例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
  • 10«
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • »12
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

05 だって僕らはまだまだコドモ








やりたい事なら、数え切れない位ある。

その沢山ある“やりたいこと”の中から、例えば世界の終わりの直前に出来ることがあるとしたら、






「苺食べたい」
「……いつもと変わりねェじゃねーか」






迷わず出て来た相棒の答えに、呆れる京一と。
龍麻らしいと苦笑しているクラスメイト達。

答えた龍麻の手の中には、いつもの苺牛乳がちょこんと鎮座している。
それをちゅーっと飲んだ後で、






「じゃあ京一は?」
「あ? オレか?」






龍麻と違い、京一は直ぐに答えなかった。


やりたい事。
それも世界の終わりの直前に。

何かないかと考えてみると、此方も“いつも”の事しか出てこなかった。






「ラーメンだな。最高に美味ェ奴。腹裂けるぐれェ食ってみてェ」
「それもいつもと大して変わりないじゃん」






案の定、小蒔にツッコまれた。
それに対して、どうせお前も同じようなモンだろ、と言えば、小蒔は目を逸らして愛想笑い。

どうせそんなものなのだ、こんな平和な日常の中で思い付く事なんて。
到底、“世界の終わり”とか“人生最後”なんかとは、結び付かないような希望ばかりだ。


見上げた空は遥か奥まで青く澄み渡り。
校庭では昼食を終えた生徒達がサッカー等に興じ。
校舎からは廊下を走る生徒を注意する教師の声。

なんて平和な一時。
世界の終わりなんて何処にあるのやら。



―――――陰で蠢く者がいるなど、到底想像も出来やしない。






「醍醐君は?」
「お、俺ですか? 俺は……」
「いつもみてーに飯作って旦那に食って貰うんだろ」
「京一ッ」






茶化した京一に、醍醐が声を荒げる。
が、京一はケラケラ笑っているだけで、怯えた様子など微塵もない。

旦那って誰のこと? 首を傾げる小蒔に、遠野と葵が顔を見合わせて苦笑する。
これじゃあ醍醐の想いはいつになったら届くのだか。






「ねぇ、アン子ちゃんは何がしたいの?」
「あたしはねー、とびっきりのスクープゲットしたいなァ」
「世界が終わる時点で、これ以上のスクープないって」
「だから、それも忘れちゃうくらいのでっかいスクープ見つけるの!」






実に遠野らしい。
彼女の事だ、本当にそのスクープを見つける為に走り回る事だろう。
最後の瞬間まで、その“最後”に負けないような出来事を探して。






「美里ちゃんは?」
「私? 私は―――――……」






葵の優しげな瞳が、同じ場にいる仲間たちをぐるりと見回す。


緋勇龍麻。
蓬莱寺京一。
醍醐雄也。
桜井小蒔。
遠野杏子。

今年の春に集まって、ずっとずっと一緒に駆け抜けてきた仲間達。
衝突して、ケンカもして、時々気まずくなって、でも。






「私は、皆と一緒に過ごしたいかな」






告げられた答えは、なんとも葵らしいもの。

小蒔と遠野が嬉しそうに笑って、葵に抱きついた。
優等生の答えだねェと呟いた京一だったが、その声に昔のような険はない。
醍醐と龍麻も目を合わせ、笑った。









世界が終わる、その瞬間。
此処にいる仲間達が一体何人揃う事が出来るだろう。

判らない、判らないけれど。
そんな絶望的な瞬間を、彼らはまだ知らない。
知らないから、こんなに希望に溢れている。


世界が終わる、その瞬間。
繋ぐ手がないなんて事は想像できない。

世界が終わる、その瞬間。
隣で笑う人がいないなんて事は考えられない。





だって絶望なんて思い描いていられない位、僕らはまだまだコドモだから。













----------------------------------------

大人になると先のことを考えるようになる。
其処に絶望があるのを考えてしまうと、踏み出す一歩を恐れて躊躇う時がある。

でも子供なら、知らないからこそ強く強く、次の一歩が踏み出せる。
例えばその先に、真っ暗な未来へ続く道があったとしても。

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Comment:
Pass:
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック