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痛かった
悲しかった
悔しかった
あなたのようになりたかった
あなたと共に生きたかった
なのに、あなたはあなたの正義を貫いて
なのに、あなたは笑って
ねぇ、どうしていなくなるの
ねぇ、どうして置いていくの
置いていかれた僕達が
泣かないほど強いなんて思ってるの?
置いていかれた僕達が
崩折れないほど強いなんて思ってるの?
ねぇ、どうしていなくなるの
ねぇ、どうして置いていくの
ねぇ
どうして
手の届かない所に行ってしまうの
ねぇ、どうしてあなたは笑っているの
そんなあなただから憧れた
そんなあなただからこの道を選んだ
そんなあなただから好きになった
だけど
置いていかれるなんて、一度も考えたことなかったんだ
あなたはいつも前にいて
あなたはいつも隣にいて
どんなに遠くになったって
どんなに突き放したって
あなたはいつも其処にいて
僕が手を伸ばしたら、すぐにその手を掴んでくれた
なのになんで、今は何処にもいないの?
なんで、答えてくれないの?
痛かった
悲しかった
悔しかった
弱い自分に腹が立った
だから、もっともっと強くなるから
もっともっと強くなって、もう一度あなたに会いに行くから
だから、ごめん
ごめんなさい
今だけ、弱い子供に戻らせて
もう、失わない為に。
コバ植と犬佐野な感じで。
相変わらず基本的に佐野総受に転んでますが、コバ植も結構好きです。
中学生という多感なお年頃の子たちです。
もう可愛くてしょうがない。
可愛くて格好良くて、ひたむきで一所懸命で、まっすぐで。
敵キャラも愛嬌あって、ふとした瞬間に「そうだ、こいつ中学生だ(見えないけど…)」と思ったりします。
そんな多感な年頃に、大切なヒトに逢って、大切なヒトに救われて、引き裂かれて、取り戻す為に戦い続けた植木チームの面々。
植木はコバセンを助け出す為に、佐野は犬丸を助け出す為に、ヒデヨシはネロの為、森や鈴子は友達の為…
それを差し引いても、皆が皆、“誰かの為に”戦う植木チーム。
そんでも、やっぱりコバセンや犬丸が地獄落ちした時、涙した彼らは確かに普通の中学生だったと思います。
大好きな人、大切な人が自分の為にいなくなってしまって、其処にあいた虚空が大きくて。
皆を引っ張っていく植木も佐野も、まだまだ子供なんですよね……
最終回、植木はコバセンと再会しました。
ラストに出番のなかった(泣)犬丸も、佐野と再会できていることを願います。
【 鈍 色 の 道 の 先 に あ る も の 】
指定されたのは都内でも有名な幽霊マンションと呼ばれる場所。
幽霊の類など信じていない佐野だったが、来て見れば確かに何かが出そうな雰囲気が漂っていた。
今にも崩れそうな匂いのする其処を何故壊さないかと言えば、祟りが起きるから、ということらしい。
眉唾モンや、と佐野は思ったが、実際に取り壊そうとした工事の人々には怪我人が続出しているそうだ。
普通なら用事があっても行きたくない場所だ。
幽霊を信じていようといまいと、今にも倒壊しそうな建物に好んで入るなんて、好奇心に駆られた子供ぐらいだ。
生憎、佐野は幼い頃から温泉以外のことにはどうも無関心なきらいがあった。
今でもそれh相変わらずで、正直言えば、あまり入りたくない。
入った途端に床が抜け落ちて生き埋め…なんて格好悪いことにないrそうで。
けれど、行くしか道はない。
建物内に一歩足を踏み入れれば、ブーツがカツンと乾いた硬質な音を立てた。
どうやら、床は意外としっかりしてくれているらしい。
外界への玄関口を潜った先には、だだっ広いホールのような空間が広がり、奥に一つ階段があった。
躊躇いもなく前へ進み、辺りを警戒する事もせずに佐野はその階段を上りきった。
そして階段を上りきった所で、途端に視界に白が差し込んだ。
時刻は夜半。
陽が上るにはまだ随分遠く、ならばこの光は人工的なものなのだと佐野はすぐ理解した。
暗がりに慣れていた目は、突然の発光に射抜かれて機能を一時停止する。
誰がふざけた事を、と思いつつも、佐野は顔を顰めるだけで網膜の収縮が収まるのを待つ。
やがてそろそろ落ち着くかと思う頃。
佐野は不自然な呼吸の音を感じ、咄嗟に横に跳んだ。
ジュッという音がした。
立っていた場所に目を向ければ、小さな穴が開いている。
穴の周囲は僅かだが焦げていた。
「……結構なご挨拶やないか」
前方へと目を向ければ、ヒトの形をした影。
沢山…否、十一人、だった。
その中で真ん中にあった少し低めの影が一歩前へ出る。
「それは悪かったね。僕は止めたんだけど、どうしても君の実力を見てみたいって言うから」
悪びれた色など一つも見せずに、淡々とした口調。
光になれた佐野の瞳には、確かにその声の人物の姿が認識できていた。
金の髪、氷のような蒼い瞳、そして人を見下すような冷たい笑みを貼り付けた顔――――……
噂に名高いロベルト・ハイドンだと佐野が判断するまで時間はかからなかった。
その隣には少し前に見た顔の長身の外国人、カール・P・アッチョの姿があった。
ざわり、と佐野の中で何かが波風を立てた。
けれどもそれに流されてはいけない、佐野は腕を組むと憮然とした表情で立ち並ぶ者達を睨み付けた。
「そっちから呼び付けといて、抜き打ちテストか。そんで、気は済んだんか」
「僕はしなくて構わないと思ってたんだけど、彼がね…」
言ってロベルトは並ぶ人物の中の一人に目を向けた。
佐野も倣うように目を向ければ、止まったのはこちらもロベルトとは少し違って小馬鹿にするような笑みを浮かべた少年。
お河童ではないけれど、それに近い髪型をした、少し背の低い少年だった。
鼻持ちならん顔やな。
自分が優位だと最初から決め付けているような表情だと佐野は思った。
だがこのロベルト十団の一人であるという事は、やはり実力もあるという事。
憎まれっ子は世に憚るてか、とどうでもいい事を考えた。
少年の方はにこにこと笑った顔はしていたが、其処に見え隠れするのは確かな敵意だった。
「ま、どっちでもええけどな。オレは、そんなガキには興味ない」
「なんだとぉ!?」
「キャンキャン吼えとる奴を相手にするような暇はないんや」
呆れた表情を浮かべて言えば、案の定、相手はギリギリとこちらを睨みつけている。
こんな簡単な挑発に乗るとは、余程自分の力に自信があるのだろうか。
…佐野にとっては、どちらでも良かったけど。
佐野は少年から目を離して、カール・P・アッチョ――――カルパッチョへ目を向ける。
カルパッチョもそれに気付くと、引き攣ったような笑いを浮かべ、こちらへ歩み寄ってきた。
「あんまり寄るなや」
「なんでだ?いいじゃねえか、仲良くしようぜ」
「生憎、ヒトとつるむんは性に合わん」
嘘だ。
一人でいるより、誰かと一緒の方が佐野は好きだった。
でも、今は嘘でも本当にする。
「そいでも、しばらくは付き合いがあるんだぜ。自己紹介ぐらいさせろよ」
「お前の名前やったら、この間聞いたわ。そない記憶力悪ないで」
「他の奴らの名前も聞いておきたいだろ?」
「さっきも言うた。興味ない」
一貫した態度の佐野に、カルパッチョは仕方ねぇ、という表情で背を向けた。
それと入れ替わるように、今度佐野の前に立ったのはロベルトだった。
途端、佐野はゾクリとしたものを背中に感じた。
こちらを見据えるロベルトの冷たい瞳が、あまりにも何も映していないから。
網膜には確かに佐野の瞳が映り込んでいる筈。
けれども、その奥に感情らしい感情の波は何も見えず、佐野が感じ取ったのは昏いものだけ。
もとより佐野は聡い方だったが、それにしても、こんなにあからさまなのは初めてだった。
ともすれば全てを飲み込んで行きそうなほどの常闇……蒼の奥に、それを見た気がした。
「それじゃあ、佐野君」
昏い昏い感情が其処にあった。
声も何処か感情が抜け落ちたようなもので。
佐野は知らぬ間に手拭の下に汗をかいていたことを知った。
それほどまでに、理屈で感じる以前からこのロベルトという少年の存在は強く大きなものだったのだ。
何もかもを内部に取り込んで、己の存在で他のもの全てを希薄にさせる。
天才であると謡われたのは、決して冗談でも、増してや過大評価でもなかった。
佐野も優勝候補の一端であるとは言われていたが、それにしてもこの少年は格が違う。
悔しいが、そう思った。
だが、自分のするべきは彼を倒すことでもなければ、彼に服従することでもない。
「ようこそ、なんて言うなや」
ロベルトが再び口を開こうとした時、佐野の声が先に制した。
「オレはお前の部下になるんとちゃうで。オレはオレの目的の為に、此処におるんやからな」
肩書きに、その名が圧し掛かるのだと判っていない訳ではない。
けれども、佐野は憮然とした表情で告げたその言葉を撤回する事はしなかった。
そう。
自分は自分の目的の為に、此処に来た。
冷たい闇の向こうにある、遠い遠い光を解き放つために。
第二話です。
佐野、ロベルト十団に合流。
もの凄いツンデレな子になってます。
攻撃しかけたのは明神、でも佐野はあんまり興味ないご様子。
佐野は他のメンバーと違ってロベルトに従う気はなく、あくまで自分の目的の為に入団する、という感じです。
ロベルトの喋りが書いててもよく判りません(滝汗)
例えば
人の道を一歩でも踏み外したら
もう、“ヒト”には戻れないのだろうか
それなら少しでも曲げた己が掲げた正義の鏃は
………もう二度と、もとの形には戻らないのだろうか
【 鈍 色 の 道 の 先 に あ る も の 】
「――――――佐野君!」
この数ヶ月の間にすっかり耳慣れたものになってしまった声が聞こえた。
きっと追い駆けてくるだろうとは思っていたけれど、それがこんなにも心苦しいものになるなんて思わなかった。
それでも佐野は立ち止まらずに、振り返ることもせずに前へ進んでいく。
走ろうとしないのは何故だろうか、後ろを追って来る足音は確かに駆けている筈なのに。
本当は迷っているのか、なんて自分に問いかけても見るけれど、当たり前答えてくれる者など何処にもいない。
判っているのは迷う暇なんてないということ、迷っても導き出される結果は同じだということ。
だからせめて、この僅かな時間さえも無駄にしないように、佐野は前へ前へ進むことだけを考えた。
けれど、それを咎めるように呼ぶ声。
「佐野君、待って下さい!」
走らなかったから当たり前に追いつかれて、呼ぶ声の主が佐野の肩を掴んだ。
構わず進もうとしたら思っていたよりも強い力で制されて、身体が前へ進まなくなった。
露骨に仕方がない、という表情をしながら、佐野は振り返る。
「なんや、今更」
冷たい声を出せば、目の前の男―――……犬丸は酷く傷付いたような表情を浮かべた。
この数ヶ月の間に何度も顔を合わせ、時には一日中一緒にいたりもしたけれど、彼のこんな顔を見たのはこれが初めて。
彼はいつだって人好きのするような表情を浮かべていて、ちょっと佐野が揶揄ったりしてみると、困ったような顔で笑う。
佐野よりも一回り近く年上である筈なのに、揶揄に拗ねた時は子供のような顔になる。
バトルで佐野がちょっとしたミスで酷い怪我を負った時は、申し訳なさそうな顔をする。
こんな事に巻き込んでしまってごめんなさい、と。
それでも、今浮かべているような表情はした事がなかったと思う。
其れほどまでにこの出来事が、彼にとって酷く大きなこととなって覆いかぶさっているのだと佐野も判る。
信じられない、嘘だと言ってくれ……目は口ほどにものをいうのだと、佐野は改めて実感した気がした。
犬丸は向けられた瞳に一瞬臆したように口を閉じたが、それでも引き下がれないと思ったのだろう。
一度唾を飲み込んで、負けまいとするように佐野をきつと強い瞳で見つめた。
「何、じゃありません。さっきの言葉、どういう意味ですか」
「…どうもこうもあらへん。そのままや」
「何故そんな事をするのかと聞いているんです!」
犬丸が言いたいことを察していながら的外れなことを言えば、怒鳴られた。
ワンコに怒られたん、初めてや。
今はきっと関係ないことだ。
しかし佐野の思考は随分と冷め切っていた。
平時であるならば彼が声を荒げたことを珍しさとともに驚いて見たことだろう。
けれども今回は最初からある程度予測できていたし、判っていてこんな台詞を吐いた。
犬丸の神経を逆撫でしていると承知していながら。
「十団にっ…ロベルト十団に入るって、何故です!?」
佐野の前に回った犬丸の手が、佐野の両肩に置かれた。
震える手が彼の心情を何よりも吐露している。
佐野はそれを振り払おうともせず、ただ真っ直ぐに犬丸の顔を見上げた。
泣きそうや。
いや、泣いとるんやな。
まだ涙こそ出ていないけれど、もう少しで零れてしまうんじゃないか。
そんな表情を浮かべている犬丸の顔を、じっと佐野は眺めていた。
端整な顔立ちをしていると思う。
その名の通り犬みたいな性格をしていると認識するまで、それほど時間はかからなかった。
佐野よりも幾つも大人である筈なのに、時として単純で揶揄って遊ぶ相手にするには申し分ない。
ヘタレっちゅう奴かなぁ、と日頃の犬丸の様子を思い出しながら佐野は思った。
いい顔をする時は本当にいい顔なのに、それ以外の時はいつも何処かぼんやりしていて。
どうにも危なっかしいったらない、という事をポロリと本人の前で漏らした時、何故か君に言われたくないと反論された。
そんな彼の、綺麗な顔。
傷跡もなければ、自分のように火傷の痕もない、綺麗な顔。
オレ、この顔好きや。
何故、どうして、と揺さぶられるのも構わず、佐野の瞳はひたと犬丸の顔に向けられていた。
答えない佐野に焦れたように、犬丸の声が荒くなっていく。
このまま黙り続けていたら、怒って帰るのだろうか。
見損なった、と。
それなら、その方が良い、と佐野は思った。
綺麗な顔しとんねん。
美形っちゅうんやろなぁ。
女の子、きっと放っとかんわなぁ。
ほんで、笑うとほんまにええ顔すんねん。
その顔、オレ、もっと好きなんや。
……だから。
「佐野君……っ!!」
「―――――――ワンコ」
ようやく聞こえた佐野の声に、ぴたりと犬丸の動きが止まる。
それでも揺れる瞳に浮かぶ色は、変わっていなかった。
やっと答えが聞けるのか。
やっと意図を答えてくれるのか。
この数ヶ月の間で、佐野は犬丸のことをそれなりに理解できたと思う。
犬丸の方も、佐野がどういう性格でどういう行動理念を持っているか判ってくれた筈だ。
だからこそ余計に理解できない行動を取った佐野の考えが判らなかったのだろう。
僅かな不安の中に一瞬の期待の色を見つけて、佐野は心の中でだけ苦笑した。
お人好しや、ワンコ。
そない簡単に、ヒト信用したらあかんて。
……平気な顔して裏切る奴おるんやで。
「オレが自分の意志で考えた結果や。ええやないか、その方が色々都合ええしな」
にぃっと笑みを浮かべて言えば、犬丸は目を見開いていた。
在り得ない、と。
そう、嘘なんだからそんな言葉は在り得ないものだった。
佐野がロベルト十団の戦い方を嫌っていたのは確かで、出来ればブッ潰したいぐらいには思っていた。
戦う意志のない能力者まで問答無用で叩き潰し、まるで全てを奪い去っていくかのように……
中には五体満足でいられなかった能力者もいて、気絶させれば済むものを、惨いことをすると苛立ちもした。
けれどもいつもと同じ表情で話す佐野の顔を見て、それが虚言と誰が見抜くことが出来ただろう。
「そんなっ…佐野君!」
「神になる事やったら心配すんなや。お前のことも、空白の才のことも、どうでも良うなった訳やない」
「そういう問題じゃない!頼む、佐野君、理由を教えてくれ!」
「せやから言うたやろ。都合がええんやて」
必死になって引き止めようとする犬丸。
それを見ながら、ああ、言わん方が良かったか、と佐野は少しだけ後悔した。
だけど何も言わずに立ち去るのも心苦しかったのだ。
……でも、こんなに必死になって引き止めようとしてくれるなんて思わなかった。
それが少しだけ嬉しいような気がして、でもやっぱり、今はそれに甘えることは出来ない。
佐野は自分の両肩に置かれている犬丸の手を見た。
掴む力は決して痛いほどではないけれど、それは多分、佐野の身体を気遣っての事だろう。
佐野の両肩には、まだ真新しい傷があり、今は包帯に覆われていたから。
こんな時にまで佐野を気遣ってくれるなんて、本当にお人好しにも程がある。
それに比べて、自分は。
なんて、嘘を吐くことに慣れてしまったのだろう。
「しつこいで、ワンコ」
ぱしん、と冷たい音が響いた。
行き所をなくした犬丸の手が宙を彷徨う。
同じように犬丸の心も迷子になっているようで、ええ大人の癖に、と佐野は心の中でまた苦笑した。
大人が、そんな泣きそうな顔ばっかするもんやないで。
大人が子供より先に泣いたらな、子供はもっと不安になるもんや。
子供は……な。
……自分は、子供じゃない。
年齢だけで言えば、まだ大人だなんて思われることなんてないけれど。
それでも、子供じゃない。
嘘がつけない子供じゃない、嘘を隠せない子供じゃない。
平気な顔をして嘘でもヒトを裏切れるのは、子供じゃない。
「ええ加減、其処退けや」
「―――っ……退きません!」
此処で退いたら、行くんでしょう、と。
言われたから当たり前やと答えれば、なら尚更退けない、と言われた。
でも、きっと本気で止めるなんて事、彼は出来ない。
それは彼が佐野に対して甘いのか優しいのか…そういう訳でもあるし、バトル内で定められたルールの所為でもあり。
神候補が人間を傷つけることは禁じられているから、こうして行く手を阻むしか出来ない。
今、彼はきっとそのルールを酷く歯痒く感じているのだろう。
それでも退かない。
このまま佐野が押し通しても、きっとまた追い駆けてくる。
堂々巡りになるだろうと佐野にも判った。
それじゃ、意味がない。
この道を選んだ意味がない。
佐野は一つ溜息を吐いて、俯いた。
それを見た犬丸が話を聞いてくれるのかと思ったのだろう、小さく佐野の名を呼んだ。
けれど。
キン、と金属が張るような固い音が聞こえ、
犬丸の顔のすぐ横を、鋭く尖ったものが駆け抜けて、それは壁に突き刺さった。
「退け言うとんのや」
低い、低い、声。
逆らうことを許さない声。
彼相手にこんな声を出すことがあるなんて、思ったことがなかった。
ドスをこめた、気弱な人間ならそれだけで気を失ってしまうことがあるんじゃないかと思うぐらいの声。
犬丸の傷付いた顔が、それまで以上に酷いものになった。
確実な拒絶を込めた声に囚われてしまった様に、犬丸の手はもう伸びて来ることはなかった。
その隣をなんでもない事のように、ただ通行人と擦れ違うだけのようにして通り抜けていく。
「佐野君っ………」
引き止めようと、何度も何度も呼ばれる声。
それでも佐野は振り返らずに、壁に突き刺さり、手拭に戻り地に落ちたそれを拾い上げた。
訓練の途中の情景のように懐に仕舞うと、再び佐野は前に向かって歩き出す。
空に浮かんだ月が眩しくて、佐野は目を細めた。
月なんて生まれてからこの15年間の間に嫌というほど見たけれど、嫌悪に似た感情を抱いたのは初めてだ。
温泉に浸かって星空と月を見上げている瞬間なんて、人生幸せと感じる瞬間ベスト5にランクしている。
迷子にならないように夜道を照らしてくれるその光も、決して嫌いではなかったのだ。
でも、今だけは酷く嫌いだ。
振り返ったら、きっと泣きそうな顔になっている彼がいる。
それを見たら深く深く埋めた何かがマグマになって噴出してしまいそうだ。
だから一番言いたい言葉を言わないように、佐野は振り返らない。
待ってくれ、と何度も繰り返されていたけれど、それを振り切る。
いつまでも聞いていると立ち止まってしまいそうだと思ったけれど、走ったら逃げ出してしまいそうだった。
それをもしも悟られてしまったら、何もかも台無しだ。
「どうして…どうして、佐野君!」
信じてくれている。
信じてる。
佐野が自分の中に一本立てた意志を、信じてくれているから止めようとしている。
あかんねん。
今は、あかんねん。
その声に甘えてもうたら、お前は―――――――………
「佐野君………――――――!!!!」
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“うえきの法則”より、佐野清一郎にハマってます。
相変わらず総兄ちゃん大好きです。
そしてやっぱり佐野受で爆進中です。
しょっぱなから犬佐野前程佐野総受の長編です。
いつも長編から書くのね、私……
佐野のロベルト十団入から、十団にいる間の出来事を書きます。基本捏造!
犬佐野前程ですが、二人はまだ恋人ではないし、互いにそう思ってもいません。
大切な親友、かけがえのない存在、そういう感じ。
ロベルトとカルパッチョ以外の十団の人たちは殆ど出ないと思います。
それよりもオリジナルキャラが一話毎に出てくる可能盛大。
そんなもんで宜しければ。