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少しだけ目を伏せて。
こっちの顔を見ないようにして。
静かな声で告げられる、“判ってる”と言う言葉。
甘えちゃいけないと思うけど、甘えてしまうのは、きっと赦してくれるだろうと思うから。
何を言っても何をしても、きっと彼なら受け入れてくれるだろうと思うから。
……そう願っていて、彼は本当にそうしてくれるから。
時折、無理に付き合わせているのじゃないかと思う事もある。
だけど、それを言おうとすると、彼はぶっきら棒に「なんの事だ?」と言って。
そうして自分は、結局また甘えている。
いつでも何処でも、一番最初に呼ぶ声があって。
誰より何より、一番先に隣にいる人。
向き合って、背中越しで、一番近くに感じる人。
無茶も無謀も、全部ひっくるめて受け入れて。
「仕方ねェな」と笑って、「オレもバカだからな」と言ってくれた。
一人で背負うなとは言わない。
でも、「オレも一緒だ」と言って、いつも傍らにいて。
向ける刃の切っ先は、同じ方向を向いている。
冷たくて寂しい偽りの言葉の中で、痛いくらいに熱い言葉をくれた。
迷えば答えが見付かるまで傍らで待ってくれていて、別に急かす訳じゃなく。
あるがまま、見付けた答えごと全部受け止めてくれる。
そうして、間違え掛けた時は、躊躇わずに殴ってくれる。
だから。
だからつい、ワガママを言って。
優しい彼を、渦の中に巻き込んで。
そうして何度、傷付いていくのを見ただろう。
彼はそれを僕に言った事はなかったし、きっとずっと言う事もないだろうけど。
一番最初に、言葉ではなく、全身で。
全てを持ってぶつかってくれたから、何も隠すものなどなくて。
一番最初のあの瞬間から、彼は何もかも受け止めてくれたから。
だからつい、きっと受け入れてくれるんだと思って、ワガママを言って。
ごめんねと言ったら、
「何謝ってんだ、お前」
「お前が勝手にしてることに、オレが勝手にやってるだけだろ」
「何がワガママなもんかよ――――――」
そんな事言ってくれるから、
一生ワガママ言ってもいいのかなぁと思ってしまうんだ。
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比良坂、外法編最終話、拳武編ラスト、渦王須事件、最終決戦。
龍麻がしようとする事を、そのまま受け入れて一緒に背負おうとする京一は男前。
寄りかかりあえる二人が好き。
絡められた手に、いつも戸惑う。
リアクションにも、このままにして良いのかと言う事も。
するりと捕まえられたを感じて、肩越しに後ろを振り返れば、思ったとおり。
いつものふわふわとした笑みを浮かべた相棒が其処にいて、視線を落とせば握られた手。
5つ6つの子供じゃあるまいし、手なんか繋いで何が楽しいのだろう。
過去に何度か聞いたことがあったが、その都度、龍麻は笑うばかりで何も答えなかった。
聞き続けていると、「駄目かな?」と質問で返されてしまい、いつも京一の方が答えに窮する。
嫌か嫌じゃないかと言われると、照れくさいが“嫌じゃない”訳で、「だったらいいじゃない」と丸め込まれてしまうのだ。
龍麻が、何故自分と手を繋ぎたがるのか、京一にはよく判らない。
剣を握り続けた為に、剣胼胝だらけの凸凹の手。
古武術を心得る龍麻の手もそれは似たようなものだった。
……こんな手を繋いで、本当に何が楽しいのか。
夜の都会の真ん中。
男同士が手を繋いで歩く光景の、なんと滑稽か。
と、京一は思うのだが、反面、誰も気にしちゃいない事も判っている。
色々な人間が当たり前に溢れ返る東京で、一々他人の様子を逐一観察する者はいない。
男同士で手を繋ぐのだって、ある一角に行けば珍しくない光景なのだ。
…時々、後ろ指で笑われている気がしないでもないけれども。
京一のそんな心情などお構いなしに、今日の龍麻は少々ご機嫌な様子だった。
「ラーメン、美味しかったね」
いつものラーメン屋で食べた帰りだ。
其処には醍醐達もいて、ついさっきの分かれ道まで一緒だった。
そして別れて数分後、龍麻が手を捕まえてきたのである。
「苺ラーメン美味しかったなぁ」
「……ありゃねェと思うぞ、オレは」
麺からスープから、ピンク一色だったラーメンを思い出す。
あれは本当に有り得ない、と京一は思う。
コニーもよく作ってくれたものだ。
京一達が押し付けていった少女・マリィに急かされて作ったものらしいが……
押し付ける時には本当に軽い気でいたのだが、今は少々、申し訳ない事をしたと思う。
とは言え、コニーはコニーでマリィとの生活を楽しんでいるようだが。
赤信号に引っ掛かって、横断歩道の前で立ち止まる。
「京一も今度食べてみなよ」
「遠慮しとく。オレはいつもの奴でいい」
「本当に美味しいよ?」
「お前にとってはな」
直ぐに信号は青に変わってくれた。
けれども、此処の信号は青から赤に変わるのも早い。
早足で渡り出すと、手を繋いだまま、龍麻も同じ速度で渡り始める。
京一の方が半歩前に出ているので、傍目には京一が龍麻を引っ張っているように見えた。
「冒険してもいいと思うな」
「してェ時にするから、今は止めとく」
「今度一緒に食べようね」
「人の話を聞けよ、オメーは」
青信号が点滅する。
横断歩道はやっと半分まで行った所だった。
長いくせに変わるのが早いのは可笑しいよなと思いつつ、京一は龍麻の手を解く。
走り出せば、寸分遅れずに龍麻も走り出した。
ギリギリで渡り切って、一つ息を吐いて。
また手が繋がれる。
――――――放っておくのは、拒否する理由がないからだ。
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こんな話を書く度、うちの龍麻は本当に京一ラブだなと思います。
でもって、なんだかんだで京一も龍麻の事好きです。
未来なんて不確かなもので、その未来の約束をするなんて、もっと不確かで。
だけど、その約束で、ほんの一時でも君を縛ることが出来るなら。
歌舞伎町の向こうに紛れようとする親友を呼び止めた。
肩越しに振り返った親友に、一つ約束を取り付ける。
「明日、僕の家に泊まってね」
藪から棒の言葉に、京一は眉根を寄せる。
それは決して機嫌を損ねた訳ではなく、急な発言の真意を掴み損ねたからだろう。
龍麻は微笑んで親友の顔を見つめ、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「明日、僕の家に泊まってね」
一言一句変わらぬ言葉。
京一は益々いぶかしんで見せたが、断る理由も思いつかないからだろう。
しばらくの沈黙の後、がりがりと頭を掻いてから、
「いいぜ」
「うん」
承諾と了解の言葉は、たったの三文字、二文字で終わる。
今度こそ京一が完全に背を向けたのを、龍麻は今度は呼び止めず、追うこともしなかった。
呼ばれなければ京一が振り返ることはなく、踵を返して戻って来ることもない。
原色のネオンの向こうに消える背中に、龍麻は見えていないと判って、手を振った。
そのまま、京一の背中は見えなくなるだろうと思っていた、のだけれど。
ふと、京一の足が止まって、半身で振り返る。
それを見た龍麻は、何か忘れ物があっただろうかと考えた。
考えたが、思いつくものはない。
立ち止まった答えを知る京一は、またがりがりと頭を掻いてから、
「明日な」
「―――――うん」
確認するように告げられたのに、龍麻ははっきり頷いた。
京一もそれを見て、ひらりと手を振ってまた背を向け、歩き出す。
不確かな未来。
だけどどうか、明日も一緒に。
大好きな君と、一緒に。
そんな約束。
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“じゃあまたな”をもっと明確な形に。
明日は“明日”が終わるまで、ずっと一緒にいられるように。
悴む手足を摺り合わせて、その場凌ぎでもいいから熱を求める。
寒さには強い方だと思っていた左之助だったが、それでも今夜は随分と冷える。
傍で蹲る克弘は眠ってしまったけれど、時折、温もりを求めるようにもぞもぞ動いて中々落ち着く様子がない。
被っているのは冷たくて堅い布一枚で、それを子供二人で一緒に使っている。
子供同士密着している分、一人で寝るよりかはマシだろうが、やはり寒いものは寒かった。
その寒さの所為で眠気も飛んでしまって、左之助は夢の世界に逃げ込むことも出来ない。
背中越しの克弘の熱は、触れ合った部分は確かに心地良いのだけれど、反面、手や足の冷えがどうも際立つ。
耳もジンジンとした痛みを訴えるし、鼻水の啜りすぎて鼻が痛いし。
よく眠れるもんだなと、周囲を囲む大人達と、背中越しの友人の気配を感じながら思う。
けれども、冷えた冬の空は、決してそればかりではなく。
空を見上げてみれば、澄み渡った空気の向こうに沢山の星が光る。
沢山の光の粒が散りばめられた空。
それは、飛び出してきた故郷で、妹と二人手を繋いで見上げた空とよく似ている。
雪を運んできた曇天が過ぎ去った後、空気は冷えて澄み渡り、キレイな空が広がった。
月の光が、星々が、灯りの少ない村を照らして帰り道を示す。
空から降り注ぐ淡い光を頼りに、引いて田んぼのあぜ道を歩いた。
無数の星の数を指差し数える、妹の手を引いて。
(右喜―――――泣いてねェかな)
よく泣いていた妹。
いつも後ろをついて来た妹。
左之助が近所の子供と喧嘩をする度、右喜はわんわん泣いた。
近所の家の人が飼っている犬に吼えられると、怖いと言って左之助に抱きついて泣いた。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、と言って、左之助の手を捕まえると、ようやく安心したように笑った。
そんな妹を残して、父親と盛大な喧嘩をして、左之助は家を飛び出した。
母親が何か言っていたような気がするけれど、何だったかはもう思い出せなくなっていた。
今日のような寒い日の夜、右喜と二人、一枚の布団で一緒に寝た。
今克弘としているように背中合わせではなく、向き合って、小さい体が寒くないように抱き締めて寝た。
右喜は最初はモゾモゾ動いて、その内自分の納まるところを見つけて、眠るのだ。
故郷も今日は寒いだろうか。
同じような星が見えるほど、空気は冷えて透明だろうか。
手を繋いであぜ道を歩いたあの日と同じ空が、あの地でも見れるのだろうか。
(…………遠いもんだな)
同じ空の下にいる筈なのに。
此処から見上げる星は、あそこで見た星と同じ距離だと思うのだけど。
指差し星を数える妹の手は、そのまま星を掴みそうだった。
畑仕事の帰り、父が一緒の時は肩車されて、左之助よりも高い場所で星に手を伸ばしていた。
今よりもっと右喜が小さい時、まだ物心がついて間もない頃。
空でキレイに光る星が欲しいと言われて、じゃあいつか取って来てやるなんて言った気がする。
……あの時は、本当にいつか星に手が届くような気がしていた。
そうして、いつか星を手に掴むことが出来たら。
金平糖みたいなその粒を、妹にあげられるものだと。
――――――だけれど今、此処から見える星は、あの日の記憶よりも随分遠くにあって。
いつか取ってやると約束した小さな妹は、随分遠くにいて、自分は遠くに来てしまって。
「届かねェな―――――――………」
小さな村を飛び出して。
尊敬する人の傍らで、沢山のものを見た。
そうして、夢と現実を知って。
夢と言う星を掴もうとしても、泣きたくなる程その実現は遠いものであると知って。
知る度、空に手は届かないのだと、あの日の約束が遠退く気がして。
手を伸ばしてみる。
届く訳もない空に。
小さな手よりも小さな星の粒は、こんな手の中になんて収まってくれない。
それでもいつか、届くのだろうか。
夢が現実になる日が来るように、いつか届く日が来るだろうか。
果てのない空の向こう、光る星を捕まえて、約束を果たせる日が。
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現代パロとか色々考えましたが、家族ネタに落ち着きました。
……書き出してから方向決まった感もあります。
たまには家族の事を考える日もあったんじゃないかなぁと。
「ん?」
後ろを歩いていた弥彦の声に、前を歩く左之助が立ち止まって振り返る。
弥彦はじっと左之助を見ていた。
目は左之助の顔に向かっていて、だから当然、左之助が振り返れば視線がかち合う事になる。
「なんでェ?」
「いや……?」
無遠慮に見つめられての左之助の問いは、無理もないもの。
しかし弥彦は首を傾げて、不思議そうにするばかりで、一向に問いに答えようとしない。
訳の判らない奴だと、左之助はくるりと背中を向けて、また歩き出す。
その背中を、また弥彦の目が追い駆けた。
背中にじりじりとした視線は感じられたものの、左之助はそれ以上気にしない事にして歩を進める。
「ったく、嬢ちゃんも人使いが荒いぜ」
「白味噌と赤味噌と醤油だよな」
「一気に買う必要あんのか? 大体、二月前に剣心が買ってたんじゃねェのかよ」
「買ったぜ。オレも一緒だった」
もう使い切ったのか? と言う左之助に、さぁ…と弥彦は言葉を濁すばかりだ。
だが確かに、味噌や醤油、薬味の減りが最近早い。
その原因は、神谷道場の家事一切を引き受けている緋村剣心ではなく、現道場主である神谷薫にある。
料理の下手さに定評のある薫であるが、恵に揶揄われて一念発起を起こしたらしい。
剣心に教わることなく、台所で悪戦苦闘しているのを弥彦はよく目撃している。
成績はあまり芳しくない様子であったが、頑張っているのを邪魔する気にはならないので、(生来の口の悪さのお陰で時々揶揄う事はあるが)彼女の気が済むまでやりたいだけやれば良いと思う。
ただ、出来上がった料理の味見をさせられる事にだけは、逃亡と言う手段を取らせて頂くが。
「でもいいじゃねェか、買出しぐらい。左之助はいつもタダ飯食ってんだからよ」
「へーいへい」
有り余っている体力と腕力の使い所は、こんな所にある。
また、左之助も別に薫に言われての買出しを厭うている訳ではあるまい。
なんだかんだと言って、こうして彼女希望の諸々をきちんと買い揃えて戻るのだから。
夏の日差しが、広い背中を照らす。
その背中で、見慣れた一文字が誇らしげに佇んでいた。
弥彦は、なんとなくその背中の一文字を見つめて歩いた。
一番最初に見付けた時には、はっきりきっぱり、妙な野郎もいるもんだと思ったものである。
今となっては、すっかり見慣れた背中になったけれど。
――――――その背中に、時々、
(……気の所為か?)
傍の川の水面で反射した陽光の一閃が、弥彦の瞳を一瞬射抜いた。
網膜が痛いと叫んだので、手の甲でごしごし擦る。
そうして離した、そのほんの僅かな一瞬に、
(誰かいる、訳ねェよな)
時には後ろに。
時には隣に。
ほんの少し離れた位置に。
誰かが見守るように寄り添っているように、見える気がするのだけど。
「おいコラ、置いてくぞ」
振り返って響いた声に、一度瞬きしてみれば。
其処には見慣れた顔があるだけで、やっぱり気の所為だよなぁと思う。
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[アマデウス : 神に愛される]……なんですけども。
左之助って、神も仏も頼りそうにないなぁι
色々悩んだ結果、左之助にとってある種の神と言ったら、やっぱり隊長かなーと行き着きまして。
幽霊になってまで左之助の前に現れた隊長とか、色々妄想が(笑)。
其処からこんなの出ました(また雰囲気モノ!)
拍手に弥彦初登場。
子供の方が霊感あるって言うよね。