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いつもよりも歩幅が違うこと、腕の長さが違うこと、見える世界が違うこと。
それら全てがどうにも落ち着かないようで、京一は動き回ることを避け、ベッドの上でじっと胡坐を掻いていた。
その間も耳と尻尾は下を向いたまま、時々右へ左へピクピクと動く程度で、表情はずっと不安げだった。
自分自身への状態への不安からか、八剣が傍らを離れようとすると不安そうに見上げて来る。
はっきりと頼ってくるのが判るなんて、今まで一度もなかった事だった。
耳の裏をくすぐる八剣を、京一は今だけは振り払おうとしなかった。
尻尾が常に八剣の背中に擦り寄って、いつもよりも判り易く、京一は八剣に甘えている。
(可愛いとは思うんだけど)
成長した京一の姿は、決して八剣にとっては厭うものではなかった。
丸かった頬がシャープになり、無骨な凹凸のようなものはなく、整っていると言って良い。
尖ってはいたが子供らしく大きかった目元は、糸のように細くなる事もなく、はっきりと、心持切れ長に余韻を残していた。
不機嫌な印象もあるけれど、流し目でもすれば一発で女性は落ちるのではないかと八剣は思う。
身体つきは少し華奢に見えるが、それは単純に細いからではなく、無駄な脂肪も筋肉もないからだ。
余計な分を削ぎ落とし、加えて白の襦袢を着ている所為で、着痩せして見えるのだろう。
もしも本当に将来、京一がこうなると言うのなら、これはかなりの有望株だ。
少しとっつき難い印象はあるものの、美丈夫であると言っても決して過言にはなるまい。
贔屓目ではなく、八剣はそう思った。
……八剣が一般人と違う感覚があると言ったら、今の京一を“可愛い”と形容する事だ。
確かに整っており、美形と呼べる面持ちだが、それを見て人が思うのは“格好良い”が精々だろう。
其処を“可愛い”と述べる辺り、八剣にとって京一は、どんな姿形であっても、自分が拾った“子猫”であった。
常の天邪鬼を引っ込めて甘える京一。
その目は、少しずつ気持ちが落ち着いてきた表れか、瞬きがゆっくりとしたものになっている。
リラックスと睡魔の合図だった。
「寝るかい? 京ちゃん」
「……寝たら治るか?」
「さぁ、判らない。でも、治ってるかも知れないね」
「…じゃあ寝る」
断定が出来ないので曖昧な言葉になったが、今の京一はそれで十分らしい。
…単に、眠っても大丈夫なのだと言う安心が欲しかったのかも知れない。
いつものように登る必要のないベッドに乗って、丸くなる。
体は大きいのに、その様は子猫とまるで変わらない。
それどころかいつもよりやけに小さく見えて、放っておけなかった。
八剣がベッドに乗り上げると、京一の耳と尻尾がぴくりと動いた。
動かないその体を後ろから抱き込むと、一瞬だけ、緊張したように尻尾が僅かに膨らんだ。
「大丈夫だよ、京ちゃん」
大きいけれど、小さな体を抱き締めて囁く。
二人の体の間で、尻尾がふわふわと揺れて、それから自分の腰を抱く八剣の腕に擦り寄った。
子猫が眠ったのは、それから数分も経たない内の事だ。
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眠れる場所=安心する場所。