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むっつりと、不満をありありと顔に描いた幼馴染。
不機嫌が判り易すぎて、克浩はどうやって声をかけようか、少しの間考えた。
この少年の機嫌を左右させるのは容易い。
切っ掛けに、彼の敬愛する隊長が絡んでしまえばあっと言う間だ。
今日の不機嫌の理由は、大人達の宴会に混ぜて貰えなかった事。
なんでもお偉方が大勢来るから、子供はいても楽しくない、と言われて。
それが子供達を納得させる為だけの言葉だと、克浩も左之助も判っていた。
下手に粗相をしたりしては赤報隊の印象が悪くなるし、子供であるからと大目に見て貰えるとは限らない。
また、失敗をして子供達が凹んでしまうのを避ける為でもあり、今回の事は隊長の温情であるのは確かだ。
だが、それを判っていはいても、やはり左之助は納得行かないのだ。
宴会になんか混ぜて貰えなくてもいいから、せめて隊長の傍から離れたくなくて。
がやがやと宴の声が聞こえてくる。
宴の席に出して貰えなかったのは、何も左之助や克浩という、子供だけではない。
準隊士の半数は同じ場所でお預けを食らっているし、隊士でも酒癖の悪い者は外された。
今回の宴は、要は“宴”の名を借りた接待なのである。
――――でも、やっぱり左之助は不機嫌だった。
「左之」
呼んでも、反応もしない。
相当剥れているらしい。
克浩は一つ溜め息を吐いて、膝を抱えて拗ねる幼馴染の隣に腰を下ろした。
「さーの」
「…………」
「左之助ー」
左之助はこちらを見もせずに、じっと正面の壁を睨んでいた。
其処に何がある訳でもない。
ただ、それしかする事がないのだ。
隊長が帰ってくれば、この表情もコロリと消えてしまうに違いない。
けれども、隊長が此処に戻ってくるまで、まだ随分と時間がかかる。
先ほど厠のついでに宴会場を覗いて来たが、まだまだ盛り上がりそうだった。
その中で隊長は目敏く自分を見つけてくれて、すまんな、と言うように微笑んだ。
あの顔を左之助が見たのなら、少しは諦めがついたのかも知れない。
でも、それを見たのは克浩であって、此処で剥れて動かない左之助ではない。
「おい、左之」
「…………」
「返事ぐらいしろよ」
「…………」
意地を張りすぎて、引っ込みがつかなくなってるんじゃないか?
克浩はそう思った。
こうも長々と拗ねた態度を取っていると、中々元には戻せない。
周囲の大人達も刺激しないように遠巻きに見ている。
気を遣わせてしまっていると感じると、余計に気まずくて、もう大丈夫だとは言い出せない。
これだから、こいつは。
言葉の先に何が続くのか、克浩は自分でも判らなかった。
莫迦にしたような言葉であったような気もするし、仕方がないなという類でもあったような気もするし。
とにかく放っておく訳にも行くまいと、克浩は左之助の手を取った。
「左之助、風呂沸かしに行くぞ」
「…………風呂?」
突然の克浩の言葉に、左之助が思わずと言った風で問い掛けた。
「宴が長くなりそうだから、終わった頃にはきっと皆疲れてるぞ」
「………で、なんでいきなり風呂なんでェ?」
「寝る前には風呂に入るだろ。今から沸かして置くんだ」
言って、克浩は無理矢理左之助を立たせ、部屋を後にする。
流石は克浩、と残された隊士達が呟くのが聞こえた。
それはそうだ、だっていつも一緒にいるんだ。
左之助がどんな時に落ち込んで、どうすれば笑うのか。
自分はよく判っている。
「沸かしておいたら、きっと隊長が褒めてくれるぞ」
ほら、この言葉。
“隊長”。
そうすれば、見慣れた笑顔がようやく覗く。
「―――――おう!」
その笑顔が自分に向くことはなくても、
お前が笑ってくれるなら、何度だって。
左之助の管理(笑)はすっかり克浩の役目だったらいいなー。