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それは、嵐の如く現れた。
「ヘーイ! お久しぶりネー、My little friends!!」
前触れもなく――――いや、あるにはあった。
ドタバタと騒がしい足音と、それを追い駆ける遠野先生の声があったのだ。
だが子供達が皆集まる遊戯室は、そんな音など聞こえないほどに賑やかだったのだ。
とにかく、そんな(子供達は気付かなかった)騒がしさの後、その台風は遊戯室へと上陸した。
これでもかと言うほどに明るい声と共に、力一杯ドアを開けて。
外の騒がしさが解らないほどに賑やかだった遊戯室は、皆揃って、大きなボードゲームで遊んでいた所だった。
それを中断させて、一体何がやって来たのかと、子供達は振り返り。
「Why? 元気がないデスねー、どうしましたカー?」
「……アラン、皆驚いているわ……」
耳に手を当てて子供達の反応を待つ、片言の男。
その傍らからひょいっと顔を出したのは、コギャル風の少女だった。
またその後ろから、疲れた表情の遠野先生が見える。
龍麻は、この二人に見覚えがない。
きょとんとして首を傾げ、自分の隣に座っている京一に聞こうと、目を向けた。
そうすると、苦いものを食べた後のような顔をしている京一がいた。
「皆サン、Hello!! さ、ご一緒に!」
「「「「…………」」」」
「O~h……」
男は両手を上げて子供達に反応を促すが、子供達は皆ぽかんとしている。
すると男は酷く残念そうに目元に手を当て、大袈裟に溜息を吐いて見せた。
一番最初に我に返ったのは、子供達と同様に呆然としていたマリア先生だった。
マリア先生は眉毛をハの字にして、乱入者に少々引き攣った笑みを浮かべる。
「あ、アランさん……また突然ですね」
「Oh、ミス・マリア! 今日もオキレイね~。ミーもアナタのようなティーチャーが欲しいデース!」
「それはどうも。あの…今日、此方へ来られるとは、私は聞いていなかったのですが」
マリア先生の手を握りながら、男の口はよく動く。
マリア先生はその内容をさらりと交わして、何故此処にいるのかと問うた。
彼女の質問に答えたのは、男ではなく、彼の傍らで物静かに佇んでいる少女だった。
「商店街の方から、新しい子が入ったと聞いて…アランが、その子に逢いたいって」
「ミーの新しいおトモダチになる子だヨ。ちゃんと覚えておかないとネ~。勿論、セラもトモダチになるよ!」
言いながら、さてどの子だろう、と男は遊戯室を見回す。
子供達のボードゲームは、止まったままになっていた。
そのボードゲームで遊んでいたのは、龍麻、京一、葵、小蒔、醍醐、雨紋、亮一、雪乃、雛乃。
如月と壬生は遊戯室の隅で本を読んでおり、マリィは龍麻の背中に何をするでもなく、くっついている。
男の視線は一度ぐるりと教室内を見回した後、直ぐに龍麻へとロックオンされる。
「Youは初めて見る顔デスね。Youもミーの事知りませんか?」
「……うん」
「Bingo!」
親指を立てて自分の勘が当たったことを自賛する男。
龍麻はそのテンションに付いて行けず、問いに頷きはしたものの、表情はまだきょとんとしていた。
そのテンションに水を差すように、龍麻の隣からボソリと小さな声が漏れる。
「おめェが知らねェんだから、たつまが知るワケねーだろ……」
普通に考えたら聞かなくても判るだろ、と。
呟いたのは、京一である。
この小さな呟きは、隣に座っている龍麻には聞こえており、そしてこの乱入者にも聞こえたようだ。
男の人は視線を京一に移すと、おぉ、とまた大袈裟な程に驚きの声をあげ、嬉しそうな顔をする。
そしてあろう事か、京一を力一杯抱き締めたのである。
「Oh、キョーイチ久しぶりネ~! イイ子してたかな~?」
「だああああッ! うぜえーッ!!」
抱き締めた上に頬擦りする男の人に、京一はじたばた暴れて逃げようとする。
しかし子供の小さな体はあっさりと持ち上げられ、男は確りと京一を胸に抱き寄せてしまった。
「おろせ、はなせッ! かおくっつけんなー!」
「相変わらずのシャイボーイね~」
京一は男の髪を引っ張ったり、頬を抓ったり、とにかくありとあらゆる方法で暴れた。
普通の相手だったら、例えそれが大人でも、流石に手を離すだろうと思う程。
だが、この男は決して京一を離そうとしなかった。
何故だか知らないが、この大袈裟な男の人が京一を随分と気に入っている事は、龍麻にも理解できた。
同時に、京一がこの大袈裟な男の人を好いていない事も。
京一はあまり抱き締められたりと言う行為をされる事が好きではないようだが、こんなにも暴れて嫌がる事は少ない。
龍麻が初めて京一と逢った時、京一はアン子先生に抱っこされて暴れていたけれど、あれも本気ではなかった。
その後はちゃんと大人しく収まって、お風呂まで連れていかれていたし。
好きではないけど、嫌いではない、そんな感じ。
しかしこの男の人に抱き締められて頬を摺り寄せられている今は、全力で嫌がっているのが龍麻にも判る。
相手が嫌がっている事は、やっちゃいけない。
龍麻は父と母にそう教わったし、同じ事をこの保育園でもマリア先生は言う。
嫌なことをされている人を見たら、そのままにしておくのも良くない。
龍麻は慣れない男の人に少し緊張しながら、それでも京一の為に頑張った。
「あの」
「ンン?」
「きょういち、いやがってるから、やめてあげてください」
龍麻は男の人の服裾を引っ張って、精一杯に訴えた。
男の人はぱちりと瞬きして、龍麻を見下ろす。
そのまま男の人は停止していて、その間に、京一は男の人から解放された。
男の人と一緒に来ていた、少女の手によって。
「セラぁ~……」
「…本当に嫌がっているから」
京一を少女に奪われて、男の人は情けない声を漏らす。
が、少女は屹然とした態度で男の人を見て呟き、京一を床に降ろしてやった。
足が地面に着いた途端、京一はぱっと走り出して、遊戯室を出て行ってしまう。
逃げたのは誰の目にも明らかであった。
―――――その頃には、遊戯室は元の賑やかさを取り戻しており、現状に置いてけぼりになっているのは龍麻だけとなっていた。
龍麻は遊戯室を出て行ってしまった京一を追い駆けようとしたが、出来なかった。
男の人が、今度は龍麻を抱き上げたからだ。
結局、京一は、遊戯室のドア横で様子を見守っていた遠野先生が追い駆けていった。
急に目線が高くなって、見上げていた男の人の顔が同じ目の高さにあった。
男の人は龍麻の両脇に手を差し入れて、軽々と持ち上げている。
お陰で龍麻の足元は宙ぶらりんだ。
男の人はにこにこと、さっき京一を取り上げられた時の情けない顔は何処へやら、もう笑っている。
その隣では少女が変わらぬ表情で立っていたが、こちらは小蒔に促されてボードゲームの前に座った。
「はい、せらさんのカード」
「……ありがとう」
小蒔が渡したボードゲームに使用するカードを、少女は受け取った。
その表情は、此処に来た時からずっと変わらないのだが、決して冷たい印象はない。
「きょーいち、どっかいっちゃったよ」
「しょーがねーよ、アランがいるし」
「しばらくもどってこないな」
「マリィちゃんもゲームする?」
「うー」
「ひな、そっちのそれとって」
「はい、ねえさま」
止まっていたボードゲームは、リセットして最初からやり直しになった。
いつの間にか龍麻も不参加が決まっていて、龍麻の分のカードも片付けられる。
葵、小蒔、醍醐、雨紋、亮一、雪乃、雛乃のメンバーに、京一と龍麻に代わって少女とマリィが参加した。
部屋の隅にいた壬生と如月は、何事もなかったように本を読むのを再開させた。
男の人は龍麻を抱えたまま、ボードゲームで遊ぶ子供達の横に座った。
龍麻もようやく足に地面が着く高さになる。
男の人はじーっと龍麻を見詰めて来た。
龍麻は人に注目される事が苦手だから、なんだか酷く居心地が悪くて、目線を逸らしてしまう。
男の人は怒ることはなかったから、龍麻は男の人の気が済むまで、そのまま固まっていた。
マリア先生が怒ったりしないから、この男の人は多分怖い人ではないのだろうけれど、それでも龍麻は緊張する。
京一が隣にいてくれたら、もう少し平気だったのだろうけど――――残念ながら、彼はまだ帰って来なかった。
男の人はしばらく龍麻を見詰めてから、にーっと笑い、
「My name is アラン蔵人。ヨロシク~」
「ひゆぅたつまです」
「Good、Good。タツマはエライ子ねー」
ぐりぐり、頭を撫でられる。
少し荒っぽい、と言うよりは雑っぽい手付きに、龍麻の頭はぐいぐい揺れた。
アラン蔵人と言う名のこの男の人は、龍麻が知っている大人の中で、一番テンションが高い。
言葉が英語交じりなのはマリア先生で慣れているけれど、このテンションには龍麻は不慣れだ。
にこにこ笑顔はとても明るくて、見ていてこっちも楽しくなるのだけれど、この笑顔であれこれと身振り手振り話をされても、龍麻はどう反応して良いか判らない。
京一が此処にいないのも、この人が来てからいなくなってしまったのも気になる。
……多分、良い人なんだろうけど。
アランは良い子良い子と、しばらく龍麻の頭を撫で続けた。
丁寧ではないその手付きのお陰で、今朝母が梳いてくれた髪があちこち跳ねてしまう。
別に怒るような事ではないけど、ちょっとどうしよう、と思ってしまった。
龍麻の心中に気付かず、アランはにこにこ笑いながら、ボードゲームに参加している少女を指差す。
「彼女はセラ。セラ・リクドウ。セラ~」
間延びした声で名前を呼ぶアランに、少女はゆっくり振り向いて龍麻を見、
「…六道世羅。宜しく」
「ひゆぅたつまです」
小さく頭を下げた世羅に、龍麻もぺこりと頭を下げて挨拶する。
頭を上げると、彼女は小さく、本当に小さく、笑みを浮かべて頷いた。
世羅はとても静かだった。
アランとはまるで正反対に。
隣で小蒔や雨紋が賑やかにしていても、世羅はあまり喋らない。
話しかけられても小さく頷いたりする程度で、言葉で応える事はあまりなかった。
小蒔達は彼女のそんな反応にも慣れているのだろう、返って来る反応が小さくても怒らない。
どうして二人が一緒に此処に来たのか、不思議になる位、彼女はアランと真逆だった。
小さな笑みを浮かべた世羅に、アランは嬉しそうに笑う。
「セラは笑うとベリーキュートね~。オット! いつものセラもカワイイよ~。でも、女の子はスマイルが一番イイね」
ね? とアランは龍麻にウィンクしてみせる。
龍麻は一瞬返事に困ったが、笑った世羅が可愛かったのは確かで、この保育園にいる女の子達も可愛いと思う。
葵は柔らかく笑って、小蒔は元気に笑って、雪乃は男の子みたいに大きく口を開けて笑って、雛乃はちょっと首を傾げて笑う。
皆それぞれ違う笑い方で、皆それぞれ可愛かったから、アランの言葉に龍麻はこくりと頷いた。
頷いた龍麻に、アランは満足そうにうんうんと大きく何度も首を縦に振った。
その仕草がやけに大袈裟だ。
「女の子だけじゃない。笑えば皆シアワセ、Happy! 笑うカドにはCome come happyだヨ」
ふぅん。
アランの言葉は半分意味が判らなかったが、龍麻は覚えておこうと思った。
多分、良い言葉なんだろうなと思ったから。
けれど、そんな言葉を教えてくれたアランは、一転して天井を仰ぐ。
龍麻と同じ目線の高さになっていたアランだったが、そうなると龍麻から彼の顔を見る事は出来ない。
アランは天井を見詰めたまま、寂しそうな声で呟いた。
「……だから、ミーは皆の笑顔が見たいんだ。タツマの笑顔も、キョーイチの笑顔もね」
連なった名前に、龍麻の頭が揺れた。
知ってるんだ。
龍麻は思った。
彼は、京一がいつも一人でいた事を知っている。
だから、あんなにも京一が嫌がっても抱き締めて離さず、頬を摺り寄せていたのだ。
いつも眉毛を寄せて怖い顔をしている京一の、笑った顔が見たいから。
龍麻は京一が笑ったのを見た事がある。
あるけれど、それは仕方がないなと言うみたいに、少し困ったように笑ったもの。
葵や小蒔、雨紋のような笑顔じゃなく、皆のように楽しくて笑うものじゃない。
怖い顔はすぐに見せる。
小蒔や如月とケンカをする時、マリィが京一にちょっかいを出した時、直ぐにそれは出て来る。
それ以外は拗ねたみたいに口を尖らせていたりするのが殆どだ。
笑った顔は、あまり直ぐには出て来ないらしいと、龍麻は知った。
しばらく変な顔をした後で、ようやく、困った笑顔が出てくるのが、京一の笑顔の精一杯だった。
……アランはそれが寂しかった。
「ミーが笑えばミーはHappy、ミーのフレンズも皆Happyになる。Happyは広がるよ。だから皆笑えば、世界もHappy!」
「うん」
殊更明るい声で言ったアランに、龍麻は頷いた。
龍麻は、母と父の優しい笑顔が好きだ。
二人が笑うと、ああ嬉しいんだなと思って、龍麻も嬉しくなる。
嬉しさと言うのは人に伝わって、広がって行くものなのだ。
龍麻はイイ子ネ、とまたアランがぐいぐい龍麻の頭を撫でる。
大人しくそれを受けているからだろうか、アランは嬉しそうに笑った。
「タツマはHappy?」
「うん」
「ならスマイル! Don't forget、忘れちゃ駄目デスヨ~」
「うん」
アランは自分の頬を引っ張って、笑顔になる。
もともと笑顔だったのが、ちょっと可笑しな笑顔になって、龍麻はそれが可笑しくてクスクス笑った。
龍麻がボードゲームにもう一度参加したのを期に、アランもゲームに参加した。
一々大きなリアクションをしてくれるので、子供達はゲームよりそっちの方が面白くて仕方がない。
部屋の隅にいる壬生と如月は、アランを殆ど見ようとしなかった。
時々アランが一緒にやろうと声をかけるが、如月は丁寧に、壬生は無言で断った。
アランは残念がったが、世羅に「本を読んでいるのだから邪魔は駄目」と言われ、項垂れる。
これで二人のバランスは取れているのだと、龍麻は知った。
その間に―――――京一が戻ってくる気配はなく。
京一を追い駆けて行った筈の遠野先生は、一度戻ってきてマリア先生と話をした後、遊戯室を出て行った。
多分、京一の所へ戻ったのだろう。
雨紋が言っていた通り、アランが此処にいると、京一はいつも遊戯室からいなくなるらしい。
アランが何かと構いつけてくるのが嫌で逃げているのだろう。
一緒にいると楽しいのに、と龍麻は思ったが、反面、京一の気持ちが判らないでもない。
アランのテンションの高さについて行けないからだ。
だが子供のそんな心中を知ってか知らずか、アランは終始ハイテンションで子供達と遊び倒した。
昼を過ぎ、おやつがそろそろ用意される頃になって、アランと世羅は帰る事になった。
保育園の出入り口の門に立つアランと世羅を、皆でお見送りする。
門の側まで見送りに来ているのは、龍麻、葵、小蒔、醍醐、雨紋、雪乃で、他の子供たちは軒下で遠巻きに見ている。
壬生に至っては見送っているのか、日向ぼっこに出てきたのか判らない位だったりした。
アランはそんな子供達の名前を一人一人呼びながら、またネ、と手を振る。
世羅は細い指で女の子の髪を梳いたりしながら、また来てねと言う葵達に小さく頷いていた。
其処にはまたやはり、京一の姿はなかった―――――のだが。
「やだよ、はなせよ、アン子!」
「ダーメ。ほら、お見送りくらいしなさいッ」
「やだ! なんであんなの、見おくんなきゃいけねーんだよ!」
先生達の過ごす職員室の方から、京一とアン子先生の声が聞こえて来た。
龍麻がそちらを見ると、嫌がって廊下の柱にしがみついている京一と、柱から引っ張り剥がそうとしているアン子先生の姿があった。
やはり京一は、ずっと職員室で過ごしていたようだ。
見送りさえも嫌がる京一は、とことんアランの事が好きではないらしい。
あの過剰なスキンシップの所為である事は、誰の目にも明らかだ。
そちらをじっと見ていると、トントン、と肩を叩かれた。
振り返ると、しゃがんで同じ目線になったアランがいる。
「タツマはキョーイチと仲良しデスか?」
「うん」
アランの質問に、龍麻は迷わず、こっくりと頷いた。
すると、アランはにっこりと笑う。
―――――ふ、と。
龍麻は気になった事があった事を思い出し、アランの服袖を引く。
「みんなが笑うと、みんな笑うの?」
「Yes。タツマが笑うと、タツマのダディとマミィも笑う。タツマの側にいるヒト、皆スマイルになるヨ」
「じゃあ、ぼくが笑ったら、きょういちも笑ってくれる?」
龍麻の問いに、アランは一度きょとんとした。
その表情に、何か可笑しい事を言っただろうかと龍麻は首を傾げる。
次の時には、アランはそれまでとは違う、とても優しい柔らかい笑顔を浮かべていた。
「タツマは、キョーイチのこと好きデスか?」
「すき」
龍麻は、また迷わずにこっくりと頷いた。
「それならOK。キョーイチ、絶対に笑ってくれマース!」
「うん」
其処に大人が言う根拠などと言うものはない。
けれども、アランの笑顔が何よりの自信だった。
今は無理でも、きっといつかは笑った顔を見せてくれる。
皆の輪の中で、きっと眩しいくらいの笑顔を見せてくれる。
だからそれまで、いやその後も、ずっとずっと笑っていようと心をに決めた。
嫌だ嫌だと言う声が近付いて、京一がアン子先生に引き摺られて来た。
庭の半分を過ぎた所で暴れるのを諦めた京一は、ぶすっとした顔でアン子先生に手を引かれながら近付いてくる。
子供達とアランと世羅の集まる門まで来た京一は、アランをちらりと見ただけで、直ぐにアン子先生の影に隠れた。
アン子先生は怒ってみせたが、仕方がないと思っている部分もあるのだろう。
此処まで連れてくるだけでも大変だったのだから、これ以上の無理はしない事にしていた。
アランは、ひらひらと手を振っても反応しない京一に残念そうにはしたが、此処まで来てくれただけでも嬉しいのか。
にっこりと笑顔を浮かべて京一を見詰め、またネ、とぐいぐいと京一の頭を撫でた。
京一は、その手も振り払ってしまったけれど。
「O~h……」
「…やりすぎ」
「セラもヒドイ~」
大袈裟に肩を落として見せるアランに、世羅はくすりと微笑む。
仕方ないなぁ、と言う表情で。
アランはしばらく泣き真似をしていたが、子供たちに声をかけられるとケロリと笑顔になった。
龍麻は、彼がこんな遣り取りも楽しんでいるのだと感じた。
が、龍麻の隣の京一は、いつもの少し怖い顔でアランをじっと見ている。
怒ってはいないようだけれど、かと言ってアランのように楽しんでいる訳でもなさそうだった。
世羅が京一と龍麻の前でしゃがむ。
同じ目線の高さになった。
「……ごめんね」
「………」
「彼なりのスキンシップだから」
大袈裟な身振り手振りも、相手が嫌がるくらいの頬擦りも、テンションも。
全て彼が回りの人に楽しんで欲しいから。
京一がそれを嫌がって彼を敬遠しているのを、世羅もよく理解していた。
だが同時に、京一にもアランの事を理解して欲しいから、助け舟は出せても彼を止める事はない。
今の所、全力で彼のスキンシップから逃げている京一にしてみれば、中途半端にしか見えないだろうけれど。
京一は拗ねた顔になって、世羅を見る。
龍麻から見たその目は、もう怖くなかった。
そんなことわかってる、と。
小さく呟いた京一に、龍麻は嬉しくなって笑った。
アランと龍麻が見たいものは、そう遠くない日に見れるかも知れない。
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アランの口調が難しい! そして世羅、若干捏造気味……
私の中でアランと世羅はニコイチ、セットです。
一度で良いから、この二人を書いてみたかった。
アランは保育園の近くにある外国人向けの安アパートに住んでて、世羅は家出少女で居候してます。
このアパートの住人達は、時々国際交流と言う形で保育園に遊びに来て貰ってます。
逢った時から殆ど感情を表に出さなくなっていた世羅。彼女に笑って欲しいから、アランは色んな刺激になればと、一緒に保育園に行くのです。