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――――――あの子は準隊士で、自分は隊長で。
――――――あの人は隊長で、自分はただの準隊士で。
うとうと眠りかかっている子供に気付いて、相楽は腰を上げた。
昼間、克浩と一緒に散々街を走り回った所為だろう。
存分に駆け回って、たらふく食べた子供は、もうお休みの時間らしい。
部屋の中をぼんやり照らしていた行灯の灯火を消して、相楽は左之助に歩み寄った。
そっと抱き上げると、むずがるように身動ぎして、ぼんやりと黒々とした瞳が覗く。
「たいちょ………」
「眠るか、左之助」
ぽんぽんと、赤子を寝かしつかすように、背中を軽く叩いてやる。
鼓動の調子と同じように振動を与えられて、左之助は益々眠そうに瞼を落としかける。
敷かれていた布団に、抱き上げた時と同様、ゆっくりと下ろしてやる。
ごしごしと目元を擦る仕種が、やけに幼く見える。
特徴的なツンツン頭を撫でてやると、小さな手が咎めるようにそれを掴んだ。
「隊長、駄目っスよぉ……」
「何がだ?」
「たいちょーは…隊長、なんですから……」
ああ、またその話か、と相楽は合点が行った。
「左之助は意外と、人の目を気にするのだな」
「……オレの事じゃなくて…だから隊長が……」
父親が豪快だったと聞いたが、左之助はしっかりそれを受け継いでいる。
相手が誰でも物怖じしないし、年上だろうが年下だろうが、気に入らない事は気に入らないとはっきり進言する。
だが組織間の上下関係と言うものはちゃんと理解していて、時々こうして相楽を咎める事がある。
それは決まって相楽が左之助に触れている時で、隊長としての示しがつかない、と言うのだ。
相楽が左之助に対して甘い態度を取るのは、最早一番隊の中では公然の事であるが、
自分なんかにかかずらわっていないで、隊長らしくしていて欲しいと左之助は度々言っていた。
左之助は準隊士で、立場で言えば、隊長である相楽と並んで立つというだけで異例の事。
それだけでも左之助にとっては酷く大きな事だから、これ以上、相楽が自分に甘い態度を取るのが心配なのだ。
自分などにそうして構ってやる所為で、隊長が他の大人達から何か咎められたりしないだろうかと。
けれども左之助の心配事は杞憂である。
隊長としての執務はそれなりに全うしているつもりだし、大体、左之助を構うなと言うのが土台無理な話なのだ。
どうにも構ってやりたくて仕方がない。
「隊長は、隊長らしく…してて下さいよ……」
もう直、睡魔に負けてしまうのだろうに、こんな時まで言わなくても良いだろう。
それだけ、左之助にとっては大事な事なのだろうが。
このままでは中々寝付きそうにない子供に、相楽はくすりと笑み、
「判った判った、気を付けよう。だからもう休め」
「……はい……」
とりあえず、望む返事が返って来て少しは気が済んだらしい。
直ぐにすぅすぅ規則正しい寝息が聞こえてきた。
………相楽の手を、小さな手が掴んだままで。
――――――自分なんかに構うな、と言うのに、コレだ。
左之助の場合は無意識だから、自分よりも性質が悪いんじゃないだろうか、と相楽は思う。
小さな手を軽く握ってみれば、強く握り返されて。
………だから、構ってやりたくなるんだ。
どっちも、です。なのでおあいこ。
寝惚けた左之助ってよく書いてる気がする(気の所為…?)