例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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05 夕暮れの帰り道









昼と夜の間。
一時の橙。

学校と家の間。
一時の道。








一人で歩いた、小学校の帰り道。
一人で歩いた、中学校の帰り道。

一人で歩いた、道場からの帰り道。


家に帰れば大好きな父が、母が、待っている。
ひーちゃんと優しい声が、眼差しが、待っている。

だから悲しくなんてなかった。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。
だけれど、悲しいなんて事はなかった。
これは本当。



ジャンケンをして、ランドセルを押し付けあって競争したり。
ちょっと寄り道をして、自分達だけの隠れ家に行ったり。
また寄り道をして、道の途中の小さな駄菓子屋さんに入ったり。

いつも遠くで見ていたそれに、いいなぁと思ってはいたけれど。
其処に入りたいと思う気持ちは、いつの間にか諦めになって消えて流れた。





ケンカなんてした事なかった。
する相手がいなかった。

ふざけあったりなんて覚えてない。
する相手がいなかった。


夕暮れの帰り道。
鞄を背負って、隣を手を繋いで通り過ぎていくクラスメイト達を見送った。

それから誰もいなくなった細い道を、一人で歩いて家に帰る。



夕暮れの田舎道。
一人で歩いた帰り道。

悲しくなんてなかった。






悲しくなんてなかった、けど。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。


だからほんの少しだけ、夕暮れの帰り道が嫌いだった。




























皆で歩く、高校からの帰り道。



家に帰れば誰もいない。
静かな空間だけがある。

だけれど、悲しくなんてなんてなかった。
寂しくだってなかった。
だって気持ちはそのまま此処にある。
明日に繋がる喜びがある。



ジャンケンをして負けて、6人分の鞄を持って、次の電信柱でまたジャンケン。
長い影が賑やかに動いて、子供のようなケンカが始まる。
ふとお腹空いたなぁと呟いたら、ラーメン食いに行くかと、暗黙に決まる寄り道先。

いつも遠くで見ていた賑やかさの中に、自分がいるのが少し不思議で。
諦めていたつもりの気持ちは、知らない間にまた芽を出して、当たり前にするする成長して行った。





時々ケンカもする。
直ぐに仲直りもする。

ふざけあう事もする。
冗談言い合うのが楽しいって、初めて知った。


夕暮れの帰り道。
分かれ道でそれぞれの家の方向へ別れて、それぞれ歩き出す。

帰る先がころころ変わる相棒は、今日はもう少しだけ一緒で。
繁華街のアーケードが見えてくると、彼は立ち止まる。
いつもの場所に行くようで、其処で挨拶一つ交わして別れた。




夕暮れの都心。
皆で歩く帰り道。

悲しくなんて、寂しくなんて、なかった。






悲しくなんてなかった。
寂しくなんて無かった。


だけど、物足りなくないと言ったら嘘になる。
明日はもう少しゆっくり歩こうか、そんな事も考える。




色々思うけど、一先ず帰りながら、今日一日を思い出そう。















「じゃ、また明日な」

















いつの間にか、嫌いから好きに変わった、夕暮れの帰り道。



――――――その言葉を胸に抱いて。


















うちのサイトにしては珍しく、龍麻単品になりました。
でもやっぱりちょっとだけ京一贔屓(笑)。

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04 放課後の教室














「やってられっかああァァッッッ!!!!」











隣席から響いた声は、聞きなれたものではあったが、ボリュームが最大だった。
流石に鼓膜にキンと響いて、龍麻はわんわんと余韻を残す耳を手で押さえ、隣に座る人物を見る。







「京一、煩い」
「るせェ!!!」







龍麻の歯に衣着せぬ物言いを、京一はこれまた大音量で掻き消した。
詰まれたプリントの束を盛大にバラ撒いて。

プリントの内容は言わずもがな、サボりにサボった結果の産物である。







「あンの野郎、ムカ付くぜ! 嫌がらせかっつーの!」
「……先生としての職務を全うしてるだけだと思うけど」






京一が言うあの野郎、とは、真神学園生物教師の犬神だ。

とかく犬神が苦手らしい京一は、他の?%E:317%#ニ以上に生物の?%E:317%#ニをサボっている。
京一の前に詰まれたプリントの束の内容の殆どは、その大嫌いな犬神製作の生物のプリントだ。
これを片付けなければ、京一は卒業が出来なくなる?%E:221%#ナ、教師としてはそれは宜しくあるまい。
故に、この仕打ちは当然の結果とも言えるのだが。


バラ巻かれたプリントは、?%E:606%#フ周りに散らばっている。
それも後で綺麗に片付けなければならない事を思うと、やる事が倍量になった気がする。







「あーくそッ! もう止めだ、止め!」
「やらないの?」
「やってられねーよ!」






足元に置いていた薄い鞄に、これも少ない筆記用具を突っ込んで、京一は立ち上がる。
そのまま、京一の足は迷うことなく、教室の出入り口へと向かった。


―――――――が。








「京一、卒業できなくなるよ」








その言葉に、ぴたりと京一の足が止まる。
既に扉にかかっていた手は、目の前のそれを開ける為に動く事は無かった。




勉強は嫌だ。
詰まれたプリントも嫌だ。
ついでに、これを置いて行った生物教師は大嫌いだ。

けれども、卒業したくないと言う?%E:221%#ナはない。
正直に言えば、したいし、その時は毎日顔を合わせている面々と同時が良い。


一人残って見送って、もう一年間、高校三年生をする気にはならない。
その一年間は、今続いている一年間よりも、きっと色褪せたものにしかならないと思うから。





くるりと返った踵。

憮然とした表情で、相棒は隣へと腰を下ろした。
片付けた筆記用具を取り出して、散らばった中で辛うじて?%E:606%#ノ引っ掛かっていた一枚を引っ張り寄せる。


それと同時に、教室の後方のドアがからから音を立てて開けられた。








「おーい、捗ってるー?」
「おい、落ちてるぞ。京一か?」
「京一しかいないでしょ。あーあー、こんな一杯散らばっちゃって」
「あとどれくらいかしら。判らないところあったら言ってね」








小蒔、醍醐、遠野、葵。
いつもの、鬼退治部のメンバー。


肩越しにそれを見遣って、京一はまた前を向くと、がしがしと頭を掻いた。
うんざりしたように溜息を漏らしながら、その雰囲気は何処までも柔らかい。

そんな相棒に、龍麻は小さく微笑んで。











「皆で一緒に、卒業しようね」














ほんの少し賑やかになった、放課後の教室。


それを楽しいと思えるのは、きっと学生だけの特権。

















外伝弐話の補習プリントの量、凄かったな……
どれだけサボれば、あんな紙の塔が出来るのか。


03 昼休みの屋上








グシャグシャとビニール袋を潰す音が聞こえて、相棒がごろりと寝転がる気配。
今日は天気がいいから、ぽかぽか陽気に包まれた屋上は昼寝には丁度良い。

昼食を終えて早々に寝る体勢に入った親友。
その京一を挟んで、龍麻の反対隣に座って輪になっているのは、墨田の四天王達だった。
先日京一と丁半賭博でしこたま作ってしまった負け分を取り戻そうとしているのか、必死で練習している。
……腕そのものの練習も必要だが、京一が時折イタズラに仕掛けるイカサマを見破る目も必要だと龍麻は思う。


学校とは無関係者でありながら、この四人はよく学校に現れる。
初登場からして学校の教員をボコボコにしていたから、教師たちも追い出すことに気後れしているのだろうか。

何より、今はそれなりに大人しくしており、学校で暴れたのは初めて此処に乗り込んで来た時だけだ。
時々何某かで在校生と揉める様子はあるが、それも京一が一喝すれば終わり。
京一が彼等の手綱を握っている限り、吾妻橋達は至って大人しいのだ。

あまり良い顔はされていないが、それも彼等は気にしない。
全ては、心酔するアニキの為か。








「アニキ、一勝負お願いしやす!!」








眠りかけていた京一に、吾妻橋が言った。

京一はのろのろ目を開けると、起き上がって面倒臭そうに頭を掻いた。
しばらく吾妻橋を見て考えるように沈黙していたが、欠伸一つ漏らすと、無言で手を差し出す。
サイコロを寄越せ、という事だ。


京一は明らかに眠そうな顔をしていたが、今寝れないなら、彼等が帰ってから寝ようと思ったのだろう。
午後の授業はサボりになりそうだ。



籠代わりの紙コップにサイコロを入れ、振る。
カツンと音を立てて地面に押さえられ、逆さまになったコップが数度、左右に揺らされた。







「丁!」
「丁!」
「半!」
「丁!」
「じゃ、オレは半だな」







次々に定められた振り分けに、京一は少ない方へと賭ける。







「シソウの半。オレとキノコの勝ちだ」
「あーッ!! さっきは当たったのに!」






吾妻橋が頭を抱えてゴロゴロと転がる。
京一はそれを横目に、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。







「もういっちょ行くか?」
「ヘイ!」
「今度は負けねェっスよ!」






手の中でサイコロを弄びながらの京一の台詞。
吾妻橋以下四天王は見事に食いつき、京一はまた紙コップにサイコロを入れた。






「半!」
「半!」
「半」
「俺も半!」
「なんでェ、丁方ナシか? じゃあオレが丁だな」
「アニキ、イカサマなしですぜ」
「お前等相手にやりゃしねェよ」






口ではなんとでも言えるものだ。
平静として答えた京一を、龍麻は無表情に見つめる。


京一の手元が僅かに奇妙な動きをしているのを、見つけられるのは恐らく龍麻だけだろう。
古武術に精通し、並外れた動体視力を持つからこそ、気付く事が出来る。
京一のイカサマが通じないのは、龍麻のような人間を相手にした限りの事だ。

上手い具合に勝ち点が稼げる上、見事に引っ掛かる舎弟達の相手は、実に面白いものだろう。
少々疑われた所で堂々と胸を張って嘘を吐き、バレれば「見破れなかったお前等が悪い」と開き直る。

舎弟達が京一に勝てる日は、恐らく来ないだろうと龍麻は思った。



負けが混んでいく舎弟達に、京一はなんとも面白そうに笑っている。







「京一」
「あ?」






呼ぶと、笑みを残した表情が此方を向いた。








「僕もいい?」







笑みを浮かべて告げる親友に、京一は一瞬、顔を引き攣らせ。
けれども直ぐにニィと笑って、サイコロと紙コップを投げて寄越した。













午後の授業は、サボりに決定だ。
















何処で教わったんだろうね、京一のイカサマ技。
歌舞伎町の夜の帝王?(←ゲームネタ)

アニメでちょくちょくやってた、賭博のシーンが好きです。

02 休み時間の廊下








珍しく生物の授業に出席して、犬神から三つ四つ厭味を喰らった。
ああやっぱ出るんじゃなかったと思いながら、1時間を欠伸をしながら過ごす。

終わった時には眠気はピークで、もう次の現代国語はサボタージュする事に決めた。



ついでに相棒もサボタージュに誘ってみるかと思って振り返ると、定位置の席に相棒の姿がなかった。
京一に負けず劣らず、授業中に気を抜けばうたた寝する人物だ。
授業が終わると、眠そうに目を擦っている事も多く、声をかけてようやく「授業、終わり?」と問うてくる。

――――それが今日は、いなかった。


便所にでも行ったのだろうか。
ならば一々待っているのも、誘いに行くのも面倒臭い。

いないアイツが悪い、と京一は意味もなく決めて、廊下に出た。





すると。







「――――――あァ?」







教室を出た直ぐの場所に、龍麻は立っていた。
何してんだと声をかけようとして、その陰から女子生徒が背を向けて走り去っていくのが見えた。

ああ、なる程。






「おい、龍麻」
「……京一」






にやにやと口角が上がるのが止められない。

振り返った龍麻の手には、予想通り、可愛らしい封筒入りの手紙。
渡し主は間違いなく、先ほど走り去っていった女子生徒だろう。
後姿で顔は見れなかったが、ぱっと見た限りでは、良い発育をしていたと思う。






「相変わらずモテてんなァ」
「……そうかな?」






封筒の口を開けて、取り出されたのも、また可愛い便箋。

手紙の内容は予想通り、“好きです”“付き合ってください”。
後はいつ頃から好きになったのか、いつもあなたの事を想っている、等々―――――
青春真っ盛りの恋に恋する女の子の手紙であった。



転校してきた春から、龍麻の人気は相変わらずだ。
顔は良いし、笑顔や寝顔が可愛い、雰囲気に同じくお人好し。
更には遠野が言っているように、“何を考えているか判らない”=“ミステリアス”というイメージが更に人気を呼んでいる。

……京一から言わせて貰えば、“何も考えていない”若しくは“苺の事しか頭にない”程度のものだが。


こうしてラブレターを貰う事も少なくない。
が、龍麻は一向にそれらに応える様子はなかった。
相手がどんなに可愛くても、美人でも、スタイルが良くても。

彼女の一人や二人がいても可笑しくないと思うのだが、何故か龍麻はそうしない。
理由は知らない、何せ“何を考えているか判らない”のだから。




しかし、意外と大胆な女だな、手紙の可愛らしい文字を眺めながら京一は思った。
何せ放課後ではなく、授業合間の休憩時間、生徒の出入りは放課後よりも激しい。
人目に付きまくっている場所で、競争率の高い龍麻相手に、よくこんな行為に出れたものだ。
一歩間違えれば、他の生徒からのやっかみも買う事になるだろうに。

それほど、龍麻と付き合いたいと言う事か。







「ま、ちょっとは考えてみたらどうだ?」
「……何が?」
「だから、付き合うかどうかって話だよ」
「……京一だったらどうするの?」
「あん?」






なんでオレの話に切り替わるんだ? と思うものの、京一は龍麻の恋愛経験の浅さを思い出した。

京一はしばし考えてみたが、浮かぶ選択肢は、所詮は二択。
イエスかノーか。






「試しに付き合ってみる、てのはあるかもな」
「…試しに?」
「気が合うか合わないか、合うならそのままだし、合わないようなら自然と別れるだろ」





事実、そんなものだと京一は思った。


どんなに一目惚れだとか、何年も好きだったとか言われても。
実際に付き合ってみれば、気に入らない所は幾らでも見付かるし、問題も起きる。
それでも続くようなら続くし、駄目ならどちらともなく、終わるだけだ。

だから少しでも気になるなら、試しに―――お友達からでも始めてみればいい。






「ふぅん………」






手紙に視線を落として、龍麻は考えるように首を傾けた。
そのまま思考の海に沈んでいるように見えて、京一はサボタージュの誘いはしない事にする。







「あんまり深く考えなくてもいいだろうけどな」






傾いたままの龍麻の頭を軽く叩いて、京一は歩き出した。
がやがやと人の出入りの多い廊下を、お気に入りの寝床を目指して。

考え込んでいる相棒の方は、一度として振り返らなかった。







だから、京一はこれから先も、知らないままだった












手紙の宛先が、本当は誰に向けられたものだったのか。















龍麻に渡された手紙は、本当は京一宛でした。
京一もなんだかんだで、女の子には人気あるんじゃないかと。

京一は恋愛経験ナシでもいいんですが、普通程度にあっても可笑しくないと。
…でも長続きしないんじゃねーかな…

01 登校時間の通学路








月曜日の朝、というのは、どうにもテンションが下がってしまうものらしい。
休日と言う甘美な蜜を存分に楽しんだ後は、辛酸が待っているものだ。






京一は判り易く、面倒臭いという表情を隠しもせず、盛大な欠伸を漏らした。
なんとなくそれにつられて、龍麻も常ならば中々見せないだろう大欠伸をする。

朝8時前の通学路で男子生徒が二人、並んで欠伸。
間抜けな光景であった。






「……あー眠ィ……」





欠伸に続いて、ついでとばかりに京一が呟いた。


昨日は京一は吾妻橋達と一緒にいて、殆ど眠っていない。
一晩中歌舞伎町のあちこちを練り歩き、用心棒としてケンカをしたり、路地の裏で酒を飲んだりしていた。
飲んだアルコールは既に抜けたと思っていたのだが、頭がぐらぐらするのは気の所為か。

健全な学生の日常とは遠くかけ離れた京一の私生活。
龍麻はいつもの事(眠いという言葉も比較的頻繁に聞く)なので、クスリと小さく笑みを漏らす。






「京一、先週も同じ事言ってたよ」
「あん? そうかァ…?」





欠伸によって浮かんだ、目尻の涙を拭うのも面倒臭いのだろう。
京一は殆ど空っぽの鞄を振って弄びながら、ンな事は忘れたなァと続けた。





「先週の事なんざ覚えてられっかよ」
「水曜日に、犬神先生から朝一番に課題提出を急かされた事は?」
「思い出させんな、馬鹿野郎」





苦い顔をして、京一は龍麻を睨む。
鋭い目付きであるそれを、龍麻は特に意に介す事はせず、






「今日はマリア先生の課題の提出だよ。終わってる?」
「当たり前でェ。何度も何度も補習させられて堪るかよ」






自慢げに言う京一だが、ごく普通のことなんだけどなぁと龍麻は心中のみで呟いた。


それにしても、マリアの英語や他の教科の課題は、面倒臭がりながらもきちんと片付けるのに、
何故犬神の生物の課題だけはちっとも手をつけようとしないのだろうか。

訊ねた所で、龍麻はなんとなく、京一の答えが想像できた。
あんな奴の言う事を聞くなんて癪に障る、とか、そういう事だろう。
……最終的には結局片付けなければならない羽目になるのだから、最初にやっつけてしまえば良いのに。




京一がもう一つ、盛大に欠伸を漏らす。







「ったく、ただでさえ月曜は気が滅入るんだから、朝から課題の話なんかすんじゃねーよ」







月曜じゃなくても、平日の朝はいつだって面倒臭そうな顔で登校するくせに。
殊更月曜日が重要そうな京一の言葉に、龍麻は笑った。






「そうだね。じゃ、この話は終わり」
「おう。話題変えろ」
「じゃあ、来週の試験の事だけど」












ぱこん、と空の指定鞄が龍麻の頭を叩いた。

















月曜日が憂鬱だと、後に控える平日4日間が面倒臭い。
始まりのテンションって重要なんだと思います。

京一は何時ぐらいに登校してんだろう……
アニメ一幕二話では、一般生徒の登校時間、既に木の上に……早ッ!(剣道部に顔出した?)