例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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07 キミの笑顔が









むっつりと、不満をありありと顔に描いた幼馴染。
不機嫌が判り易すぎて、克浩はどうやって声をかけようか、少しの間考えた。




この少年の機嫌を左右させるのは容易い。
切っ掛けに、彼の敬愛する隊長が絡んでしまえばあっと言う間だ。


今日の不機嫌の理由は、大人達の宴会に混ぜて貰えなかった事。

なんでもお偉方が大勢来るから、子供はいても楽しくない、と言われて。
それが子供達を納得させる為だけの言葉だと、克浩も左之助も判っていた。
下手に粗相をしたりしては赤報隊の印象が悪くなるし、子供であるからと大目に見て貰えるとは限らない。
また、失敗をして子供達が凹んでしまうのを避ける為でもあり、今回の事は隊長の温情であるのは確かだ。

だが、それを判っていはいても、やはり左之助は納得行かないのだ。
宴会になんか混ぜて貰えなくてもいいから、せめて隊長の傍から離れたくなくて。




がやがやと宴の声が聞こえてくる。



宴の席に出して貰えなかったのは、何も左之助や克浩という、子供だけではない。
準隊士の半数は同じ場所でお預けを食らっているし、隊士でも酒癖の悪い者は外された。
今回の宴は、要は“宴”の名を借りた接待なのである。


――――でも、やっぱり左之助は不機嫌だった。







「左之」






呼んでも、反応もしない。
相当剥れているらしい。

克浩は一つ溜め息を吐いて、膝を抱えて拗ねる幼馴染の隣に腰を下ろした。






「さーの」
「…………」
「左之助ー」






左之助はこちらを見もせずに、じっと正面の壁を睨んでいた。
其処に何がある訳でもない。
ただ、それしかする事がないのだ。


隊長が帰ってくれば、この表情もコロリと消えてしまうに違いない。
けれども、隊長が此処に戻ってくるまで、まだ随分と時間がかかる。

先ほど厠のついでに宴会場を覗いて来たが、まだまだ盛り上がりそうだった。
その中で隊長は目敏く自分を見つけてくれて、すまんな、と言うように微笑んだ。
あの顔を左之助が見たのなら、少しは諦めがついたのかも知れない。
でも、それを見たのは克浩であって、此処で剥れて動かない左之助ではない。






「おい、左之」
「…………」
「返事ぐらいしろよ」
「…………」






意地を張りすぎて、引っ込みがつかなくなってるんじゃないか?
克浩はそう思った。

こうも長々と拗ねた態度を取っていると、中々元には戻せない。
周囲の大人達も刺激しないように遠巻きに見ている。
気を遣わせてしまっていると感じると、余計に気まずくて、もう大丈夫だとは言い出せない。


これだから、こいつは。


言葉の先に何が続くのか、克浩は自分でも判らなかった。
莫迦にしたような言葉であったような気もするし、仕方がないなという類でもあったような気もするし。

とにかく放っておく訳にも行くまいと、克浩は左之助の手を取った。







「左之助、風呂沸かしに行くぞ」
「…………風呂?」






突然の克浩の言葉に、左之助が思わずと言った風で問い掛けた。






「宴が長くなりそうだから、終わった頃にはきっと皆疲れてるぞ」
「………で、なんでいきなり風呂なんでェ?」
「寝る前には風呂に入るだろ。今から沸かして置くんだ」





言って、克浩は無理矢理左之助を立たせ、部屋を後にする。
流石は克浩、と残された隊士達が呟くのが聞こえた。

それはそうだ、だっていつも一緒にいるんだ。
左之助がどんな時に落ち込んで、どうすれば笑うのか。
自分はよく判っている。








「沸かしておいたら、きっと隊長が褒めてくれるぞ」








ほら、この言葉。
“隊長”。

そうすれば、見慣れた笑顔がようやく覗く。











「―――――おう!」














その笑顔が自分に向くことはなくても、


お前が笑ってくれるなら、何度だって。

















左之助の管理(笑)はすっかり克浩の役目だったらいいなー。
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