例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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03 我侭を言う









少しだけ目を伏せて。
こっちの顔を見ないようにして。

静かな声で告げられる、“判ってる”と言う言葉。


甘えちゃいけないと思うけど、甘えてしまうのは、きっと赦してくれるだろうと思うから。
何を言っても何をしても、きっと彼なら受け入れてくれるだろうと思うから。

……そう願っていて、彼は本当にそうしてくれるから。




時折、無理に付き合わせているのじゃないかと思う事もある。

だけど、それを言おうとすると、彼はぶっきら棒に「なんの事だ?」と言って。
そうして自分は、結局また甘えている。






いつでも何処でも、一番最初に呼ぶ声があって。
誰より何より、一番先に隣にいる人。
向き合って、背中越しで、一番近くに感じる人。


無茶も無謀も、全部ひっくるめて受け入れて。
「仕方ねェな」と笑って、「オレもバカだからな」と言ってくれた。



一人で背負うなとは言わない。
でも、「オレも一緒だ」と言って、いつも傍らにいて。
向ける刃の切っ先は、同じ方向を向いている。

冷たくて寂しい偽りの言葉の中で、痛いくらいに熱い言葉をくれた。
迷えば答えが見付かるまで傍らで待ってくれていて、別に急かす訳じゃなく。
あるがまま、見付けた答えごと全部受け止めてくれる。


そうして、間違え掛けた時は、躊躇わずに殴ってくれる。





だから。
だからつい、ワガママを言って。

優しい彼を、渦の中に巻き込んで。



そうして何度、傷付いていくのを見ただろう。
彼はそれを僕に言った事はなかったし、きっとずっと言う事もないだろうけど。





一番最初に、言葉ではなく、全身で。
全てを持ってぶつかってくれたから、何も隠すものなどなくて。

一番最初のあの瞬間から、彼は何もかも受け止めてくれたから。



だからつい、きっと受け入れてくれるんだと思って、ワガママを言って。
ごめんねと言ったら、









「何謝ってんだ、お前」

「お前が勝手にしてることに、オレが勝手にやってるだけだろ」


「何がワガママなもんかよ――――――」










そんな事言ってくれるから、

一生ワガママ言ってもいいのかなぁと思ってしまうんだ。














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比良坂、外法編最終話、拳武編ラスト、渦王須事件、最終決戦。
龍麻がしようとする事を、そのまま受け入れて一緒に背負おうとする京一は男前。

寄りかかりあえる二人が好き。
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02 手を繋ぐ







絡められた手に、いつも戸惑う。
リアクションにも、このままにして良いのかと言う事も。






するりと捕まえられたを感じて、肩越しに後ろを振り返れば、思ったとおり。
いつものふわふわとした笑みを浮かべた相棒が其処にいて、視線を落とせば握られた手。

5つ6つの子供じゃあるまいし、手なんか繋いで何が楽しいのだろう。
過去に何度か聞いたことがあったが、その都度、龍麻は笑うばかりで何も答えなかった。
聞き続けていると、「駄目かな?」と質問で返されてしまい、いつも京一の方が答えに窮する。
嫌か嫌じゃないかと言われると、照れくさいが“嫌じゃない”訳で、「だったらいいじゃない」と丸め込まれてしまうのだ。


龍麻が、何故自分と手を繋ぎたがるのか、京一にはよく判らない。

剣を握り続けた為に、剣胼胝だらけの凸凹の手。
古武術を心得る龍麻の手もそれは似たようなものだった。

……こんな手を繋いで、本当に何が楽しいのか。




夜の都会の真ん中。
男同士が手を繋いで歩く光景の、なんと滑稽か。

と、京一は思うのだが、反面、誰も気にしちゃいない事も判っている。
色々な人間が当たり前に溢れ返る東京で、一々他人の様子を逐一観察する者はいない。
男同士で手を繋ぐのだって、ある一角に行けば珍しくない光景なのだ。
…時々、後ろ指で笑われている気がしないでもないけれども。


京一のそんな心情などお構いなしに、今日の龍麻は少々ご機嫌な様子だった。






「ラーメン、美味しかったね」






いつものラーメン屋で食べた帰りだ。

其処には醍醐達もいて、ついさっきの分かれ道まで一緒だった。
そして別れて数分後、龍麻が手を捕まえてきたのである。






「苺ラーメン美味しかったなぁ」
「……ありゃねェと思うぞ、オレは」






麺からスープから、ピンク一色だったラーメンを思い出す。
あれは本当に有り得ない、と京一は思う。

コニーもよく作ってくれたものだ。
京一達が押し付けていった少女・マリィに急かされて作ったものらしいが……
押し付ける時には本当に軽い気でいたのだが、今は少々、申し訳ない事をしたと思う。
とは言え、コニーはコニーでマリィとの生活を楽しんでいるようだが。


赤信号に引っ掛かって、横断歩道の前で立ち止まる。






「京一も今度食べてみなよ」
「遠慮しとく。オレはいつもの奴でいい」
「本当に美味しいよ?」
「お前にとってはな」






直ぐに信号は青に変わってくれた。
けれども、此処の信号は青から赤に変わるのも早い。

早足で渡り出すと、手を繋いだまま、龍麻も同じ速度で渡り始める。
京一の方が半歩前に出ているので、傍目には京一が龍麻を引っ張っているように見えた。






「冒険してもいいと思うな」
「してェ時にするから、今は止めとく」
「今度一緒に食べようね」
「人の話を聞けよ、オメーは」






青信号が点滅する。
横断歩道はやっと半分まで行った所だった。

長いくせに変わるのが早いのは可笑しいよなと思いつつ、京一は龍麻の手を解く。
走り出せば、寸分遅れずに龍麻も走り出した。










ギリギリで渡り切って、一つ息を吐いて。

また手が繋がれる。




――――――放っておくのは、拒否する理由がないからだ。













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こんな話を書く度、うちの龍麻は本当に京一ラブだなと思います。
でもって、なんだかんだで京一も龍麻の事好きです。

01 約束をする











未来なんて不確かなもので、その未来の約束をするなんて、もっと不確かで。
だけど、その約束で、ほんの一時でも君を縛ることが出来るなら。










歌舞伎町の向こうに紛れようとする親友を呼び止めた。
肩越しに振り返った親友に、一つ約束を取り付ける。







「明日、僕の家に泊まってね」







藪から棒の言葉に、京一は眉根を寄せる。
それは決して機嫌を損ねた訳ではなく、急な発言の真意を掴み損ねたからだろう。

龍麻は微笑んで親友の顔を見つめ、もう一度同じ言葉を繰り返す。






「明日、僕の家に泊まってね」






一言一句変わらぬ言葉。

京一は益々いぶかしんで見せたが、断る理由も思いつかないからだろう。
しばらくの沈黙の後、がりがりと頭を掻いてから、






「いいぜ」
「うん」






承諾と了解の言葉は、たったの三文字、二文字で終わる。


今度こそ京一が完全に背を向けたのを、龍麻は今度は呼び止めず、追うこともしなかった。
呼ばれなければ京一が振り返ることはなく、踵を返して戻って来ることもない。

原色のネオンの向こうに消える背中に、龍麻は見えていないと判って、手を振った。




そのまま、京一の背中は見えなくなるだろうと思っていた、のだけれど。




ふと、京一の足が止まって、半身で振り返る。
それを見た龍麻は、何か忘れ物があっただろうかと考えた。
考えたが、思いつくものはない。

立ち止まった答えを知る京一は、またがりがりと頭を掻いてから、







「明日な」
「―――――うん」







確認するように告げられたのに、龍麻ははっきり頷いた。
京一もそれを見て、ひらりと手を振ってまた背を向け、歩き出す。











不確かな未来。
だけどどうか、明日も一緒に。

大好きな君と、一緒に。


そんな約束。











----------------------------------------
“じゃあまたな”をもっと明確な形に。
明日は“明日”が終わるまで、ずっと一緒にいられるように。

星間距離








悴む手足を摺り合わせて、その場凌ぎでもいいから熱を求める。



寒さには強い方だと思っていた左之助だったが、それでも今夜は随分と冷える。
傍で蹲る克弘は眠ってしまったけれど、時折、温もりを求めるようにもぞもぞ動いて中々落ち着く様子がない。

被っているのは冷たくて堅い布一枚で、それを子供二人で一緒に使っている。
子供同士密着している分、一人で寝るよりかはマシだろうが、やはり寒いものは寒かった。
その寒さの所為で眠気も飛んでしまって、左之助は夢の世界に逃げ込むことも出来ない。


背中越しの克弘の熱は、触れ合った部分は確かに心地良いのだけれど、反面、手や足の冷えがどうも際立つ。
耳もジンジンとした痛みを訴えるし、鼻水の啜りすぎて鼻が痛いし。
よく眠れるもんだなと、周囲を囲む大人達と、背中越しの友人の気配を感じながら思う。




けれども、冷えた冬の空は、決してそればかりではなく。
空を見上げてみれば、澄み渡った空気の向こうに沢山の星が光る。




沢山の光の粒が散りばめられた空。
それは、飛び出してきた故郷で、妹と二人手を繋いで見上げた空とよく似ている。


雪を運んできた曇天が過ぎ去った後、空気は冷えて澄み渡り、キレイな空が広がった。
月の光が、星々が、灯りの少ない村を照らして帰り道を示す。
空から降り注ぐ淡い光を頼りに、引いて田んぼのあぜ道を歩いた。

無数の星の数を指差し数える、妹の手を引いて。






(右喜―――――泣いてねェかな)






よく泣いていた妹。
いつも後ろをついて来た妹。

左之助が近所の子供と喧嘩をする度、右喜はわんわん泣いた。
近所の家の人が飼っている犬に吼えられると、怖いと言って左之助に抱きついて泣いた。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、と言って、左之助の手を捕まえると、ようやく安心したように笑った。


そんな妹を残して、父親と盛大な喧嘩をして、左之助は家を飛び出した。
母親が何か言っていたような気がするけれど、何だったかはもう思い出せなくなっていた。



今日のような寒い日の夜、右喜と二人、一枚の布団で一緒に寝た。
今克弘としているように背中合わせではなく、向き合って、小さい体が寒くないように抱き締めて寝た。
右喜は最初はモゾモゾ動いて、その内自分の納まるところを見つけて、眠るのだ。



故郷も今日は寒いだろうか。
同じような星が見えるほど、空気は冷えて透明だろうか。

手を繋いであぜ道を歩いたあの日と同じ空が、あの地でも見れるのだろうか。







(…………遠いもんだな)







同じ空の下にいる筈なのに。
此処から見上げる星は、あそこで見た星と同じ距離だと思うのだけど。




指差し星を数える妹の手は、そのまま星を掴みそうだった。
畑仕事の帰り、父が一緒の時は肩車されて、左之助よりも高い場所で星に手を伸ばしていた。

今よりもっと右喜が小さい時、まだ物心がついて間もない頃。
空でキレイに光る星が欲しいと言われて、じゃあいつか取って来てやるなんて言った気がする。
……あの時は、本当にいつか星に手が届くような気がしていた。


そうして、いつか星を手に掴むことが出来たら。
金平糖みたいなその粒を、妹にあげられるものだと。



――――――だけれど今、此処から見える星は、あの日の記憶よりも随分遠くにあって。
いつか取ってやると約束した小さな妹は、随分遠くにいて、自分は遠くに来てしまって。









「届かねェな―――――――………」









小さな村を飛び出して。
尊敬する人の傍らで、沢山のものを見た。

そうして、夢と現実を知って。
夢と言う星を掴もうとしても、泣きたくなる程その実現は遠いものであると知って。
知る度、空に手は届かないのだと、あの日の約束が遠退く気がして。





手を伸ばしてみる。
届く訳もない空に。

小さな手よりも小さな星の粒は、こんな手の中になんて収まってくれない。












それでもいつか、届くのだろうか。

夢が現実になる日が来るように、いつか届く日が来るだろうか。



果てのない空の向こう、光る星を捕まえて、約束を果たせる日が。
















----------------------------------------

現代パロとか色々考えましたが、家族ネタに落ち着きました。
……書き出してから方向決まった感もあります。

たまには家族の事を考える日もあったんじゃないかなぁと。



アマデウス








「ん?」







後ろを歩いていた弥彦の声に、前を歩く左之助が立ち止まって振り返る。

弥彦はじっと左之助を見ていた。
目は左之助の顔に向かっていて、だから当然、左之助が振り返れば視線がかち合う事になる。






「なんでェ?」
「いや……?」






無遠慮に見つめられての左之助の問いは、無理もないもの。
しかし弥彦は首を傾げて、不思議そうにするばかりで、一向に問いに答えようとしない。


訳の判らない奴だと、左之助はくるりと背中を向けて、また歩き出す。

その背中を、また弥彦の目が追い駆けた。
背中にじりじりとした視線は感じられたものの、左之助はそれ以上気にしない事にして歩を進める。






「ったく、嬢ちゃんも人使いが荒いぜ」
「白味噌と赤味噌と醤油だよな」
「一気に買う必要あんのか? 大体、二月前に剣心が買ってたんじゃねェのかよ」
「買ったぜ。オレも一緒だった」






もう使い切ったのか? と言う左之助に、さぁ…と弥彦は言葉を濁すばかりだ。

だが確かに、味噌や醤油、薬味の減りが最近早い。
その原因は、神谷道場の家事一切を引き受けている緋村剣心ではなく、現道場主である神谷薫にある。


料理の下手さに定評のある薫であるが、恵に揶揄われて一念発起を起こしたらしい。
剣心に教わることなく、台所で悪戦苦闘しているのを弥彦はよく目撃している。

成績はあまり芳しくない様子であったが、頑張っているのを邪魔する気にはならないので、(生来の口の悪さのお陰で時々揶揄う事はあるが)彼女の気が済むまでやりたいだけやれば良いと思う。
ただ、出来上がった料理の味見をさせられる事にだけは、逃亡と言う手段を取らせて頂くが。






「でもいいじゃねェか、買出しぐらい。左之助はいつもタダ飯食ってんだからよ」
「へーいへい」






有り余っている体力と腕力の使い所は、こんな所にある。

また、左之助も別に薫に言われての買出しを厭うている訳ではあるまい。
なんだかんだと言って、こうして彼女希望の諸々をきちんと買い揃えて戻るのだから。




夏の日差しが、広い背中を照らす。
その背中で、見慣れた一文字が誇らしげに佇んでいた。

弥彦は、なんとなくその背中の一文字を見つめて歩いた。
一番最初に見付けた時には、はっきりきっぱり、妙な野郎もいるもんだと思ったものである。
今となっては、すっかり見慣れた背中になったけれど。


――――――その背中に、時々、







(……気の所為か?)







傍の川の水面で反射した陽光の一閃が、弥彦の瞳を一瞬射抜いた。
網膜が痛いと叫んだので、手の甲でごしごし擦る。

そうして離した、そのほんの僅かな一瞬に、









(誰かいる、訳ねェよな)










時には後ろに。
時には隣に。

ほんの少し離れた位置に。




誰かが見守るように寄り添っているように、見える気がするのだけど。










「おいコラ、置いてくぞ」










振り返って響いた声に、一度瞬きしてみれば。
其処には見慣れた顔があるだけで、やっぱり気の所為だよなぁと思う。













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[アマデウス : 神に愛される]……なんですけども。
左之助って、神も仏も頼りそうにないなぁι

色々悩んだ結果、左之助にとってある種の神と言ったら、やっぱり隊長かなーと行き着きまして。
幽霊になってまで左之助の前に現れた隊長とか、色々妄想が(笑)。
其処からこんなの出ました(また雰囲気モノ!)


拍手に弥彦初登場。
子供の方が霊感あるって言うよね。