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「オレ、相楽って名乗っていいスか?」
無邪気に言ってくれる子供に、苦笑が漏れる。
苗字を持たない者が、どうして苗字に憧れるのか。
生憎、苗字を持つ家に生まれた相楽には、よくよく判らないものであった。
だが自分の持つ名に憧れると、真正面から言われると、どうにもくすぐったい気分がして来る。
「相楽左之助、か」
左之助。
いつも自分の後ろをついて歩く子供の名前。
その名前の頭に、生まれて今まで馴染んだ苗字を連ねてみる。
………やはり、なんだかくすぐったい。
「よせよせ。変な名前になってしまうぞ」
笑ってそう言ってみたが、子供はにかっと笑うだけだ。
多分、気付いたのだろう。
よせと言った言葉が、本気の色をさして宿していない事に。
今の時代でこの苗字を語れば、家名の重みが圧し掛かる。
けれども、四民平等の時代が来て、皆が名乗れるようになったら少しは変わるだろう。
自分が背負う“相楽”を、この子に背負わせるつもりはない。
けれども、同じ名を名乗りたいと言われるのは、嫌ではなかった。
“家名”ではなく、自分の“意思”を継いでくれるような気がしたのだ。
「克はどういう苗字にするんですかね」
幼馴染を思い出して言う左之助に、さてなァ、と呟く。
うきうきと、隣を歩く子供の足取りは軽い。
見下ろせばにーっと笑う顔があって、此方も思わず口元が緩む。
「オレ、絶対に相楽って苗字にしますよ」
「よせと言っているだろう」
「本当にしますからね!」
「やれやれ……」
言っても聞きそうにない。
いや、そもそも、言って聞かせようとも思っていない。
逆立つ鳥の鶏冠のような頭をくしゃくしゃ撫でる。
左之助はくすぐったそうに笑った。
そんな、二人きりの約束。
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あそこの遣り取りが大好きです。