例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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03 二人の秘密の場所で









幔幕を少しの間抜け出した。

隊長としてあるまじき行為であろうとは思ったけれど。
後ろをついて来る子供が嬉しそうなので、今はそれで良いかと思う事にした。



一番隊は此処数日、足止めを喰らっている。
他隊との連携が最近散漫になりがちで、対策を練っている最中だった。
実際、ついさっきまで隊長は他の隊員達と会議を続けていた。

昨日今日とまた煮詰まってしまった会議を、休憩として一時終了とした。
それから、相楽は刀持ちの子供一人を連れて幔幕を後にしたのだった。





そうして子供と二人やって来たのは、幔幕の見えない、切り立った崖の上。








「隊長、此処好きですね」







ついて来ていた子供が、定位置の距離に立って言った。

確かに、そう思われるのも無理はない。
煮詰まった会議を休憩にして幔幕を抜け出すと、決まって相楽は此処に来た。
その背中に、この子供一人だけを伴って。



はらはらと降り始めた雪の向こう側で、山の尾根が白んでいる。
ちらと足元へと目をやれば、遠く続く街道が連なっていた。



それを何気なく見ていると、足元に子供の影が重なる。
後ろを見遣れば、近付いてきた子供が一緒になって崖下を見下ろしていた。







「うっひゃ~…やっぱ高ェ……」
「あまり覗き込むと、落ちるぞ」







高い高い、おっかない、と言いながら、左之助は楽しんでいた。
そのまま乗り出すと、頭から落ちていってしまいそうで危なっかしい。







「目ェくらくらしそうっスよ。隊長は平気なんですか?」
「そうだな。お前のように覗き込んだりはしないから」






ほら危ないぞと、左之助の半纏の襟を掴んで引っ張り上げる。
左之助は、摘まれた猫のようにされるがままになった。

相楽の横、崖縁から離れた場所に下ろす。







「あまり恐ろしいことはしないでくれよ」







言うと、左之助は珍しく、むぅと不服そうな顔をした。

幼い子供は、怖いもの知らずだ。
負けん気の強い左之助であれば、尚の事。



それでも相楽の言葉に、左之助ははい、と小さな返事をする。



くしゃりとツンツン立った頭を撫でると、くすぐったそうに左之助は笑った。
手を離せば、名残を確かめるように、自分の手を撫でられた部分に当てる。
噛み締めるように触れて笑う子供に、相楽の口元も綻んだ。

―――――煮詰まった会議でささくれ掛けていた心が解される。








「隊長」








左之助の手が、相楽の羽織を軽く引っ張った。
見下ろせば、真っ直ぐに見上げてくる澄んだ瞳。








「なんかいっつも、此処にくると、オレ達二人だけですよね」
「ああ……そうだな。お前以外は、つれて来た事がないな」







子供の言葉に頷けば、左之助はまた嬉しそうに笑う。










「じゃあ此処は、オレ達だけの秘密の場所って事ですよね!」










―――――距離にすれば、そんなに遠いものではない。
幔幕が少し見えなくなった程度の、ほんの数分の場所。

切り立った崖の上。
隠されている訳でもない、踏み込むのが難しい場所でもない。
だけれど、今此処にいるのは、自分達だけ。


子供と言うのは、秘密を持つのが好きらしい。
他の誰も、自分と目の前の存在以外は、この場所を知らないと聞いて、左之助は一層嬉しそうに笑う。
左之助の親友の克浩でさえ、此処は知らないのだと言えば、また嬉しそうだった。



あまりに嬉しそうにするから、少しだけ、悪戯心が湧いた。






「しかしなぁ。明日は克浩を連れて来ようと思うんだが、どうだ?」
「え? か、克ですか…? え、あ、いや…」
「どうした、嫌か?」
「え…っと……い、嫌って訳じゃ…」






親友の事は憎くないだろうが、秘密の場所は秘密にしておきたいのだろう。
また隊長の言葉に反発するという行動は、左之助の中から綺麗さっぱり抜け落ちているようで、
言葉を濁しはするものの、嫌ですとはっきり言おうとはしなかった。

ただ、折角の秘密の場所だし、とか、オレと隊長の場所だし…とブツブツ呟いている。


相楽が半ば無意識に、左之助だけを此処に連れて来るのが当たり前のように感じていたと同じく。
左之助も、此処に来る相楽について行くのは自分だけだと感じていたのだろう。

……親友の介入を悪しく思う訳ではないのだけれど。












「此処は……オレと、隊長だけ…が、いいです……」












――――――俯き加減で言った後。
すぐに顔を上げると、いや、隊長が言うなら、克も一緒で全然構わないですから! と。
両腕をバタバタさせて、必死になっているのがまた可愛かった。














場所的には、原作回想シーンの崖の上。
隊長が左之助に滔々と語るシーンで。

時々左之助をイジメる隊長が好き(笑)。
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02 相容れることは認められない










越えてはいけない、一線を引く。
けれど子供はその無邪気さで、容易く線を越えてくる。

だから時折、判り易すぎる言葉でもって突き放す。










子供の剣術指南を引き受けてから、一週間が経つ。
飲み込みの早い子供はあっという間に上達し、荒さは目立つが、身のこなしは上手い。
しかし防御に関する事は一向に直らず、危なっかしいことこの上ない。

大人顔負けの打たれ強さは知っているけれど、だからと言って防御を覚えぬ訳にはいかない。
無手の徒手空拳のみで勝負を挑んでくる輩の方が少ないのだから。
山賊の類でも、倒幕を目論む者達でも、皆その手には刀なり鉄砲なりを携えているのだ。
そんな中に無手で挑めば捨て身とは言わぬ、ただの無駄死にになってしまう。


――――だと言うのに、子供はいつまで経っても受身の一つも覚えない。






「……やる気があるのか? 左之助」






……木刀で肩を突いた。
小さな身体は容易く吹っ飛んで、砂利の上に落ちた。

一点に凝縮された一撃の痛みは、打たれ強さを誇る子供にも流石に応えたらしい。
撃たれた肩を抑えて蹲る子供に、見守っていた幼馴染が堪り兼ねて駆け寄った。





「あ、りますっ……!」





幼馴染に支えられて起き上がった子供は、気丈な光を眼光に宿して答える。






「それなら」
「でも!!」






言われた通りに防御を覚えろ、と言おうとして。
阻んだのは他の誰でもない子供で。

木刀を手に立ち上がった子供は、心配そうな幼馴染の身体を退かせる。








「オレは、隊長の為なら、なんだって出来ます。だけど、オレが守りになったら、隊長を守る為に戦えない」








隊長の為。
守る為。

なんだって、出来る。


―――――そう言いながら。




己が“守られる”ことを、この子供は頑なに受け入れない。













「―――――隊長を守る為なら、オレは自分がどうなったっていいんです!」












他の追随を赦さない、何にも劣らぬ特攻精神。
幼い故、考えが足りない故の、無垢で無邪気で残酷な、強い心。

越えてはいけない一線を、容易く越える、幼い子供。
容易く己の生死を投げ捨てて、躊躇すべき境目を迷わぬ子供。



“誰かを守る”為に、“己を守る”ことに気付かない子供。


盲目的に慕われる事が苦しくなるのは、こんな時で。








「―――――――私は、お前に守られたいとは思わない」









幼いお前を失ってまで生き延びたいとは、思わない。
未来への光を摘んでまで生き延びたいとは、思わない。

生きていて欲しいのに、今からまるで死して本望のような言葉を吐くのなら。
戦場に置いて、日々に置いて、二度と己の前には立たせない。
一も二もなく、安全な場所に置き去りにして、全てが終わるまでは二度と隣にも立たせない。



傷付いた顔で立ち尽くす子供から、無理矢理目を逸らす。


優しい言葉で諭すことはしなかった、真っ直ぐで意地っ張りな子供はそれでは納得しないから。
逐一説明した所で、理屈では動かぬ子供の心を宥めるには足りない。

だから絶対的な言葉と態度と、立場を持って、突き放す。














守る為に投げ出そうとする強さを、認めるつもりはない。


今は幼い小さなその手は、いつかもっと大切なものを守る為に戦える筈だから。















未だに隊長を扱い兼ねてます(汗)。
厳しいところは厳しかったんじゃないかと。

子供のうちから、自分の命を捨てる事を考えるな、ってこと。

01 近いけれど遠い存在






一番近い筈なのに、一番傍にいる筈なのに。
時折、酷くこの人が遠くにいるように感じるのは、何故だろう。

預けられた刀を抱き締めて、隊士達に指示を飛ばす人物を見上げながら、左之助は思う。



凛とした横顔を見上げるのは、いつもの事。
この姿勢に慣れてしまった首は、もう痛みを訴えることもなかった。




周りの隊士達が、指示に従って準備を始めている。
それをちらりと見て、なんの準備をしていたんだっけ―――と、左之助はぼんやりと思い返す。
先ほどまでの隊長の話を聞いていなかった訳ではないのだけれど、咄嗟に思い出せなかった。

見上げるその人物はと言えば、そんな左之助の様子など気付いていない。
それが無性に寂しくて、左之助はわざと抱えた刀を揺らし、小さく金属音を立てる。


そうしてようやく、その人は左之助へと視線を落とし。







「どうした、左之助」






その時、自分がどんな顔をしていたのか、左之助には判らなかった。


左之助がずっと見上げていた人物――――相楽総三は、左之助を見つめる時、いつも優しい瞳をして。
それは左之助が子供であるからなのだろうけれど、左之助は少しだけそれが嬉しかった。
なんだか自分が特別扱いされているようで、それを喜ばない程、左之助は摺れた子供ではなかった。

その時も相楽は口元に小さな笑みを浮かべ、子供を安心させるように語りかけ。
膝を折って目線の高さを左之助に合わせていた。





「もう直、出立するぞ。準備は良いか?」
「あ、はい!」





そうだ、次の目的地の話をしていたんだった。
出立するという言葉にようやく思い出し、左之助ははきはきとした返事を返す。

準備も何も、左之助の持ち物と言ったら、自分の脇差と預けられた隊長の刀のみだ。
気持ちさえしっかりと出来上がっていれば、いつだって隊長を追いかけて行ける。


しっかりとした返事に満足し、相楽は一度、左之助を見て頷いた。
それに左之助が答えるように笑うと、相楽は立ち上がる。
また凛とした顔付きで、隊長として隊士達に指示を飛ばす。

それをまた、数分前と同じように、左之助は見上げていて。






つい先ほどまで、同じ目線の高さにいた人だとは思えずに。












隣にいるのに。
傍にいるのに。

同じ目線の高さにはなれない。


子供の自分と、大人のこの人。
準隊士と、隊長。

この人がしゃがんでくれないと、同じ目線の高さになれない。




………近くて遠い、憧れの人。
















隊長スキスキ左之助。
子供な自分が歯痒いのです。

弐零零捌(携帯)








えらい長いこと(よりによって二月末まで)サイトトップに置いていた正月フリー絵。
色々事情が重なって引っ込めるのが遅くなってしまったのでございます(滝汗)

そして重い。
赤です。赤が思いっきりメモリ喰っとるのです……



正月だったので、獅子舞を京一に被らせてみました。
龍神舞の龍頭獅子、黄龍(龍麻)にあやかって金色の龍頭です。
そんで描いた後で「これ京一か…?」と考える始末(爆)。

正月の竜頭獅子は他にもあって、別に見つけたものの方が獅子舞っぽくはあったのですが、折角なのでリアル風で。
ヒーヒー言いながら描いてましたが、なんだかんだで結構楽しんで描いてました。


はめ込み文章

[御世太平
国家安全
五穀豊作
幸いここに獅子が洞入り
つり出して悪魔を祓おう
おうさよかろう]

とある村で行われる、地舞(奉納舞)で獅子舞が登場する時の台詞です。

弐零零捌








えらい長いこと(よりによって二月末まで)サイトトップに置いていた正月フリー絵。
色々事情が重なって引っ込めるのが遅くなってしまったのでございます(滝汗)

そして重い。
赤です。赤が思いっきりメモリ喰っとるのです……



正月だったので、獅子舞を京一に被らせてみました。
龍神舞の龍頭獅子、黄龍(龍麻)にあやかって金色の龍頭です。
そんで描いた後で「これ京一か…?」と考える始末(爆)。

正月の竜頭獅子は他にもあって、別に見つけたものの方が獅子舞っぽくはあったのですが、折角なのでリアル風で。
ヒーヒー言いながら描いてましたが、なんだかんだで結構楽しんで描いてました。


はめ込み文章

[御世太平
国家安全
五穀豊作
幸いここに獅子が洞入り
つり出して悪魔を祓おう
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とある村で行われる、地舞(奉納舞)で獅子舞が登場する時の台詞です。