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其処にあったのは、全く新しい世界。
まだ幼い京一には、到底理解できない世界。
―――――“普通”の世界を、幼い京一は飛び出した。
その先に、どんな世界があるかも知らず。
綺麗なものに溢れていると思っていた世界は、本当は汚れた色で一杯だった。
テレビで憧れていたヒーローなんて何処にもいなくて、世界は悪い奴らで溢れている。
憧れていた父を奪ったような悪い奴らが、あちらこちらで嘲笑(わら)っている。
夜道を照らしてくれるものだと思っていた人工灯は、汚い世界を綺麗に見せかける飾り。
甘い匂いのするお菓子は、死に物狂いで生きてる人には手に入らなくて、上で肥えてる奴らが食べる。
そんな世界が溢れていて、子供心は酷く冷たくなっていった。
高架下で寒さに震えて、空腹を堪えて。
悪い奴らに襲われた人を助けた時、お礼にと食事を奢って貰った事はあるけど、それもしょっちゅうある事じゃない。
ホームレスの中に混じって残飯を漁った事もあるし、コンビニ店員が見てない内に万引きもした。
大嫌いな悪い奴らと似たようなことを、時々する事もあった。
その度、頭の中で父の顔がちらついたけど、見ないふりをして唇を噛んだ。
―――――汚れているのが“普通”の世界。
真っ白だった子供の心は、沢山の色で塗りつぶされて、灰色になった。
その灰色を、まるで全て切り裂くかのように刃を振るう男と出逢った。
その男は、とんでもない強さだった。
手に持っていた丸めた雑誌一つで、三人のヤクザを呆気なく片付けた。
それも一瞬の内の出来事で、何がどうなったのだか、幼い京一には全く判らない程。
けれども、その男がとんでもなく強いと言う事だけは判った。
強くなりたいと一心に抱き続けていた、子供の心を全て攫ってしまうほど、それは鮮やかで。
この人と一緒にいたら、もっと強くなれるかも知れないと思った。
その男に連れて行かれた先には、とんでもないものが待っていた。
病院に連れて行かれた時、嫌ではあったが納得はしていた。
大人相手にリンチ紛いの目に遭って、京一はあちこち傷だらけだったのだ。
今日の傷以外にも酷いものはあったから、傍から見て放っとけるものではないだろう。
けれども、其処の院長であるという人物に遭った瞬間、京一は固まった。
まるでこの人間とは思えない外観をした人物だったから。
「妖怪」と言ったら殴られた。
結構痛かった。
治療も痛かった。
放っておいた傷も全部治療されて、滲みるのが嫌で泣いて暴れた。
これから世話になるんだと聞かされて、心底嫌だと叫んだ。
叫んだら、病院だから静かにしろとまた殴られた。
殴られたのは痛かったけれど、手当てされた所はいつも綺麗に治っていた。
その次も、とんでもなかった。
明らかな男のものである野太い声と、濃い青髭と、大きな体躯。
細いものもいたけれど、そっちはクネクネ動いて気持ち悪い。
「妖怪」と言ったら殴られると思ったら、「妖怪みたい」と言った。
明らかな鈍器を持ち出されて、その横ではソファを軽々と掲げ上げられて、ヤバイ殺されると思った。
怒った二人を男が宥めている間に、他の二人に比べて大人しめな人物が近付いて来た。
先の二人に圧倒されていた事を思えば雰囲気は柔らかかったが、京一の認識で見慣れぬ生き物である事に変わりはない。
木刀を握り締めて縮こまった京一を、その生き物達は甚く気に入った。
慣れてみれば、なんて事はない。
見た目がちょっと変なだけの、それよりもずっとずっと優しい人達だった。
暗く冷たい世界へようこそ、何も知らない白の魂。
汚れる覚悟は出来ているかな。
一時の仮宿の世界へようこそ、歩き疲れた無垢な魂。
もう一度歩き出せるまで、暫く此処でお休みなさい。
天国と地獄の狭間の世界へようこそ、小さな光。
キミが望む世界は、今此処にありますか?
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極端なんですよ、うちの京一って。子供の頃から。