例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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鈍色の道の先にあるもの

【 鈍 色 の 道 の 先 に あ る も の 】























指定されたのは都内でも有名な幽霊マンションと呼ばれる場所。
幽霊の類など信じていない佐野だったが、来て見れば確かに何かが出そうな雰囲気が漂っていた。
今にも崩れそうな匂いのする其処を何故壊さないかと言えば、祟りが起きるから、ということらしい。
眉唾モンや、と佐野は思ったが、実際に取り壊そうとした工事の人々には怪我人が続出しているそうだ。

普通なら用事があっても行きたくない場所だ。
幽霊を信じていようといまいと、今にも倒壊しそうな建物に好んで入るなんて、好奇心に駆られた子供ぐらいだ。
生憎、佐野は幼い頃から温泉以外のことにはどうも無関心なきらいがあった。
今でもそれh相変わらずで、正直言えば、あまり入りたくない。
入った途端に床が抜け落ちて生き埋め…なんて格好悪いことにないrそうで。


けれど、行くしか道はない。





建物内に一歩足を踏み入れれば、ブーツがカツンと乾いた硬質な音を立てた。
どうやら、床は意外としっかりしてくれているらしい。

外界への玄関口を潜った先には、だだっ広いホールのような空間が広がり、奥に一つ階段があった。
躊躇いもなく前へ進み、辺りを警戒する事もせずに佐野はその階段を上りきった。



そして階段を上りきった所で、途端に視界に白が差し込んだ。



時刻は夜半。
陽が上るにはまだ随分遠く、ならばこの光は人工的なものなのだと佐野はすぐ理解した。
暗がりに慣れていた目は、突然の発光に射抜かれて機能を一時停止する。

誰がふざけた事を、と思いつつも、佐野は顔を顰めるだけで網膜の収縮が収まるのを待つ。






やがてそろそろ落ち着くかと思う頃。
佐野は不自然な呼吸の音を感じ、咄嗟に横に跳んだ。

ジュッという音がした。
立っていた場所に目を向ければ、小さな穴が開いている。
穴の周囲は僅かだが焦げていた。






「……結構なご挨拶やないか」





前方へと目を向ければ、ヒトの形をした影。
沢山…否、十一人、だった。

その中で真ん中にあった少し低めの影が一歩前へ出る。





「それは悪かったね。僕は止めたんだけど、どうしても君の実力を見てみたいって言うから」





悪びれた色など一つも見せずに、淡々とした口調。
光になれた佐野の瞳には、確かにその声の人物の姿が認識できていた。


金の髪、氷のような蒼い瞳、そして人を見下すような冷たい笑みを貼り付けた顔――――……
噂に名高いロベルト・ハイドンだと佐野が判断するまで時間はかからなかった。
その隣には少し前に見た顔の長身の外国人、カール・P・アッチョの姿があった。

ざわり、と佐野の中で何かが波風を立てた。
けれどもそれに流されてはいけない、佐野は腕を組むと憮然とした表情で立ち並ぶ者達を睨み付けた。





「そっちから呼び付けといて、抜き打ちテストか。そんで、気は済んだんか」
「僕はしなくて構わないと思ってたんだけど、彼がね…」





言ってロベルトは並ぶ人物の中の一人に目を向けた。
佐野も倣うように目を向ければ、止まったのはこちらもロベルトとは少し違って小馬鹿にするような笑みを浮かべた少年。
お河童ではないけれど、それに近い髪型をした、少し背の低い少年だった。

鼻持ちならん顔やな。
自分が優位だと最初から決め付けているような表情だと佐野は思った。
だがこのロベルト十団の一人であるという事は、やはり実力もあるという事。
憎まれっ子は世に憚るてか、とどうでもいい事を考えた。


少年の方はにこにこと笑った顔はしていたが、其処に見え隠れするのは確かな敵意だった。





「ま、どっちでもええけどな。オレは、そんなガキには興味ない」
「なんだとぉ!?」
「キャンキャン吼えとる奴を相手にするような暇はないんや」





呆れた表情を浮かべて言えば、案の定、相手はギリギリとこちらを睨みつけている。
こんな簡単な挑発に乗るとは、余程自分の力に自信があるのだろうか。

…佐野にとっては、どちらでも良かったけど。


佐野は少年から目を離して、カール・P・アッチョ――――カルパッチョへ目を向ける。
カルパッチョもそれに気付くと、引き攣ったような笑いを浮かべ、こちらへ歩み寄ってきた。





「あんまり寄るなや」
「なんでだ?いいじゃねえか、仲良くしようぜ」
「生憎、ヒトとつるむんは性に合わん」





嘘だ。
一人でいるより、誰かと一緒の方が佐野は好きだった。

でも、今は嘘でも本当にする。





「そいでも、しばらくは付き合いがあるんだぜ。自己紹介ぐらいさせろよ」
「お前の名前やったら、この間聞いたわ。そない記憶力悪ないで」
「他の奴らの名前も聞いておきたいだろ?」
「さっきも言うた。興味ない」





一貫した態度の佐野に、カルパッチョは仕方ねぇ、という表情で背を向けた。
それと入れ替わるように、今度佐野の前に立ったのはロベルトだった。



途端、佐野はゾクリとしたものを背中に感じた。
こちらを見据えるロベルトの冷たい瞳が、あまりにも何も映していないから。

網膜には確かに佐野の瞳が映り込んでいる筈。
けれども、その奥に感情らしい感情の波は何も見えず、佐野が感じ取ったのは昏いものだけ。
もとより佐野は聡い方だったが、それにしても、こんなにあからさまなのは初めてだった。
ともすれば全てを飲み込んで行きそうなほどの常闇……蒼の奥に、それを見た気がした。





「それじゃあ、佐野君」




昏い昏い感情が其処にあった。
声も何処か感情が抜け落ちたようなもので。


佐野は知らぬ間に手拭の下に汗をかいていたことを知った。

それほどまでに、理屈で感じる以前からこのロベルトという少年の存在は強く大きなものだったのだ。
何もかもを内部に取り込んで、己の存在で他のもの全てを希薄にさせる。
天才であると謡われたのは、決して冗談でも、増してや過大評価でもなかった。
佐野も優勝候補の一端であるとは言われていたが、それにしてもこの少年は格が違う。

悔しいが、そう思った。



だが、自分のするべきは彼を倒すことでもなければ、彼に服従することでもない。







「ようこそ、なんて言うなや」






ロベルトが再び口を開こうとした時、佐野の声が先に制した。







「オレはお前の部下になるんとちゃうで。オレはオレの目的の為に、此処におるんやからな」






肩書きに、その名が圧し掛かるのだと判っていない訳ではない。
けれども、佐野は憮然とした表情で告げたその言葉を撤回する事はしなかった。
















そう。


自分は自分の目的の為に、此処に来た。









冷たい闇の向こうにある、遠い遠い光を解き放つために。





























第二話です。
佐野、ロベルト十団に合流。

もの凄いツンデレな子になってます。
攻撃しかけたのは明神、でも佐野はあんまり興味ないご様子。
佐野は他のメンバーと違ってロベルトに従う気はなく、あくまで自分の目的の為に入団する、という感じです。


ロベルトの喋りが書いててもよく判りません(滝汗)
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