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「龍麻ァ」
酔っているかのような。
そんな調子の声で名を呼ばれて、龍麻はノートから顔を上げた。
京一は白塗りの壁に背を預けて天井を仰いでいた。
彼の足元には漫画が数冊転がっており、どれも中途半端なページのままで開かれている。
読んでは飽きて放り出し、また新しい本を取り出してと繰り返した結果だ。
それ以外は、脱ぎ捨てた制服や木刀があるだけで、アルコール類は存在しない。
だから、彼が酔っている、と言う事はない筈だ。
「なー、龍麻ァ」
けれども、繰り返して相棒の名を呼ぶ京一は、酔っていると言った方が自然に見える。
ゆっくりとした動作で壁から背を離すと、京一は這って龍麻の座す傍まで近付く。
長い前髪で目元が隠れて、龍麻から彼の表情は伺えない。
が、眼前までくると、またゆっくりと顔を上げて────笑みを浮かべて京一は言った。
「セックスしよーぜ」
遊びに行こうぜ、と言うような気安さだ。
事実、京一にとってはどちらも同じような感覚なのかも知れない。
沈黙したまま、龍麻は京一の顔を見詰めていた。
京一は口角を上げて双眸を細め、薄らと笑みを浮かべている。
面白い玩具を見つけた、そう言っているようにも見えた。
京一は龍麻の返事を待つ気もないらしく、龍麻のパーカーシャツに手をかける。
丹田の位置から、生地の上から撫でるように体のラインをなぞり、胸を滑って、肩まで上る。
龍麻は無抵抗、無表情でそれを甘受していた。
肩から鎖骨へと指先でくすぐった後、京一は龍麻の襟元を乱暴に掴んで引き寄せた。
ぶつかるように唇が重なる。
「ん……ん、……」
くちゅ、と。
小さな小さなその音は、静寂が支配していた部屋の中に限っては、意外に存在感が大きい。
咥内に侵入してきた熱の生き物を、龍麻は暫くの間、好きにさせていた。
絡められ、吸われても、何をするでも、応えるでもなく。
ただ彼の思うがままに。
京一はキスの虜囚になったかのように、夢中で口付けを繰り返している。
目を閉じて食い荒らすように龍麻の唇を貪る様は、餌に食い付く獣そのものだ。
「んぁ…ふッ、…ちゅ…んん……」
離れては吸い付き、吸い付いては離れて。
何度も何度も。
このままだと唇が腫れてしまうんじゃないかと、龍麻はぼんやりと考えていた。
京一の手が下肢へと伸びたのに気付いても、龍麻は表情を変えなかった。
火照り始めた京一の顔を、間近でじっと見詰めている。
「んはッ……ぅん……」
器用に龍麻のスラックスのベルトを外し、京一はその中へと手を差し込んだ。
トランクスの上から中心部を確認すると、そのまま手の平で包み込む。
上下に扱かれて、初めて龍麻の肩が揺れた。
それは口付けに夢中になっていた京一も気付いたようで、薄らと瞼を持ち上げると、瞳の奥でくすりと笑う気配。
唇が離れて、久しぶりの新鮮な酸素が肺へと流れ込んで行く。
「お前も溜まるンだな」
意外そうな口調で言いながら、彼の表情は仄暗さが否めない。
自分が今どんな表情をしているのか、どうしてそんな顔をしているのか、恐らく彼は判っている。
そして面白がっているのだ、こんな自分を前にして、相棒がどんな行動に出るのかと言う事を。
下肢への刺激を続けながら、京一は間近にある相棒の顔を見詰める。
龍麻の表情があれから動く事は無く、此方もじっと親友の顔を見詰めているだけだ。
「なァ、しようぜ」
「セックス?」
「他に何があんだよ」
「勉強とか」
「ンなもん犬に食わせてろ」
クスクスと笑う京一。
対して、龍麻は無表情。
「どうせよォ、このままってのは辛いだろ?」
「京一がしたんじゃないか」
「だな。で、どうする? 一人で空しくシコってるか?」
散々誘って煽っておいて、此処で選択肢の掲示。
今なら戻れる。
この下らないお遊戯から。
けれど二度と遊べない。
遊ぶのならば逃げられなくなる。
そのまま深い深い汚泥まで、堕ちて死ぬまで、きっと一生。
どちらが正解と言うものは、きっとこの問いには存在し得ない。
普通ならば戻る道を選ぶだろうが、それを選ぶには目の前の存在の中毒性は既に全身を支配している。
これを失ったら頭が可笑しくなってしまう、そう思ってしまう位、危険な程に。
遊ぶ事を選んだならば、一生この気紛れな猫に執心して焦がれて死ぬであろう未来が待っている。
その間にどんな風に猫と遊ぶのかと言われると、これは龍麻の勝手な推測だが、“えげつない”事だろうと言う事は、容易に考えられた。
「たつま」
耳元で猫が鳴いた。
吐息がかかる。
肩を抱き寄せて、龍麻の方からキスをする。
その時、微かに香のようなものが京一の肌から感じられたような気がした。
距離が近いのはさっきと同じ筈なのに、ずっとゼロ距離でいるようなものなのに、何故だろうか。
龍麻の方から触れた途端に、京一のものではない気配が滲んでいるような気がしてならない。
思い込み────ではない。
「……京一」
「んー?」
名前を呼んでみれば、鼻にかかったような声で返事。
龍麻はずっと表情を変えない。
「昨日、何処で寝てたの?」
野暮な話だ。
碌でもない話だ。
そして下らない話。
京一の顔が綺麗に視界に収まると、彼は笑った。
眦を細め、濡れた唇の隙間から舌を覗かせて、哂った。
龍麻の脳裏に浮かんだのは、緋色を纏った一人の男。
京一にとっては、大の苦手だと公言している筈の男。
多分、それで間違いじゃない。
京一は判っている。
その気配を纏っていれば、龍麻が黙ってはいられない事を。
龍麻も十分自覚をしていて、京一が何を考えているかも判る。
判るけれど、それに逆らう術を龍麻は知らない。
顎を捉えて口付けて、そのまま畳の上に押し倒した。
乱暴に京一のシャツをたくし上げ、下肢のベルトを外すと、下着ごと擦り下ろす。
露にされた彼の中心部は、既に固く反り返っていた。
そんな有り様を突きつけられても、京一は哂っていた。
面白くて仕方がない、そんな風に。
………まるで発情した猫みたいだ。
だからこんな風にして、あちらこちらで遊び相手を探すのだろう。
動物の本能と衝動に身を任せて。
自由な猫は、首輪も鈴もつけずにふらりふらりと遊び回る。
見えない鎖を引き摺りながら。
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荒んだ京一書いちゃった。
この京一で三角関係書きたい。……裏必至!!
龍麻は基本的に、京一がどんな風に病んでても荒んでても、そのまま受け入れます。
八剣は……受け入れた上で、京一が立ち直るように優しくするか、益々酷くさせるか……どっちかだな。今の所は前者が多いけど、後者も書きたい。
知らなくて良いと思う、理解されなくて良いと思う。
けれど、彼が自分から離れて行くのは嫌だ。
畳に押し付けた親友に覆い被さり、龍麻は彼の喉に舌を這わした。
動物の生命保護の本能からだろう。
其処を食い破られるのではないかと言う強迫観念に囚われた京一の躯は、緊張で強張っていた。
それを解そうという気持ちは微塵も浮かぶことなく、龍麻はそんな京一の反応を楽しみながら、首を繰り返し刺激した。
筋肉の緊張が感覚を更に鋭敏に尖らせているのが、京一を苦しめている。
その様を見るのが、龍麻は心地良くて仕方がない。
「う、あ…ッ……」
龍麻の家に来ると同時に脱いだ彼の制服は、部屋の隅で固まりになっている。
木刀も同じ所にあって、これが彼にとっては最大の失敗であり、龍麻には最高の好機だった。
インナーをたくしあげれば、剣術で鍛えられた胸板が露になる。
しかし日頃の不摂生な生活の所為だろうか、武道家にしては全体的に細い印象があった。
その肢体が淫靡に揺れて疼く様を想像するだけで、龍麻は下半身に血が集まって来る。
見上げる京一の瞳には、常の強気な光はない。
戸惑いの色が殆どを占めた瞳は、しかし己を支配する少年を拒絶しようともしなかった。
相手が親友だから、何処かでこれは冗談だと言って欲しいから。
其処に付け込んでいる自覚はあって、龍麻はそんな己を最低と詰りながら、後悔してはいない。
「…ん、ん、…ん……」
曝け出された肌の上で、ゆっくりと手を滑らせる。
遅すぎるとも言って良いその愛撫に、京一は身悶えるように頭を振った。
心臓の上に手を置くと、やけに早鐘を打っている事に気付く。
黙したままで京一の顔を見てみれば、彼は仰け反り、ぎりぎりと歯を食いしばっていた。
まるで何かに耐えようとしているようだ。
龍麻はクスリと薄い笑みを浮かべ、彼の胸の頂に爪を立てた。
「どうしたの? 京一」
「……ッあ……!」
ビクリと背を反らせ、京一は目を見開いた。
龍麻はの反応に気を良くし、続けて頂きを摘み、転がし、刺激を与える。
都度に京一はビクビクと躯を揺らし、血が出るのではと思うほどに強く畳に爪を立てた。
龍麻は口を開けて、京一の喉に食らいついた。
歯こそ立ててはいないが、口の筋肉を動かし、食むかのように唇を動かす。
緩い刺激だ、あるのは吐息と時折当たる舌の感触だけ。
だと言うのに京一の躯はビクッビクッと反応し、龍麻の目を楽しませる。
極度の緊張が続いた所為だろう、滲み始めた汗の味に、龍麻は喉から離れると、はくはくと口を開閉させる親友を見下ろし、
「っは、…あッ……はぁ、あ…ッ」
「汗かいてるね。ちょっとしょっぱいよ」
「…ふ、あ……あぁ……!」
舌先を尖らせて、また喉に頭を寄せた。
舌の先端で喉仏を舐めると、京一は差し出す事になる事さえ忘れて、喉を反らして喘ぐ。
龍麻は、京一の胸に置いていた右手をゆっくりと下降させて行った。
ゆっくりと、ゆっくりと。
京一が、龍麻の手の形と場所をはっきりと理解できるように、ゆっくりと。
京一は嫌だと子供が駄々を捏ねるように首を横に振ったが、龍麻は止まらなかった。
布を押し上げてテントを張り始めた下肢へと、更に近付いて行く。
京一は、龍麻に対して甘い。
それは葵や小蒔、醍醐達とは別の意味で甘かった。
彼女達は龍麻の優しさや真っ直ぐさ、暖かさで荒んだ気持ちさえ解される。
もう、仕方ないわね、と言う意味で甘いのだ。
龍麻がそうするのなら自分も協力しようと、仲間同士の気安さが其処にはあった。
だが、京一は彼女達とは違う。
龍麻は京一には隠し事をする気はないし、少し意地の悪い自分を見せる事もあった。
それは小さな子供が好きな子に意地悪をするのと同じような感覚に似ている。
京一も、龍麻の仲間達と自分への接し方に微妙な差異がある事には気付いているだろう。
だが直せとも言って来ないし、止めろとも言わないから、彼は龍麻の行動を全て受け入れてくれていた。
仲間とか、仕方がないとか、そういう事ではなく、赦してしまっているのだ――――龍麻の全てを。
それが危険な趣向を持つものであるとしても。
だからこんな行為も受け入れる。
本音は拒絶したくても、一度許してしまったから。
例えそれが、強姦めいた行為であっても。
「あ、あ…! あぁあ……!」
スラックスの前を開き、下着の下へと手を潜らせる。
完全ではなくとも、其処は既に起き上がりつつあった。
京一は首を振って拒絶を示したが、龍麻は構わず刺激を与える。
「龍麻、あ、龍麻ぁあッ……や、め…あ、うぁあ…」
直接与えられた強い刺激に、京一は弱々しい声を上げて龍麻にしがみ付いた。
そうやって縋って来るのが堪らない。
いつも誰にも寄り掛かろうとしない彼が、こうして自分に縋り、懇願してくるのが。
「っは、あッ、あぁ…ッ!」
熱を煽り、追い立てられた京一は、淫靡に腰をくねらせる。
逃れようとしているのか、誘っているのか。
前者である事は確かだ、龍麻には後者にしか見えなかった。
京一の瞳が泣き出しそうに揺れる度、血が固まって行く。
知らず知らず、興奮によって龍麻の息も上がっていった。
このまま、彼の全てを喰らい尽くしてしまいたい。
でも、それじゃ詰まらない。
喰ってしまったら一回きりだ。
次はない。
彼の代わりはいないから、それは駄目だ。
長く、永く、いっそ永遠に。
彼が離れてしまう事のないように、この快楽で繋ぎ止めよう。
彼の思考回路をドロドロに溶かして壊して、この快楽なしではいられない躯にして。
だから龍麻は、彼の拒絶を、拒絶する。
彼が縋り懇願する様が、嬉しくて仕方がない。
「も…や、め……龍麻…あ、あ…あああ……!…」
高まる欲望に耐え切れず、京一はビクン、ビクン、と痙攣して果てる。
吐き出された熱は龍麻の手を汚す。
そのまま、龍麻は秘める場所へと指を伸ばして行った。
鬼と対峙した時、街のチンピラにケンカを売られた時、勇ましく激しく吠える喉。
今はそれとは似ても似つかぬ甘く悩ましい声を上げる其処に、龍麻はまた舌を這わせた。
嫌なら力で拒絶すればいい。
彼にはそれが出来る筈だ。
嫌ならもう近付いてこなければいい。
逃がすつもりはないけれど。
本気で拒絶をしないなら、
本気で逃げるつもりもないのなら、
――――――このまま、同じ場所まで堕ちて来て。
そしたら、一生かけて全部食べ尽くしてあげるから。
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ヤンデレ龍麻。
こうなると破滅しかないなぁ……でも書いてて楽しかったって言う(爆)。
時々、龍麻の事が判らなくなる。
それはいつものように、「何を考えているのか判らない」からではなくて。
覆い被さってくる少年が、何を思ってこの行為に執心しているのか、京一には判らない。
首筋をゆっくりと舐め上げられて、時折気紛れに歯を立てられるのを知っているから、どうしても筋肉が緊張する。
喉を食い破られたら死ぬしかないから、これは防衛本能だ。
人間の首の骨など、龍麻の力を持ってすれば他愛なく砕く事が出来るだろう。
それを知っているから、余計に京一は体の力を抜き、湧き上がる熱情に身を任せることが出来ない。
委ねきったその瞬間、皮膚も肉も血管も、一気に持って行かれるような気がするから。
そんな京一の心中に気付かないのか、知っていながら無視しているのか。
龍麻は口元に薄い笑みを透いて、肢体を投げ出す親友を見下ろしていた。
「う、あ…ッ……」
制服を脱ぎ捨て、インナーをたくし上げられて、露にされた肌。
触れる空気が異様なまでに冷えているような気がするのは何故だろうか。
外で雨が降っているから、それだけが理由ではないように思う。
――――そうだ、見下ろす瞳が冷たいからだ。
その冷たさが、針を立てるように肌を突き刺して行くから、こんなにも寒い。
こんな時、いつもの苺馬鹿の相棒は何処に行ったのかと思う。
何処にも行っていない、目の前にいるのがそれであると判ってはいる。
けれど、深層でそれを認めるのを嫌がる自分がいた。
龍麻は、殊更にゆっくりと、京一の肌を愛撫する。
アームウォーマーを取り除いた手で胸板に触れ、一秒間に数ミリと言う速さで手を滑らせた。
そのゆっくりとした速度が、京一には返って恐ろしい。
「…ん、ん、…ん……」
全身を品定めされているような気分になって来る。
このまま、生きたままで解体されるのではないかとさえ思ってしまう。
手か、足か、それとも頭か。
いや、そんな大まかで大胆な作業ではない。
指の一本一本、関節からゆっくり、ゆっくり削ぎ落とされて行くのだ、きっと。
想像して、躯が震えた。
恐ろしいイメージを振り払おうと、京一は頭を振った。
背を預けている畳に爪を立て、ぎりぎりと歯を食いしばり、息を詰める。
「どうしたの? 京一」
「……ッあ……!」
カリ、と胸の頂を爪が引っ掻いた。
極度の緊張を強いられていた躯は、たったそれだけの刺激にさえ敏感に反応する。
仰け反った京一は、酸素を求める魚のようにはくはくと口を開閉させた。
その目は虚ろに彷徨い、意識が現実にあるのかさえ怪しい。
龍麻は細く細く双眸を窄め、露にされた京一の喉に唇を寄せた。
「あ」の形に口を開いて吸い付き、食むかのように何度か口を動かす。
その都度、京一の躯はビクッビクッと痙攣した。
「っは、…あッ……はぁ、あ…ッ」
「汗かいてるね。ちょっとしょっぱいよ」
「…ふ、あ……あぁ……!」
ちろちろと尖らせた舌先が、喉仏の上で遊ぶ。
一点を掠り続ける刺激に、京一は更に喉を反らせる事となった。
龍麻は京一の胸に置いていた手を、ゆっくりと下ろしていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
京一にも、触れられる場所と、触れる龍麻の手の形が判るように、ゆっくりと。
その手が向かう先は想像するまでもなく理解出来てしまって、京一はいやいやと頭を振った。
これ以上は可笑しくなる、と。
何を考えているのか読めない親友は、時々、自分にだけ妙に意地の悪い言動を取る事がある。
決して他の人間に対して現れないその行動を、京一は決して嫌いではない。
特別扱いされる事に、芯から居心地の悪さを抱く人間は、そうはいないだろう。
京一もそれは同じだ。
まして龍麻が転校して来てから、何かと彼に構いつけていたのは自分なのだ。
龍麻が自分だけを特別扱いしているように思う言動を取るのは、気恥ずかしさもありながら、嬉しくもあって。
――――――けれど、この行為だけは理解できない。
その上、京一がどんなに嫌がっても、これだけは押し通して行くから、尚更。
いつもの冗談や軽い嫌がらせなら、適当な所で引く筈。
京一が本気で切れる前か、切れた後なら一頻り怒鳴ってから、ごめんと謝る。
それで後はいつも通りだった。
なのにこの行為だけは譲る事も引く事もなく、己が満足行くまで押し進める。
緩やかな愛撫と緩やかな刺激で、京一の思考を奪い、その躯を思うがままに揺さぶり、終わりまで、ずっと。
「あ、あ…! あぁあ……!」
遂に龍麻の手が京一の下肢に触れた。
首を振って拒絶を示す京一に構わず、龍麻は其処へ更に刺激を与える。
京一は身を捩って逃れようとしたが、また首を食まれて、全身が緊張で硬直する。
その間に彼の手は我が物顔で京一を嘲笑う。
「龍麻、あ、龍麻ぁあッ……や、め…あ、うぁあ…」
薄く昏い笑みを透いて見下ろす親友に、京一は縋った。
本当に、本当に止めて欲しくて。
しかし無情にも、龍麻は京一を追い上げて行く。
「っは、あッ、あぁ…ッ!」
そもそも、この行為自体、京一は許した覚えがない。
一番最初の時は、ちょっとした悪ふざけなのだと思っていた。
けれども何処までもエスカレートして行くから、龍麻が愛撫をしてくる頃になって慌てて止めた。
しかし抵抗を奪われ、腕を褥へ縫い付けられ、行為はそのまま押し進められた。
それから何度も繰り返された行為だが、京一は決して一度も自ら許してはいないのだ。
抵抗し、暴れ、殴る蹴るなど何度もしたし、プライドに障るが大声を出して誰かに助けを求めようかとも考えた。
だが龍麻はその度、それらを全て封じ、快楽で京一の思考を溶かして行くのである。
結局勝てないのだと悟ってからは、ただ只管、この行為が早く、一秒でも早く終わる事を祈るようになった。
悟ったと言っても、受ける行為を諦めて受け入れた訳ではない。
男の矜持がそれを許さず、出来る事なら最後まで行く前に終わらせて、いつもの日常に戻りたかった。
だが願いも空しく、親友は、京一の日常を非日常で食い尽くしていく。
「も…や、め……龍麻…あ、あ…あああ……!…」
ビクン、ビクン、と。
躯を跳ねさせて、京一は果てた。
それでも愛撫は止まず。
己のものとは思えない甘い声を上げる喉に、親友の舌がゆっくりと這う。
今か、それともいつか、その喉を喰らう為の品定めと下拵えをしているかのように。
壊れる。
壊れる。
塗り潰されて行く。
喰われる。
喰われる。
魂ごと。
それでも、逃れる事が出来ないのは、
見下ろす薄く昏く冷たい笑みに、己も囚われているからだ。
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この京一は完全に龍麻に対して怯えてますね……
本番までヤってないけど、エロさを出したくて頑張った(頑張るとこ間違えてる)。
きっと誰も気付いていない。
彼の放つ光は、傍らの太陽を反射しているものなのだと言う事を。
車椅子を押されて街を巡る龍治は、背を押す人物よりも気に止まる存在があった。
車椅子を押す人物――――緋勇龍麻の意図が読めないのは勿論。
もっと判らないのは、彼と共に行動している、紫色の太刀袋を持った人物だ。
緋勇龍麻が何を目的として、自分をあちこち連れ回しているのか。
先の件を忘れてはいないだろうし、自分にとってはどうでも良い事ではあったが、彼にとっては違う。
だって自分は彼が最も大切にしているだろうと言う存在を、壊したのだから。
その憎しみから、彼がどんな行動をとっても何も可笑しな事はないだろう。
しかし彼の後ろをついて歩くように同行する人物は、龍治に対して接点がない。
龍麻の親友だと言って憚らないから、間接的には関係があるのだろうが、直接どうこうあった訳ではなかった。
それ故と言う理由だけではないだろうが、彼は龍麻に何かと構いつけるものの、龍治には殆ど話しかけて来ない。
龍治には、龍麻以上に彼の親友――――蓬莱寺京一の意図こそ読めなかった。
「腹減ったな」
「ラーメン食べに行こうか」
「…あのガキいるじゃねェか」
「京一がコニーさんに押し付けたんだろ」
「……そーだけどよ」
龍治は肩越しに後ろの二人を見遣る。
龍麻はクスクスと楽しそうに笑い、京一は拗ねたように唇を尖らせている。
其処にあるのは陽だまりの世界で、龍治には透明ガラスの向こうにある世界のように見えた。
が、龍麻が振り返って此方を見た事で、龍治も陽だまりの世界へと手を引かれる。
「龍治君もラーメンでいい? コニーさんのラーメン、美味しいよ」
「……好きにしたら」
他に言いようもなく。
平坦な声で答えた龍治に、龍麻はまた笑った。
何故そんなにも笑えるのだろう。
陽だまりのように。
笑顔の形は龍治も覚えているし、学校で笑っていた記憶もある。
だがそれは“此処は笑う所”とか“笑えば相手が満足する”と理解していたからだ。
状況と理解と計算による笑顔だと気付いた人間は、周りに一人もいなかったけれど。
龍麻もどちらかと言えば同じものであるように感じたが、彼の笑顔には確かに色があるのだ。
彼の感情と言うものが反映されており、龍治のように空ではない。
「あのガキ、何かってーとオレを目の敵にしやがって」
「京一が乱暴するからだよ」
「してねーよ! っつーか、絶対オレの方があのガキに乱暴されてるぞ」
「京一の方が大人なんだから、それ位許してあげなよ。嬉しいんだよ、あの子も」
「何が」
「ケンカ出来る相手がいるって楽しいんだよ」
微笑む龍麻に、京一はよく判らないと言うように眉間に皺を寄せる。
そんな親友に龍麻は笑いかけるだけで、それ以上言おうとはしなかった。
龍麻が今朝の内に龍治を迎えに来てから、ずっとこの調子が続いている。
会話をしているのは龍麻と京一、龍麻と龍治と言う組み合わせばかり。
京一は龍治を伺い見る事はあるが、目線を合わせることはなく、二人の間は龍麻と言う壁が取り持っている状態が続いた。
必ず、京一は龍麻の半歩後ろ、多くは斜めをついて来る。
其処からなら、親友も龍麻に車椅子を押される龍治の姿も見えるからだ。
それに気付いてから、ああ監視の役目なのかと龍治も理解した。
龍麻が何を思って龍治と行動しているのか、龍治に理解出来ないのと同じく、仲間達にも判然としない部分が多いのだ。
龍治が思うように憎しみなのか、それとも慈善主義のような博愛精神からか。
後者であるならまた理解できないな、と龍治は前方へと視線を戻して呟いた。
「お前は暢気でいいよな。あのガキ、お前にだけは懐いてっから」
「京一の事も好きだと思うよ、マリィは」
「何処をどう見りゃそんな風に見えるんだよ。おちょくってるだけだろ、ありゃあ。しつけェったらありゃしねェ」
「嬉しいんだよ。今までちゃんと構って貰った事とかなかったみたいだし。京一だったら、絶対何か反応してくれるから」
前を向いた龍治には、後ろにいる二人の顔は既に見えない。
しかし、龍麻がどんな表情をしているのかは、声のトーンでなんとなく判る。
龍麻は、京一との会話を楽しんでいた。
打てば返って来る反応は、確かに構って欲しがる人間には面白いだろう。
だがそれ以上に、龍麻は“京一”との遣り取りに喜びを感じていた。
「アニキー!」
「あ? …なんでェ、お前らか」
不意に聞こえた声に京一が立ち止まり、龍麻も足を止める。
風景の変化が止まって、龍治はまた肩越しに背後の二人を見遣った。
京一を囲むように四人の男が集まっている。
包帯やらガーゼやら裂傷やら、どれをとっても穏やかではない外見の男達ばかりだ。
それらは京一をアニキと呼び、莫迦のような仕草であれこれと話をしている。
京一はポケットに手を突っ込んで猫背になったまま、男達の下らない話を聞いて笑っていた。
……それを龍麻が見詰めている。
「で、その時にこいつがですね、よりによって酒飲んでて酔ってやがったんスよ」
「適当に逃げりゃ良かったのに、気が大きくなってやがったから、売り言葉に買い言葉で」
「オメーなァ……一週間前にも同じ事やったばっかじゃなかったのかよ」
「あー…そうなんスけどねェ。どうも酒飲むとつい…」
「しばらく禁酒だな。お前の分の酒、オレが飲んでやるから残らずこっち回せよ」
「ンな殺生なぁああ!」
それだけは勘弁を、と縋る舎弟に、京一は意地悪くクツクツ笑う。
周りの他の舎弟達はそれが良いと言い出す始末で、禁酒を言いつけられた男はがっくりと項垂れてしまった。
――――――龍麻は、ずっとその光景を見詰めていた。
眩しい光を見詰めるかのように、柔らかに瞳を細めて。
視線に気付いた京一が、舎弟達から此方へと目を移す。
龍麻と京一の視線が交わり、京一がイタズラが成功した子供のように笑う。
まるで真夏の太陽のように。
そして、龍麻がふわりと微笑んだ。
龍治は気付いた。
この陽だまりの世界を作り出しているのは、誰なのか。
「アニキ、丁半しやせんか? 龍麻さんもいる事ですし。あっしらも腕上がりましたぜ!」
「あー……悪かねェが、オレらこれからラーメン喰いに行くからな…」
「そんじゃあ、その後でも!」
「だとよ。どうする? 龍麻」
問うた京一に、龍麻は迷わず頷いた。
了承、と言う事だ。
「決まりだな。いつもの場所でいいんだな?」
「へい!」
「お待ちしてます!」
頭を下げる舎弟達に、おう、と短い返事をして、京一はまた歩き出す。
龍麻も龍治の車椅子を押しながら、当初の目的通りラーメン屋へと向かった。
時折、龍治は後ろを二人を伺い見る。
その都度、思った通りだと再認識を繰り返した。
この陽だまりを作り出しているのは、彼ではない。
彼は自分に当たる光を、月のように反射させているに過ぎない。
ならば、光は何処から生まれているのか。
京一だ。
彼が光を放っている。
眩しいほどの輝きを。
龍麻はそれを反射させ、拡散させているだけだ。
彼は自ら光を放ってはいない。
やはり、彼は自分と同じなのだと、龍治は口元が笑みに歪むのを感じた。
初めて緋勇龍麻を見た時、龍治は彼が最も生き生きとしているのを感じた。
陽だまりの世界で笑う彼と友人たちの中で、彼が最も“生きている”と龍治には感じられたのだ。
同時に、彼の中が自分とよくよく似通っている事も知った。
彼は陽だまりの中にいるけれど、根底は恐らく、自分と同じ空なのだ。
龍治に注がれなかった“もの”が、彼に注がれているのだと、龍治は直感的に悟った。
その“もの”は、決して一人の人間によって注がれ満たされたのではない、けれど。
「そういや、ムッツリ何処行ったんだ? あのボロい店燃えただろ。路上生活でもしてんのか?」
「織部神社にいたよ」
「なんでェ、面白くねェ」
…最初の一滴を注いだのは、恐らく、彼だ。
蓬莱寺京一。
太陽のように笑う彼に呼応するように、龍麻は陽だまりの世界で笑う。
龍治は歪む口元を欠伸で誤魔化した。
退屈だと言う風の龍治に、龍麻は向かうラーメン屋について話してくる。
龍治は、殆ど聞いていなかった。
そんな下らない話など聞いていられない。
龍治の意識は、少し遅れて歩く人物へと固定された。
彼はそれに気付く様子はなく、歩き慣れているだろう街並みを眺めている。
その目が龍麻ではなく此方を見たら――――そう思うと、浮かぶ笑みを止められない。
この陽だまりの世界を壊して、世界を照らす太陽が自分だけを見る瞬間、
きっと生まれて初めて満たされる。
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皆既日食を見て、無性に書きたくなった龍治。
本編中で龍麻は月、龍治は太陽と言っていましたが、やっぱり一番の太陽は京一だ思ってる私です。
で、龍治は完全な皆既日食の真っ黒な太陽と言うイメージです。
だから光みたいな京一の存在が欲しくなる……と言うのが龍治×京一の基本形。
7月7日、七夕。
葵の家で星見をしようと言う話になった。
参加メンバーはいつもの鬼退治部だ。
唯一、京一は面倒臭いからパスと言ったのだが、遠野のゴリ押しにあって半ば強制参加。
放課後、約束の集合時間までに各自時間を潰す事になり、いつものように歌舞伎町へと赴く彼の背中は、若干憂鬱そうだったが――――無理に来なくても良いよとは誰も言わないのであった。
言ったら言ったで、今更ドタキャンもどうだよと言って参加するのだろうし。
そして約束通り、集合時間きっかりに、京一を含めた鬼退治部全員が美里家に集まった。
葵の自室に一番近い客間を利用させて貰い、縁側に並んで座るのは、葵、小蒔、遠野の三人。
明かりを消した部屋の中から、三人の後姿と星空を眺めるのは、龍麻、京一、醍醐であった。
「今日は鬼もいなくて幸いだったな」
「だな」
「うん。良かった」
醍醐の言葉に京一と龍麻も頷く。
そうでなければ、こんなにものんびりした一夜は過ごせなかっただろう。
また鬼だけではなく、天気も良かったのも嬉しい。
お陰で空で瞬く満点の星がよく見える。
美里の屋敷は高台にある為、ビルの人工灯も見えず、空は本当に星だけの世界となっていた。
「あ、ホラホラ、あれが彦星よ!」
「え~、何処の星? ボク全然判んないよ」
「夏の大三角形を探したら判るわ。白鳥座と、ワシ座になる部分がそれぞれ彦星と織姫で…」
「だからァ、それも判んないんだって。どれがどの形になるの?」
剥れる小蒔に、葵が指差し教えるが、小蒔はそれも読み取れない。
先ず星の見方からして判らないのだから、仕方がない。
どうやって教えたら判るだろうと頭を捻る葵に、龍麻達は顔を見合わせて苦笑する。
「オレもまるで判んねェな」
「俺もだ」
「僕は判るよ。ちょっとだけ」
「へェ」
京一は感心したように声を漏らしたが、じゃあどれがどれかとは聞いて来なかった。
聞いても小蒔と同じように判らないのを自覚しているからだ。
醍醐も同じく。
「星座なんかまるで判らないが……それでも、これは見事な星だとは思うな」
まだ星座について話をしている女子に苦笑して。
視線を星空へと移して、醍醐が呟いた。
都内にいると人口の光がどうしても自然の光を隠してしまうけれど。
こうして改めて見た星空は、やはり人口灯とは違う強さを持っていて、暗闇の世界を淡く照らす。
その色は、一粒一粒は小さくても、確かに星々が息づいているのだと感じさせた。
一粒一粒の光が小さいのは、人間も――――自分達も同じだ。
それを思うと、遠く宙(そら)の彼方で輝く星が、随分と身近なもののように感じられるから不思議なものだ。
「あーッ! 今、今流れ星あった!」
「ウソ!? 何処何処!?」
「もう消えちゃったんじゃない?」
「え~ッ!」
「あたしお願い事してなーい!」
俄かに騒がしくなった女子陣。
それを眺めながら、男子はまた顔を見合わせて苦笑した。
「情緒がねェなァ」
「京一、その言葉ちゃんと意味判ってる?」
「ケンカ売ってんのかコラァ!」
「いたたたた」
京一のヘッドロックに捕まって、龍麻が眉尻を下げながら笑う。
縁側だけでなく、部屋の中まで騒がしくなって。
やはりこのメンバーで静かに星見は無理だったなと、醍醐は思うのだった。
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鬼退治部はちょっと騒がしいくらいが丁度良いと思います。
しかし中身のない話だな(爆)。