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―――――――お前が此処にいないなんて、考えられなかったんだ。
待っていろと言われたのに、左之助は飛び出して行った。
数人の大人がそれを追って陣を出て行き、克浩も追い駆けようとした。
けれども他の隊士達は、これ以上子供を表に出す訳には行かないと、許してくれなかった。
彼等の気遣いを忌むとは言わないけれど、その時、僅かに恨んだかも知れない。
下諏訪に戻った隊長からは、何も音沙汰がない。
それが逆に何よりの証拠となったような気がして、克浩は落ち着かなかった。
けれどもっと落ち着かなかったのは、隊長を敬愛して止まない幼馴染だ。
自分と同様に、準隊士だという理由で置いていかれた同年の少年は、ずっと隊長の帰りを待っていた。
臨時に作った陣の建物の入り口で、隊長が本陣に赴いた日から、ずっと。
“大丈夫”と言った体長の言葉だけを支えにして、降る雪の寒さも構わず、戸口に立ち続けていた。
敬愛する人が帰ってきた時、誰よりも何よりも一番に迎える事が出来るようにと。
けれども待てど待てど彼の人が帰ってくることはなく、様子を窺いに行った大人の準隊士も帰らなくなった。
そして数日が経って、傷だらけの準隊士が一人、漸う帰還したのを見たのが、左之助の限界だった。
帰還した準隊士の報告など聞く間もなく、彼は飛び出して行った。
様子を見に行っただけの準隊士の傷だけで、事態を把握してしまうほど、子供にとっても明らかに嫌な予感があったのだ。
それでも準隊士が帰還するまで耐えていたのだから、堪え性のない左之助にしては持った方だった。
結局、左之助はそれから、帰って来なかった。
やって来たのは赤報隊の残党を捕らえる為にやって来た官軍。
本来ならば味方である筈の人々が、凶器を携えて来たのだ。
克浩は一番に陣から脱走させられた。
足に自身のあった大人の準隊士に抱えられて、遠く遠くに連れて行かれた。
―――――もしかしたら、左之助が帰ってくるかも知れなかったのに。
隊長は、もう帰って来ないかも知れない―――否、帰って来ない―――けれど。
あの幼馴染はまだ子供だし、隊服の洋装をしている訳でもないから。
無鉄砲なことさえしなければ、もしかしたら帰って来るかも知れなかったのに。
逃げて、逃げて、逃げて。
お前は生き延びろと言われた。
死ぬなと、捕まるなと、言われた。
次代を担ってくれと、いつか目指した四民平等が現実を目指して。
お前は死んでくれるなと、そう言ったのは、よく遊び相手をしてくれた初老の準隊士。
幼馴染もこの人物にはよく懐いていて、面白い話を沢山聞かせてくれた。
克浩に火気やからくりを教えたのも、この人だった。
その人は、撃たれて呆気なく死んでしまった。
後は、無我夢中で逃げた。
山の中を、何処をどう走ったかは判らなかった。
ただ逃げた。
その間考えていたのは、幼馴染のこと。
隊長がどうなったのか、嫌な考えしか浮かばなかった。
幼馴染がどうなったのか、嫌な考えしか浮かばなかった。
隊長に何かあったら、幼馴染がどうなるのか。
何もかも隊長に捧げていた幼馴染が、何を考えるのか、何をしようとするのか。
想像するだけで恐ろしくて、お願いだからそれだけは、と信じてもいない神に、こんな時ばかり願った。
幼馴染は、ずっと隊長を見ていた。
克浩が出逢った頃から、それはずっとだ。
幼馴染の世界は、彼の人無しには存在しなかった。
――――――同じように、克浩の世界も、その幼馴染無しには、存在しなかった。
だから生き延びた時、一人残されて、それでも必死で生きてきたのは、
何処かで彼が生きているんじゃないかと、期待と不安の中で、信じたかったから。
だって彼がもしもこの世からいなくなったら、自分は生きてはいない筈だから。
自己の存在を繋ぎ止めるもの。
赤報隊時代はほのぼで書きたいですが、やっぱり崩壊の事も手放せない訳でして。
でもこの部分書くと、克も左之も痛々しいんだ………