[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
―――――――悪い気がしない時点で、それはつまり、やっぱり嬉しいと言う事で
This is one how to celebrate
『Happy birthday、京一―――――!!』
綺麗に揃ったその言葉を切っ掛けに、クラッカーの音が次々と鳴り響く。
宙に飛び出したカラーテープが翻り、京一の頭に降り注いだ。
照れ臭いやら、恥ずかしいやら。
並んだ笑顔を前にして、京一は耳が赤くなるのを感じていた。
場所は行き付けのラーメン屋。
右隣から緋勇龍麻、マリィ、醍醐、小蒔、葵、遠野、如月、雨紋、織部姉妹、八剣、壬生、墨田四天王。
隣に立つ龍麻が顔を覗き込み、いつもの笑顔を浮かべ、
「おめでとう、京一」
改めて面と向かって言われて、京一は頭を掻いて、小さく「おう」とだけ返す。
それだけで龍麻は満足だったらしく、見慣れた笑みを尚深くする。
龍麻一人に言わせてなるものかと、醍醐、小蒔、葵、遠野からも同じ言葉が向けられる。
「京一、おめでとう」
「おめでとー」
「京一君、18歳おめでとう」
「おめでと、京一ッ。ほら、こっち向いて、こっち!」
「撮るなッ」
相変わらずカメラを手放さない遠野に制止してみるが、聞く訳もなく、しっかりピントを合わせてシャッターを切られる。
今更だとそれ以上は好きにさせる事にして、京一は集まったメンバーを見渡す。
「よくこんなに集まったモンだな。暇なのか? お前等」
「バカ言えよ」
京一の言葉に抗議が上がる。
織部雪乃のものだった。
雪乃と雛乃は、今日は見慣れた巫女服ではなく、ゆきみヶ原高校の制服だ。
少々の新鮮味を感じつつ、京一は雪乃の言葉を待った。
「店が燃えた如月は暇だろうけど、オレや雛は忙しいんだよ」
「じゃ、なんで来てんだよ」
「祝うんだったら、大勢の方がいいだろ。来てやったんだから感謝しろよ」
「姉様……申し訳ありません、蓬莱寺様」
姉の態度に謝罪を述べる雛乃に、まぁ予想はしていたからと京一は気にしていない事を示唆する。
織部神社の巫女など暇ではないだろうに、其処に大の男の居候が二人もいるのだ。
命賭けで闘った間柄とは言え、京一と織部姉妹の間の接点は薄い。
大方、小蒔か葵がゴリ押ししたのだろう。
しかし二人の手には、小さいがプレゼントのようなものが握られている。
例え他人からのゴリ押しでも、貰える物は貰うつもりの京一だ。
吾妻橋達は、恐らく龍麻が呼んだのだ。
京一の誕生日と聞けば、アニキシンパの彼らの事、飛びつくに違いない。
龍麻の隣を陣取るマリィは、元々このラーメン屋に預かって貰っている。
だからこの店に来た時点で、彼女の襲来は避けられない。
如月は、葵が声をかけたのだろう。
彼の葵至上主義は、最初に会った頃から感じていた。
でなければ、寄ると触ると憎まれ口しか出ない仲で、祝いになど来る訳がない。
それから――――雨紋。
視線を向けると、聞きたいことは解ったのだろう。
雨紋は胸を張って、
「人気バンド“CROW”のボーカリストに祝って貰えるんだぜ。喜べよ」
「押し付けがましいんだよ、テメェは。大体、オレがベースやるっつったのにお流れにしやがって」
「…その話、まだやる気だったんだ…」
ぽつりと呟いたのは小蒔だった。
ベースがお流れになった件については、言いたいことはあるが、今日は祝いの席である――――それも自分の。
心象悪くするのも嫌だし、一応、祝ってくれると言うのだ。
文句は一先ず飲み込むことにする。
最後に、一番このメンバーの中で違和感のある二人へ。
「………で、お前等は?」
壬生紅葉と、八剣右近。
拳武館の一件が片付いたとは言え、京一自身は、二人とそれ程親しい間柄ではない。
八剣の方は街中で顔を合わせると妙にちょっかいをかけてくるが、壬生の方はからっきしだ。
壬生がメガネに指をかけて、俯き加減で呟く。
「……駅前で緋勇から声をかけられた」
「ああ、俺もだね」
「龍麻ァッ!」
隣に立っていた龍麻に声を荒げると、相手は動じる様子もなく、
「だって、お祝いだし。沢山の人にして貰った方が嬉しいよ」
「相手を選べ、相手を! 節操なしも大概にしやがれ!」
「僕、節操なしじゃないよ」
「問題は其処じゃねェッ」
微妙にズレた発言の相棒に怒鳴るも、龍麻は首を傾げるだけだ。
良かれと思って声をかけたのだろうが……
そして、何故二人もこうやって堂々と来ているのか。
憤慨する京一を宥めたのは、龍麻と逆隣に立っている吾妻橋だった。
「まぁまぁアニキ。めでたい席ですから、その辺で……」
「お前もな、忘れた訳じゃねェだろうが」
八剣を指差して言うと、八剣が此方に向けて笑みを浮かべる。
吾妻橋は彼に拉致され、他のメンバーも身動き出来ない状態にされたのだ。
京一を呼び出す為に、あんな手の込んだ果たし状に。
考えないようにしていたのか、吾妻橋の顔色が少々悪くなった。
八剣の視線が此方に向いている事に気付くと、隠れるように京一の後ろに回る。
「その、龍麻サンが呼んだそうなんで……」
龍麻は京一の相棒だ。
京一が誰より何より信用している人間である。
その人が呼んだ相手だから、苦手意識はありつつも、反対など出来る訳がなかった。
そもそも、京一が一度でも完膚なきまで負かされた相手に、彼らが挑める筈もない。
あらぬメンバーが集まった原因が龍麻であると聞いて、隣に立つその人物を睨み付ける。
しかし龍麻はやはり何処拭く風と言う面持ちで、変わらぬ笑みを浮かべるだけだった。
馴染みのラーメン屋をすっかり貸し切った状態で、京一の誕生日パーティは行われた。
何も此処までしなくていいだろうと思うが、向けられる笑顔に悪い感情が浮かぶ筈もなく、寧ろくすぐったくて仕方がない。
見渡せばそれぞれの祝う笑顔があって(マリィは少々拗ねた顔をしていたが)、京一は何処を向くにも向けられる笑顔に耐え切れず、少々視線を伏せていた。
が、そうすると龍麻が覗き込んでくるので、にっちもさっちも行かない。
ラーメン屋にはある筈のないケーキは、甘さ控えめになっており、京一も無理なく食べられた。
醍醐の手作りだと聞いて、相変わらず顔と体格に似合わない性格だと思う。
チョコレートのメッセージプレートには、筆記体で「Happy Birthday」
の文字が並び、また無性に照れ臭さに見舞われた。
ケーキを食べ終え、コニーの作ったラーメン屋のメニュー料理も食べて。
満たされた腹に満足感を覚えていると、それじゃあ、と小蒔が手を叩き、
「そろそろ渡そうか、プレゼント」
言われて、ああそうか、と京一は思い出す。
気安い雰囲気から、段々といつもと変わらぬ集まりのように感じていたが、誕生日パーティなのだ。
織部姉妹が早速用意していた袋を取り出す。
手渡されたそれを開けると、織部神社の御守りが入っていた。
「オレは信心なんざねェぞ」
「ンな事期待してねーよ」
自分には不似合いであると遠巻きに告げると、雪乃がきっぱりと言い切った。
「それでも、ご利益は保証するぜ。何せ、オレと雛が氣を込めた厄除けの御守りだからな」
「私達にはそれが一番の祝品かと思いまして。どうぞお納め下さい、蓬莱寺様」
――――確かに、織部姉妹からの贈り物なら、ご利益もありそうだ。
「そりゃいいんだがよ。コレ本当に厄除けか?」
「そうだぜ。どうしたんだよ?」
「…………“交通安全”って書いてあるんだが」
「え!?」
「あら」
京一の言葉に、雪乃と雛乃が目を瞠る。
慌てる二人に御守りを見せると、其処には確かに“交通安全”の文字。
「しまった! 悪ィ、袋間違えちまったんだ」
「申し訳ありません!」
「中の札はあってると思うんだけどな。だよな、雛」
「ええ、破邪の札を……」
頭を下げる雛乃と、両手を合わせて謝る雪乃。
そんな二人に京一は手を振り、
「別に構やしねぇよ、どれがどう違うんだからオレにゃ判らねェし」
「でも……」
「お前等が祈祷したモンなら、どれでも効果ありそうだしな」
根拠もなくそう思いながら、京一は御守りを袋に入れ、鞄に詰める。
小蒔や葵のように見える場所には付けないだろうが、中に持っていてもいいだろう。
続いたのは、壬生。
「…お前からも?」
「急ぎだったので、大したものじゃないんだが…」
「いや、オレが聞きたいのはそう言う事じゃねェんだが」
八剣よりも更に接点の薄い壬生から、プレゼントを貰う理由が判らない。
いや、それよりも律儀に用意して来てくれた事に驚いた。
…ついでに遡って考えると、彼がクラッカーを持っていた事も驚きだ。
壬生が取り出したのは、薄い紙袋。
何が入っているのか皆気になるようで、じっと壬生の動向を見守る。
表情を変えないまま、壬生が袋から取り出したのは、黒のマフラー。
「良かったら使ってくれ」
「お……おう……」
意外な品物――――と思いながら、意外と言うにも京一は壬生の事を知らない。
しかし予想していたなかった物であるのは確かで、困惑気味に差し出されたマフラーを受け取った。
「セーターや手袋の方が邪魔にはならないと思ったんだけど」
「いや……」
「一日で作るとなると、中々」
「ふーん……―――――って、作ったァ!? しかも一日!?」
「正確には半日かな」
手編みのマフラー。
そういう事か。
京一が驚愕の声を上げると、他の面々も同様に目を剥いている。
唯一、八剣だけが驚く様子もなく、
「相変わらず器用だね、紅葉。流石は手芸部」
「手芸部!? お前が!?」
「可笑しいかい?」
「い、いや、可笑しかねェけどよ……意外っつーか、なんつーか」
女子がしげしげとマフラーと覗き込み、編み方が難しいだのなんだのと盛り上がっている。
黒のマフラーは特に柄もなく、シンプルなもの。
それでも、一日(正しくは半日と言うが)で作り上げるなんて、京一には到底信じられない。
「僕には他に出来る事はないから」
「あ、そ……ま、使わせてもらうわ……」
季節は真冬。
大寒の日が過ぎたとは言っても、この季節はあと一ヶ月続く。
普段から薄着の京一である、防寒具は貰っておいて損はない。
次は雨紋だった。
「…見たトコ、持ち合わせがねェって感じだが」
「まぁ、手渡し出来るもんじゃねえな」
言って雨紋は、壁に立てかけていたギターを取り出す。
「俺様直々にHappy Birthdayを歌ってやる!」
「いらね」
きっぱりと断わった京一に、雨紋がなんでだよ!? と声を荒げた。
「滅多にしねェぞ、こんな事! セッションした仲だからこそだ!」
「いや、いらねェ。ロックにノせられても嬉かねーし有り難くもねーし」
雨紋が好意で言ってくれていると、それは判るが、京一の台詞も本音だ。
散々祝いの言葉を貰って、改めてバースディソング(しかも激しい調で)を歌われるなんて勘弁願いたい。
ついでに言うなら、此処は新宿都心の中にあるラーメン屋。
それほど壁が厚い訳でもないし、ご近所に迷惑な音が鳴り響くのは予想できる。
此処に来るのが後々気まずくなるのは御免であった。
----------------------------------------
≫
----------------------------------------