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梅雨でもないのに降り続いた雨は、最初に降り始めた日から、数えて四日後にようやく天道を下界に晒した。
数日間、都心を覆いつくしていた暗雲は、たった一晩の内に、随分と遠くに流れたらしい。
アスファルトの上には、あちこちに大きな水溜りが残っている。
雨の中では陰鬱さを助長させるだけだった其処に、青空が綺麗に映り込んでいた。
それだけで全く違う印象を覚えるのだから、人間とは現金なものだ。
――――――あの日、濡れ鼠とも呼べる風体で寮に帰った八剣に、鉢合わせた壬生は見るからに怪訝そうな顔をした。
傘はどうした、と言うから、失くしてね、と答えると、呆れたと言わんばかりに溜め息を隠しもしなかった。
大雨の中に出て行く時には、誰でもそれなりに準備をしているだろう。
傘でなくても、その身を雨から守る術は確保していく筈である。
出先で失くしたとしても、何も打開策も使わずにズブ濡れで帰って来るのは、愚か者と言って相違ない。
何より、八剣らしくないと壬生は思ったのだろう。
あの番傘は、それなりに気に入っていた代物であった筈だから。
けれども八剣は気にする事はなかった。
気に入っていたとは言え、あの日の己の行動を今更振り返ってどうこう思う事はない。
空を見上げて、あの仔猫はどうしたかな、と八剣はふと思った時だった。
コツン、とベランダの方から音がした。
カーテンを引いていた為に、其処に何があるのかは見えなかった。
しかし外界からの光を受けた布地には、くっきりと人影が映っている。
それが何か確認するよりも早く、その影はベランダの柵を乗り越えて消えてしまった。
八剣は眉根を寄せて、ベランダに近付くと、カーテンを開けた。
「――――――――律儀だね」
呟きと同時に、笑みが漏れたのは自然なことだった。
誰に聞いて此処に辿り着いたのか知らないが、そんな事は如何でも良かった。
ベランダの柵に立てかけられていたのは、あの日失くした、番傘。
あげるって言ったのにね、と思いながら、ベランダに続くガラス戸を開ける。
手に取ってみれば、やはり、手に馴染んだ漆の感触。
ぱしゃんと水の跳ねる音が聞こえて、八剣は柵の向こうに目を向ける。
駆けて行く背中が、その姿を隠しもせずに晒し、寮の門口へと向かっていた。
最後の京一が書きたかっただけ、とも言えるような(汗)。
借りた傘を、礼も言わなきゃ顔も合わせず、勝手に返して勝手に帰る京一。
色々恥ずかしくかったんですよ、情けないトコ見せたとかそういうのも。
この日から、京一が八剣宅に押しかけるようになります。
八剣は拳武館の寮に住んでるとか、そんな感じ。だから壬生と鉢合わせ。