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………悔しいんだよ、いつもいつも
【To tell the truth, both are mortified】
やらせろ。
歯に衣着せぬ物言いが、一体何を示してのものなのか、一瞬判じ兼ねた。
兼ねたが、現状を思い返してみれば、示すものは一つしかない事に気付く。
つい数分前まで、躯を重ね合わせていたのである。
「元気だねェ、京ちゃん」
言って抱き寄せると、違ェバカ、と顔を掌で抑えられる。
「やれって言ってんじゃねェ、やらせろっつってんだ」
「だから、するんだろう?」
「させろってんだよ!」
微妙な言葉のニュアンスが食い違っていることには、八剣も気付いている。
京一も男だ。
その男としてのプライドが、同じ男に組み敷かれる事に反発を訴えるのも無理はない。
片手では足りないが、両手では余る回数。
いい加減に京一も我慢の限界だと言う事だろう。
京一が本気で嫌がる事は八剣も強要したくないし、京一の要望にはなるべく善処する心持である。
しかし、自分が女役を担うことには賛同できないし、何より自分が京一を抱きたいのだ。
こればかりは譲れない―――――京一にしてみれば不条理だと言う所だろうが。
腕を取ってシーツに押し付ける。
身を捻って逃れようとするのを体重をかけて封じて、八剣は京一の鎖骨に舌を這わす。
熱の名残を残す若い躯は、与えられる快感に正直で、鍛えている割には薄い肩が跳ねる。
「……ッ…」
艶の篭った吐息が漏れる。
どす、と音がして、腹を蹴られた。
ろくに力など入ってはいなかったから、痛くはない。
痛くはないが、完璧に拒絶の姿勢である事は確かだ。
見上げ、睨む京一の強い眼に光悦感を覚えたが、あまり機嫌を損ねるのは宜しくない。
腕を解放すると、京一はさっさと八剣の躯の下から抜け出して、起き上がった。
「ヒトの話を聞きやがれ、このケダモノ!」
「男は皆ケダモノだよ」
「テメェは格別にな!」
もう一度足が飛んできて、八剣の肩を蹴った。
その足を捕まえようとした手が触れる前に、それは引っ込んで逃げる。
惜しい、と思ったのが顔に出たか、京一の眼が更に剣呑さを帯びた。
……もうしばらくその眼を見ているのも悪くはないのだが、このままでは話が進まない。
仕方なく1メートル分距離を取って、聞く姿勢を取る。
京一はまだ此方を警戒していたが、ようやく喋れると思ってか、一つ息を吐いてから、
「毎回毎回、テメェばっか好き勝手しやがって」
「まぁ、否定は出来ないかな」
「違うとか言ったらマジでぶっ飛ばすぞ、テメェ」
忌々しげに言う京一に、八剣は笑むだけだ。
それが更に京一の神経を逆撫でしているのだろうが、八剣はその表情を止めない。
京一ががしがしと乱暴に頭を掻いて、また一つ、大きく息を吐く。
「……やらせろ、オレにも」
「好きなように?」
「当たり前だ」
胡坐をかいて、京一は八剣を睨んで頷く。
八剣は、少しだけ安心した。
攻める側としてやらせろと言ったのであれば、どうしたものかと少し考えていたからだ。
前述でも述べたが、八剣は京一の要望にはなるべく善処する姿勢であるが、抱かれる事だけは容認できない。
杞憂で済んだのならば、次に沸いてくるのは、どんな事をやってくれるのかと言う興味であった。
「例えば何を?」
「………何、って………」
問われて、京一の視線がしばし彷徨う。
好き勝手にされて腹が立つから、自分にも好きにやらせろ、と言う気持ちは確かであったが、しかしいざとなると何をすれば良いのか、特に決めてはいなかったようだ。
考え込む京一を急かすことなく、八剣は、さてどうしてくれるんだろう、と面白そうに想い人を眺めた。
しばらく視線を宙に彷徨わせた後、京一は何かを思いついたらしい。
が、いまいち決断出来ないようで、あーだのうーだの小さく唸る。
眼は何度か八剣に向けられ、また逸らされてを繰り返した。
そうして数分の時間が経ち、京一は腹を括って再び八剣に向き直る。
「……………フェ、ラ……とか…」
呟きが消えかけて、顔は真っ赤。
腹は括っても、いざそれを口に出すと一挙に羞恥が募る。
「……してくれるの?」
「……あーもうッ!!」
思わず八剣が問うと、京一は癇癪を起こしたように声を上げた。
羞恥がピークに達して自棄になったのだ。
離していた僅かな距離を一気に詰めると、京一は八剣の下肢に屈み込む。
これ以上何か言われて余計な羞恥心を煽られる前に、思い切ることにしたらしい。
八剣が眼を丸くしている事などお構いなしに、京一は八剣の雄を口に含んだ。
ぬるりとした生温かい感触が走って、八剣は現実に帰る。
「……京ちゃん?」
「…るせェ、喋んな」
それだけ言うと、京一はまた奉仕を再開させる。
無理に離す訳にも行かないし、本音、京一のこの行動が嬉しくない訳がない。
日頃豪胆に見えて、色事に置いては恥ずかしがり屋な想い人は、今までにこういった行為を一度もしてくれた事がない。
情事の最中に前後不覚になるまで昂った後ならともかく――――自ら行動する事はなかった。
だから八剣は、京一がフェラをする、と言う事にしたいして、思わず確認するような言を取ってしまったのである。
それがなんの気紛れか知らないが、こうして奉仕などという行為をしてくれている訳で。
嬉しくない訳がない、ついでに興奮しない訳もない。
ぴちゃり、と濡れた音がする。
時折、少し苦しげな呼吸が艶を含んで漏れていた。
「ん、ぐ……」
行為を始めた事で羞恥心をかなぐり捨てたか、京一の舌遣いは徐々に大胆になる。
男同士だから、何処をどう刺激すれば良いのかは判る。
拙いながらにポイントを抑えた舌遣いは、八剣を昂らせるには十分な役目を果たしていた。
けれども、それよりも、京一がこういった行為を自ら起こしたと言う事が、何よりも八剣を興奮させる。
「……っは……ん……」
口を離して呼吸を一つしてから、もう一度。
鼻で息をするのが上手く出来ないのか、京一の表情は時折苦しげに歪んでいた。
「無理しなくても良いよ、京ちゃん」
「……る、せェ…っつってる……」
八剣にとっては宥めるつもりで言った台詞だったが、逆に京一のプライドを刺激させたらしい。
それまで竿を舐めていた舌が離れ、亀頭を口一杯に含む。
硬質を持ち始めた八剣の雄に気付いて、京一は気を良くした。
先端を舐め、気紛れに吸い上げようとする。
時折ちらりと窺うように切れ長の眼が八剣の顔へと向けられた。
どうだ、とでも言うように瞳が窄められて、八剣は苦笑しか出て来ない。
どうもこうも。
興奮しない訳がない。
躯を重ねる関係になってから、少しずつではあるが、京一の八剣への態度は軟化しつつあった。
真神の友人達のようには無論行かないが、彼らに見せない顔を八剣に見せる。
年齢よりも少し幼く感じられる表情と、それとは正反対の性質を持つ妖艶な表情と。
以前ならば顔を合わせれば警戒しかされなかったのだから、それは八剣にとってかなりの進歩である。
けれど、それとは違い、出逢った当初の――――まるで研ぎ澄まされた刃の切っ先のような眼差しも、八剣は好いていた。
全身で警戒していると知らせる猫のようにも似ていて、八剣はそれを屈服させたかった。
一閃の下に斬り捨てたあの瞬間、嘘だ、と絶望にも失望にも似た表情を浮かべたのを見た瞬間、その愉悦は満たされた。
満たされたから、もうその愉悦を望むべくはないと思っていた。
それ以上に、もっと暖かで柔らかな熱に手が届くのだから、血の緋色を望むことはないだろうと。
だが人は何処までも貪欲で、際限を知らない。
行為の最中に、自身のプライドを尊厳を傷つけられて溜まるかと、強気に睨む眼差しに、あの時の色を見てしまった。
以来、僅かな合間にその色を見つける度、強い光を屈服させたい支配欲に捕らわれる。
「…っく……ん、この…ッ」
膨らみ始めた欲望に、顎が痛くなったらしい。
京一は口を離すと、飲み込めずに垂れた唾液を手の甲で拭った。
熱が浮かび始めた瞳は、理性と言う人間独特の感情は既に遠くに放置してきたようだが、強い光は変わらない。
行為を始める前の真っ赤になった顔だとか、何をしてくれるのかと問われて迷った青さは、其処にはなかった。
「無駄にデカくしてんじゃねーよ、やり辛ェ!」
「そう言われてもねェ。いつもこんな感じだよ?」
「……信じらんね……」
天を突き、最早支えなくとも起立した雄を見て、京一がげんなりと呟く。
コレがいつも自分の中に入ってるのか――――……そんな事を考えながら。
「じゃあ、やめる?」
勿論、此処で止められて辛いのは八剣の方だ。
起立した雄に集まった熱は、解放を求めている。
しかし、京一が辛いと言うなら中断しても構わない。
それに―――――これ以上続けられてしまったら、芽を出し始めた欲望を止める自信がなかった。
だが、相手を思っての言葉でも、京一にとっては全て逆効果になるらしい。
相手が八剣であるから、余計にそうなのか。
京一はムッとしたように肩眉を上げると、また雄を口に含む。
もう相手の様子を窺う間など持つつもりはないようで、只管愛撫に神経を注ぐ。
「っふ…ぅ……ん…」
「…京ちゃん」
「……むぅ……っく……」
ちゅ、ぴちゃ、と濡れた音が広くはない部屋の中に反響する。
呼んでも、もう返事はなかった。
髪の毛を指で遊んでみると、相変わらず、毛先は少し痛んでいる。
勿体無いねェと毎回思うが、言った所で京一は女じゃねえからいいんだ、と取り合わない。
そういう所も含めて京一らしいとは思うけれど、やはり少し勿体無いと考えてしまう。
綺麗にしたら、それは良い色になると思うのだけど。
後ろ髪を撫でていると、京一の頭が一度不自然に揺れた。
猫が急に撫でられて驚いたような、そんな仕種。
悪戯心が沸いて後ろ髪を少し持ち上げ、露になった項に指を這わせると、ぴくりと肩が小さく跳ねた。
そのまま少しの間項をなぞっていると、京一の手が浮いて、八剣の手を払おうとする。
「……触んな、バカ」
「感じた?」
「………」
手を払う仕種をした京一に、おどけたように聞けば、気分を害したと言わんばかりに渋面になる。
仕返しのように、京一は八剣の雄の先端を舌でぐりぐりと刺激した。
急に訪れた強い刺激に、八剣は一瞬言葉を呑む。
は、と息を吐いて、京一は雄から口を離し、にやりと笑って八剣を見上げる。
「感じたかよ」
ざまあみろ。
顎を伝う唾液を拭って、京一はまるで勝ち誇ったかのように言った。
……油断するとこういう反撃に合うから、益々溺れてしまう。
―――――従属させてしまいたくなる。
「敵わないな、京ちゃんには」
「あ? なんだよ、ギブアップか?」
「まさか」
「そーかい。じゃ、続行な」
業務連絡並みに淡々と言うと、京一はまた八剣の下肢に顔を埋めた。
竿の裏筋をゆっくりと舐めて、亀頭を口に含む。
手も使って扱きながら、京一は先端を舌で刺激した。
自分の呼吸が少しずつ上がって行く事に、八剣は気付いていた。
見下ろせば、こちらも僅かに紅潮しつつある京一の顔があり、その口が自分の雄を咥えている。
項をなぞっていた手が移動し、京一の背筋を滑る。
京一は一度ふるりと肩を震わせたが、強気の眼差しは相変わらず、八剣を睨んでいた。
しかし、その眼は次の瞬間驚愕に見開かれる。
「おい、待……ッ…―――――!」
八剣の手は一度撫でるように京一の臀部を滑り、食指が動いた瞬間に京一は声を上げたが、既に遅かった。
四つ這いの姿勢で高い位置にあった秘孔に、つぷりと長い人差し指が侵入する。
叫びかけた声は、後頭部を抑えつけられ、含んだ熱によって遮られた。
少し前に交わったばかりの熱の名残は、まだ京一の其処に燻って残っていた。
締め付けはきついものだったが、痛みを感じる様子はないようで、八剣はそのままゆっくりと深くへ埋め込んでいった。
抗議のように京一の拳が八剣の腹を叩いたが、構わず埋めていく。
「ん、ぅ……!」
「本当に敵わない。俺を煽る事に関しては、特に」
「ふ、んぐっ…んんッ……!」
纏わり付く肉壁を押し広げながら、八剣は京一の秘孔の奥を目指す。
熱を含まされた咥内は、行為を忘れて文句を上げているようだったが、結局言の葉にはならなかった。
もう一本、指を挿入させる。
京一の躯がぶるりと震えた。
名残の蜜液が滑りを助け、指は更に奥地を目指す。
内壁を押し広げると、立てられていた膝がガクガクと震えた。
「京ちゃん、口がお留守だよ」
「んっ、ふ…! うぅんッ…!」
後頭部を押さえつけたままで囁くと、京一は眉を顰めて八剣を上目に八剣を睨む。
うっそりと笑む八剣の顔を見つけて、京一は内心でサド野郎、と呟く。
そのサディズムの火をつけた上で煽ったのが自分であるとは、気付かずに。
咥淫を再開させた京一に、八剣は競わせるように菊門を刺激する。
「んぷっ……っく、ぅ……ん、ん…」
「……上手いね、京ちゃん」
八剣の思惑通り――言えば確実に怒りを買う――、京一は八剣に負けまいとするように舌を動かす。
息苦しさと匂いに当たられたか、目尻に雫が浮かんでいる事も気付いていないようだった。
とにかく、息が上がるのも自分の今の格好も構わず、必死で奉仕していた。
ずるりと京一の秘孔から指を引き抜く。
内壁に擦れる感触に京一の躯が震え、熱を含んだままの口が小さな呻きを漏らす。
その呻きがなんとも言えない艶を含み、八剣の興奮を更に昂らせた。
咥内で更に体積を増した雄に、京一は顎が痛くなった。
一度離して呼吸も落ち着かせたかったが、後頭部に添えられたままの手がそれを許さない。
抑える力は強くない筈なのに、離そうとすると絶対の形をそれを拒む。
同時に秘孔を攻める手が激しさを増すから、文句を言う事も出来ない。
いっそ噛み千切ってやろうか、と物騒なことまで考える。
「此処、ヒクついてるよ」
「んんッ……!!」
誰がンなことするか! と言いたくても、言えず、言った所で嘘だと返される。
事実、京一の熱を煽ろうとするように、指先が京一の秘孔を口をなぞってみれば、形を確かめるように動く指に、京一は我知らず腰を揺らしていた。
指が抜き差しを始め、強い快感に京一は耐えるように硬く目を閉じる。
寄せられた眉根に気を良くして、八剣は指を動かす速度を速めた。
「んふっ、う、うぅんッ! ふぐ…んふぅッ!」
「気持ちいい? 京ちゃん」
「んぁッ…!」
内壁のしこりを指先で引っ掻くと、高い声が京一の喉奥のから上がった。
「んッ、んーッ! う、ううぅんッ!!」
同じ場所を刺激すれば、ビクッビクッと若い躯が跳ね上がる。
程無くして、京一は声にならない悲鳴をあげて、熱を吐き出した。
ずるりと指を抜き出すと、その指は白濁に塗れていた。
「いつもより少し早かったかな?」
「…………!!!」
八剣の呟きに、京一がガバッと起き上がる。
完全に怒りの眼になっていた。
「テメェ!! マジで食い千切るぞ、コラァ!!!」
「ごめん、ごめん。可愛かったから、つい」
「殺ス!!!」
飛び掛る勢いで伸ばされた京一の腕を、八剣はあっさりと捕らえた。
捕えた両腕を片手でまとめ、空いた手で京一の腰を強く引き寄せる。
上体を逸らして仰け反った京一の上に乗る形で、八剣は京一をシーツに押し付け、馬乗りになった。
あっと言う間の視点の転換についていけなかった京一は、しばらく呆然とした様子で八剣を見上げていた。
が、現状を把握すると途端に暴れ出し、八剣を自分の上から退かせようと腹を蹴る。
それも空いていた手で制すると、八剣は京一の足を肩に乗せて、そうなると京一の秘所は露に晒される。
「テメ、待て、コラ!」
「無理だね、待てない」
「オレにやらせろっつっただろうが! つーか、さっきのもお前、勝手に」
「うん、そうなんだけどね」
確かに、京一は自分の好きにやらせろと言って、八剣も容認したつもりだ。
京一がどんな事をどんな風にしてくれるのか、興味もあったし、見たい気持ちも勿論ある。
あるが、それ以上に限界が近い。
「京ちゃん、俺を煽るのが本当に上手いから、もう我慢出来なくなった」
健康的に日焼けした鎖骨にキスを落とす。
見える場所に付けるなと言われている事など、もう頭には残っていなかった。
それよりも、限界まで昂ったこの熱を、早く京一と共有したくて堪らない。
つい先ほどまで指を埋め込んでいた箇所に、張り詰めた熱を宛がった。
同じくそれをついさっきまで口に含んでいた京一は、改めてその度量を直に眼にしたからだろうか。
そんなモン無理――――と珍しく弱気とも取れる呟きが、京一から漏れた。
「痛くないよ。いつもそうだろう?」
「バッ……!」
痛いようにはしていない、と囁く八剣に、京一の顔が赤く染まる。
強気な眼と、恥ずかしがり屋の顔と。
ギャップがあり過ぎて、それが余計に八剣を深みに嵌らせて行く。
ヒクリと伸縮する秘孔にゆっくりと禊を埋めていく。
体内に侵入する圧迫感から逃れるように、京一が仰け反った。
「あ…ひ、ぅあ……ッ……」
「くッ……」
痛みはなくとも、圧迫感までなくなる訳ではない。
呼吸を忘れて力んでいる所為で、それは余計に京一を苛んだ。
同時に、八剣も痛いくらいの締め付けに眉を顰める。
頬に手を添え引き寄せて、酸素を求めているのに息の仕方を忘れた唇に、口付ける。
あやすようにキスを繰り返していると、次第に眼差しはトロリと濡れ、艶を含んだ細い呼吸も漏れ始める。
締め付けが緩み、八剣は奥を目指して突き上げる。
性急に始まった攻め立てに、京一の躯は成すがままに揺さぶられた。
先ほど達したばかりの京一の中心は、早々に再び起立を始めている。
「ちょ、待ッ……お、オレ、さっき、イ…ッ…」
「ごめんね、余裕ないんだよ。俺も」
「ん、うっ、んんっ……ふぁッ! あ…!」
耳元で囁いて、八剣は更に奥を突く。
鼓膜まで犯されたような気がして、京一は身震いした。
「あ、あうッ…! 手前ッ、また、勝手にィッ……!」
「ああ、それじゃあまた今度にね。今度は京ちゃんの好きにしていいから」
「信、用ッ…んぁッ! …出来るか……ッああ!」
涙目で睨む京一。
八剣はそれに小さく笑みを浮かべ、また謝って目尻を舐めた。
確かに信用できない、自分で言っておいてなんだけれど。
だって仕方がないだろう――――京一がしているのを見ているだけなんて、そんなのは拷問だ。
奉仕してくれているだけで我慢が利かなくなったのだから、これ以上なんて絶対に無理だ。
言い切れる。
ずちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音が響く。
肌を打ちつけ合う音も一緒に。
攣ったようにピンと伸びた京一の足が、突き上げられ穿たれる度にビクンビクンと跳ねた。
突き上げのタイミングに合わせて細く締まった腰が揺れる。
呼吸が上がって、京一は理性など殆ど残っていなかった。
それは八剣も同じで、まるで獣同士の交わりのようにも思えてくる。
弱い箇所を攻めれば、強い快楽から縋り逃げるように腕を絡めてくる。
抗議のように髪を引っ張られても、背中に爪を立てられても、気にならない。
寧ろそれすら愛おしい。
「あ、う、やッ……んぁッ! はひっ…あ……!!」
熱に喰われて虚ろになった瞳を見下ろし、八剣は嗤う。
気紛れな猫のように甘える顔も、いつまでも挑むように強気な瞳も、全て自分だけに向けられたもの。
快楽に全てを攫われて、妖艶に身を捩らせるこの姿も―――――全て。
この顔を知っているのは自分だけで、この顔をさせる事が出来るのも自分だけ。
愛欲も征服欲も、全てが満たされて行くのが判る。
「んぁッ、ああッ! も、もう……やべ…や…ッ」
先走りを漏らし始めた、京一の雄。
片手で縋る京一の頭を支えて、もう片方の手で京一の雄を包み込む。
突き上げと同時に扱けば、直ぐに増していく熱と体積。
「やめ、それッ…い、く……イぅッ…! …や、つるぎ……ッ!」
「ああ。俺も……」
限界を訴える京一に、従じるように。
同じく、限界を迎えた八剣。
「ひ、あ……あぁあッ……!!」
熱に浮かされた悲鳴は、酷く、耳に心地良かった。
ぐったりとシーツの波に躯を埋めながらも、京一は忌々しげに八剣を睨んでいた。
そんなに機嫌を損ねてしまったかと、八剣は眉尻を下げる。
途中からは完全に八剣のペースで、京一はすっかり翻弄された。
京一が自分のペースを保っていられたのは、結局、最初のうちだけだったと言う事だ。
それが益々、京一の機嫌の右肩下がりに拍車をかけている。
京一の「やらせろ」と言う言葉を途中で完全に撤回した事は悪かったと思っているが、かと言って、反省はしていない八剣である。
だって京ちゃんが可愛かったから、なんて思っている事を口にすれば、もれなく蹴りが飛んでくるだろう。
布団の上でうつ伏せになり、シーツに顎を乗せたままで、京一はぎりぎり歯を鳴らした。
「…っのヤロー……ムカつく…」
ぶつぶつ漏れる呟きは、大半が八剣への罵倒であった。
それを聞いても、八剣は気に留めない。
ポンポンと出てくる罵倒も、それは京一が自分を気にしてこそのものだと思えるからだ。
そうでなければ、悪口どころか、相手の事さえも京一は口にしないだろう。
薄い肩に手を乗せて、八剣はそっと京一の耳朶に口付けた。
京一はいぶかしむ様に眉根を寄せたものの、一つ溜息を吐くと、ごろりと仰向けになった。
「ったく。次はオレがやるんだからな」
「はいはい」
「今度は勝手な事すんじゃねえぞ」
念押しする京一に、八剣はふとした疑問が沸く。
「京ちゃん」
「なんでェ」
「やけに拘るけど、どうしてそんなにやりたいの?」
今回だって、いつもは絶対にしない事をして。
なんの気紛れで、行き成りそんな事を考え出したのか、気にならない訳がない。
京一は問われた瞬間、やっぱ聞くのか、と苦々しげに顔を歪める。
それを宥めるように目尻にキスを落とすと、京一はまた溜息を一つ。
「テメェの所為だ、テメェの」
「俺の?」
「テメェのその余裕ぶっこいてる面が気に入らねえんでェ」
「……そう言われてもねェ」
言われても、自分が普段どんな顔をしているのかなんてよく判らない。
京一が気に入らないと言うなら、改めた方がいいんだろうか――――などと思う。
「やってる時も、余裕面しやがって」
「それはないと思うけど」
緩い反論を、京一は無視した。
「オレばっか一杯一杯になってんのが、ムカつくんだよ」
ふいとそっぽを向いて、ともすれば聞き逃しそうな声で京一は呟いた。
一瞬、言われた意味を判じ兼ねて、八剣は静止した。
しばしの間を置いてから八剣は壁を向いた京一を見る。
自分ばかりが翻弄されて、相手はいつも余裕の笑みを浮かべたまま。
出逢った時から今の今まで、京一の中でそのバランスが崩される事はなかった。
二度目の対峙の瞬間を除いて。
日常でも、情事の最中でも、確かに八剣は殆ど表情を崩さない。
相手に表情を読ませれば自分の手の内が読まれるから、おのずと身に付いた防衛の術だ。
ゆらゆらと掴み所のない顔をして、相手の調子を崩せば、己の優位は磐石となる。
それが気に入らないと、京一は言う。
(違うよ、京ちゃん)
抱き寄せれば抵抗はなく、京一は八剣の胸に後頭部を押し付けて動かなくなった。
気を許してくれている証拠だ。
此方に背を向けた京一の髪を手櫛で梳く。
(京ちゃん相手に余裕なんて、ある訳がない)
さっきだって、興奮して自分を抑えるのが大変だった。
結局、その努力は徒労に終わったし。
浮かべた笑みの裏側で、八剣がどれだけ葛藤しているか、京一は知らない。
八剣も言うつもりはなかったし、今更この仮面を取り去る事は容易ではない。
知らないままでいい。
こうして、自分の事をどんな形であれ、考えていてくれるのなら。
知らないままでも構わない。
仮面を剥ごうと躍起になってくれる恋人が、可愛くて仕方がない。
それ程までに、京一は自分の事を想っていてくれる訳だから。
「愛してるよ、京ちゃん」
「あーあーハイハイ。聞き飽きたぜ、その台詞……」
素っ気無い言葉の裏、赤い耳と振り払わない態度が本音。
それに甘えて、繰り返し愛を囁く。
―――――――この関係に、余裕なんてある訳がないんだ。
八京でラブえっち。
京ちゃんにご奉仕して貰いたかったのです。……途中で八剣が調子に乗りましたが(笑)。
うちの八剣は裏モノになるとS入るらしい……
ラブラブにすると京一のツンデレの匙加減が判りません。難しい。
と言うか、ラブラブ八京がまず難しかったです。
梅雨でもないのに降り続いた雨は、最初に降り始めた日から、数えて四日後にようやく天道を下界に晒した。
数日間、都心を覆いつくしていた暗雲は、たった一晩の内に、随分と遠くに流れたらしい。
アスファルトの上には、あちこちに大きな水溜りが残っている。
雨の中では陰鬱さを助長させるだけだった其処に、青空が綺麗に映り込んでいた。
それだけで全く違う印象を覚えるのだから、人間とは現金なものだ。
――――――あの日、濡れ鼠とも呼べる風体で寮に帰った八剣に、鉢合わせた壬生は見るからに怪訝そうな顔をした。
傘はどうした、と言うから、失くしてね、と答えると、呆れたと言わんばかりに溜め息を隠しもしなかった。
大雨の中に出て行く時には、誰でもそれなりに準備をしているだろう。
傘でなくても、その身を雨から守る術は確保していく筈である。
出先で失くしたとしても、何も打開策も使わずにズブ濡れで帰って来るのは、愚か者と言って相違ない。
何より、八剣らしくないと壬生は思ったのだろう。
あの番傘は、それなりに気に入っていた代物であった筈だから。
けれども八剣は気にする事はなかった。
気に入っていたとは言え、あの日の己の行動を今更振り返ってどうこう思う事はない。
空を見上げて、あの仔猫はどうしたかな、と八剣はふと思った時だった。
コツン、とベランダの方から音がした。
カーテンを引いていた為に、其処に何があるのかは見えなかった。
しかし外界からの光を受けた布地には、くっきりと人影が映っている。
それが何か確認するよりも早く、その影はベランダの柵を乗り越えて消えてしまった。
八剣は眉根を寄せて、ベランダに近付くと、カーテンを開けた。
「――――――――律儀だね」
呟きと同時に、笑みが漏れたのは自然なことだった。
誰に聞いて此処に辿り着いたのか知らないが、そんな事は如何でも良かった。
ベランダの柵に立てかけられていたのは、あの日失くした、番傘。
あげるって言ったのにね、と思いながら、ベランダに続くガラス戸を開ける。
手に取ってみれば、やはり、手に馴染んだ漆の感触。
ぱしゃんと水の跳ねる音が聞こえて、八剣は柵の向こうに目を向ける。
駆けて行く背中が、その姿を隠しもせずに晒し、寮の門口へと向かっていた。
最後の京一が書きたかっただけ、とも言えるような(汗)。
借りた傘を、礼も言わなきゃ顔も合わせず、勝手に返して勝手に帰る京一。
色々恥ずかしくかったんですよ、情けないトコ見せたとかそういうのも。
この日から、京一が八剣宅に押しかけるようになります。
八剣は拳武館の寮に住んでるとか、そんな感じ。だから壬生と鉢合わせ。
迷子の仔猫が、鳴いている
声を上げずに、鳴いている
【Where is this cat's house?】
朝から降り続く雨に辟易する。
それでも生活の為に必要なものを手に入れる為には、外界へ赴かねばならない。
東京という都会の中には少々浮き気味の番傘を差して、降り頻る雨の中、歩く。
バケツを引っくり返したような、という表現がよく似合うような天気だ。
空は暗雲に覆われ、天道など欠片も見えはしない。
アスファルトは既に余すところなく水溜りに隠されていた。
こんな日に着物と草鞋等で外に出るものではない。
それでも相変わらずの紅梅色の着物と、緋色の八掛姿で、八剣は雨の東京を歩いた。
拳武館が閉鎖してから、是と言ってする事がない。
定期的に幾つかの仕事は伝えられるものの、以前ほど凄惨でもなければ、数も少なかった。
生活する分には何も問題はないのだが、持て余す時間が長過ぎるのも困る。
別に、ワーカーホリックのように、仕事に精を出していた訳でもなかったけれど。
ざぁざぁ降り頻る雨は、刻一刻と激しさを増していく。
寮を出た時には此処まで酷くなかったと思うのだが、それも気の所為だろうか。
部屋から見た分にはそれ程激しい印象ではないと思ったから、こうして面倒に思いつつも外に出たのだが。
ガラス窓の向こうで見る景色と、実際に目の前で見る景色とは、必ずしも一致するとは限らないものである。
傾けた番傘の斜面に沿って、水滴が流れ、地面にぽたぽたと落ちる。
足元が冷えてきた。
何処か屋根のある場所で、強雨が収まるのを待った方が得策かも知れない。
……しかし、少々待った所で今日の雨が弱まるとも思えない。
待つか、進むか、何れにしても屋根を探す為にはもう少し進まなければならない。
そうして進んだ先に見つけた存在に、八剣は僅かに瞠目した。
降り頻る雨の中、軒下に逃げている訳でもなければ、傘を持っている様子もない。
ざぁざぁと鼓膜に煩い雨が降る中、歩道の隅の柵に腰掛けている少年がいた。
濡れ鼠、という言葉が的確に当て嵌まる。
頭の天辺から手先、足の爪先まで、彼は余す所なく雨に濡れていた。
その手には、紫色の太刀袋。
―――――――蓬莱寺京一。
人気のない雨降りの都会の真ん中で、一体何をしているのだろうか。
降り頻る雨を見上げる顔は、八剣のいる場所からは伺えなかった。
京一の気配は、酷く稀薄なものだった。
其処にあるのに、ふと目を離した瞬間に消えて行ってしまいそうな。
初めて逢った時も、それ以後も、京一の気配はいつも強烈なものだった。
まるで太陽の灼熱を思わせるような、裂帛の気。
苛立ちに、怒りに、表情を変え、目の前の敵を睨み付ける眼光は鋭く、荒削りだがそれは確かな刃であった。
触れるもの皆傷つけるかと思えば、意外にも優しい剣を持つ、“歌舞伎町の用心棒”。
……それが今は、今にも消えてしまいそうに弱く、儚い。
歩み寄れば、京一は動かなかった。
気付いていないのかも知れない。
すぐ傍らまで来ても、京一は振り返らない。
雨空を見上げる表情は、亡羊としたものだった。
空を見ながら、きっと眺めているのは虚空なのだ。
視界を覆う暗雲さえ、きっと京一の思考には届いていない。
傘を差し出して、少年の体を雨から隠す。
―――――ようやく、京一の瞳が動いた。
「……お前ェ……」
「風邪ひくよ、京ちゃん」
「…京ちゃん言うな」
嫌っていると判っている呼び方で呼べば、億劫そうにお決まりの台詞が返って来る。
「こんな所で、何をしてるのかな?」
「なんでてめェに言わなきゃならねェんだよ」
「別にいいよ、京ちゃんが嫌なら答えなくても。俺が興味があるだけだから」
「………」
京一の双眸が僅かに窄められた。
胡散臭い、と言外に告げられているのが容易に想像出来る。
道横の柵に腰を下ろしている京一の顔は、立っている八剣よりも随分低い位置にある。
見上げる視線は明らかに“鬱陶しい”と言っているのが判ったが、八剣はそれに気付かない振りをした。
このまま睨んでいても八剣が引き下がらないと感じたのだろう。
京一はお決まりの台詞を告げた時と同じように、億劫そうに口を開く。
「……別に、見たまんまだぜ」
道路の柵に腰を下ろし、降り頻る雨に濡れて、空を見上げていた。
ただ、それだけ。
制服の袖を捲り上げ、露になっている両腕。
その左腕に蛇が絡みついたかのような痣があるのを、八剣は見つけた。
東京のあちこちに点在する人ならざる者――――鬼と闘う者達。
恐らく、この痣も鬼との闘いによって残されたものなのだろう。
鬱血のように其処だけが血の気をなくしていた。
付近に、彼の友人達の姿は見られない。
別れた後か、それとも一人で闘って出来た痣なのか。
聞きたい気持ちはあったが、結局、八剣はそれについて問い掛けなかった。
「そう。変わった趣味だね」
「別にそんなじゃねェよ。気分だ、ただの」
厭味のような、冗談のような、そんな八剣の台詞に、京一は淡々とした口調で答えた。
「帰らないのかい?」
「何処に帰れってんだ?」
質問を質問で返されて、八剣は一瞬瞠目した。
家に――――と言い掛けて、この少年は自らが本来持っている筈の“家”には帰っていないのだと思い出す。
暗殺のターゲットとして渡された資料を基に、必要事項を洗っている間に、八剣はそれを知った。
「さて……何処だろうね。でも、此処にいるよりはずっとマシなんじゃないかな?」
こんな場所で、雨に打たれ続けているよりは、ずっと。
何処でもいい、せめて屋根のある場所で、雨風が少しでも凌げるのならば。
例えばそれが川辺にかかる橋の下でも、束の間の寄る辺となるのならば。
「それでも、何処にも行きたくないのなら―――――」
振り続ける雨雫から身を守る、傘の柄を差し出す。
京一はその意図を判じかねてか、一度その傘を見遣った後、眉根を寄せて八剣を見上げた。
雨雫に打たれ続けていた京一の顔は、今でこそその雨粒から守られてはいるものの、既にぐっしょりと濡れそぼっている。
濡れた前髪が京一の顔に張り付き、其処からも雫は滴り落ちていた。
頬を流れ伝う透明な雫が、雨ではなく、別のものを彷彿とさせる。
それは単なる錯覚であり、この少年はそれを流す程に弱い存在ではないだろうと八剣は思い返した。
―――――反面、八剣はよく知っていた。
ただ強いだけでは美しいとは言わない、其処に一片の儚さがあってこそ美しくなるのだと。
京一は、それに合致した。
「俺の所にでも、来てみたらどうかな」
八剣の言葉に、京一が僅かに目を見開いた。
その表情が常よりも幼さを助長させているような気がして、八剣はひっそりと笑う。
ああ、そういう表情もするんだねと。
「……何考えてやがんでェ、テメェは」
「別に何も。ただ、雨の中で鳴いてる仔猫の借宿ぐらいには、なれるかなと思ってね」
「…誰が猫だ」
不愉快そうに、京一はくっきりと眉根を寄せ、皺を作る。
「嫌なら別に構わないよ」
「……」
「変わりに傘をあげるから、後は好きにしたらいい。其処にいるのも、何処かに行くのも、ね」
「……お前が濡れんじゃねえか」
「気にしてくれてるのかな?」
「…………」
誰がお前の事なんか。
京一の瞳がそう言いたげに睨む。
それに構わず傘を持つ手を突き出す。
京一は黙したまま、その手と八剣の顔とを視線だけで交互に見遣った。
頭の天辺から足の爪先までズブ濡れになっているのだから、今更傘があろうとなかろうと、大した変化はない。
これから濡れる事を防いだとしても、既に京一の体温は降り頻る雨が奪い去ってしまっていた。
薄らと紫色になっているように見える唇が、京一の身を覆う冷たさを知らしめている。
差し出す傘を受け取らない限り、目の前の男は去らない。
そう考えた京一の予感は、恐らく、寸分の狂いなく正解であった。
事実、八剣は今この瞬間、この場を去る気は全くの皆無だった。
木刀を握る手とは反対の手が、ようやく動く。
雨に濡れそぼった手が、番傘の柄に触れた。
力を持ってそれが柄を掴んだのを確認して、八剣の手がそれから離れる。
本来の持ち主の手を離れた傘は、しっかりと、京一の手の中に収まっていた。
「……お前は、どうすんだよ」
「濡れて帰るよ。幸い、少しは雨脚も弱まったようだしね」
「だったらいらねェ」
「もう遅い。それは京ちゃんにあげるよ」
返却を断わると、八剣はくるりと踵を返す。
本来の帰路へと戻る為に。
傘が防いでいた雨が、今度は京一ではなく、八剣を濡らしていく。
京一が追ってくる気配はなく、しかし傘が飛んで行く事もなければ、手放されるような気配も感じられなかった。
雨の中に佇む未だ亡羊とした気配は変わらないけれど、八剣はもう振り返らなかった。
振り返らないまま、八剣は、雨の中で暗い空を見上げていた少年の面立ちを思い出す。
見つけた時に、全てを遮断するかのように、泣き出しそうにも見えた少年の表情を。
腕に残った、紅い痣。
温もりを奪われた、冷たい肌。
頬を伝う雫は、ただの雨雫。
帰る場所を忘れ、声を上げずに鳴く、仔猫。
拾って帰る事は出来ない。
だから、せめてその変わりに、
………ほんの少しの間でいい、その冷たい雨から守りたいと思った。
後日談
取り合えず、八京のプロローグ的なものを書いてみようかと……
京一は鬼と闘った後で、なんか色々ショックな事があったとか、そんなんで(アバウト)
途中で大幅に方向転換しました。
最初書いた時、京一がもっと弱ってたもんで(弱らせるの大好き(爆))……
弱ってる京一を八剣が慰める、てのもアリっちゃーアリかなーとは思いましたが。
理由は、どうせ後付みたいなものなんだ。
【Remember the result】
「ちょ……っと、待て、コラ、龍麻ッ!」
少しばかり埃臭いマットの上、じたばたと動けば舞い上がるそれに呼吸を妨げられる。
かと言って大人しく出来る訳もなく、京一は自分の上に馬乗りになる龍麻を押し返そうと、躍起になって暴れた。
「次の授業! 遅刻すんだろ!」
「サボるって言ってたじゃないか」
「いや、出る。気が変わった。今決めた。次の授業出るッ! だから退けッ」
「いいから、いいから」
「良くねェ―――――ッ!」
間近に迫る親友の顔を押し退けつつ、京一はどうすればこの状況を脱せるのが必死で頭を巡らせる。
この親友相手に、うっかり隙を見せたのが運の尽きか。
二人きりになるのは珍しいことではないけれど、こんな場所でまで事に及ぼうとするとは思わなかった。
しかし考えてみれば、漫画や一昔前の青春ドラマでよく見るような、お誂え向きの場所とも言える。
龍麻がその手の代物に興味があるかは知らないが。
暗がりの体育倉庫、蒲団代わりの古ぼけた埃臭いマット、窓は天井近くの高さで外から内部の様子は覗けない。
授業はとっくに終わって、先ほどまで体育館に集まっていた生徒達は、既に教室に戻っている。
倉庫の鍵はかけられていないが、錆ているのか開きにくく、開けようとすれば耳障りな音がサイレン代わりに音を鳴らす。
その音を立てて仮に誰かが入ってきても、暗く用具で溢れる倉庫の奥に引っ込んでいれば、見付かることもなく。
見付かる心配がないと言う事は、助けを求めるだけ無駄とも同意義。
こんな状況は誰にも知られたくないけれど、プライドと身の危険を乗せた天秤はぐらぐら揺れている。
声を上げても、殆ど意味はない。
何故なら、過度の湿気や熱から用具を保護する為に、土壁で出来ている用具倉庫の壁は分厚い。
次の体育の授業が始まった所で、誰も京一の声に気付く者はいないだろう。
………実にお誂え向きの場所であった。
背けた顔の右半分を、龍麻の前髪がくすぐる。
触れるだけのバードキスが落ちて、ゆっくりとそれは下降して行った。
機動性重視の体操服、首の周りも無論開放的に出来ている。
龍麻は京一の首筋に唇を寄せると、一つ強く吸い上げた。
小さな痛みに躯が震え、肩を押し返そうとしていた手は無意識に龍麻の服を掴む。
「京一……」
「た…つ、ま……退け……ッ」
往生際悪く足掻いても、龍麻は一向に意に介さない。
龍麻の手が体操着の下へと滑り込む。
無駄なく筋肉のついた腹を撫でて、体操着を捲り上げる。
ひんやりとした空気に晒されて、京一はまた遮二無二暴れた。
「龍麻、放せッ! 退け!」
「いーや」
「嫌じゃねーよ、退けッ! 此処でスるなんざ、絶対ゴメンだからな!」
「大丈夫だよ、見付からないから」
「見付かる見付からないの問題じゃねェ! 嫌だっつってんだよ!」
「やだ」
「お前の“やだ”は却下だッ!」
じたばたと暴れる京一に、龍麻は表情一つ変えず、行為を進めようとする。
龍麻の下が、京一の首筋を這う。
体操着の下へと滑り込んだ手が、京一の胸の上を滑っていた。
指先が突起に触れて、京一の肩が跳ねた。
あろうことか親友によって開かれた躯は、その官能にいつの間にか染め上げられた。
触れられれば容易くスイッチが入り、力が抜けて筋肉が弛緩する。
「んっ……ふ、っは…バカ、龍麻ッ…!」
「逃がさないよ、京一」
睨み付ける京一を、龍麻は常と同じ笑顔で見下ろして、宣告した。
尚も抗議を上げようとした京一の唇を、龍麻は己のそれで塞ぐ。
何事か言おうとしていた所為で、無防備に開かれてしまっていた口。
呆気なく侵入を許してしまった舌が、他に音のない体育倉庫の中でぴちゃりぴちゃりと水音を立てる。
「ん……んぁ……ふ…」
「ぅん………」
「っは、ぁ…んぐ……」
繰り返される深い口付けに、思考回路が停止する。
そんな事になれば、龍麻の思う壺だと判っているのに、若い躯は与えられる官能に正直だ。
「…ぅう…んぅ……」
まるで生き物か何かのように、龍麻の舌は京一を犯す。
肩を押して突っ張っていた筈の右手は、縋りつくように首に回されていた。
左腕は、埃を嫌って中途半端に浮かした上半身を支えている。
口内を犯しながら、龍麻の指が京一の胸の果実を摘む。
「……っふ……ぁ……」
口付けの隙間、呼吸に伴って漏れる声。
しっかりと聞き止めた龍麻は、顔を離してにっこりと笑う。
「此処なら、声出しても平気だからね」
「……へーき、じゃ…ねー……」
休憩時間が終わるまで後どれ位だとか。
次の体育のクラスが来るかも知れないとか。
そうしたら、誰かが用具を取りに倉庫に入ってくるとか。
いや、そもそもこんな場所で情事に及ぶなとか。
言いたいことは主張と苦情と合わせて山ほどあるが、それよりも呼吸をするのが先。
しかし整うよりも先に、また塞がれる。
「んぐ…っふ、ぅうん……ッ…」
呼吸が出来ない苦しさと、与えられる愛撫の心地良さ。
未だ残った理性と男としての矜持が、それらに身を任せるのを必死で拒んでいる。
此処まで来て往生際が悪いと言われようと、京一が容易く委ねられる訳がない。
京一のそんな葛藤を、まるで一枚一枚剥いで行くように、龍麻の手は京一の熱を煽っていく。
「ふぁっ…は、た…つまァ……」
離れた唇の間、銀糸が名残のように光る。
プツリと切れた唾液が、京一の口端を濡らした。
光量の少ない倉庫の中、暗闇に慣れた視界に浮かび上がる親友の顔。
理性と本能の狭間に揺れる京一の瞳に、龍麻は確かに劣情を煽られた。
口端で光る唾液を舐め取ると、京一は嫌がる子供のように顔を背ける。
それを追い駆ける事はせずに、龍麻は京一の耳下に顔を寄せた。
「……あ……!」
カプリ、と甘噛みすれば、漏れる声。
柔らかな耳朶に歯を当てながら、胸の蕾を指先で転がす。
「感じてる? 京一」
「………ッ…」
耳元で喋れば、呼吸が当たる。
快楽を覚え込んだ若い躯は、その些細な刺激にすら敏感に反応してしまう。
京一の反応に充足感を覚えながら、龍麻は胸の果実を指で挟む。
捏ねるように刺激を与えると、京一の躯が小刻みに震えた。
「……っは…やめ…龍麻ッ……」
「駄目。やめない」
「んん……!」
尚も龍麻の行動を遮ろうとする京一だが、もう反抗の意味もない。
捲り上げた体操着が元に戻らないように、片手で抑えて、龍麻は今度は胸元に顔を近付ける。
刺激を与えられて硬くなった乳首に、ゆったりと舌を這わした。
熱を持ったぬめる感触に、京一はゾクリと背筋を何かが駆け抜けるのを感じた。
それが自覚したくもないが、快感である事は嫌と言う程知っている。
プライドがその感覚の拒否を願うも、最早思考と躯との回線は繋がっていない。
強く吸われ、京一の躯が仰け反る。
赤子が母乳を求めるかのように執拗に吸い上げる龍麻に、京一は頭を振った。
「や、やめ、龍麻ッ…! あ……!」
京一の制止など何処吹く風で、龍麻は京一を追い立てる。
口に含んだままのそれに、歯を立てられる。
シコリのように硬く張った果実は、微かな痛みも快楽に変えてしまう。
「…んッ…は、あ……」
「気持ちいい?」
「しゃべ、ん、な……ァ……」
高まっているのは、追い上げられる京一だけではない。
熱に翻弄される恋人の表情に、龍麻の興奮も昂って行く。
龍麻の手が、京一の一物をズボンの上から握る。
「京一、もう勃ってるよ」
「バッ…や、やめッ!」
「乳首弄られただけなのに」
「言うな……っや…!」
手早く、下着ごと脱がされて、京一の雄が晒された。
緩くではあるが勃ち上がりつつあるソレは、京一が確かに感じていた事を知らしめる。
急に理性が戻った京一は、現状と次第の原因から逃れようとまた暴れ出した。
「は、離せ、龍麻! 頼むから! 授業ッ」
「サボるんでしょ?」
「出るっつってんだろ!」
「大丈夫」
「じゃね……ぅんッ!」
龍麻の手が直接京一の雄を包み込み、上下に扱く。
上がりかけた嬌声を、京一は咄嗟に口を手で覆って隠す。
「…っ、ふっ…ん、んくっ……」
「それに、授業さっき始まっちゃったし」
「っは…ん、ぅ………!」
「チャイム鳴ったの、聞こえなかった?」
こんな状況で聞こえるか―――――言葉と共に、殴りつけてやりたい衝動に狩られる京一だ。
だがよくよく耳を済ませてみれば、体育館の方から人の気配がする。
途端に緊張が走って、京一は声を出すまいと唇を噛んだ。
直接的な刺激を与えられる雄は、既にほぼ完勃の状態。
この状態で行為を続けたくもない(そもそもしたくもないし、始める気もなかった)が、此処で放り出されるのはもっと辛い。
龍麻を押し退けて、何処か人気のないトイレにでも駆け込めるなら、そうする。
しかし龍麻は一行に行為を止める気はい(寧ろ楽しそうに見えるのは何故だ)上に、京一を逃がすつもりもない。
とにかく、耐えるしかない。
京一が出した結論は、その一つ。
「……っ、…ッ……!」
「あれ……京一、緊張してる?」
今までも時折思った事だったが、にこやかに笑う龍麻が正直恐ろしい。
次いで、龍麻の笑顔が常のふわふわとしたものとは少し違う事に気付いた。
……遅すぎる、と自分でも思う。
この笑顔は、何かに怒っている時の笑顔だ。
前にもこんな事があったじゃないか。
気にしてないよと顔で笑って、目が全く笑っていない事があったじゃないか。
「京一、一回イこうか」
「んッ……!」
「大丈夫だよ、声出しても。聞こえないから」
京一の雄を扱く手の動きが激しくなる。
下半身の熱が煽られて、京一の躯が震えた。
埃を嫌って浮かせていた上半身を支えていた腕が、力を失う。
マットに倒れ込むと薄らと埃が舞い上がった。
硬く噛んでいた口端が切れて、血が流れた。
目敏く見つけた龍麻の顔が近付いて、唇に当てていた手を外される。
舌が這い、針のような痛みに僅かに口を開けると、それはすかさず内部へと侵入を果たす。
勃起した雄からは既に先走りの蜜が溢れ、龍麻の手を汚していた。
「んはッ……は、う……んぐぅ……」
「……は…きょーいち……」
「龍、麻……っは、ん、くッ」
絶頂感が直ぐ其処にある。
侵食する熱に、逆らう術はない。
「ん、んんッッ………!!」
深く口付けられたまま、京一は龍麻の手の中に射精を果たす。
ねっとりと濃い蜜液をちらと見遣り、龍麻は薄らと笑みをすいて京一を見下ろした。
口端だけを僅かに浮かしたその表情が、暗い倉庫の中、京一の視界にぼんやりと浮かび上がる。
……やっぱ怒ってやがる。
射精直後の気だるさの中、一線を隔したように冷静な思考がぼんやりと呟く。
何が龍麻の怒りのスイッチを入れたのか、京一は判らない。
こういう関係になってそれなりに時間は経ったが、やはり彼の思考は不思議としか言いようがない。
やっぱり苺の事しか頭にねェだろ、と思う事も度々だ。
「京一、気持ち良かった?」
問い掛けつつも、確実に此方の返事を期待してはいないだろう。
京一はぼんやりと龍麻の顔を見上げながら、呼吸を落ち着けることだけに専念した。
此処で終わる訳がない、終わりにする訳がない――――京一はそう思っていた。
京一だけがイって、龍麻は衣服すら乱していない状態で、終わる訳がない。
壁の向こう、体育館の方からホイッスルの高い音が聞こえた。
何をするのだか知らないが、彼等に自分達の存在を知られてはならない。
増して、こんな事をしているなど。
だから、今後の声を殺す為に、京一は呼吸を整えようとする。
「京一」
だが、呼吸を塞がれてはそれもままならない。
一つ名前を呼んで、唇を奪われる。
気だるさに身を任せた躯は、素直にそれに応えた。
それが一番楽だから。
「ん…んん………」
絡まり合う舌から伝わる、相手の熱。
秘部に何かが宛がわれる。
入り口を解すように、それはゆっくりと潜り込んでいった。
「あ…ぅ……!」
縋るように、龍麻の首に腕を絡める。
慣れない圧迫感と異物感に、目尻に涙が浮かぶ。
龍麻はそれを愛しそうに見つめ、舌それを舐め取った。
眼球近くに迫る赤い舌に、そのまま眼球まで食われてしまいそうな錯覚に陥る。
体内に侵入した指が、入り口を広げようと動き出す。
「んッ…ぅぁ、…っは……」
痛みはない。
龍麻の指は、既に京一の一度目の射精によって濡れている。
それを潤滑油代わりにしていた。
ぬるぬるとした濃い液体が、内壁に塗られて行くのを京一は感じた。
なるべく痛みを与えまいとしてか、丹念に何度も擦られる肉壁は、指の形を何度となく確認させる。
古武術によって鍛えられた龍麻の指は、剣術を扱う京一と同じで、意外と節張っている。
それでも綺麗な手をしているのを京一は知っていた。
自分なんかよりも、ずっと綺麗な指をしている事を。
―――――それが今、自分の体内を犯しているという現実が、酷く罪であるような気がして。
「ん、う!」
きゅう、と締まった内壁。
無意識とは言え、京一は顔に血が昇った。
躯の奥をぐいぐいと押され、腰が逃げを打つ。
龍麻はそれを捉まえて固定すると、更に奥を目指して指を突き入れた。
「―――――っひ、ぃぁ……!」
半ば悲鳴のような声が上がる。
戯れるかのように、龍麻の舌が京一の鎖骨を舐めた。
それはゆったりと降りて行き、胸の果実に悪戯をする。
下肢からはくちゅくちゅと水音が聞こえ始め、射精して間もない雄も再び勃ち上がろうとしている。
若い躯は京一の羞恥心等とは裏腹に、行為の先を求め、目の前の男を煽っていた。
親友であり、何よりも愛する恋人の痴態に、龍麻の我慢は限界を超えた。
「京一、欲しい?」
「っは…あ、ぅ…んん…! ふぁッ」
「此処、挿れてもいい…?」
熱っぽい声で囁かれて、下肢の入り口部分を執拗に弄られて。
痙攣するように、京一の躯が跳ねる。
「た、つ、まァ……ッ」
腕を絡めた首をしっかりと捉まえて、顔を近付ける。
縋るように口付けて、京一の方から舌を入れた。
龍麻は一瞬驚いたような顔をして、けれども直ぐに呼応する。
聞こえる粘ついた音が口内からなのか、下肢からなのか、京一にはもう判らない。
鼓膜まで犯されているような気がする。
秘部から指が抜かれて、京一は物寂しさに襲われる。
男としてのプライドだとか、矜持だとか、理性だとかは、もう随分遠くに置き去りにしてしまった。
無意識に腰が揺れて、甘えるような声で龍麻を呼んだ。
「京一、可愛い。ちょっとトんでる?」
「っは……龍麻ァ……」
問答など不可能な状態の京一に、龍麻はにっこりと笑みを浮かべた。
手早く自身の雄を取り出せば、それも硬く張り詰めている。
秘孔に宛がうと、互いの呼吸が整うのも待たずに、龍麻は腰を推し進めた。
「あ、ぅ………!」
痛みと、圧迫感と、異物感と―――――それを上回る快感と、充足感。
このまま、それらに全てを持っていかれそうな気がした。
それも良い、と常識もモラルも放り出した頭がぼんやりと考える。
その時、倉庫の扉の開く音がし、暗い空間に光が差し込んだ。
瞠目した京一が、視線だけで、体育館と繋がる出入り口を見遣る。
目の前には、積み上げられた跳び箱と、ボールの入ったカーゴ、折り畳まれたテーブル。
向こうにも、バレー用のネットや、ロープなどが散らばっていた。
そのずっと先、沢山の障害物に遮られた方向から、明らかな人工灯が暗い倉庫内を照らしている。
がやがやと沢山の生徒の掛け声や話し声、体育教師の怒鳴る声、シューズが擦れる音。
倉庫と体育館とを繋ぐ扉が開け放たれている事は、考えなくても明らかな事だった。
そうだ。
今は授業中だ。
そして此処は体育倉庫だ。
いつ何時、誰かがボール等の用具を取りに入ってきても可笑しくない。
一気に血の気が引いて、京一は覆い被さる龍麻を押し退けようとした。
しかし腕を捕まれ、一纏めにされて片腕一つでマットに縫い付けられる。
「―――――ッ」
龍麻、と名を呼ぼうとした口は、龍麻のもう片方の手によって塞がれた。
(見付かるよ)
静かに、と龍麻の目が言う。
見付かりたくない。
こんな所、誰かに見られるなんて御免だった。
でも、だからと言ってこのまま此処でじっとなんてしていられない。
龍麻が行為を止めてくれればそれで済む(途中止めは確かに辛いが)。
見付かったとしても京一のサボリはよく知られているし、それに龍麻が一緒になるのも公然となっている。
だから、行為さえ終われば、体育の授業の後にそのまま此処で寝ていた、という事で片付くのだ。
――――――しかし、龍麻は未だ京一に侵入したまま。
(声、出しちゃ駄目だよ)
耳元で龍麻が囁いた。
言われなくても――――と思って、直後、京一は先刻以上に目を見開いた。
龍麻の雄が、京一の内部を突き上げたのである。
「―――ッ、……ぅッ……ん……!」
(ほら、聞こえるから我慢して)
「…ッ、ッ…! ―――ッ……!」
龍麻は、京一の躯を知り尽くしていた。
京一が何処を刺激されれば反応するのか、京一以上に。
この躯を開発したのは龍麻なのだから。
的確に弱い部分を突かれて、京一は喉の奥からあらぬ声が漏れそうになるのに気付いていた。
それを妨げているのは、まだ辛うじて残っていたらしい理性と、口を塞ぐ龍麻の手。
呼吸ごと邪魔をしているから息苦しさはあるけれど、見付かるよりはずっと良い。
しかし、気を抜けば声が大になって漏れてしまいそうだった。
用具を探す生徒の足音が、気配が近い。
頼むから覗くな、と京一は祈りか願いにも似た気持ちで硬く目を閉じる。
現実から逃れようとするかのように目を閉じた京一に、龍麻は満足感を得ていた。
(京一、あのね)
「………ッ……!?」
最奥を突かれて、京一の躯が一つ大きく跳ねた。
この状況で語りかける龍麻に、京一は眉根を顰めて目を開ける。
間近に迫った龍麻の顔が何処か空恐ろしくて、京一は知らぬ間に戦慄した。
それによって秘孔が締まり、埋め込まれた雄を締め付け、京一は唸る。
(さっきの授業の時に)
「んッ……ぅ…ん……ん……!」
(僕にボール当てたよね)
「ふっぅ……!!」
ある一点を突かれて、龍麻の指の隙間から京一の吐息が漏れる。
用具を探す生徒達の気配は、まだ変わらずに其処にある。
構わず、龍麻は京一の前立腺を突き続けた。
(あれ、結構痛かったんだ)
「ぅ、ふッ……! んぅ…!」
(なのに京一ってば、楽しそうにしてさ)
囁かれる龍麻の言葉に、当たり前だろう、と京一は思った。
体育の授業は後半から殆ど自習状態になって、龍麻と京一はドッジボールに参加した。
別チームになった事に残念と思いつつも、絶対に勝ってやろうと互いが思った。
お互いのチームメンバーが残り僅かになった時、京一の投げたボールが龍麻に当たった。
恐らく最難関であろう龍麻を外野に押しやった京一は、チームメイトからの賛辞もあり、得意げに笑って見せた。
―――――龍麻の不機嫌がその瞬間から始まっていたとは、露知らず。
つまり、アレか。
こんなとこでいきなり始めやがったのは、仕返しか。
…………ふざけんな!!
導き出された答えに怒りを覚えるも、躯は既に龍麻の意のまま。
貫かれた秘孔は物欲しげに伸縮し、助けを求めるように目の前の男に縋りつく。
「んッ、んんッ…! っふ、ぅん……!」
(京一、凄く締まってる)
「んーッ………!」
(見付かるかも知れないのに、興奮してる?)
緩く首を横に振るが、説得力はない。
見付かるかも知れない緊張は、いつしかスリルに変わり、若い躯を更に興奮させていた。
生徒達の足音と気配が遠退いて、扉の閉まる音がする。
再び暗くなった倉庫内は、シンと静まり返っていた。
その静寂の中、隙間から零れる京一の艶の篭った呼吸だけが、二人の鼓膜に届く。
思いの外響いて聞こえる自身の呼吸に、まさか聞こえてねェよな、と京一は思う。
だが、思案は長くは続かない。
京一の口を押さえていた龍麻の手が離れ、同時に深く穿たれる。
「ひっあ…!」
見付かる危険性が去った、僅かな安堵感と言う隙。
堪える事を忘れた嬌声が上がり、暗い倉庫内に反響した。
龍麻の腰が大きくグラインドし、京一の内部を更に突く。
入り口まで引き抜くかと思えば、最奥を突き、また退かれる。
散々呼吸ごと妨げられた声は、戒めから解かれ、反動を受けたかのようにひっきりなしに喉の奥から漏れた。
「あ、う、んんッ! 龍、麻ッ…! ふぁッ、あ…!」
「ドキドキした?」
「ば、かやろッ……んぁッ!」
悪戯っぽく訊ねる龍麻に、京一はせめてもの意趣返しに悪態を吐く。
体操服の上から、龍麻の背中に、目一杯爪を立てて。
背中を走った痛みに龍麻が一瞬顔を顰めたのを見て、京一はざまあみろとニィと笑って龍麻を見上げる。
それは体内を突き上げる熱によって、直ぐに失われてしまって。
散々揺さぶられて、前後不覚になるまで然程の時間はかからなかった。
だから、幸いだったのかも知れない。
「――――――結局、理由なんてなんでもいいんだけどね」
あられもない声を上げる自分を見下ろして呟いた、親友の台詞が聞こえなかった事は。
ぶっ通しでエロ書いてみました。
前回のお初話が全く色っぽくなかったので、今回は色気重視で。
……京一が結構鳴いてる上に、龍麻は初っ端から黒仕様になりました。
ぶっちゃけ、体操服と体育倉庫に萌えただけです(爆)。
動き回っていい汗かいてる京一を想像して、私がムラッと来ただけです(滅)。
長い沈黙の末、とうに体力の限界だったのだろう。
京一が寝息を立て始めるまで、それほど時間はかからなかった。
そっと蒲団を捲ると、安らかな寝顔が其処にある。
単純に疲労で睡魔に負けたのは判り切ったことだが、それでも、気を赦してくれているのが判った。
そうでなければ、あんな目にあった直後で、その本人の目の前で熟睡なんてする訳がない。
京一という人物の性格を考えれば、尚の事。
眠る京一の額に、触れるだけのキスを落とす。
「可愛かったよ、京一」
色っぽい雰囲気とは程遠かったけれど、普段は見れない親友の顔が見れた。
痛みを訴えたり、泣き顔だったり、始めて見る顔だったと言っていい。
それを見つける度に、暴走しそうな自分を抑えるのにかなりの労力を使った。
――――最も、京一はそれに全く気付いていないだろうけれど。
全ては、計算尽くの事。
龍麻が京一を抱きたいと思ったのは、随分前の話だ。
けれども京一の性格からして、頼んで素直に言う事を聞いてくれる訳がない。
出逢った頃から京一は龍麻に心を開いてくれていたけれど、京一の恋愛感覚はごく一般的。
龍麻が京一に寄せる想いが、友情を飛び越えた恋心であると聞いても、恐らく信じなかっただろう。
揶揄っているのだろうと、笑い話のネタになるのが関の山だ。
勿論その関係なら、今後もずっと一緒にいてくれるだろうと思えたから、それも良かったかも知れないけれど。
何度かそう思う事で諦めようと思ったが、結局想いは募るばかりで、誤魔化す事が出来なくなっていった。
好きになれば一緒になりたい、繋がりたいと思う。
幸い、京一はその手の事には寛容的で、同性愛そのものに対する偏見はない。
話をしてみれば、同性感の性行為にも理解があった。
だから、上手くすれば――――と思った。
騙すようで(いや、実際騙したのだけれど)少し心は傷んだけれど。
どうしても、自分だけのものにしたくて。
「ごめんね」
呟いてから、言葉が上滑りしている事は感じていた。
でもそれ以外に言える言葉が見付からない。
だって弁明なんて必要ないし、言い訳なんてする気はない。
全部全部、本気だったから。
なんだかんだ言って京一は優しい。
付き合いもいい。
何かと人に嫌われるような言動を繰り返すけれど、一度懐に入れたら、その広さはとてつもなく寛容的。
悪い言い方になるような気はするけれど、単純だから、こうしてあっさり騙されてくれて。
……そういう所も全部含めて愛しい人。
これから、少しずつ、少しずつ、確実に。
染めていってあげるから。
嫌だなんて言わせない。
言ったって聞いてあげない。
だって本当に嫌だったら、最初から一度だって、許したりなんかしないじゃないか。
黒龍麻オチでした。
最初からそのつもりで書いてたので、書き終わって「演技派だな…」と一人しみじみ思ってました。
そんで京一、今後も多分絆されて行きます。
染められてしまえばいいよ!