例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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光みたいだ








山中を行軍している最中、落石に遭った。
先日まで降り続いていた雨が原因だ。

落石に巻き込まれて逸れてしまったのは、未だ幼い二人の準隊士だった。



落石を避けた弾みで足を滑らせて、山道の横にあった、垂直に近い斜面を滑り落ちる羽目になった。
幸運にも茂みのお陰で悲惨な事にはならなくて済んだが、それでも子供達にとっては一大事。
右も左も判らぬ山中で子供二人など、危険極まりない状況だ。

じっとしているのも不安で、だが不用意に動き回る訳にも行かず。
またこれも幸運だったのは、隊が向かおうとしていたのが滑り落ちた斜面の下――つまりはこの近辺――であったと言う事と、落ちたのが自分一人ではなかったと言う事だった。





真冬の寒い山中で、見つけた大きな木の洞に入って、二人で身を寄せ合う。





寒い寒いと左之助が言うから、克弘は自分の羽織を貸そうとした。
けれど、ンな事したらお前ェが寒くなるじゃんか、と左之助が怒る。
平気だと克弘が言えば、左之助は、いやオレの方が平気だと言って来る。

二人でそのまま言い合いをした。
疲れて言葉が途切れた頃には、二人ともそこそこ温まっていた。


けれど、じっとしていればやはり体温は下がってしまって、






「……寒い」






今度は克弘が呟いた。

俯いて膝を抱える克弘の肩を、左之助は揺する。






「寝んなよ。寝たら死んまうぞ、お前」
「…判ってるよ」






肩を揺する手を払い除ける克弘に、ホントに判ってんのかよ、と左之助は思う。

克弘は本当に判っている。
判っているが、落石前に相当歩いていた事もあって、体は疲労を覚えていた。
傍らにいる左之助の温もりが心地良いものだから、うっかりそれに身を任せてしまいそうになる。
それを、今現在、必死に堪えている所なのだ。






「う~~~~ッ……」






左之助は、はぁ、と両手に息を当てて、その手で両腕を擦る。
克弘も同じようにやってから、眠らないようにとパンパンと頬を叩いておいた。








いつまでこうしていればいいのか。
こうしていて、大丈夫なのか。
移動した方が良くないか―――――

克弘は色々考えていて、それは左之助も同じだった。
けれど動き回って大丈夫かどうかも判らないし、もっと迷ったら大変だから、動けない。


不安が募る。
怖くなる。

降っている雪が吹雪じゃないのは幸いだ。
此処にいるのが、自分一人じゃないことも。



待つしかない。
逸れてしまって、右も左も判らない自分達に出来る事と言ったら、それしかないのだ。

見つけて貰えることを信じて、寒さに堪えて待ち続けるしか―――――











沈黙の帳が下りるのが嫌で、左之助はずっと何事かを喋り続けた。
克弘は小さく相槌を打って、時々余計なことを言う左之助の頭を小突いてやった。

心の中で、ずっと「大丈夫」を唱え続けながら。



―――――どれだけ、そうして過ごしただろうか。








「隊長! 足跡がありました!」








木々の合間を縫って聞こえた声に、二人同時に顔を上げた。
そろそろと洞の中から外を覗いて、積もり始めた雪が目に痛くて目を擦る。

そして。








「左之助! 克弘!」









大きな声で名を呼ばれて。
茂みの向こうから現れた、その人は。


暗く寒い場所で待ち続けた子供達にとって、確かな“光”であったのだ。















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子供達にとって、色んな意味で眩しかった人なんじゃないかなぁと。



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