例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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おじいちゃんのおにわ








「でやーッ」
「たぁッ!」
「やッ!」
「うりゃぁあッ」







元気な掛け声と共に、ぱしんぱしんと竹の打ち合う音。
中庭から鳴るそれを耳にしたマリア先生は、一つ溜息を吐いて音のする方向へと向かった。



真神保育園の子供達は今、保育園からバスで5分の場所にある、織部神社に来ている。
社会見学の一環であり、これは月に二回の恒例行事で、子供達は此処に来ると境内や本殿・拝殿の掃除を手伝う。


織部神社は、保育園に預けられている雪乃・雛乃姉妹の実家だ。

だが現在神主を務めているのは姉妹の両親や祖父母ではなく、その友人の荒井龍山先生だ。
長い髭を蓄えた荒井先生は、威厳もありつつ、子供達にはとても優しいおじいちゃんだった。


子供達は、宗教の事はよく判らない。
けれども広い境内や本殿はとても開放的で、掃除を面倒臭がる子はいても、此処に来る事は皆嫌いじゃない。

まだハイハイしか出来ないマリィは手伝いらしい手伝いは無理なのだが、荒井先生の心を和ませるのに一役買っている。
他の子供達は子供用に短い箒やちりとりを使って、織部姉妹の真似をしながら掃除に励んだ。
きちんと掃除が出来たら、後で美味しいお菓子がご褒美に待っているのだ。




……しかし、そんな事より今すぐ遊びたいと言うやんちゃな子供はいるもので。






「コラ、其処! 遊んでないで今は掃除の時間よ!」






マリア先生がそう言って睨んだ向こうには、チャンバラごっこで遊んでいる京一と雨紋。
雨紋の傍には亮一がいて、此方はチャンバラごっこに参加してはいないものの、雨紋と元気に遊ぶ京一を羨ましそうに見ている。

怒られた二人はチャンバラに夢中になっていて、マリア先生の声なんて聞こえちゃいない。






「めーんッ!!」
「いてッ!」






ぱかん、と軽い音がして、京一の振り下ろした箒が雨紋の額にクリーンヒットした。
雨紋は赤くなった額を押さえて、唇を尖らせる。






「ちくしょー、またきょーいちのかちかよォ」
「へへッ、剣ならまけねーぞ」

「そういう問題じゃないのッ」






自慢げに胸を張る京一と、剥れた顔の雨紋の頭を、マリア先生はペシンと叩いた。






「いてーッ!」
「何すんだよ、マリアちゃん!」
「マリア先生よ。今は掃除の時間なんだから、きちんとやりなさいッ」
「……へーい」
「……はーい」






マリア先生に怒られて、二人は綺麗にハモって返事をした。
いつもは優しいマリア先生だけれど、怒る時は怖いとちゃんと覚えているのだ。


くるりと方向転換したマリア先生の目に、箒を握ったまま棒立ちになっている亮一が飛び込んできた。
亮一もマリア先生が自分を見た事に気付き、びくっとして、慌てて掃除を再開させる。
マリア先生に怒るつもりなんてなかったのだけれど、気弱な亮一は仕方がない。

マリア先生は亮一に歩み寄ると、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
目線を合わせると亮一は微かに笑ってくれて、マリア先生も笑みが漏れた。



境内の方から遠野先生がマリア先生を呼ぶ声がした。
マリア先生はやんちゃっ子二人がきちんと掃除しているのを確認して、境内へと駆けて行く。

――――本殿の角を曲がってマリア先生の姿が見えなくなると、京一と雨紋は再び箒を構えた。






「こんどは負けねェぞッ」
「へッ、オレにかてるもんかよ!」






負ける訳ないと言う京一の表情は、確かな自信に裏打ちされているものだった。
京一の実家は、今は閉まっているけれど都内でも大きな剣術道場で、父は師範を務めていた。
門下生達の稽古風景を物心着く以前から見ていた京一は、箒を構える形だけでも、他の子供とは違う。



掛け声を上げながら再び試合を始めた二人に、亮一はどうしよう、と箒を履く手を止めて立ち尽くした。
さっきもこんな調子で、亮一はマリア先生が来るまで棒立ち状態だったのである。


あまり活発な性格ではない亮一にとって、雨紋と一緒になって遊べる京一の存在は羨ましい。
雨紋はいつも亮一の手を引っ張って、自分はそれに引っ張られて、京一のように元気に遊ぶことは出来ない。
…出来るのだろうけれど、自分に自信が持てない亮一は、どうしても積極的にはなれなかった。



雨紋と亮一の家庭は、極端な言い方をすれば、痛々しいものだった。
雨紋の両親は同居離婚状態で、亮一の親は父が母に暴力を振るい、亮一にもそれは及んでいた。
両親の冷え込みから逃れるように雨紋の意識は外に向かい、反対に亮一は物音一つ立てないように、家の前で蹲っているのが常だ。

一人で外を歩き回っていた雨紋が、家の前で蹲る亮一を見つけた事から、二人の関係は始まった。

それからしばらくは二人で遊んでいたのだが、亮一の父が酒に酔った暴力で、母が入院することになった。
入院先は岩山先生の病院で、其処でようやく、家庭内の虐待の事が明るみに出た。
岩山は雨紋も含め、保護預かりも行っている真神保育園に連絡し―――――今現在に至る。


当初の頃に比べれば亮一も少しずつ自分の意見を言えるようになって来たが、まだまだ雨紋がいないと怖いらしい。
また、虐待されていた事もあってか、痛みに人一倍敏感だった。

そんな亮一にとって、チャンバラごっこはなんだか怖い遊びに思えたのだ。
叩かれたら痛い、叩いたら痛い――――そんな遊びは、怖くて出来ない。
でも二人はいつも楽しそうだから、羨ましいと思う。




と言う事よりも―――――今は、掃除の時間な訳で。

さっきマリア先生に怒られたばかりだから、今は掃除をした方がいいんじゃないかな…と思うのだ。
でも楽しそうな二人を邪魔する気にはならないし、生来の引っ込み思案が邪魔をして、それを言えない。
言った所で、二人はヘーキヘーキと笑うだろうが。






「でやぁッ」
「ていッ」
「せやッ!」






京一の箒が雨紋の箒と十字でぶつかり合う。
んぎぎ、と二人は踏ん張りあった。

京一は箒の持つ手を変えて、ぐっと強く箒を押した。






「でぇいッ!!」






気合の雄叫び一本、京一は箒を押し上げた。
雨紋が万歳の姿勢になった瞬間、箒を下から上に向かって振り上げる。

ぱかぁん、と軽い音がして、箒は弧を描いて宙へ飛んだ。



飛んで、それから。






「あ、ヤベ」
「亮一!」






慌てた二人の声に、亮一はきょとんと首を傾げ―――――そんな子供の頭に、ぱかんと硬いものが落ちてきた。

落ちてきたのは勿論箒で、当たったのは柄の部分。
そこそこ硬い。





じわぁ、と亮一の瞳に大粒の涙が浮かんだ。






































大人でも広い拝殿は、小さな子供には益々広い。
広大と言う言葉が正に似合う。

それを端から端まで雑巾がけするのは、かなりの重労働である。


中庭の掃除を真面目しなかった罰として、マリア先生から京一と雨紋の二人はこの仕事を任された。
抗議はしても、こういう事にはしっかりと厳しいマリア先生は容赦してくれない。

とは言っても流石に、本当に子供だけで拝殿の掃除をさせる訳ではない。
織部神社で修行をしていると言うお坊さん達にとっては、掃除も勿論修行のうち。
小さな体で頑張る子供達の見本になるように、子供二人と数人のお坊さんが並んで、拝殿の雑巾がけをするのだ。



けれども、やっぱり広くても立って出来る掃き掃除に比べると、この雑巾がけは半端なく辛い。






「………っだ~~~~ッ」
「つかれたー!」






端から端へ、隅から隅まで、くまなく全部。
終わった頃には小さな子供二人はぐったりとしていて、雑巾を片付けるのも忘れて床にべたっと突っ伏した。

お坊さん達は怒る事もなく、自分の雑巾と子供達の雑巾を拾って水場へと向かう。
彼らいなくなると、拝殿にはもう京一と雨紋しか残っていない。


曲げっぱなしの背中と腰が痛い。
あと、足も痛い。

でも自業自得なのはちゃんと判っていた。



とたとた足音がして雨紋が顔を上げると、廊下に繋がる木戸から、ひょっこり顔を出している亮一を見つけた。






「亮一、そーじおわったか?」
「うん。らいとも、おわった?」
「さっきおわった」






終わったと聞いて、亮一はそろそろと拝殿に入って来た。






「ごめんな、なかにわ、一人でやらせちまって」
「ううん。ぼくもごめん。らいともきょういちも、わるくないのに」
「…んなことねーよ」






亮一の言葉に、京一は床に寝転がったままで言う。



京一が放った一撃で、雨紋の持っていた箒は飛んで、亮一の頭の上に落下した。
痛みに敏感な亮一が大きな声で泣き出して、それからマリア先生が飛んでくるまで時間はかからなかった。

京一と雨紋はマリア先生にこってり絞られた後、拝殿の雑巾がけを言い付けられた。
その時亮一はまだ泣いていて、二人は悪くないと言いたくても言えず。
自分が泣いた所為で二人が怒られたと思った亮一は、中庭の掃除を少しでも早く終わらせて、雑巾がけを手伝いに行こうと思っていたのである。


―――――その気持ちだけで嬉しくて、京一と雨紋は顔を合わせて笑う。
むず痒くなった鼻の頭を掻きながら。






「いいんだよ。どーせマリアちゃんにもっかい見つかってたら、コレやるハメになってただろうし」
「だな。だから亮一のせいじゃねェよ」






ぐりぐりと雨紋に頭を撫でられて、亮一はようやくホッとした顔になる。
それから、そうだと手を打って、






「みんなも、そうじおわったみたい。おやつだって」
「やりィ! 行こうぜ」






亮一の言葉に、雨紋が跳ね起きた。
立ち上がると亮一の手を引っ張って、廊下を慌しく走って行く。

京一は置き去りの形になったが、特にそれについて気にしてはいなかった。



雨紋と亮一は、あのまま他の子供達のいる部屋に向かうだろう。
ご褒美のおやつを食べる部屋はいつも決まっているから、迷うような事はない。

けれど、京一は大抵、その輪の中に加わる事をしなかった。
だから雨紋は京一を置いていったし、京一もそれに怒る事はない。


おやつは――――そんなに欲しくはない。
魅力を全く感じない訳ではなかったけれど、それがあるから頑張ろうと言うのとは違う。
腹が減っていたら食べに行くけど。

………そう思ったら、ぐぅ、と腹の虫が鳴った。






(………とりに行こ)






食べに行く、ではなく。
貰ったら直ぐに部屋を出るつもりで、京一は雑巾がけ開始から久しぶりに立ち上がった。

廊下へと続く戸口を潜って――――敷居を一歩跨いで、京一はあるものを見つけて足を止める。






「なにしてんだ? たつま」






拝殿内からは木戸の陰になって見えなくなっていた場所。
其処にきちんと膝を抱えて三角座りをしている龍麻。

名前を呼ぶと、龍麻は立ち上がって、嬉しそうに京一に駆け寄ってきた。






「あめ、もらったよ」
「しってる。そうじおわったんだろ」
「うん。きょういちもおわったよね」






京一が頷くと、龍麻はポケットから飴や小さな煎餅を取り出した。
多分、今日のご褒美のおやつで出されたものだ。






「これ、きょういちの」
「…いい。もらってくる」
「あげる」






京一の言葉を聞かないで、龍麻は京一の手に飴や煎餅を詰め込んだ。
入りきらなくてバラバラ零れても気にしない。


顔を見れば龍麻はにこにこ笑顔。
いらないと突き返したら、多分、このにこにこ笑顔は引っ込んでしまうんだろう。
なんとなくそれは嫌で、京一は貰った飴と煎餅と、床に落ちたそれらを拾ってまとめてズボンのポケットに突っ込んだ。

そうすると、龍麻はもっとにこにこ笑顔になった。



くすぐったくなった頬を掻いて、京一は皆のいる部屋とは反対を向いた。






「あっちでくおうぜ」
「うん」






指差したのは、拝殿の入り口の階段。
京一は前も其処に座って、一人でお菓子を食べていた。

龍麻は、皆の所に戻るとは言わないで、京一の後ろを嬉しそうについて来た。




春の暖かい風が吹き抜ける。

昼寝するには持って来いの様相に、龍麻は時々欠伸が漏れた。
京一も、こう言う日はお気に入りの木の上で昼寝をするのが好きだ。


でも今は昼寝よりもお腹が空いていたから、ご褒美に貰ったお菓子の包みを早速開ける。
ぱりぱりと景気の良い音が鳴って、まだ小さいけれど元気な胃袋は嬉しそうに食べ物を吸収していく。

保育園のおやつの時間に用意されるお菓子も美味しいけれど、此処で貰えるお菓子も美味しい。
新井先生はどこどこの何菓子で―――と説明してくれるのだけれど、京一はまるで覚えていない。
他の子もそれは同様で、ちゃんと聞いて覚えているのは如月と壬生くらいのものだ。
あと、時々醍醐が興味を示している。



拝殿は勿論、境内も、それらを繋ぐこの階段も、掃除したばかりの場所だ。
だからゴミが散らばらないように気をつけて、オカキ小さなカスはなるべく土の上に落とすようにした。
折角くたくたになるまで頑張って掃除をしたんだから、まだゴミは出したくない―――ちょっと出ているけど。



煎餅がなくなると、今度は飴だ。
京一がポケットから飴を取り出すと、それは殆どイチゴ味の飴で一杯になっていた。

龍麻はイチゴ味のお菓子が大好きだ。
だから京一にお菓子を渡す時、自分の好きなお菓子を渡したくなる。
京一は別に嫌とは思わない、なんでも貰って口に入れた。


でも、イチゴ味ばっかりだと京一は流石に飽きてくる。
そうなるとイチゴ味ばかりの中から違う味を探し出して、口に入れた。





ギシリ、板の軋む音がした。
廊下の板が鳴ったのだ。

龍麻が何気なく振り向くと、見覚えのないおじいさんが立っていた。






「よう、ガキども」






サングラスにジャンパーにGパン。
服装は若いけれど、顔には一杯皺があって、新井先生程ではないけれど顎鬚がある。

新井先生に比べると少し怖い印象を感じて、龍麻は京一に擦り寄った。






「おじいさん、だれですか?」






龍麻が訊ねる。
おじいさんは龍麻と京一から少しだけ距離を取って、階段に腰を下ろした。






「俺ァ楢崎道心ってんだ。龍山と腐れ縁の不良ジジィさ」
「ふりょう……?」
「で、そのふりょうジィさんがなんか用かよ」






耳慣れない単語に龍麻が首を傾げている間に、京一が硬い口振りで道心のおじいちゃんに問う。






「いや、何。俺ァ久々に此処に寄ったんだがな、随分賑やかでどうしたもんかと思ってよ」
「……そーいや、ジィさん見たことねェ」
「だろう。まさか此処がガキ共の遊び場になってるとはな。ま、織部の孫が行ってる保育園と聞きゃ納得したが」






本当に、此処に来たのは随分久しぶりのことだったのだろう。
京一も龍麻も、真神保育園に通うようになってからそう長い日が経っていないとは言え、織部神社での掃除の手伝いは週に一度の恒例行事。
既に何回か此処には来させて貰っているけれど、目の前の老人の顔は初めて見る。

他の子供達は知っているのだろうか、この老人の事を。
口振りからして、雪乃と雛乃は知っているらしい感じはするけれど。


道心のおじいちゃんは、ジャンパーの内ポケットから煙草を取り出し、火をつけた
くすんだ煙が空気を燻らせ、風に流されて消える。

昔からガキ好きではあったがなァと、道心のおじいちゃんはしみじみ呟いた。






「そんで――――お前が緋勇のとこのガキだってな」






龍麻の目を見て、道心のおじいちゃんは言った。
ぱちりと龍麻が一度瞬きして、道心のおじいちゃんの顔を見詰め返す。






「お父さんとお母さん、知ってるんですか?」
「ああ。それと、お前ェさんとも逢った事があるんだぜ。赤ン坊の頃だがな」
「……おぼえてないです……」
「そりゃあそうだ」






へにゃりと眉毛をハの字にした龍麻に、道心のおじいちゃんは笑いながら頷いた。


隣で話を聞いている京一も、そりゃそうだと思う。
最後の飴を口の中に放り込んで。

もごもご舌で飴を転がす京一を、道心のおじいちゃんが覗き込む。






「で、お前ェが蓬莱寺ンとこの倅だな」






ぴくり。
道心のおじいちゃんの言葉に、京一の頭が揺れた。

次に京一が顔を上げた時、其処には以前、龍麻がよく見ていた色が浮かんでいた。
相手を近付けないように警戒している色と、その裏側にある淋しい色。
龍麻と一緒に過ごすようになってから、少しずつ見なくなっていた色が、また。


龍麻の胸の奥がぎゅうと痛くなる。
京一のこんな顔を見ると、何度だって痛くなるのだ。



皺だらけの道心の手が京一の頭をぐしゃぐしゃと掻き撫ぜる。
龍麻にしたよりも少し乱暴な手付きだったが、サングラスの奥の瞳を見れば――見辛かったけれど――優しいもので。






「お前ェのトコは今は大変だろうがな。こういう事は、そう長く続くモンでもねェから安心しろや」
「…別になんでもねェや、こんなこと」
「ガキがナマ言うんじゃねェよ」






何の事を言っているのか、龍麻には判らない。
だが京一の表情を見ていると、何の話と訊く気にはならなかった。
――――多分、教えてくれないだろうとも思う。


頭を撫でる道心のおじいちゃんの手を、京一は押し退けた。
が、直ぐにまた伸びて来て、ぐりぐりと上から押さえつけるようにして撫でられる。






「何すんだよ、ジジィ!」
「おっと」






噛み付く勢いで怒鳴られて、道心のおじいちゃんは手を引っ込めると、そそくさと立ち上がる。






「おお、今日日のガキは手が早ェな。怖ェ怖ェ」
「てめェにげんな!」






怖いと言いつつ、道心のおじいちゃんの口調や態度はそれを裏切っていた。
面白がっていると、龍麻や京一でも判る。

道心のおじいちゃんは二人に背中を向けると、ひらひら手を振って拝殿の角を曲がっていった。
怒った京一が追い駆けようとしたが、龍麻に止められて敵わないまま、京一は剥れてまた階段に座った。






「なんでェ、あのジィさん」






苦々しげに呟く京一に、龍麻は曖昧に笑うしかない。
その笑った顔がまた京一を怒らせるものだったから、ぱかんと拳が龍麻の頭を叩いた。

それでも、龍麻は笑ったままだ。












だって、優しかった。
見た目はちょっと怖そうだったけれど、あのおじいさんも優しかった。

頭を撫でたしわしわの手は、お父さんやお母さんや、マリア先生と一緒で。



隣で赤い顔をしている友達も、ちゃんとそれを判ってる。

















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京一はもうちょっと皆の中に溶け込んでいけないようです。
意地っ張りな子だから、今までの態度の引っ込みがつかなくなってるのかも。
でも多分、龍麻と一緒だったら少しずつ近付いて行けるかな。

楢崎じいちゃんが結構好きです。子供と一緒のレベルで遊んでくれそう。

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