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舟の前部で櫂を操る左之助の手付きは、はっきり言って危なっかしい。
同じく、舟の後部で櫂を操る克弘は、それ程危なっかしくは見えないのに、この差は何故だろうか。
克弘がそうじゃない、それじゃ駄目だと助言しようとする度に、判ってらァと左之助が言う。
そうは言っても出来ていない事は変わらなくて、やっぱり判ってないじゃないかと克弘が言った。
もう、いつ左之助がキレやしないかと、周りの大人はヒヤヒヤ(一部は楽しんで)している。
それでも左之助が左之助なりに一所懸命なのは判っている。
「ほら、行くぞ、左之。せーの、」
「うっ……と、このッ」
何度目か判らない、元漁師の隊士の号令に合わせて、左之助は櫂を漕ぐ。
最初のうちはちゃんと櫂を操る全員の呼吸が合っているのに、段々左之助だけがズレて来る。
克弘は一定に漕げているのに。
またズレた。
と、珍しく左之助ではなく、克弘の方がキレた。
「左之、場所変われッ」
「なんでェ、いきなり」
「お前が前じゃ、いつまで立っても舟が進まないだろ」
「進んでんじゃねェか、ちゃんと」
「予定より全然進めてないんだよ。見ろ、皆にも置いていかれてるじゃないか」
克弘が指差したのは、向かう先、対岸である。
何艘かに分かれていた仲間たちは、既にぽつぽつと到着しつつあった。
よりによって一番隊隊長の乗った船が、一番遅れているのである。
「自分だけが勝手に漕いだって、舟は進まないんだぞ」
「ンな事言われなくたって判ってらァ」
「じゃあオレと場所変われ。後ろで、皆見ながら漕いだ方が絶対いい」
克弘の言葉に左之助がむーっと唇を尖らせる。
しかし、舟が遅れている原因が自分であるとは自覚していた。
大人達の隙間を通り抜けて、左之助が舟の後部に回った。
代わって克弘が前に行き、左之助が漕いでいた櫂を握る。
せェの、と元漁師の隊士が声をかけた。
ぎぃぎぃ音を立てて、櫂が揃って動き出す。
左之助は時々ズレたが、それでも前にいる時よりはマシになった。
前で漕ぐ隊士の櫂とぶつからないように、目で見ながら確認する事が出来る。
修正も直ぐに出来るから、克弘の提案は正解だったと言う事だ。
―――――が、左之助が後部に行くのを一瞬渋ったのは、それを認めたくなかったからと言う訳ではなくて。
「もう少しだぞ、左之助」
後部に座するのが、敬愛する相楽隊長で。
その隊長が乗っているのに、自分の所為でこの舟は出足を遅れさせてしまって。
申し訳ないやら悲しいやらで、隊長の傍に行くのに少し気後れがあった。
その隊長は、そんな事なんでもないよと言うように微笑んでいたけれど。
「あの、隊長」
「うん?」
「…その……すんません、した」
櫂を漕ぐのを言い訳に、目を合わさずに謝った。
ごつ、と水面の下で櫂と櫂がぶつかった。
左之助の前で櫂を漕ぐ隊士が振り返ったが、何も言わず、気にするなと言うように微笑んでみせるだけ。
またやっちまった。
思いながら、左之助は出所を見計らって、また漕ぎ始めた。
当たらないように、皆と呼吸を合わせるように勤めて。
ようやっと、上手く行くかなと思い始めた、時。
「大丈夫だよ、左之助」
ぽんと背中を叩く手に、どきりと心の臓が跳ねて。
ごちっ、とまた櫂と櫂がぶつかった。
――――――いい加減にしろよ、と幼馴染の激が飛んできた。
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何処を行軍してるんだか(爆)。
でも川を渡ったりする事もあったと思うんだ、多分。