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歌わせろだのいらないだの、延々続くかと思われた押し問答は、如月の咳払いで幕を閉じた。
京一は眉根を寄せ、如月に目を向ける。
「お前もなんかあんのか?」
「お前のような単細胞に必要なものがあるのかと、少し考えたが、一応な」
「……京一、怒らない」
如月の言葉に青筋を立てた京一を、龍麻が宥める。
如月の手から放り投げられた小さな紙袋をキャッチする。
袋の中の膨らみは薄く、手触りで御守りであると知れた。
「なんでェ、織部と被ってんじゃねェか」
言いながら袋を開けて、中身を取り出す。
「………二つ?」
「君には足りないものが多過ぎるからな。かと言って欲張るのも良くない。最低限これは必要だろうと、それらを選んで来た」
「ケンカ売ってんのか、手前」
如月を睨む傍らで、吾妻橋が御守りの一つを手に取る。
其処には、『学業成就』の文字。
それを見た一同の脳裏に過ぎったのは、京一の学校での成績。
はっきり言って宜しくなく、赤点・補習は常連である。
真神のメンバーには卒業さえ怪しいのではと言われているので、成程これは必要だと言う感想が沸く。
が、京一にしれみれば莫迦にされた気分だ。
神頼みという柄ではないし、骨董品屋に埋もれていた物がどれだけ利益があるかは知らないが、貰うだけ貰おう。
そう思う一方で舌打ちを漏らしながら、こっちはなんだともう一つの御守りを見る。
其処に書いてあったのは、
「………………………………………………………………安産祈願?」
呟いた京一の言葉に、しん、と店の中が静まり返った。
それから如月へと視線が向けられる。
「……如月君、間違えたの?」
「いえ」
「…なんで安産…?」
「必要かと」
「いや、京一、男だし」
真顔のまま微動だにしない如月に、一同は当然、困惑する。
女子が相手なら、気が早いと言われても、いつかは通る道である。
今は必要なくても。
気の知れた相手で、冗談を言い合うほどなら、笑って済ませる事だ。
まして、如月と京一の間柄は決して穏やかではないし、最初の頃程ではないにしても、やはり憎まれ口を叩き合う仲。
ベチッ、と音がして、京一が御守りを床に叩き付けた。
「テメェやっぱケンカ売ってんだろ、このムッツリ野郎!!」
「真摯に考えて行き着いたものだ」
「尚更悪いわッッ!!!」
「アニキ、落ち着いて下せェ!!」
「離せ、いっぺんブッ飛ばすッ!!」
木刀を振り上げた京一を、龍麻が後ろから羽交い絞めにした。
それでも激昂して暴れる京一に吾妻橋が宥めようと必死になる。
「オレになんでこんなモンが必要なんだよッ! 頭イカれてんんか!」
「近いうちに必要になる」
「ならねーよ!!」
龍麻に抑えられては、暴れたところで早々逃れられる訳もなく。
止むを得ず両脇を押さえられたままの格好で、京一は如月を睨む。
その遣り取りを眺めていた八剣が割り込んだ。
「京ちゃんじゃなくて、京ちゃんの周りで必要な人がいるとか、かな?」
「京ちゃん言うな! いねーよ、そんな奴ッ」
「いや、蓬莱寺が必要なものだ」
「お前も頭沸いてんじゃねーぞ、コラァ!!」
「京一、どうどう」
八剣の考えを、京一だけでなく、如月までもが否定する。
益々困惑するのは周りの方で、如月の考えが全く読めない。
そんな中、誰も気付いてはいなかったが、八剣だけは如月を冷ややかな目で見ていた。
このまま京一を怒らせていたら、今日と言う日が台無しになる。
そう思ったのは様子を見ていた全員の一致で、慌てて遠野が話題転換を吾妻橋に持ちかけた。
「ね、アンタ達は何持ってきたの?」
「へッ? あ、あっしらですかい?」
「そうそう!」
話を振られた吾妻橋は、焦った様子で他の面々と顔を合わせる。
気まずそうなその表情が京一の視界に入り、京一は睨んでいた如月から無理矢理視線を外した。
京一に見られた吾妻橋達は、益々居心地が悪そうに縮こまる。
「その…あっしらは、その、金もねェもんで……」
―――――心酔する京一の誕生日。
何か出来る事はないかと考えたものの、金銭もなければ時間もない。
京一がその日その日で欲しいものは聞いているが、それを用意する事も出来ない。
集まったメンバーが各々のプレゼントを疲労する中、肩身が狭くなったのだろう四天王達は、その肩書きを忘れてきたかのように、叱られるのを恐れる子供のように縮こまっている。
京一はそんな舎弟達を見て、ガリガリと頭を掻く。
「……別に期待しちゃいねェから、気にすんじゃねえよ」
「すいやせん!!」
「だから謝るなっつーの。その代わり、今度ラーメン奢れよ。それでチャラだ」
「へい! アニキの為でしたら、幾らでも!」
吾妻橋達の目は尊敬の眼差しだ。
優しいね、と隣から声が聞こえて、京一はそちらを睨む。
其処にあるのはやはり見慣れた相棒の笑顔だ。
その下から、高い少女の声。
「あたしも何もないわよ」
「お前こそ期待してねーよ」
マリィであった。
龍麻にずっとくっついたままの彼女が、龍麻以外に何かを贈る等、考えてもいない。
パーティの場所にこの店を選び、龍麻が参加するという時点で、彼女も参加するのは自然なこと。
それ以上に参加する理由はないのだ、彼女の場合。
でも、と龍麻と京一にのみ聞こえる小さな声で、マリィが続けた。
視線は、大好きな龍麻に向けて。
「どうしてもって言うなら、一つ約束してあげても良いわよ」
「どんな?」
訊ねたのは龍麻だ。
マリィはぽっと頬を赤らめ、恋する乙女のように恥ずかしそうに手で顔を隠しながら、
「あたしと龍麻ちんのラブラブ新婚生活計画、あんたも加えてあげてもいいわ」
「へーそーかい。そりゃありがてェな」
「そうよ、感謝しなさいよ。本当なら、お邪魔虫なだけなんだからねッ」
「へーへー。ありがとーよ、チビ」
ぐしゃぐしゃと乱暴にマリィの頭を掻き撫ぜてやる。
龍麻と違う粗野な手付きが気に入らなかったのだろう、直ぐに払われてしまったが、京一は気にしなかった。
龍麻と顔を合わせると、クスクスと楽しそうな笑顔。
マリィの計画が何処まで本気なのか、本当にそうなるのかはともかく、彼女が楽しそうなのが嬉しいのだろう。
京一も、生意気な子供だとは思うけれど、本気で怒るような気にはならない。
それは彼女の見た目が、まだ子供子供している所為でもあるのだろう。
生意気な口調の一つや二つ、受け流してやればいい。
悪気があってそうしている訳ではないのだから、此方が広い心で対応すれば良いのだ。
プレゼントと言うには随分曖昧なものであったが、これでマリィからのプレゼントも貰った。
残るは真神メンバーと、八剣だ。
「ボク達からは、さっきの料理だったんだ。コニーさんに調理場借りて、ケーキは醍醐君が全部作って」
「プレゼントと言っても、毎日顔を合わせていると今更っていう気がしてな」
「どう? 美味しかったかしら」
「ああ、美味かったぜ。ありがとよ」
「あたしからは、後でね。今日の写真、全部焼き増ししてあげる」
「おう」
改めて畏まられるよりは、京一も気が楽だ。
たらふく食べた後だし、その味も十分味わうことが出来た。
付き合いが長いこともあってか、味はちゃんと京一の好みに合わせて作られていた。
それだけでも京一にとっては嬉しい事だ。
醍醐の料理も、いつもは小蒔の為に作られているものが殆どだ。
それをわざわざ、自分の為に作ったのだから、それだけで妙にくすぐったい。
小蒔、葵も指先には絆創膏が張られており、努力の色が滲んでいる。
カメラをずっと構えたままの遠野は、チャンスさえあればシャッターを切っている。
一体どういう瞬間を撮っているのか知らないが、遠野らしいプレゼントだ。
「でも、緋勇君は緋勇君で用意したみたいよ」
「龍麻が?」
一体何をと窺ってみると、龍麻は鞄の中から箱を取り出す。
ラッピングなどされていない箱には、“イチゴパンケーキ”の文字。
龍麻らしいと思っていると、それを見た八剣が、
「あらら。被っちゃったね」
「八剣君も、苺?」
「じゃあないけど」
「お前だけだろ、苺に拘んのは」
龍麻の言葉に苦笑を漏らしつつ、八剣が差し出したのは、和菓子の詰め合わせだ。
「あまり甘いものは好きじゃないようだけど」
「…まぁな。食えない訳じゃねえよ」
詰められた和菓子は綺麗に並んでおり、綺麗な彩色が施されている。
上菓子と呼ばれる、細工も凝ったものばかりだ。
あまり馴染みのない品に、京一はしばしそれに目を奪われていた。
和菓子については全くと言って良い程知識もないのだが、知らなくても凄いと思う。
冬の季節を感じさせる伝統工芸に、他の面々も見入っていた。
その中から一つ摘んで、口に放り込む。
餡の甘みが広がった。
「甘ェ」
「茶請けにするのがいいよ。抹茶と合わせると美味いから」
「ふーん。抹茶ねェ」
「良い茶葉ならうちにあるから、今度来るかい?」
「調子に乗んな」
「それは残念」
菓子の食べ方など、気にした事もない。
『女優』に抹茶なんてあったかと考えつつ、龍麻に視線を戻す。
「で、お前はソレだよな」
「うん。美味しいよ。京一も気に入ってくれると思うな」
早速、と龍麻は一つ小袋を取り出して、封を開ける。
京一は口の中に残っていた和菓子の甘みを水で流して、龍麻の苺菓子を受け取ろうと手を伸ばした。
が、届くという場所でそれは逃げる。
目的である筈のものを掴み損なった手は、中途半端に宙で浮いている。
しばしフリーズした後、改めて延ばしてみると、やはりそれは届くという距離ですいと逃げた。
―――――――間抜けな事をしている、と思ったのは当然の事である。
手に菓子を持ったまま、龍麻はいつもの笑みを湛えている。
普段から何を考えているか判らないのが、その笑顔の所為で余計に内面が測れない。
何がしたいんだと眉根を寄せると、龍麻は益々にっこりと笑み、
「京一、あーんして」
「……………はァ!?」
何を言い出すんだと、呆れで口を開けた直後、ぽいっと菓子が放り込まれた。
一口で咥内に収まるサイズのそれは、口を閉じると同時に甘味が広がる。
美味い。
確かに、悪くはない。
考えていた程、甘くもなかった。
なかったが、さっきのはなんなんだ。
胡乱な目で見ると、龍麻はにこにこと代わらぬ笑顔を浮かべている。
なんだかその表情が満足感に浸っているようで、京一は口の中に菓子が残っているのもあり、閉口してしまった。
「いいねェ、それ」
「何が……んぐ」
八剣の言葉に反応して口を開けると、二個目が押し込まれる。
口の中に入ったものを出す訳にも行かず、京一はそれも食べ切る。
「京一、もう一個」
「待て、た……む…」
「まだいる?」
「………………ちょっと待て、龍麻」
三個目も飲み込むと、京一は手で口元を隠してストップをかける。
龍麻は止められた事が不思議であるかのように、きょとんとして首を傾げた。
京一の咥内は、和菓子に続く苺菓子の連続で、今までにない程甘みで一杯になっている。
もともと甘いものは得意ではないから、それ程甘くないとは言っても、連続で食べれば限界も早い。
吾妻橋に差し出された水を飲み干して、ようやく一息吐いた。
「お前は何考えてんだ」
「プレゼントあげたいなって」
「自分で食う」
「食べさせてあげたいんだ」
「………お前等も止めろッ!」
自分が言っても無駄だと判断して、京一は見ていた周囲の面々に言う。
「あ、いや……なんか、ごく普通にしてたもんだから…」
「タイミングを外したと言うか……」
小蒔と遠野の言葉に、京一はがっくりと肩を落とす。
完全に龍麻のペースに飲まれている。
壬生が眼鏡のズレを直し、龍麻に訊ねた。
「………君達は、よくそういう事をするのかい?」
「時々」
「するか、阿呆ッ!!」
声を荒げた京一に、龍麻が傷付いたように顔を顰めた。
「でも、昨日もしたし」
「ありゃお前が勝手にオレの口に苺パン突っ込んだんだろうが!」
「美味そうだなって言ったから」
「言っただけで、食いたいっつった訳じゃねーよ!」
そうなのか、と納得しかかっている壬生の誤解を撤回しようと、京一は違うと言い張る。
しかし龍麻の方も負けておらず、その前もした、と言う。
実際、殆どは龍麻の方が勝手に京一の口に菓子を押し込んでいるパターンである。
あまりに龍麻が嬉しそうに苺ばかり食べるから、それを眺めた感想を京一は述べただけだ。
京一の言葉に「食べたいの?」と問うならばまだいいが、問答無用で口に入れるのは勘弁願いたい。
もともと、甘い物はそれほど得意ではないのだから。
否定する京一に、龍麻の表情は段々と不満げなものに変化する。
が、此処で引き下がっては誤解が広がると、京一は壬生に違うからな! と詰め寄った。
そんな京一の肩を、八剣が掴んで引き寄せる。
「まぁまぁ京ちゃん。紅葉も判ってるだろうから」
「うるせェ、手前は引っ込んで―――――ぐ」
今度は、和菓子を放り込まれた。
食べ物を出す訳に行かないお陰で、京一は閉口せざるを得なくなる。
「あ、八剣君、ずるい」
「君が先に始めたんだろう」
「京一、あーんして」
口の中の和菓子は既になくなっていたが、これ以上は御免だと京一は真一文字に口を噤む。
同じように八剣も、次の和菓子を差し出していた。
「イライラしている時には、当分がいいんだよ、京ちゃん」
「京一、あーん」
するか! とさえ怒鳴れずに、京一は詰め寄る二人をどうすべきか、必至で逃亡策を考えるのだった。
「………食べ物か…そうか、それがあったか……」
「……如月君?」
「何言ってんだ? あいつ…」
「それより、京一どうしましょうか…」
「京一って、妙に男にモテるのねー…」
「オレ達の札、効果ないかもな」
「……《黄龍の器》ですものね」
「ロックでHappy birthdayの何が不満だってんだ」
「耳慣れないものであるとは思うよ、僕もね」
「だからいいんじゃねえか」
「……僕にはよく判らないよ」
「いいなぁ。あたしも龍麻ちんにあーんしてあげたいなー…」
「アニキィィ……不甲斐ない俺達を赦して下せェ……」
「……正直、おっかねェです…」
「京一、あーん」
「はい、京ちゃん」
(いい加減にしてくれ――――――ッッ!!)
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ギャグを目指して見事玉砕。
龍麻と八剣はゴーイングマイウェイ、ひっそり如月も壊れて頂きました(爆)。
初の如月×京一だったような気がします。
地味でごめん、如月。
マリィとの遣り取りを一番書きたかったような気がします。
あと、壬生は真面目な顔でボケ(多分、本人はボケてるとも思ってない)てくれたら良いと思う。