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長年使っていたテレビが、壊れてしまった。
寿命をとっくに過ぎた代物だったのだから、仕方のない話だ。
随分前から映りが悪く、雨風の強い日は時々ビリビリと画面がブレる。
最近は電源が入って画面が映るまで時間がかかり、時々勝手に電源が落ちたりする。
直す際は回線を弄るとかではなく、叩いて直すと言うアナログな方法。
元々中古で買ったものである、今の今までよく持ったと言えるだろう。
仔猫が来るまで、深夜と朝のニュースをちらりと見る程度だけだったのに、よくぞ今まで。
叩いても、仔猫が蹴っても(痛がっていた。当たり前だ)、ウンともスンとも言わなくなったテレビ。
地上デジタルに対応していないテレビだったから、直に世代交代は余儀なくされていたのだけれど、
どうせなら、絶賛売り出し中の薄型液晶テレビがもう少し安くなるまで耐えて欲しかったと、こっそり思う。
いやいや、今まで頑張ってくれたことには、本当に感謝しているが。
まだどうにか直らないかと、仔猫がテレビの上部をパンパンと叩いている。
それを相楽は抱き上げた。
「もうお休みさせてあげよう、左之助」
「……今日、見たいヤツあるんです」
「録画予約はしたままだから、次のテレビを買うまで我慢してくれ」
撫でながら言うと、左之助は眉根を寄せたが、小さく頷いた。
良い子だともう一度撫でてやる。
「どうするんスか、コイツ」
「捨てるしかないだろうなあ……少し残念だけれど」
仔猫が来るまで、一日ほんの数時間しか映していなかったとは言え、付き合いは長い。
増して仔猫が来てからは、膝上に乗せて色々と見たから、思い出もいつの間にか随分と増えていた。
名残惜しい気持ちは否めないけれど、しかし此処に残していてもどうにもならないのだ。
完全に映らなくなってしまったし、モノも古いから修理するにも必要な物品がなさそうだし、中古屋に戻ることも出来まい。
このテレビは、完全に役目を終えたのだ。
腕の中の仔猫を見下ろせば、此方も淋しそうに真っ黒な画面を見つめている。
そう言えば、仔猫が来てから、家にある大きなものを捨てるのはこれが始めてだ。
ベッドも本棚も、クーラーもパソコンも、仔猫が来てから換えた事はない。
冷蔵庫は二年前に買い換えて、DVDプレーヤーも同じ位で、以来大きな家具製品の交換はしていない筈。
前に冷蔵庫を買えた時には、特に何を思うでもなかったと思うのだけど―――――
……テレビ一つを買い換えるのに、こんなに侘しく思う事があろうとは。
「此処に置いていても、どうしようもないからね」
動かないまま此処にあっては、それこそ単なるガラクタになってしまう。
処分と言う形で手放すことに違いはないけれど、少なくとも此処にあるよりは良い筈だ。
リサイクルにでも埋め立てにでも、何かの役に立ってくれるだろうから。
やっぱり淋しそうにテレビを見つめる左之助を、強く抱き締めた。
そんな顔をしなくても大丈夫。
思い出の形は、確かに手放すことにはなるけれど。
お前と並んで見た記憶は、捨てる事なんてないんだから。
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仔さのが猫である事に意義があるんだろうか、この話は(←コラ待て)。
いやはや、中々難しい……