例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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01 近いけれど遠い存在






一番近い筈なのに、一番傍にいる筈なのに。
時折、酷くこの人が遠くにいるように感じるのは、何故だろう。

預けられた刀を抱き締めて、隊士達に指示を飛ばす人物を見上げながら、左之助は思う。



凛とした横顔を見上げるのは、いつもの事。
この姿勢に慣れてしまった首は、もう痛みを訴えることもなかった。




周りの隊士達が、指示に従って準備を始めている。
それをちらりと見て、なんの準備をしていたんだっけ―――と、左之助はぼんやりと思い返す。
先ほどまでの隊長の話を聞いていなかった訳ではないのだけれど、咄嗟に思い出せなかった。

見上げるその人物はと言えば、そんな左之助の様子など気付いていない。
それが無性に寂しくて、左之助はわざと抱えた刀を揺らし、小さく金属音を立てる。


そうしてようやく、その人は左之助へと視線を落とし。







「どうした、左之助」






その時、自分がどんな顔をしていたのか、左之助には判らなかった。


左之助がずっと見上げていた人物――――相楽総三は、左之助を見つめる時、いつも優しい瞳をして。
それは左之助が子供であるからなのだろうけれど、左之助は少しだけそれが嬉しかった。
なんだか自分が特別扱いされているようで、それを喜ばない程、左之助は摺れた子供ではなかった。

その時も相楽は口元に小さな笑みを浮かべ、子供を安心させるように語りかけ。
膝を折って目線の高さを左之助に合わせていた。





「もう直、出立するぞ。準備は良いか?」
「あ、はい!」





そうだ、次の目的地の話をしていたんだった。
出立するという言葉にようやく思い出し、左之助ははきはきとした返事を返す。

準備も何も、左之助の持ち物と言ったら、自分の脇差と預けられた隊長の刀のみだ。
気持ちさえしっかりと出来上がっていれば、いつだって隊長を追いかけて行ける。


しっかりとした返事に満足し、相楽は一度、左之助を見て頷いた。
それに左之助が答えるように笑うと、相楽は立ち上がる。
また凛とした顔付きで、隊長として隊士達に指示を飛ばす。

それをまた、数分前と同じように、左之助は見上げていて。






つい先ほどまで、同じ目線の高さにいた人だとは思えずに。












隣にいるのに。
傍にいるのに。

同じ目線の高さにはなれない。


子供の自分と、大人のこの人。
準隊士と、隊長。

この人がしゃがんでくれないと、同じ目線の高さになれない。




………近くて遠い、憧れの人。
















隊長スキスキ左之助。
子供な自分が歯痒いのです。
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