりも何よりも、真実を知る、見送る二人の子供達。
見送るぐらいだったら、ついて行きたかったのに。
あの人が駄目だと言ったから、子供二人は置いて行かれた。
置いて行かれたその意味を、今はまだ知らぬまま、二人は溶ける影を見つめて空を仰ぐ。
見送ろう。
今はただ、見送ろう。
過ぎ行く影を、見送ろう。
いつかもう一度、空から大地に降りる事を赦された時、そのままの形と色でいられるように。
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またまたインスピレーション優先です……
懐かしいですね、“影送り”。
この単語を聞いたのは小学生の国語の授業以来です。