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「ん?」
後ろを歩いていた弥彦の声に、前を歩く左之助が立ち止まって振り返る。
弥彦はじっと左之助を見ていた。
目は左之助の顔に向かっていて、だから当然、左之助が振り返れば視線がかち合う事になる。
「なんでェ?」
「いや……?」
無遠慮に見つめられての左之助の問いは、無理もないもの。
しかし弥彦は首を傾げて、不思議そうにするばかりで、一向に問いに答えようとしない。
訳の判らない奴だと、左之助はくるりと背中を向けて、また歩き出す。
その背中を、また弥彦の目が追い駆けた。
背中にじりじりとした視線は感じられたものの、左之助はそれ以上気にしない事にして歩を進める。
「ったく、嬢ちゃんも人使いが荒いぜ」
「白味噌と赤味噌と醤油だよな」
「一気に買う必要あんのか? 大体、二月前に剣心が買ってたんじゃねェのかよ」
「買ったぜ。オレも一緒だった」
もう使い切ったのか? と言う左之助に、さぁ…と弥彦は言葉を濁すばかりだ。
だが確かに、味噌や醤油、薬味の減りが最近早い。
その原因は、神谷道場の家事一切を引き受けている緋村剣心ではなく、現道場主である神谷薫にある。
料理の下手さに定評のある薫であるが、恵に揶揄われて一念発起を起こしたらしい。
剣心に教わることなく、台所で悪戦苦闘しているのを弥彦はよく目撃している。
成績はあまり芳しくない様子であったが、頑張っているのを邪魔する気にはならないので、(生来の口の悪さのお陰で時々揶揄う事はあるが)彼女の気が済むまでやりたいだけやれば良いと思う。
ただ、出来上がった料理の味見をさせられる事にだけは、逃亡と言う手段を取らせて頂くが。
「でもいいじゃねェか、買出しぐらい。左之助はいつもタダ飯食ってんだからよ」
「へーいへい」
有り余っている体力と腕力の使い所は、こんな所にある。
また、左之助も別に薫に言われての買出しを厭うている訳ではあるまい。
なんだかんだと言って、こうして彼女希望の諸々をきちんと買い揃えて戻るのだから。
夏の日差しが、広い背中を照らす。
その背中で、見慣れた一文字が誇らしげに佇んでいた。
弥彦は、なんとなくその背中の一文字を見つめて歩いた。
一番最初に見付けた時には、はっきりきっぱり、妙な野郎もいるもんだと思ったものである。
今となっては、すっかり見慣れた背中になったけれど。
――――――その背中に、時々、
(……気の所為か?)
傍の川の水面で反射した陽光の一閃が、弥彦の瞳を一瞬射抜いた。
網膜が痛いと叫んだので、手の甲でごしごし擦る。
そうして離した、そのほんの僅かな一瞬に、
(誰かいる、訳ねェよな)
時には後ろに。
時には隣に。
ほんの少し離れた位置に。
誰かが見守るように寄り添っているように、見える気がするのだけど。
「おいコラ、置いてくぞ」
振り返って響いた声に、一度瞬きしてみれば。
其処には見慣れた顔があるだけで、やっぱり気の所為だよなぁと思う。
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[アマデウス : 神に愛される]……なんですけども。
左之助って、神も仏も頼りそうにないなぁι
色々悩んだ結果、左之助にとってある種の神と言ったら、やっぱり隊長かなーと行き着きまして。
幽霊になってまで左之助の前に現れた隊長とか、色々妄想が(笑)。
其処からこんなの出ました(また雰囲気モノ!)
拍手に弥彦初登場。
子供の方が霊感あるって言うよね。