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深夜になって、八剣は目を覚ました。
特に理由はない、単純に喉の渇きを覚えただけの事だ。
起き上がる前に、抱き締めたままだった子猫を見た。
が、やはり其処にいるのは見慣れた子猫ではなく、一気に成長した猫だった。
起こさないようにとゆっくり抱いていた手を離して、ベッドを降りる。
むずがって身動ぎする音が聞こえたが、目覚める様子はなかったので、そのまま八剣はキッチンへと向かった。
冷蔵庫の冷えた茶をグラスに注ぎながら、思う。
(明日起きて治っていなかったら、また落ち込むんだろうねェ)
いつも強気で生意気盛りな京一だが、それは天邪鬼な性格がそうさせるのだろう。
寂しい時も「寂しい」と言えず、構って欲しい時も「構って」と言えない。
言うくらいなら平気だと強がって見せるのが常だった。
だが今回の事は、強がるよりも混乱の方が大きいらしく、天邪鬼が顔を出す余裕もない。
自分自身が訳も判らず急成長なんてしたら、誰でも不安になって、自分の体がどうなったのかと不安になるのも当然だ。
「大人になれた!」なんて喜んでいられる人は、相当ポジティブで楽しい人生を送れるだろう。
京一は、早く元の姿に戻りたいに違いない。
大きくなった手も、歩幅も、高くなった目線も、何もかもが落ち着かないようだった。
――――――だが。
(俺はもう少しなら今のままでもいいかなと、ちょっと思ってるんだけど)
冷茶を傾けつつ、そう思ってしまう。
だって可愛いのだ。
いつも強がりで中々素直に甘えて来ない京一が、不安を全面に出して八剣を頼っている。
少し離れようとしただけで不安そうに見上げてくるなんて、今まで一度もなかった。
不謹慎とは判っているが、可愛いと思ってしまう自分を誤魔化すことは出来ない。
原因が判らないのは無視できないし、判らない以上、京一はずっと不安になるだろう。
いつまでも悲しい顔をさせているのは八剣とて本意ではない。
それはちゃんと調べよう。
だが、それまではもうちょっとだけ、あの成長した姿でもいいなと思う。
端整に育った面立ちが、不安から憂いを帯びる様も悪くない。
(まぁ、そう言う訳にもいかないか)
優先すべきは、京一の心の平穏である。
願わくば明日元に戻っているように、無理ならば出来るだけ早急に原因を解明しなくては。
空になったグラスを流し台に移し、軽く水で流して逆さにして置いた。
ちゃんと洗うのは明日にしよう、今はこれよりも京一の傍にいなくてはいけない。
不安を抱えている時と言うものは、人の温もりに敏感になるものだ。
寝室に戻ると同時に、布団がばさりと落ちる音が聞こえた。
いつものように寝返りを打ったのだろう。
京一は、不安や嫌な事があるとじっと丸くなって動かなくなる傾向がある。
意識の有無に関わらず、昼寝のように単純に丸くなっているのとは違い、本能が身を守ろうとするように、蹲ってじっとしているのだ。
それが寝返りを打つようになると、多少なり、その緊張が緩和された兆しになる。
明日、元に戻っていれば、いつもの拗ねた可愛い顔が見れるだろう。
ちょっと惜しいかな、と思いつつ、八剣はベッドに近付いた。
……近付いて、一瞬、息を忘れる。
肌蹴た胸元。
皺だらけになった襦袢の裾。
広がった其処から覘く太股。
着替えさせた時に帯を結んで判った、腰の細さ。
成長したとは言え、体格差はあって、だから八剣の着ていた着物は彼にはまだ聊か大きくて。
京一が今来ている襦袢は、普段は八剣が寝巻きに使っているものだ。
それを着て寝乱れる様は、正に――――――
(………おっと、)
まずいまずい。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
何がどうまずかったのか、それは意識的に頭の中から追い出す。
やはり、明日には戻ってくれている方が良い。
落ちた布団を拾い上げながら、八剣は考えを改めた。
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保護者ですから、其処は越えちゃいけないライン……の筈(笑)。
翌朝には元に戻ってますよ。
京一は自分の行動が恥ずかしいものだったので、何もなかったように振舞います。
八剣は一瞬の動悸を思い出さないように、何も聞かないし、改めて掘り返したりもしません。
でも猫って人より成長早いから、ね!(駄目だこいつ)