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居候させて貰っているオカマバー『女優』、現在営業時間前。
その店内の真ん中にあるソファに、どっしりと居場所を確保している京一。
彼に目の前には、特徴的な髪型をした体躯の良い男が一人。
「――――――ヘルプだァ?」
判り易く顔を顰めた京一に、男―――雨紋は頼む、と顔の前で両手を合わせる。
「お前しか頼める奴がいねェんだ。来週までに新譜が弾けるような奴!」
「…って、三週間前に新しいベースの奴入ったんじゃなかったのかよ」
京一の言葉に、雨紋は気まずそうに口を噤む。
それだけで、京一は大体の事情を察した。
はぁ、と大きな溜息が漏れる。
「どうせまた亮一だろ」
「…………」
雨紋雷人は、幼馴染の唐栖亮一と“CROW”と言う名のバンドを組んでいる。
ボーカルを雨紋が担当し、ギターと作詞を亮一が受け持っているのだが、それ以外のメンバーは固定しない―――否、出来ない。
元々人付き合いの上手くない亮一がメンバーと衝突を繰り返し、喧嘩別れになってしまうのだ。
京一が二人に出会ったのは、中学生の頃――――三年前になる。
小さな古いライブハウスで、複数のバンドが参加する合同ライブがあった日。
ヘルプで別のバンドに入っていた京一は、楽屋で“CROW”が揉めている場面に居合わせた。
その時もメンバーと揉めていたのは亮一で、最後にはギターを担当していたメンバーが出番直前になってライブハウスを出て行くと言う事態になってしまった。
メンバーが欠けてその日のステージをどうしようかと頭を抱えていた雨紋に、京一が声をかけたのが最初だった。
当日になって何が原因で喧嘩をしていたのか、今でも京一は知らない。
付き合いが長くなる内、そういう事は彼らには珍しくないという事だけ、知ることが出来た。
京一が普段触っているのはベースだったが、ギターもベース程でないにしろ人前で引ける程度の技術は持っていた。
簡単なコード進行とアドリブでいいなら、と言う京一に、雨紋は構わないと言った。
あの時の彼は当日のステージを無にしたくない一心で、心底、藁をも掴む思いだったのだろう。
それ以来、京一と“CROW”の関係はつかず離れずの距離で続いている。
雨紋は時折、冗談半分で京一を“CROW”正式メンバーに誘う言を取る事があった。
亮一も機嫌が良ければ「それがいいよ」と言っていた。
しかし京一は当時から専らヘルプで参入するだけで、何処にも属さない。
雨紋と亮一の誘い文句にも、「気が向いたらな」と言うだけ。
けれど、だからこそ京一と“CROW”の関係は切れる事なく続いているのだろう。
切れる事なく続いている関係だから、こういう緊急のヘルプに呼ばれる事も増えた。
亮一がメンバーと揉めて喧嘩別れして、それがギターやベースである場合、十中八九、京一に声がかかるのだ。
「……別にいいけどよ」
溜息交じりに呟いた京一の言葉は、しっかりと雨紋に届いたらしい。
俯けていた頭がパッと上がり、その表情は喜色。
「そうか! 助かるぜ、新譜はコイツだ」
「持って来てんのかよ」
「お前の事だから、引き受けてくれると思ってよ」
今からでも蹴ってやろうか。
雨紋の台詞に、そんな気持ちが湧き上がってくる。
が、嬉しそうに新譜の狙い目について説明する雨紋を見ていると、まぁいいかと思う。
「で、此処からが転調でな。それと、此処の三連は強めに弾いてくれ」
「……ってちょっと待て。三連の三連なんか入れてんじゃねーよ!」
「亮一がこれで行きたいって言ったんだよ。お前だったら出来るだろうが! それともなんだ、出来ねェってのか!?」
「ンな安い挑発に誰が乗るか! そんな阿呆な曲にすっから、揉めるんだろーが!」
「バカ言え、これでも簡単にした方なんだぞ。元は九連だったんだ」
「自慢にもならねーよ!」
バンッとテーブルを強く叩く。
強くし過ぎて、こっちの手が痛くなった。
京一の癇癪持ちに、雨紋はとうの昔に慣れていた。
と言うか亮一も癇癪持ちの感があるから、こういう手合いとの付き合い方を心得ているのだ。
そしてなんだかんだと言っている京一も、結局はこの譜面のままで引き受ける。
雨紋と亮一のこだわりを受け入れると言う訳ではなかったが、自分の方に押し通すほどの意地がないのだ。
ベースやギターは好きで触れているし、好きこそものの上手なれという奴で、彼らほど情熱がある訳ではない。
だったら出来る範囲なら付き合ってやるか、と思うのが常だ。
もっとも、京一がこうして譲歩する相手は、ごく少数だが。
「で、新譜はこいつだけか? 後は前に弾いた奴でいいのかよ?」
「ああ。ステージは三曲の予定だが、こいつ以外はテッパンで行こうと思ってる」
「亮一の奴は納得してんのか?」
「問題ない」
と雨紋は言うが、それも当日になってどうなるやら。
亮一が癇癪を起こしてメンバーと揉めるのと同じ位、ナンバー変更は有り得るのだ。
そんな“CROW”に短気な京一が付き合っていられるのは、この微妙な距離感があってこそ。
毎日のように顔を合わせていたら、亮一の癇癪に耐えられなくなる自信が京一にはある。
……だからメンバー交代ばっかなんだな、と京一は譜面を眺めながら思った。
「なんにせよ、これで助かったぜ。来週のライブをフイにしなくて済みそうだ」
雨紋がほっと一息吐く。
「おい蓬莱寺、明日暇ならセッションしようぜ」
「ンだよ、いきなり」
「亮一にも言わなきゃいけねえし、一通りの雰囲気は聞いて置いた方がいいだろ」
「…いらねェよ。つーか暇じゃねェ」
「なんだ。補習か」
また京一の眉間に皺が寄る。
的を射ていた。
「それもあるけどな。そもそも必要ねェよ、練習なんか。本番前だけで十分だろ」
面倒臭いと言う表情を隠さずに告げる京一に、今度は雨紋が溜息を吐いた。
京一は昔からそうだ。
腕はいいからあちらこちらのバンドのヘルプに呼ばれるが、その練習に参加する事は殆どない。
余程暇を持て余している時か、単純に気紛れを起こした時程度のものだ。
京一が必ず参加するのは、本番前の合わせ程度のものだった。
それで本番、見事に弾きこなしてしまうから、とんだ化け物だと雨紋は思う。
京一のその実力は、雨紋にしてみても、他のバンドでヘルプ募集をかけている者にしても、有難い。
時間がなくてもマスターして来るし、当日に飛び込みで頼んでもアドリブで演奏してくれる。
だが、ぶっちゃけてしまえば協調性がないのが悩みの種だ。
京一が何処にも属そうとしないのは、自身のそう言った性質を理解しているからだろう。
けれど、いつまでもそうしていた所で、何も変わりはしないのだ。
あれだけ良い腕を持っていても、その全てを引き出す事が出来ない。
「………ンだよ」
溜息を吐いてから黙した雨紋を、京一は睨み付けた。
いいや、なんでも。
そう言うように雨紋は頭を横に振った。
「引き受けてくれて有難うよ。ライブは来週日曜の5時、“CROW”の出番は6時からだ。出来れば一度合わせておきてェから、2時頃にでも入っててくれると助かる」
「わーったわーった。来週日曜の2時な」
「おう。頼んだぜ」
そう言って立ち上がった雨紋を、京一はもう見なかった。
テーブルに置き去られた譜面を眺めているだけだ。
店を出る間際、雨紋は振り返る。
京一は何も言わない、何も求めて来ない。
頼まれれば答えるが、見返りはなく、同時に自分にも求められる事を厭うている。
本番前に練習しても、それ以外で京一の気紛れが起きても。
周りにタイミングや波長を合わせていても、どうしてだろうか。
雨紋は、京一とセッションしているとは思えない。
亮一と京一の間柄は、もっと冷えている。
人付き合いが苦手な亮一は滅多に京一に近付かず、そんな彼の空気を察してか、京一も亮一には近付かない。
雨紋が間に介していなければ、音合わせの時ですら彼らの間に会話はない。
それでも、亮一は雨紋とセッションする事を楽しんでくれるのだけど。
―――――京一はいつも、一人で音を鳴らしている。
音の楽しさも、バンドの楽しさも知っている。
けれど、誰かと音を共有する事を京一は知らない、感じた事がない。
知れば良いのに。
セッションの楽しさを。
感じれば良いのに。
音を共有する喜びを。
雨紋は覚えている。
最初に亮一とセッションした瞬間の感覚を。
あれに勝る喜びは、そうそう出逢えるものじゃない。
(お前も探せよ、そんなセッションが出来る奴を)
扉が閉じる間際。
聞こえてきたベースの音は、やっぱり“独り”の音だった。
====================================
こんなに雨紋に喋らせたの初めてだ……たまーに書いてもちょびっとしか出てないから…
アニメ本編では中々ベースをマスターできなかった京一ですが、この設定では相当な腕を持ってるようです(書いてから自分でびっくりした…)。
でも一緒に楽しめる相手がいない。好きだから練習はするけど、それを思うように発揮する程楽しいとは思ってない。宝の持ち腐れ状態。雨紋は宝の持ち腐れも勿体無いと思うし、何より本人が弾いてて楽しそうじゃないのが引っかかってる。
……雨紋ってひょっとして世話焼きなのかな。亮一の事とか。ゲームの雨紋も結構お節介だったなぁ。
高校はギリギリで合格した。
正直、落ちちまえと思っていた。
その方が就学時間がどうのこうのと煩くないし、音に集中できる時間が増える。
学校なんか行っていたら、一日の半分はそれに費やされて、弦に触れる時間が減るから。
……だけれど、合格通知を見て喜んでくれる人達を見ていたら、そんな事を考えていたなんて億尾にも出せなくなった。
受験の為に金も払って、入学するのに金を払って、授業料も払って。
そうした金銭を賄ってくれているのは、家出した自分をずっと世話してくれている人達。
返済なんて当面期待できない自分にそんな事をしてくれる理由は、本当に純粋なる好意。
だったら行かなきゃ勿体無いし申し訳ない。
面倒くさくて仕方がなくても、サボってばかりでも、最低限の単位ぐらいは取っておこうと思うのは、その為だ。
けれども、学校は退屈で、授業は面倒で、周りの同じ年のクラスメイトは皆ガキ臭くて。
ああやっぱ受験なんかするんじゃなかった、なんで合格しちまったかなと思う日々が増える。
高校生になってから一年間の間に、起こした問題は数知れず。
入学式一日目に喧嘩をして(売られたので買った)、三日目に授業を抜け出して、七日目に三年生を殴った(因縁を吹っかけてきたのは向こうだ)。
一年最後の頃には、卒業式を終えた三年生と乱闘騒ぎ(これもやっぱり向こうが吹っかけてきた)。
それでも無事に単位は足りて(休み前は補修の嵐だったけど)、二年生に進級した。
周りからはなんで止めないんだよとか、なんでこのクラスなんだよとか、ヒソヒソ囁かれていたけど、無視した。
その頃にはもう、周囲とは随分距離が出来ていて、話しかけてくるのは片手で足りる数になっていた。
二年生になってから暫くの間、学校に行かなかった。
ヒソヒソ話に嫌気がさしたとかじゃない、そんなものには慣れていた。
行く意味がないような気がしたから、行くのを止めた。
部屋に篭って音を鳴らしてばかりの日々が続いた。
音に触れている間はいい。
何も考えなくていい。
音の事だけ考えて、音だけ感じていればいい。
面倒を見てくれる人達は自分の性質をよくよく理解してくれているから、音に触れている間は何も言わない。
頃合を見てご飯よだとか、お風呂空いたわよとか、そろそろ寝ないとクマが出来ちゃうわよとか―――――そんな事を、好きにしてくれていいんだよという空気と一緒に告げに来る。
折角進級できたのにとか、お金が勿体無いとか、そういう事は本当に何も言わなかった。
学校に行っていた頃と同じように接してくれて、好きにさせてくれるから、其処はとても居心地が良かった。
思えば家出の理由だって一度も聞かれた事がない、転がり込んだ時からずっとそうだった。
もう一度学校に行くようになったのは、五月の終わりから。
なんの気紛れかは自分でもよく判らなかったが、なんとなく気分が其方へ向いた。
音に触れることに飽きてはいなかったが、部屋に篭るのに飽きたのかも知れない。
五月病がようやく去っていったのかも知れないし。
いや、それは結局どうでも良いのだ、早い話が気紛れであったと言う訳で。
一月か一月半か。
とにかくそれ位振りに教室のドアを開ければ、クラスメイトの姿勢は一斉に此方に集まった。
集まってヒソヒソ話が始まったがそれだけで、声をかけてくる者はなかった。
ヒソヒソ話を無視して適当に席について、ふと。
一人の生徒の所に女子生徒が集まっているのが見えて、なんとなく気になって、それを遠目を凝らして見た。
見覚えのない男子生徒が其処にいて、他のクラスの奴かと思ったがそういう訳でもないようで、教室内にその男子は馴染んでいた。
一月以上教室に来ていない自分よりもずっと、其処に溶け込んでいるように見えた気がして――――いやそうでもないなと、なんとなく思った。
思った限りで、それ以上その生徒の事は気にしなくなった。
久しぶりの教室はやはり退屈で。
久しぶりの授業はやはり詰まらなくて。
久しぶりの学校と言う空間は、やっぱり息が詰まる。
休憩時間に、隣のクラスの女子生徒が来た。
新聞部の女子で、この生徒は物怖じしないで声をかけてくる。
久しぶりに見た人間に、彼女はいつも持ち歩いているカメラを構えながら質問攻めして来た。
何処いたの何してたのなんで来たの、なんか面白いことない? と。
何もねーよと言ってやれば拗ねた顔をして、それじゃネタにならないじゃないと言ってくる。
オレをネタにすんなと言っても彼女は聞かない、いつもの事だ。
適当に彼女の言葉に返事をしていると、ふと。
あの見覚えのない男子生徒と目が合って、彼はへらりと笑った。
なんだかそのヘラヘラ笑いが癪に障って、眉間に皺を寄せて目を逸らした。
女子生徒は目敏くそれを見つけて、その見覚えのない男子生徒が、三週間前に入ってきた転校生であると説明した。
あっそ、とだけ返して、もうそれ以上教室にいる気にならなくて、席を立った。
一年生の頃から気に入っていた昼寝場所で、それからはずっと過ごした。
放課後になって帰ろうとしていたら、あの男子生徒が声をかけてきた。
「はじめまして、だよね」
そう言った彼は、あのヘラヘラ笑いを浮かべていた。
見た瞬間にまた腹が立った。
「お前、気に入らねェよ」
はじめましても宜しくお願いしますも、言わなかった。
思ったことだけ言い切って、それ以上は其処にいなかった。
背中を向けてグラウンドに置き去りにして行った間、彼がどんな顔をしていたのかは知らない。
どうせ当たり障りのない面してんだろうと思ったら、また腹が立った。
帰ってから、音を鳴らした。
とにかく鳴らした。
酷い音で、鳴らしまくった。
無性にムシャクシャしていて、それは全部音に出た。
構わずに弾き続けて、その内、弦が一本切れた。
張り直してまた弾いた。
酷い音が出続けた。
聞いちゃいられないような音が鳴り響いた。
散々な音が鳴っているのに、面倒を見てくれる人達は何も言わなかった。
いつもと同じように頃合を見て夕飯に誘ってくれて、ただその日の夕食は自分の好きなものばかりだった。
でもやっぱり何も言わなくて、夜中になるまで滅茶苦茶な音を鳴らしてしまうのは気が引けて―――――でも止められそうになかったから、ヘッドフォンで自重した。
一晩、鳴らした。
一晩、酷い音が出た。
何をそんなにムシャクシャしていたのか、それは判らなかった。
ぶつけ所が判らないのが、余計に苛々させていた。
だから多分、一晩ずっと酷い音が出て、鳴らし続けていたのだと思う。
気に入らねェよ。
時々、自分が言った言葉が蘇った。
何故だろう、と考えて。
あれは半分、自分に向けて言った言葉だったんだと、随分経ってから感じた。
気に入らねェよ。
誰にでも良い面してんのが。
気に入らねェよ。
誰も判りゃしねェなんて自己陶酔が。
気に入らねェよ。
判ってて止められない自分が。
変わりはしないと、斜に構えて見せて諦めてるのが。
鳴らした。
鳴らした。
酷い音をずっと。
ああ畜生、気に入らねェ。
酷い音。
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龍京出会い。「気に入らねェ」をどうしても言わせたかった。
うちの龍京で、京ちゃんが龍麻に対してこの態度というのは珍しい。と言うか初めてかしら。基本的にナチュラルラブだから、この二人。
京一のツンからデレまで移行する期間が書いてて楽しいです。
京一 / ベース(ギターも可)
龍麻 / アルペジオ(キーボード)
小蒔 / ギター
醍醐 / ドラム
……葵のポジションが浮かびません。マネージャーでいいかなぁ。アン子はPRに専念してるかな。
…でもって、こう来ると誰がボーカルやるんだろう。やっぱ京一と龍麻で。
ボーカル無しのバックバンドでもいい。
“CROW”はそのままで良いとして、織部姉妹は広島出身の香水(←隠せてない)みたいなのかな。舞子も加わればそのまま完成しそう。
…如月は演歌歌ってそう。直立でスゲー腹式使って歌いそう。吉○三の[雪國]みたいな奴とか。
八剣は……ムード歌謡みたいな感じ。PVの色彩がかなり鮮やかになるんじゃなかろうか、この人は。耽美な動作が似合いそう。
壬生が歌っているイメージが全く浮かばないので、この子もまたマネージャーで。眼鏡のズレ直しながらスケジュール帳開いてる絵が即行浮かんで来ました。
既に芸能事務所に在籍していて、学業と並行しながらバンド活動。ツアーとか始まったら大変。主に京一の成績が(笑)。
バンド傾向はACIDみたいな音楽がいいなー。結構ロック系。低音ゴリゴリ鳴らしたらいい(お前の趣味じゃねえか)。
こういうシチュエーションにしてみると、改めて龍京のシチュが浮かびません。うちの二人は友愛であれ恋愛であれ、ナチュラルにラブラブです。
八京は基本的に八剣→京一からの発展ですね。歌謡祭とかで逢った時に、八剣が京一の事気に入っちゃって。会う度にやたらと付きまとってくるから京一が辟易して、壬生に苦情が来たり(…うちの壬生に苦労人の板がついて来たよ!)。でもいざ連絡が途絶えたりすると、「アイツどうしたんだ?」みたいな。逢った時に「なんで連絡よこさねェんだよ」みたいな話になって、八剣は巡業やらで忙しかっただけで、「寂しかった?」とか八剣に言われて京ちゃん真っ赤になればいい! ……大体いつもそんな展開(笑)。
京一が八剣を段々警戒じゃなくて気にし始めて、その頃になって龍麻が段々モチを焼き始める。焦げた頃に京ちゃんがそれに気付く(←鈍い)。
あと、いい加減に如京も書きたいんですが、やっぱり此処でも喧嘩してる二人しか思い付きません。うちの二人はどうしたら良い仲になるんだろう……
二幕一話の京一が「ベースをやる」って言ってて、弾いてる姿を実際に見てみたかった。
京一は恐らく、楽典云々はまるで頭に入らない気がしますが、自分の感覚だけ信じて行けば荒削りでもそこそこ弾けるんじゃないかと思います。野生の勘で生きてる子(爆)。
去年までなら、大晦日は家のリビングの炬燵でゴロ寝をして、格闘技の中継を見ていた。
家族と―――主に父親と―――炬燵の中の領土争いをしながら。
その家族は、今頃どうしているだろう。
寒くないようにと、渡されたブランケットに包まって。
ソファに座って見ているのは、去年と同じ格闘技の中継。
けれども、一緒に見ている人達は、家族ではなく。
「いやァん、痛そう~」
「あん、またッ」
京一を挟んで悲鳴に近い声を上げているのは、キャメロンとサユリだ。
ソファの背凭れに寄りかかって、京一の後ろに立っているのが、アンジー。
ビッグママはいつものようにカウンターの向こうだ。
今日は珍しい事に師である京士浪もいて、客のいないテーブル席に落ち着いて酒を傾けている。
京一が座るソファの前にあるテーブルには、お菓子の山が乗せられている。
それに時々手を伸ばしながら、京一はテレビ向こうの戦いに見入っていた。
「あッ、あッ、ホラ!」
「切れちゃってるゥ~」
「あ~ん!!」
二人が騒いでいるのも、京一は殆ど気にしていない。
とにかく夢中になって、繰り広げられる激しいバトルを目で追った。
じっと見ていると、格闘家達の動きの癖が見えてくる。
さっき対戦した人は右側のガードが下がり勝ちになっていたし、今戦っている人は反対に左側が甘い。
相手の外国人選手はパワーはあるがフットワークは遅く、一撃一撃が思い代わりに相手のパンチを中々交わせない。
外国人選手は自分の欠点を判っていて誘っており、カウンターを狙っていた。
キャメロンとサユリは、外国人選手の瞼が切れて血が出たことで大騒ぎしている。
だがそれよりも、京一は日本人選手の体力が限界に来ている事の方がドキドキする。
毎年見てはいるものの、贔屓する選手がいる訳でもなく、どちらを応援する訳でもなかったが、どうせなら、やはり日本人に勝って欲しい。
ゴングが鳴って、レフェリーがブレイクを唱える。
選手がそれぞれセコンドに戻り、カメラはそれを追い駆ける。
モニターに映った外国人選手は、瞼に薬を塗ると、問題ない事をセコンドメンバーにジェスチャーで伝えている。
しかし日本人選手の方は息切れが激しく、打たれ続けていた躯も限界を訴えているようだった。
京一はブランケットを手繰り寄せ、ソファの背凭れに寄りかかる。
「負けだな、こりゃ」
「アラ、そうなの?」
溜息交じりに呟いた京一に、アンジーが問いかける。
「目ェ虚ろになってるし、さっきからパンチ当たってねェし」
「でも頑張ってるじゃない。こういうのって、何が起きるか判らないって言うし」
「ンな事言ったって、あっちピンピンしてんじゃねェか。もう無理だろ」
頭の後ろで手を組んで言う京一に、アンジーはそうかしらねェと零す。
負けると思ったら、なんだか少し興味を削がれた。
テーブルの上のお菓子に手を伸ばし、口に放り込んでもごもご噛む。
京一も、去年は最後の最後まで勝負は判らないと思っていた。
どちらが勝つのか家族で話をしていて、ほらやっぱりこっちの勝ちだと父に言われて、ムキになったりもした。
でも家を飛び出てからしばらくして、格闘技を見ていると、大体途中で試合の展開が見えるようになった。
試合が始まる前からどちらが強いか、試合が始まれば選手の癖や隙が、相手がそれを判っているか否か。
判るようになってきて、最後まで試合の展開が判らないと言う事が滅多になくなってしまった。
師に稽古をつけて貰っている成果と言えば嬉しいが、楽しみが一つ減ったような気もしてならなかった。
喉が渇いてジュースに口をつける京一の隣で、キャメロンとサユリがまだ騒いでいる。
去年までなら、痛そうだとかそういう所ではないけれど、自分ももう少し声を上げていたのだろうに。
「きゃあッ」
「いたァい~!」
二人の悲鳴にテレビを見れば、日本人選手がダウンしている。
レフェリーがカウントを取り、数字は順調に上っていく。
やっぱ駄目だな、と京一は少し残念な気持ちで手の中のジュースに視線を落とす。
と。
「――――――まだ終わってはいないぞ………京一」
思っても見なかった声が聞こえた事に驚いて、思わずジュースを零しかける。
含んでいたジュースまで噴出しかけて、慌てて口を噤む。
振り返ってみればアンジーの隣に、いつの間にか京士浪が立っていた。
「終わってない?」
ジュースを飲み込んでオウム返しする。
京士浪は、弟子をちらりと見遣って、また直ぐに視線を前へと戻す。
見ているのがテレビである事は明らかだが、この人物はテレビ等の娯楽を見るような人だったか。
否だと京一ははっきり言い切れる。
京一は数瞬師匠を見上げていたが、京士浪はもう此方を見ない。
なんなんだよ、と口の中で呟く。
口の形が拗ねていることには、気付いていなかった。
仕方なく師匠の反応を待たず、テレビに目を向けてみる。
……向けてから、瞠目した。
もう駄目だと思っていた選手が、カウント9で立ち上がる。
カメラが捉えた選手の瞳はぎらぎらと鋭く、相手選手を睨みつけた。
ファイティングポーズを取る選手に、外国人選手も構える。
いや、外国人選手はずっと戦闘姿勢を解いていなかった。
相手が戦意喪失していないことをずっと知っていたのだ。
「キャ~! 頑張ってェ~!」
「もう少しよ、もう少し!」
「其処で右よォ~!」
キャメロンとサユリが声をあげる。
京一はその真ん中で、大きく瞳を見開いて画面に食い入る。
興味を失いかけていた事など、もう頭の中にない。
立ち上がって防御を捨てたようにラッシュを繰り出す日本人選手に、京一は目を奪われていた。
フラフラだったのに。
さっきだってダウンしたのに。
パンチもろくに当たってなかったのに。
諦めていない、相手も気を緩めていない。
腹に胸に何発も食らいながら、どちらも退かない。
二人の選手が打ち合う合間、一瞬だけ、観客席のある一転がアップされた。
まだ幼い子供を抱えて、祈るように試合を見詰めている黒髪の女性。
多分、きっと、日本人選手の家族。
重い一撃が、外国人選手を襲う。
正面から食らったそれに、選手は地に伏した。
レフェリーがカウントを数え―――――10を数えた瞬間、会場は歓声で包まれる。
「勝ったわァァア~~~!!」
「きゃあ~~~~~ッッ!!」
野太い歓喜の声が上がる。
ブランケットに包まっていた京一の肩に、アンジーの手が置かれた。
見上げれば微笑が其処にあって、予想が外れちゃったわねと悪戯っぽく囁かれる。
それに唇を尖らせれば、アンジーはクスクスと笑った。
それから―――――なんとなく、京一は自身の師を見遣り。
師はそれに気付いているのかいないのか、既に此方に背を向け、酒を置いたままにした席に戻ろうとしていた。
その途中で、京一は師の声を聞く。
「人は、自らがあろうと思う姿で生きるものだ」
負けると思えば、負けるように。
怯えれば、目の前に立ちはだかる物は、恐怖の対象でしかなく。
負けぬと思えば、何度地に落ちても、負ける事はない。
選手がリングの上で大きく手を振る。
その向こうで、黒髪の女性が子供を抱えて大きく手を振った。
それが彼にとって守るべきものであり、その為に強くあろうと生きていく。
守りたいから、強くなる。
守りたいから、負けられない。
守りたいから、自分自身に負けてはいけない。
強く。
何かの為に。
誰かの為に、強く。
幼い京一には、正直、まだよく判らない。
判らないけれど、
………誰よりも強かった父も、だからこそ、強かったのだろうか。
憧れていた広い背中を思い出し、今は此処にいない温もりを、少年は随分久しぶりに思い出していた。
====================================
真面目な話になってビックリだ(爆)。
って言うかこれは正月関係あるのか?
京一は紅白とかより、格闘技見てそうだなーと思ったんですが……
たまには師匠を喋らせようと思って……こんな結果になりました。
ゲームの京士浪は、中学生の京一とマジで下らない喧嘩をしそうですが、龍龍の京士浪は大人で落ち着いてて達観してて、子供の京一とムキになって張り合うことはなさそう。
…と思ってたら、難しい話を遠まわしに喋るイメージが出来上がってしまいました。
こんな師匠だけど、うちの京ちゃんはなんだかんだで師匠の事が好きです。
もう直に今年が終わると言うのに、この空間の主にとっては来訪客である少年は、勝手知ったる空間とばかりに炬燵で丸くなって動かない。
………別に、それは良いのだけれど。
「参拝とかは行かないのかい? 京ちゃん」
炬燵の向かい側で蜜柑の皮を向きながら問うてみる。
京一は暫く無言のまま、炬燵のテーブルに頭を乗せて目を閉じていた。
が、綺麗に向き終わった蜜柑を差し出すと、ぱかりと瞼が持ち上がる。
「別に」
「友達からお誘いがあるじゃないのかい?」
判っていても妬いてしまう程、京一は真神のメンバー達とよく一緒にいる。
同じ学校に在籍していて、普段から何かとつるんでいて、死線を潜り抜けてきたメンバーだから当たり前だ。
だからてっきり、年末年始も彼らと過ごすものだと思っていた。
各々の用事は勿論あるだろうが、大晦日か元旦か、どちらにせよ、埋まっているものだと八剣は思っていた。
京一にその気がなくても、誰かが声をかけるだろうとか、乗り気じゃなくても連れて行かれるとか。
しかし八剣の予想に反し、京一はもう一度「別に」と言った。
「大体、こんなクソ寒ィ時にあんな人ゴミなんぞ行きたかねェし」
つけっ放しにしていたテレビは、丁度、織部神社からの中継を映し出していた。
確か此処で巫女をしている双子姉妹も、京一達の仲間だ。
今年の参拝者は約何万人、と言うアナウンサーの声に、京一は益々行く気が失せているようで、
「やっぱ行くモンじゃねェな」
蜜柑を口に放り込んで、チャンネルを弄りながら京一は呟く。
「………じゃあ、今晩は何処に行く予定もないって事かな」
「ま、そーいうこったな」
甘酸っぱい蜜柑は、どうやら京一のお気に召してくれたらしい。
テレビのチャンネルをバラエティに合わせて、速いペースで蜜柑を食べる。
もう一つ、剥き終わった蜜柑を京一の前に置いた。
何も言わずとも京一が遠慮をする様子はなく、先に食べていたものななくなると、直ぐに二つ目に手をつける。
綺麗に筋まで取られた瑞々しいオレンジ色は、瞬く間に京一の口の中に納まっていった。
八剣は三つ目の蜜柑も剥いた。
剥いて、やはり筋も綺麗に取って、京一の前に置く。
それに再び手を伸ばしかけて、京一は八剣を見た。
「お前は食わねェのかよ」
「ああ、いいよ」
言って、八剣は炬燵から出て立ち上がる。
くるりと炬燵の横を回って、
「俺はこっちを貰うから」
すとん、と。
京一の後ろに腰を下ろして、少年の体をすっぽり腕に包んで言った。
言われた意味を理解しかねたか、いや理解したくないのか。
八剣の動向を見守っていた所為で、京一の首はくるんと巡られ、八剣の顔に向けられている。
手に蜜柑を持ったまま、男の腕に囲われて。
きょとんとしている顔が、眉間の皺がない所為もあるだろう、ずいぶん幼く見える。
その、常よりも険のない瞳を見下ろし、微笑んでみせれば、
「バ………ッカか、テメェッ!!」
高い声で京一が怒鳴る。
危うく蜜柑を潰しかけながら。
それにやはり、漏れるのは笑みで。
口付けて絡めた舌は、甘酸っぱい味がした。
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このまま姫始めしてればいいよ(爆)。
…男同士は「殿始め」って言うことあるらしい…
うちの八剣は、京ちゃんに何か“してあげる”のが好きですね。
蜜柑の筋なんて俺取らないよ(笑)。気にしない。つか栄養は此処にあるんですぜ(関係ない)