例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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05 君が世界で一番











………蹴られて目が覚めた。






思わぬ衝撃に安眠を妨害された事に少々の気だるさを覚えつつ。
起き上がってから、もう一発喰らって、龍麻はなんなんだろうと隣を見た。

見てから、其処に眠る人物に一度驚いて、ああそうかと漸く思い出す。



ぽっかり口を開けて、其処に寝ていたのは、蓬莱寺京一。
親友で、相棒で、恋人の。





思いを遂げてから、龍麻が何もしなかったと言う事もあって、二人の間は恋人同士でありながら微妙なものだった。
気持ちが通じているのだから、それだけでも幸せだと思っていたし、同時に物足りないような気分もあった。
そのどちらもが龍麻の本音であったから、京一がどう思っているのか掴めなくて、所謂最後の一線を越えないままだった。

それが昨日、遂にその一線を越えた。


切っ掛けはなんとも色気のない、京一の「何もしねェのか?」と言う質問からだ。

その一言に、龍麻は表情にこそ出なかったが、内心かなり驚いていた。
男同士である事を龍麻は気にした事がないし、故に一線を越す事そのものに疑問や躊躇はなかったけれど、
京一は、スキンシップこそよくしてくるものの、それと恋人同士が交わす契りとは別物であっただろうと思う。
最初のキスだって、あれは龍麻が避ける隙を与えなかったから出来た訳で、そうでなければ気持ち悪いと言うに決まっている。

そんな彼の方から、「しねェのか?」と言われたのだ。
龍麻だって驚く。


していいの、と問えば、京一はしばらく固まった後、しどろもどろになったが、最終的には「……まぁ、一応」と言った。



後は、世の中の普通の男女の恋人達と同じ流れだったと言っていい。
夕飯を片付けて、少しの間テレビを見て(その間、京一は若干ぎこちなかった)、風呂に入って。
電気を消して、一つしかない蒲団の上で――――――







(………しばらくプロレスみたいだったけど)






言ったのは京一であったし、彼自身の良いとは言ったが、なんと言うか、往生際が悪かった。
男が男に抱かれると言うのだから、ネコ役になってしまった彼の葛藤が半端ないものであるとは判ったが。

ちょっと待てとか、やっぱナシとか、今度にしようぜとか。
逃げ腰になる京一を捕まえて、蒲団に倒して、久しぶりにキスをした。
少しの間京一は暴れたが、その内観念したのか大人しくなり。






(……可愛かった)






思い出して、龍麻は自分の口元の締りがない事に気付く。



どちらも健全な高校生男子。
快楽に流されてしまえば後は躯の方が正直で、性急に事は進んで行った。

熱を解放して、体力を使い果たして、二人蒲団の上で重なり合ったまま寝転んで。
何某か話をしたような気がするけれど、内容はもう覚えていない。
そんなものよりも、龍麻の胸の内は充足感で一杯だった。


一緒にいるだけでも十分幸せだと思っていたけれど、こうなってしまうと、やはり少し変わったような気がした。




好きで、好きで。
好きで仕方が無くって。

親友である事は変わらないし、相棒である事も変わらない。
一緒に背負うと言ってくれた事も忘れないし、変わらない。
互いの立ち位置もスタンスも、きっと変わらないだろう。


葵も小蒔も醍醐も遠野も、皆、皆。
勿論―――――両親だって好きで。


だけれど。






友愛も、親愛も、恋心も、全部ひっくるめて。










「京一、朝だよ」

「………あ……?」












世界で一番、君が好き。


落としたキスに、真っ赤になった顔も好き。















ラストなのでラブラブ~v

恋人同士になったからって、変に意識しあわない二人が好きです。
……だからいつも色気ないんだね、うちの龍京って(にょたも…)。

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04 微妙な一線












既に何度か泊まった事のある、緋勇龍麻の家。

一人暮らしの苦学生によく似合う、少し古い、なんだか懐古感さえ感じてしまうアパートの二階。
畳張りで、壁紙一枚剥いでみれば土壁がモロに見えて、小さなベランダは寄りかかればほんの少し軋む音。
築何年なのか、電話線も引いていない部屋の隅で、京一はどうすりゃいいんだと考え込んでいた。



龍麻の家には過去に何度か来た事があるし、泊まった事だってある。
この部屋で(高校生の分際であるが)酒を飲み交わした事もあるし、雑談をすれば、猥談だってした。

が、親友から恋人になってから、此処に来たのはこれが始めてであった。


だからと言って何が変った訳でもない。
ないが、やはり何か違うのだろうと、感覚的には思っているつもりだ。
その辺りの感情を、京一は一切態度に見せたことは無いけれど。




普通の男女の恋仲なら、此処で何某かの進展なりトラブルなり起きるものだろうか。
生憎、京一は自身に恋愛の経験もなければ、興味も無いのでよく判らない。


しかし、しかしだ。
恋人の家に泊まって置きながら、何もありませんでしたなんて事も流石にないだろうと思う。
俗な話、彼氏の家にお泊りした娘が一晩の内にオトナになると言うのが一般的な見解ではなかろうか。
勿論、プラトニックなお付き合いというのもあるのだろうけれども。

そして此処でまた、しかし、である。
一応自分と龍麻は恋人同士であるが、男男のカップルであり、この時点で既に世間一般の恋人同士の付き合い方とは多いに違いが生じている。
プラトニックなお付き合いと言う柄でもないが、かと言って男同士でナニすんの? どうやって? と言う気分であった。







(……あいつもそんな感じしねェしな)







人一人が立つのが一杯と言う、一人暮らしの苦学生によく似合うキッチン。
其処に立って、夕飯になるのだろうコンビニ弁当を温めている人物を見遣って思う。



最初の告白の時にキスをして以来、龍麻は何もして来ない。
して来られても正直困るのだが、何もないと言うのも、不気味と言うか奇妙と言うか、とにかく変な気分だ。

スキンシップは多少増えたような気もするが、それも男同士のじゃれ合いのようなもの。
京一が龍麻に対して行っていたように、肩を叩いたり組んだり、そんな程度。
何某かの気配がするかと言ったら、全く、否であった。


此方の様子を窺っているのだろうか、そうとも取れる。
現状で満足しているのだろうか、そうとも取れる。
ひょっとしてどうして良いのか判らないのだろうか、そうとも取れる。

どれも可能性があると思ってしまうのは、龍麻の考えを未だ掴みあぐねているからだ。
複雑であり、あちこちにショートカットを持つ龍麻の脳内は、把握するのに非常に時間を要するのである。





相手が考えている事は、やっぱりよく判らない。

それなら、自分はどうだろう。








(……オレが龍麻とどうなりてェって?)







……それこそ、判る訳がなかった。


第一、まだ若干ではあるが、混乱は残っていたのだ。
告白された時から続く混乱が。

好きだといわれて拒否はしなかったし、キスは驚いたが嫌だとは思わなかった。
けれども、例えばもう一度して欲しいだとか、二度とするなとか、そのどちらも考えた事はない。
して来ない事を不思議には思ったが、してくれと思う訳でなし。





でも、恋人の家に招かれると言うことは、やっぱり俗な展開を期待されているのだろうか。
























背中から視線を感じながら、どうしたものかと考える。
温め終わったコンビニ弁当のラップを剥がして、箸を取り出すまでの作業を、殊更ゆっくりと行いながら。



恋仲になってから、京一がこの部屋に泊まりに来るのは始めての事だ。
もともと大した頻度ではなかったが、なんだか改まった気分になってしまうのは何故だろうか。

親友であった頃から、想いを寄せる前から何度も京一は此処に来ていたのに。
繋ぐ名が変わっても、日常では何も変わる所などないのに、どうしてこんな時にだけ意識してしまうのだろう。
別に、何をしている訳でもないのに。


家に誘った時にも、京一はいつもの態度で、寝床が見付かったと言う雰囲気だった。
別に此処で、何某か変わったリアクションを期待したつもりはない。
ただ、あれから一晩一緒にいた事はなかったなと思い、折角だからと誘ってみただけの事だ。

そして家に並んで帰って、京一が鞄と木刀を畳に転がしてから、そう言えば二人切りなんだと今更のように思った。

二人だけで時間を過ごす事は、それこそ今更のように多かったのだが、自覚すると妙な気分になった。
恋仲の相手が、一人暮らしの男の家に泊まりに来る―――――男女のカップルなら何かが起こりそうな予感はする。








(でも、京一だし)







何かが起こるんじゃないか、なんて、逆に何が起きるのだと問い返したい。


例えば、顔を合わせて照れ臭そうにしたり。
目があったら紅くなって逸らしたり。
抱き締めて愛を囁いたり。

そのまま、褥を共にしたり――――







(……出来るんなら、したい、かも知れない、けど)







箸を持ってくるりと踵を返すと、丸テーブルに頬杖をした京一がいた。
今日の夕飯となったコンビニ弁当を箸と一緒に手渡すと、無言で受け取られた。



こうしているだけで幸せだと思う事も確かで。
でも、これで満足かと言われると、正直、曖昧でよく判らなかった。

だって幸せだと思うのは事実であって、ならばそれで良いじゃないかと思わないでもないのだ。
こうして顔を突き合わせたら、下らない話をして、時に命を張って、背中を合わせて。
自分の想いを、あの時京一が受け止めてくれたのだと言う事実があって、これが幸せなんだと。
……だったら、わざわざその先にある事を臨まなくたって良いんじゃないかと。


―――――思う一方で、もっともっと、と欲張っている自分もいる。




彼が嫌がる事はしたくない。
このままでも幸せだと思う。

だけど、もっともっと欲しがっている。






彼は自分を、何処まで赦してくれるのか、まだ少しだけ不安だった。















「おい、龍麻」


「何?」


「………お前、オレになんもする気ねェの?」




「え? していいの?」





「……………え?」


















長くなったぁああ!!(いつもの事だろが(爆))

この京一は、ひょっとしたら墓穴掘ったかも知れません。
いえ、ラブラブなんで良い事ですけどね。

03 君といたいだけなのに












「あのさ、京一」

「あん?」

「お、京一。少しいいか?」

「………醍醐君…」

「ん? ……何か不味かったか…?」








「ねぇ、京一」

「なんだよ」

「あーッ! 京一、お前また掃除サボっただろ!」

「げッ、小蒔!!」

「逃げるな!」

「………」









「龍麻、」

「あら、緋勇君と京一君。あのね、この間生徒会で出た議題で相談があるんだけど」

「…………」

「…私、何かいけなかった?」

「……別に」









「京一、」

「京一、見て見て! 来週の記事、マリア先生特集よー!!」

「お、ちょっと見せろ」

「………」








「おい、龍麻、」

「蓬莱寺、補習だ。逃げるなよ」

「………わぁってんよ」








「龍麻、話が」

「緋勇君、ちょっといいかしら? アタシの今日の授業、また寝てたわね?」

「……ごめんなさい」









「京一、あのさ」

「アニキィィィ!!」

「おう、なんだ」

「………」


















一緒にいたいだけなのに。

なんでこんなに上手くいかない?





















呼び出されたり、追い駆けられたり、割り込まれたり、掻っ攫われたり。

恋人だからと特別に優先するほどにはなれない、友達以上の(気持ちが)恋人未満。
でも一緒にいたい。


02 すれ違う想い












恋人同士になったからって、何が変わる訳でもない。










放課後に集まるメンバーは、既に見慣れたものだった。
龍麻を中心に、京一、葵、醍醐、小蒔、時に其処に遠野も加わる。

鬼との闘いも、近頃は五人揃ってのものが増えてきた。
京一が勝手な行動(無論、当人にとっては理に基くのだが、周りにそれを言わないから勝手も同然だ)も減ってきた。
何かと衝突が起きていたメンバー達だったが、そろそろ、各自の折り合いというものが着いて来た。


そんな調子で半年も過ごした頃になって、急に“親友”が“恋人”に変わったからと言って、今更付き合い方は変えられない。


変えられないし、京一は変える気もなかったのだ。
変えるとしても、何処をどう変えれば良いのかも判らない。

一日の内に初めて顔を合わせた時、声をかける時、隣に並ぶ時、一緒にサボる時。
鬼との闘いに赴く時、鼓動さえシンクロしたように同調した時、互いの無事をその眼で確認した時。
―――――既に何度となく繰り返してきた動作を、今更どう変えろと?





変えようがないだろう。

少なくとも、京一にとってはそうだった。
















今日は吾妻橋達と一緒に夜の街に繰り出す予定だった。
それは龍麻にも話してあったし、見たい映画があったから、放課後は一緒に過ごせない事も告げていた。

だと言うのに、別れ際に見た龍麻の顔。






(………言いたい事があんなら、さっさと言えってんだ)






老舗の映画館の真ん中を陣取って、スクリーンを見上げながら思う。
頭の中を巡るのは、別れ際の親友の表情ばかりで、一つもストーリーに集中出来ない。
折角、前々から楽しみにしていた映画だったというのに、これでは台無しだ。




――――――判っている、なんとなく予想はついている。
多分、今の京一の態度が、龍麻にとっては腑に落ちないのだ。

恋人同士になったからと言って、何が変わった訳でもない。
龍麻とて何も劇的な変化を期待しているのではないだろうけれど、京一は余りにも変化がなさ過ぎた。
スキンシップもいつも通り、声をかける時も、鬼と闘っている時も、その後もいつも通りで。



でも、それならそれで、京一にも言い分はある。



あの日、人気のない帰り道、歩道橋の直ぐ傍で。
「好きだよ」と告げて、「愛してるよ」と告げた、親友。
そして唇を塞がれた。

嫌ではなかったのは事実で、コイツなら悪くはないかもな、とも思った。
男同士で、変な話だとは思うけれど、本当にそうだったのだから仕方がない。


あれから“恋人”同士になった――――……一応は。
でも、それきりなのだ。







(……何も言わねェ、何もしねェ。なんなんだよ)







別れ際、何か言いたそうな顔をして。
でも結局、彼は「また明日ね」と言っただけ。



そう、あれっきり。
触れてきたのは、あの時限り。








(好きだったんじゃ、ねェのかよ)








龍麻がいつから自分の事が好きだったのか、京一にはよく判らない。
判らないけれど、別にいつからでも構わなかった。

男相手に面と向かって好きだといって、キスまでしてきた。
そんな行動に出てしまう位には、龍麻は自分の事が好きだったのではないのか。



―――――なのに、あれからノーアクションとはどういう事だ。









(ワケ判んねェ)








映画はもう終盤にさしかかっている。
前半の話がどういうものだったのか、ちっとも頭に残っていない。

映画の主人公が、イイ事を言っている。
でも、頭に入らない。
カラッポの、決められた台詞だとしか、思えない。




頭の中を巡るのは、あの時触れた、一瞬の熱と。
別れ際に見た、親友の顔。











嫌だとは思わなかった、嫌いとは思わない。
でも、感情は持て余したままで。

この感情は、「愛してる」と言った彼と、正しく同じベクトルを向いているのだろうか。















戸惑ったままで“親友”が“恋人”になって、それは嫌じゃないんだけど、
だからって何をどうすれば良いのか判らなくて、すっかり受身になってる京一。
龍麻が何も行動してこないので、余計にぐるぐる。

……この龍麻、ヘタってる……?

01 最高の相性










親友。

相棒。



そういう言葉が、一番しっくり来る。











言葉を告げた時、月並みな台詞に弱いらしい親友は、顔を赤くして「そうかよ」と言った。
ああ意味を判ってくれてないなと(予想はしていたけれど)思ったから、次は「愛してるよ」と言った。
親友はきょとんとした後、露骨に顔を顰めて、「なんの冗談だ、そりゃあ」と言って背を向けた。

そのまま見送っても良かったのだけれど、それでは今までの日々と変わらないから、追いかけて捉まえた。

「本当に愛してるんだよ」と正面から言ったら、ようやく理解してくれたらしい。
この言葉が冗談でもなければ、語弊でもなく、心の底からの言葉だと言う事を。


関係が壊れてしまうことは覚悟の上で、気持ち悪いと言われてしまうのも覚悟の上で。
龍麻は龍麻なりに、断腸の思いで京一にその言葉を告げたのだ。


京一は唖然とした表情で龍麻を見つめ、「……マジで?」と言った。
視線を逸らさずに頷いて、証拠を求められる前に、見せた。
いや、して見せた。
ぽかんと半開きになった唇にキスを。



唇を離した後、しばらく呆然としていた京一は、我に返ってから拒絶をしなかった。
真っ赤になって龍麻の頭を木刀で思い切り殴った後、脱兎の如く駆け出して、近くにあった歩道橋に昇っていった。

そして自分達以外、誰もいない、車の音だけが止まない歩道橋の上から、言ってくれた。





嫌いじゃねえよ、と。





感謝の気持ちだとか、好意だとかを素直に表せない性格だ。
それでも嫌いなものは嫌いだと、不満は不満ときっぱり告げて斬り捨てる、残酷さに似た優しさを持っている。

彼は、それをしなかった。
受け止めてくれたとも言い難いけれど、斬り捨てる事はしなかった。
あの時、真っ赤になっていたのも含めて、脈アリと見ても良いだろう。







だけど。














咆哮をあげて襲い掛かってくる鬼に、龍麻は怯む事無く踏み込んだ。
そのまま、鬼に向かって突進する。

正面から向かって来る無謀な人間を狙って、鬼が両腕の鎌を振り上げた。
しかしそれは下ろされる事無く、上腕部から切り離され、鮮血を散らして宙に舞う。
切断面は綺麗なものだった。


腕の痛みに絶叫を上げた鬼の腹部に、龍麻は正拳を打った。
餌付き、屈んだ鬼をそのまま力任せに上空へ打ち上げ、追って跳躍する。

鬼を挟んだ反対側で、剣線が閃いた。




再生能力を持った鬼。
それでも心の臓を砕かれれば、頭部が飛べば死に至る。



寸分狂わぬタイミングで、龍麻の拳が鬼の心臓を貫き、京一の木刀が鬼の頭部を切り取った。





鬼が消滅する。
京一は木刀を肩に担いで、フンと鬼のいた場所を一瞥する。






「図体デカかった割には、大した事なかったな」






懐に仕舞っていた太刀袋を取り出して、それに木刀を納める。
龍麻も体の埃を軽く払うと、右手の手甲を外した。


くるりと踵を返して、他のメンバーとの合流に向かう。
その体には傷一つなく、それは龍麻も同じ事。

庇い合う程に依存しあう関係ではなく、守りあう程に互いを信頼していない訳でもなく。
傷の一つ二つを負った所で、声をかける事はあっても、助けに行くほど柔ではない。







「まぁ、俺達にかかりゃ、あんなの雑魚だな」







背中を預けた関係は、守りあうものではなく、突き進む為に。

肩越しに振り返って笑う親友に、微笑み返す。
満足そうな京一に、龍麻もまた嬉しくなって。





だけど。

だけど。











親友。
相棒。

その存在は、とてもとても大切だけど。






“恋人”と言うには、なんだか程遠い気がして、溜め息が漏れた。















ずっと親友のスタンスだったから、急にスイッチの切り替えは無理ですよ。
全くいつも通りの京一と、やきもき龍麻。