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左之助は自分の感情に正直だ。
嬉しい、悲しい、腹が立つ。
遊びたい、腹が減った、眠い。
言葉にせずとも、顔と態度に出てしまう。
勿論、きちんとした場では我慢しているが、終わると途端に駄々漏れである。
良くも悪くも素直で、自分自身に嘘が吐けない。
左之助と克浩、二人が一緒に街に買い物に出た時、それは特に顕著になる。
「なぁ克、あそこの饅頭」
「駄目だ」
袖を引っ張って言われた言葉に、克浩はきっぱり言い切った。
左之助の顔が渋面になる。
「いいじゃねぇか、ちょっと寄ろうぜ」
「いつもそう言って寄り道してるだろう。今日は駄目だ」
そう、この光景は毎回のことだった。
左之助は町に出ると、大抵こうして、何某かに気を取られてしまう。
寒村育ちで、町に対して馴染みのないものが多く、子供らしい好奇心を刺激されるのもあるのだろう。
多くは子供らしく食べ物に、時に外国からもたらされた珍しい玩具であったりなど。
とにかく目に付くと気になるようで、ちょっと見ていこうと克浩を誘うのだ。
それを、克浩は毎回きっぱりと断わり、左之助の手を引っ張って宿へ向かう。
「なんでェ、別に急ぎじゃねェんだからいいだろ?」
「急ぎじゃなくても、早く戻るべきだ。勝手な行動は慎めって、隊長も仰っているだろう」
「判ってるって。だから、ちょっとだけだって」
「…お前のちょっとは長いんだ」
袖を引っ張っていた左之助の手を逆に掴んで、ぐいぐい引っ張って歩く。
半歩遅れて蹈鞴を踏むように歩く左之助は、いいじゃねェかとまだ引き下がらない。
「別に食ってこうって言ってんじゃねェよ、寄ろうって言ってんだ」
「駄目だ」
「腹減ってんだよ」
「戻ったら夕餉だ。必要ない」
「待ってらんねェよ」
空きっ腹を宥めるように腹を擦りながら、左之助は眉をハに字に下げる。
それを視界の隅で見てしまって、克浩は長い溜め息を吐いた。
買い物を頼まれた時、克浩は一人だった。
さて行こうかと思って宿の戸口に立った時、左之助が一緒に行くと言い出した。
その時、左之助の口の横には、みたらし団子の食べカスがついていたと思うのだが。
頼まれた品物を探すのに時間がかかったけれど、あれから一刻程しか経っていない筈だ。
なのにもう腹が減ったとは―――――克浩には考えられない早さだった。
なぁ行こうぜ、と駄々っ子のように左之助は繰り返す。
金がないとは言わなかった。
買い物を頼まれる都度、渡される金は、必要な分を僅かに上回る。
お使いのお駄賃だ。
それがなくても、左之助も克浩も、僅かではあるが小銭を持っている。
茶屋で団子や饅頭一つを買うぐらいは都合できる。
腹が減ったとしつこく鳴いた左之助だったが、しばらくすると沈黙した。
ちらりと肩越しに見遣ると、唇を尖らせて、通り過ぎる茶屋を眺めていた。
――――――そんな事をしているのは予想できていたのに、どうして振り返ったりしたのだろう。
「………まったく……」
「あ? なんか言ったか? ……うぉっ」
無言のまま、左之助の手を引っ張った。
看板娘のいらっしゃい、という声が響いた。
叶えてあげるよ、なんだって。
“もしも”じゃなくて、えらい現実的なものになりました(あれッ?)