例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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05 居眠りぐーぐー








どの学校、どの学年、どのクラスにも、一人はいるものではないだろうか。
授業中によく寝る生徒と言うものは。

真神学園3-Bでは、緋勇龍麻がその筆頭であった。



今日も今日とて、緋勇龍麻はよく寝ている。
マリアの指示で、居眠り防止の為に教卓の目の前の席に移動させられたのに、全く意味を成していない。
ついでにノートの落書きも相変わらずであると、京一は予想した。


すぅすぅと肩を揺らして寝ている龍麻。
黒板に向かっていたマリアも、その気配にはとうに気付いていたのだろう。
今まで何も言わなかったのは、自分で起きてくれる事を願ってのものか。

しかしついに見過ごせなくなったのか、くるりとマリアが振り返る。
いつものように教科書片手に、マリアが龍麻の前に立つ。






「緋勇君」






呼びかけても、龍麻は動かない。
その程度で彼が起きない事は皆承知している。







「緋勇龍麻君」







まだまだ起きない。
呼びかけ程度で起きる訳がないのだ。

しかし、目を覚まさなければ、丸めた教科書が落ちてくるのは必至。


マリアの限界ギリギリで龍麻が起きる確立は、凡そ三割。
さて本日はどうなるか。







「………緋勇龍麻君」







マリアの語尾が強くなって来た。



京一の隣に座っていた小蒔が、京一の肩をつついた。
視線だけを向けてみると、折り畳んだ小さな手紙。
開けば、龍麻が起きるか起きないかと言う賭けが始まっていた。

今日は起きる方に賭けた生徒の方が多く、ずらりと名前が書いてある。
京一は昨日の龍麻の様子を思い出しつつ、名前を書いて、小蒔とは反対隣の生徒にそれを回す。


欠伸をかみ殺しつつ前を見れば、マリアがそろそろ腕を上げて来た頃だった。
その手には、丸められた教科書。








「授業中よ、緋勇龍麻君」







最後通告の声だ。

教室内が静まり返り、各自動向を見守る。
京一は既に結果が予想できていた。










ぱこん!



「………いたい」










よし、勝った。



―――――――穏やかな午後の授業中の話である。
















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このお題はやっぱり龍麻でしょう。よく寝る子。
アニメ一話で居眠り龍麻とマリアのやり取りを皆楽しんでた節があったので、書いてみました。

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04 ノートの端にラクガキ








龍麻は、サボらずに、起きてさえいれば授業中は至って真面目に見える。
じっとノートに向かい合って、忙しなくシャーペンを走らせる。
通常授業の時も、補習の時も、普段とあまり変わらない表情で。


所がどっこい。
真面目にノートを取っているのかと思ったら、やっているのは落書きである。

黒板に書かれた事は写しているのだろうが、それも時々途中止めになっていて、落書きに没頭する。
そんなだから、転入試験の時にはトップクラスだった成績が、補習組になってしまうのだとマリアは嘆いていた。
しかし、龍麻はそんな事は知ったこっちゃない風で、授業中は好きに過ごしている。






クラスメイト数名を伝って廻されてきた手紙。
京一はそれを受け取って、あーメンドくせと思いつつ開く。

開いて、溜息が漏れた。







(………どうしろってんだ、これ……)







其処に書いてあったのは、随分と見慣れてしまった落書き。
手裏剣を手に持ち、覆面を被った頭でっかちの忍者。


クラスメイトの女子の真似事をして、授業中に手紙を廻すようになって数週間。
根気良く付き合ってやっているが、未だにこれには対処に困る。

一回目、ヘタクソ、と書いて返事をしたら、その日一日、少々機嫌が悪かった。
二回目、取り敢えず学習して上手くなったんじゃねえのと返事をしたら、その時間中に5回程同じ絵が回ってきた。
三回目、無視して話を切り替えて返事をしたら、訴えるように手紙が返って来る度に同じ絵が落書きされていた。

落書きに関しては、とにかく何かリアクションが欲しいようで、無視しているといつまで経っても止めない。
あいつのノートの端は相当デコボコになってんじゃないかと京一は思う。
若しくは、手紙専用(破り専用)のノートを持って来ているのか。



京一も手元のノートの端を破って、返事を考える。
授業なんて耳に入らない。






(いつも同じ絵だな)






細部は変わっているが、全体的にはほぼ同じ構図、同じ描き方だ。
京一は美術の授業なんて殆ど受けていないが、印象的にそうインプットされていた。
手紙に描かれる事のないノートの落書きも、そうであったように思う。

他の絵描けねえのか、と描いた紙を折り畳み、前に座る生徒に渡す。



机に突っ伏そうとして、京一は思い出す。
今教卓に立っているのが、天敵・犬神杜人であると言う事を。

格好だけでも授業を受けている体でもしていなければ、後でまた嫌味を食らう羽目になる。
それならサボってしまえば良かったじゃないかとお思いの方もいるだろう。
しかし、単位ひいては卒業がヤバいとなったら、流石に逃げる訳には行かなかった。


とは言え、今更嫌いな授業で気持ちにハリが出る訳もなく。
京一は指先でくるくるシャーペンを遊ばせた後、開いたノートの隅でそれを無作為に動かした。






(………腹減ったな)






時刻は、4時間目。
あと少しで昼食、今日はラーメンの出前を注文してある。

そう思っていたら、ノートの端にはラーメンが。


注文したのはラーメンだけだが、育ち盛りの胃袋は元気だ。
ラーメンの事を考えていたら、餃子も食べたくなった。







(あと、チャーハンだろ。ああ、鴨南蛮食いてェな…それから……)






ぐるぐる、ぐりぐり。

黒板の内容など一つも写していないのに、不思議とシャーペンは動いている。
…描いているのは、授業には全く無意味な落書きばかりで。




ぱこん。
くすくすくす。

聞こえた音と笑い声に顔を上げると、龍麻が犬神に見下ろされている。







「緋勇……遊ぶのは構わんが、人の話は聞いていろよ」
「はい」






返事を聞いて、それだけで犬神からの注意は終わり。
犬神はまた教卓へと戻っていった。

その途中、








「お前も同じだぞ、蓬莱寺。腹は減ってるだろうが、話は最低限聞いていろ」








次に赤点を取って補習になるのはお前だぞ。

きっちり付け足された台詞に、京一は思い切り顔を顰めた。
落書きも多分見られただろう(どんな視力してやがんだと思ったのは言うまでもない)。




やっぱりアイツは嫌いだ。










早くこんな授業終わらねえかと、ノート端の落書きを眺めながら思った。














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よく考えたら、初めて犬神先生喋らせたような。
難しいな、この人……

京一(+龍麻)+犬神=補習の方程式が定着してます、私の中で。

03 あ、校庭に…








校庭に犬が迷い込んできた。
それだけで、体育の授業はしっちゃかめっちゃかになった。



赤い首輪をした犬は、仔犬ではなかったが、成犬と言うには少々落ち着きがなかった。
グラウンドでバスケットボールに興じていた男子集団に突入すると、体操服を引っ張るわ、集団の隙間を走り抜けるわ。
これでもかと言う程に尻尾を振って、楽しそうに走り回った。

踏みつけたり蹴飛ばしたりしては可哀想で、もう試合どころじゃない。
コート用に引いた線もすっかり消えて、男子生徒は犬に追い掛け回されて大変な目にあっていた。


体育館で授業をしていた女子が、校庭の喧騒に気付いて外に出てきた時には、もう燦々たる有様。


犬は噛み付く事はなかったが、一度ターゲットを絞ると、ロックオンされた相手は大変だった。
追い駆ける、飛びつく、じゃれ付く……体操服のズボンを引っ張られて、パンツ丸出しになった奴もいる。
犬が苦手な生徒等は近付けたものじゃないが、犬の方はそんな事はお構いなしだ。
目が合って、気になった人物にはとにかく突進し、気が済むまでじゃれついている。

追い掛け回された者は漏れなく転び、飛びつかれじゃれつかれた者は漏れなく服を引っ張られ。
体育教師は静かにしろと怒鳴ったが、出来る訳もなければ、生徒達はまるで聞こえちゃいなかった。




現在、犬がターゲットにしたのは、目立つアフロ頭の男子生徒。
目線は真っ直ぐアフロ頭に向けて、犬は一目散にそれを目指した。


―――――その様子を、龍麻と京一、醍醐の三人は、体育館の軒下に避難して眺めていた。







「可愛いねー、ワンちゃん」






笑ってそう言ったのは、小蒔だった。
聞き留めた京一の眉がピクリと上がる。






「あのな。こっちゃ散々だったんだよ」
「京一、凄く追い駆けられてたよね」






アフロ頭の男子生徒は、必死になって走っている。
ついさっきまで、京一がそのポジションだった。

走れば追い駆けてくるのは判っているが、追い駆けられれば逃げてしまうのが性と言うもの。
立ち止まっても、服を引っ張られたり、ズボンを擦り下ろされたりされてしまうから、止まる訳には行かない。
犬が興奮している所為もあって、正面から突進を受け止めて宥める、と言う選択は非常に困難であった。


女子は体育館の軒下で眺めているだけなので、追い掛け回される男子の苦労は判らない。
寧ろ可愛い犬だからいいじゃない、と言い出す者がいる程だ。




でも、授業は潰れたのでラッキーだ。
こっそり思う京一である。






「何処の飼い犬なのかしら……」
「さぁな」
「捕まえれば、判るんじゃないか?」
「そっか。名札とかあるかも」
「……じゃ醍醐、行け」
「なんで俺が!」
「お前が言い出したんだろ。オレはもう御免だ」






ぎゃああ、と言う悲鳴が校庭の真ん中で響く。
見れば、ついに追いつかれたアフロ頭が、犬にズボンを銜えられてぐいぐいと引っ張られていた。

はっきり言って、あの目には遭いたくない。
既に何人かズボンを引き摺り下ろされ、情けない姿を観衆の皆様方に疲労する羽目になったのだ。
増して醍醐は、好きな人が此処にいるという事もあって――――あれだけは絶対に嫌だった。



その時。
アフロ頭の生徒のズボンを奪取して、満足げに尻尾を振っていた犬が此方を見た。










「あ、こっちに来た」









ぽつりと呟いた龍麻の声は、隣に立つ京一に辛うじて聞こえた程度。

何が、と京一が問うよりも早く。
集団に突っ込んできた犬は、やっぱり嬉しそうだった。













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わんこが学校に入ってくると、何故か授業どころじゃなくなる。

昔、全校集会の真っ最中に体育館のステージの幔幕裏から犬がひょっこり出てきた時は驚いた。
構造上、先生達のいる場所を通らないと上がれない筈なのに、誰も騒いでなかったから…
何処からどうやって入って其処に行き着くんだ。


アフロ田ホントに好きな、自分(可哀想な事になってるけど)。


02 手紙を回す









手紙が回されてきた。
数人のクラスメイトを伝いに、相棒から。

面倒くさいことをするもんだと思いつつ、京一はそれに付き合った。







発端は、クラスの女子が授業中に手紙を回し合っていたのを龍麻が見つけた事から。


最近の女子高生ならよく見る風景であったから、京一は気にした事がなかったが、不思議に龍麻の琴線には触れたらしい。
やってみたいと言い出す龍麻に思わず顔が崩れ、何阿呆な事を、と言い掛けて、止めた。
言った本人は、至って真面目そうな顔をしていたからだ。

適当にクラスメイトに頼めば、メンバーに加えてくれるんじゃないかと言ったら、それは嫌だと言い出した。
相手がいなきゃ手紙の遣り取りなんて出来ないだろうと言えば、じゃあ京一が相手をして、と来た。
また顔が崩れた。


授業中のヒソヒソ話とは言え、言いたい事があるなら口で言えば早いだろう、と言うのが京一の考え。
わざわざクラスメイト数人を間に挟んでまで、手紙を遣り取りする必要が何処にあるのか。

そもそも、何故か判らないが、龍麻とは一々言葉を交わさなくてもなんとなく意志が通じてしまうのだ。
仲介人を交える意味が判らない。


面倒臭いし、女々しいしで、冗談じゃないと言ったら、途端に龍麻はしょんぼりしてしまった。
何故其処まで凹むんだと思った――――思ったが、結局京一の方が負けた。

負けた途端にケロリと笑顔になったので、あれは演技だったんじゃないかと最近思うようになった。






回されて来る手紙の内容は、シンプルで――――且つ、よく判らない。


大抵は「お昼、何処で食べる?」とか、「放課後ラーメン食べよう」とか。
そんな他愛もないもので、後で話せば良い事だろうと思いつつ、律儀に付き合って返事を書いて回してもらう。
大体一言ポッキリで終わる、返事を書くから京一にしては付き合いが良い方だ。

が、時々、返事に困ると言うか、返事のしようがない事がある。
ノートの端を千切って、落書きだけを描いて寄越して来るのだ。




今日は、普通の手紙だった。
短い一文、「今日のお昼どうする?」と言うもの。






(ラーメン)





この授業が終わったら、出前の注文の電話をするつもりだった。


単語一つを書いて、前に座っている男子生徒の肩を突く。
振り返ったクラスメイトに手紙を渡して、京一は机に突っ伏す。

と、其処に隣に座っていた女子生徒に肩を突かれ、京一は仕方なく閉じかけていた眼を向ける。






(小蒔ちゃんから)





小声で告げられた名前に、眉を寄せる。
差し出されたのは、紙切れ――――手紙である。

受け取って開いてみれば、『放課後、ラーメン食べに行く人』とあり、その下に小蒔、葵、醍醐の名前。


昼飯はラーメンに決めた。
コニーのラーメンである。

美味いので、昼晩と続いても京一は気にしない。
ラーメンは大好物なので、寧ろ嬉しい。
以前は考えなかった、友人達と連れ立って行く事も、近頃は随分慣れて楽しいものになって来た。

空いているスペースに名前を書いて、前に座っている男子生徒の肩を叩く。






(龍麻ンとこ)






男子生徒はさっき回したんじゃないのか? と言う顔をしたが、受け取った。
程無くして、それは龍麻の元に回されたらしく、









「ハイ、そこッ」








運悪く英語教師にバレてチョークを投げつけられる親友を、知らない振りで机に突っ伏した。











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ちょっとだけ龍京気味。
そしてこっそり黒いかもしれない龍麻。

アニメのマリア先生のノリは結構好きです。

01 消しゴム投げる









こつん。


何かが頭に当たって、睡魔に落ちかけていた意識が浮上した。
浮上はしたが、丁度良いまどろみの中にあった頭はぼけていて、今のなんだろう、と頭を擦る。





こつん。


もう一度当たった。
また頭を触ってみるが、何もない。






ひゅん。


小さく小さく空気を切る音が聞こえて、飛んできた何かを頭の後ろでキャッチした。
なんだろうと確かめる為に眼前で手を開くと、其処には消しゴム。




振り返ってみると、クラスメイト二人を挟んで、後ろに座っていた親友がにやにやと笑っていた。
頬杖をついて楽しそうに此方を見る京一は、どうやらとっくの昔に授業に飽いていたらしい。

龍麻が此方を見ている事に気付いて、京一は窓の外を指差した。
何を言わんとしているのか、音にしなくても判る。



授業が終わるまで、まだ30分。
始まる前からこの授業に乗り気でなかった(乗り気の時の方が稀だ)京一には、拷問に似た時間だろう。


時計を見てから、教卓に立つ教師を見る。
黒板に英単語を書く担任教師は、此方に気付いた様子はない。

と、一番前に席を取っていた葵が振り返った。
目があって笑うと、葵も笑った。
それから、サボっちゃ駄目よ、と生徒会長らしく、口パク。





でも、無理。




5、4、3、

心の中でカウントする。
他の教師ならともかく、担任・マリア=アルカードは手強い。
予備動作に入るまでに気付かれたら、失敗。



2、1。










二人一緒にガタリと席を立つのと、マリアがチョーク片手に勢いよく振り返ったのは同時だった。











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“&”でも良いけど、気持ちは“×”です。
脱出成功か失敗かは、ご自由に想像して下さい(投げっ放し!)。