例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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さよならが痛いんじゃないの










子供を二人、置いて。
それが一番、心残りだった。





息子があれ位の歳だった。
孫があれ位の歳だった。

笑って駆け寄ってくる姿が、生意気でも愛しくて。
遠い家に残した子供達を思い起こさせる幼さが、愛しくて守りたくて。
いつか理想が現実となって、帰るべき場所に帰った時、この子供達と同じ笑顔で迎えてくれるんじゃないかと、
そんな小さなささやかな、けれども何よりも強い強い願いと希望を持たせてくれる子供が、二人。


大人でも辛い真冬の行軍を、子供二人は大人と同じ速さで歩いた。
時に攘夷志士に襲われようと、彼らは決して恐れなかった。
勇気でもあり、無謀でもあり、それが彼ららしくて愛しくて、彼らに未来を託したいと思った。



だから、子供二人を置いて行く。







「留守を頼むぞ」







子供と一緒に残る、準隊士に隊長から声がかかる。
大人達は既に大方の予想は出来ているのだろう―――――その表情には悲愴が浮かぶ。
それでも一度歯を食い縛ると、はい、とはっきりとした返事があって、隊長は目を窄めた。


それから、大人達に囲まれて、不安げに此方を見ている子供二人に歩み寄る。

膝を折って目線の高さを合わせる隊長に、一人が泣きそうな顔で、それでもぐぅと口を噤んだ。
隣に立っていたもう一人の子供が、握り締められた親友の手を掴んで握り締めた。
繋ぎ合った幼い手は、小さく震えている。








「大丈夫」







心配するな。
そう言って、隊長の手が二人の子供の頭を撫でた。

その手が離れて、一人の子供の肩が揺れた。
立ち上がった隊長を追いかけるように、二対の瞳が敬愛する人の顔を追い駆ける。



歩き出す隊長に従い、残留を命じられた少数の者だけを残して、進み出す。
擦れ違い様、小さな子供二人の頭を撫でて。




繋ぎ合った小さな手は、何度も自分達へも向けられた。
時に笑い、時に怒り、拗ねて、また笑って。
出来る事なら、これからもずっと、理想が現実になって彼らが大人になるまで、それを見ていたかった。


まだ若い。
まだ幼い。

その未来を、摘み取ってしまっては行けない。






遠くなって、隊長、と呼ぶ声が聞こえた。
駄目だと止める、高い声がする。






誰も振り返らなかった、誰も立ち止まらなかった。
先頭を歩く人は何処までも真っ直ぐに、きっと既に心は決めている。

振り返っていはいけない、これは言葉にしない「さよなら」。
子供二人の気持ちを置き去りにした、「さよなら」。
言ってしまえば、子供達は泣いてしまうから、きっと一緒に行くと言うから、だから言わない。


自分達の運命への、腹は決めた。
だがどうあっても、子供二人の事は誰にも話すまい。
言えばきっと残党狩りに遭ってしまう。

彼らは希望。
目指した理想へ向かう、一筋の光。











ただ、願わくば。


現実した理想の世界で生き抜く子供達を、この眼で見たかった。














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……崩壊時の話でごめんなさい。
一応、隊士の誰か視点のつもりです。



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