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一番近い筈なのに、一番傍にいる筈なのに。
時折、酷くこの人が遠くにいるように感じるのは、何故だろう。
預けられた刀を抱き締めて、隊士達に指示を飛ばす人物を見上げながら、左之助は思う。
凛とした横顔を見上げるのは、いつもの事。
この姿勢に慣れてしまった首は、もう痛みを訴えることもなかった。
周りの隊士達が、指示に従って準備を始めている。
それをちらりと見て、なんの準備をしていたんだっけ―――と、左之助はぼんやりと思い返す。
先ほどまでの隊長の話を聞いていなかった訳ではないのだけれど、咄嗟に思い出せなかった。
見上げるその人物はと言えば、そんな左之助の様子など気付いていない。
それが無性に寂しくて、左之助はわざと抱えた刀を揺らし、小さく金属音を立てる。
そうしてようやく、その人は左之助へと視線を落とし。
「どうした、左之助」
その時、自分がどんな顔をしていたのか、左之助には判らなかった。
左之助がずっと見上げていた人物――――相楽総三は、左之助を見つめる時、いつも優しい瞳をして。
それは左之助が子供であるからなのだろうけれど、左之助は少しだけそれが嬉しかった。
なんだか自分が特別扱いされているようで、それを喜ばない程、左之助は摺れた子供ではなかった。
その時も相楽は口元に小さな笑みを浮かべ、子供を安心させるように語りかけ。
膝を折って目線の高さを左之助に合わせていた。
「もう直、出立するぞ。準備は良いか?」
「あ、はい!」
そうだ、次の目的地の話をしていたんだった。
出立するという言葉にようやく思い出し、左之助ははきはきとした返事を返す。
準備も何も、左之助の持ち物と言ったら、自分の脇差と預けられた隊長の刀のみだ。
気持ちさえしっかりと出来上がっていれば、いつだって隊長を追いかけて行ける。
しっかりとした返事に満足し、相楽は一度、左之助を見て頷いた。
それに左之助が答えるように笑うと、相楽は立ち上がる。
また凛とした顔付きで、隊長として隊士達に指示を飛ばす。
それをまた、数分前と同じように、左之助は見上げていて。
つい先ほどまで、同じ目線の高さにいた人だとは思えずに。
隣にいるのに。
傍にいるのに。
同じ目線の高さにはなれない。
子供の自分と、大人のこの人。
準隊士と、隊長。
この人がしゃがんでくれないと、同じ目線の高さになれない。
………近くて遠い、憧れの人。
隊長スキスキ左之助。
子供な自分が歯痒いのです。