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初詣に皆で行こうと言い出したのは、小蒔だった。
それに最初に賛成したのが遠野で、葵もいいわねと言って頷いた。
言い出したのが小蒔だから、勿論醍醐が否やを言う訳がない。
意外と皆揃うのが好きな龍麻も行くと言った。
そんな中で一人、行かないと言ったのが京一だ。
「……だってェのに、なんでオレァ此処にいるんだ」
人でごった返す花園稲荷の入り口。
其処で赤い鳥居を見上げながら、京一は溜息を吐いた。
人ゴミに行くのは嫌だと言ったのに。
そもそも寒ィから御免だと言ったのに。
どうして此処にいるのか、自分の事なのに全く判らない。
……否、判っている。
隣で、この寒空の下で冷たい苺牛乳なんてものを飲んでいる相棒の所為だ。
「折角なんだから、皆でお参りしたかったんだ」
京一を『女優』から連れ出す時と、一言一句変わらぬ理由を、再び述べる龍麻。
そんな彼をじろりと見遣れば、ふわふわ笑みを浮かべている。
この笑顔が曲者だ。
怒鳴りたくなっても怒鳴る気が失せる、悪気はないのだと相手に思わせる。
京一もその一人であって、人ゴミの中寒空の下だと思っても、拳を上げることさえ出来ない。
しかし何もしないのも癪なので、木刀の先で龍麻の頭を軽く小突いてやった。
「オレは行きたくねェっつっただろうが」
「いいじゃん。大晦日ぐらい付き合ってくれても」
「普段オレがどれだけお前に付き合わされてんのか、テメェ判ってねェだろ」
その“付き合わされている”中には、京一自ら首を突っ込んだものもある。
寧ろ相手に“付き合わされている”数なら、龍麻の方が上かも知れない。
“歌舞伎町の用心棒”に売られる喧嘩の殆どに、龍麻の存在はあった。
…まぁ、それも京一が「付き合え」と言った訳ではなく、ほぼ龍麻自主的の参加であるので、結果はお相子か。
ぐいぐい木刀の先で龍麻の頬を押してやる。
止めてよ、と言われた、京一は気にしなかった。
「本当だったら今頃、寝正月でのんびりしてたってのによ」
「駄目だよ、怠けちゃ」
「正月ぐらいゆっくりさせろってんだよ」
別に、普段から忙しない生活をしている訳ではないけれど。
12月の頭からなんだか自分達の周りは随分慌しくて、あまりゆっくり出来た気がしない。
高校三年生としての生活が終わりを向かえ、大学受験だの就職だのと騒がしくなってきた上に、拳武館との抗争だ。
毎年の年末年始より疲れたのは間違いない。
……それらの理由がなかった所で、京一がこの初詣に乗り気でないのは変わらなかっただろうが。
「オマケにあいつら遅ェしよ!」
来る気配のない仲間達に、京一は憤慨したように言う。
「美里さん、振袖着てくるって言ってたよ」
「ふーん」
「桜井さんと遠野さんも着てみたいって言ってたから、一緒に着付けして貰ってるんじゃない?」
醍醐は、恐らくそんな彼女達と一緒に来るだろう。
彼のことだから、小蒔を迎えに行くぐらい苦ではない。
その間、此処で男二人は待ち惚けにされているのだが。
溜息を吐けば、白い息がゆらゆら揺れて消える。
木刀を持っている為に外気に晒されている手が悴んで痛い。
待ち合わせ時間は過ぎた。
だから余計に京一は苛々している。
けれども、龍麻はマイペースなもので、
「もう少ししたら来るよ、多分」
言って、鳥居に寄りかかる京一の横に立って。
外気に晒されている手に、自分の手を重ねる。
京一は判り易く眉間に皺を寄せて、龍麻を睨んだ。
「だから一緒に待っていようよ、京一」
後少し。
もう少し。
一緒に、此処で、二人で。
握った手をそのままに、睨む相棒の強い眼差しを、正面から受け止めて。
告げる相棒に、やがて険は抜けて行き。
……仕方ねェなと呟く親友に、もう少しだけ皆遅れてくれないかなと、握った冷たい手を見て思った。
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書く度にシチュエーションに困る龍京(笑)。
こいつらは年末年始もずっとこんな調子です。
ナチュラルラブ。