[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
隊長、と。
駆け抜けていく、唯一同じ年の準隊士。
その彼に、この想いが届くことはないと思う、けれど。
克浩はいつも左之助を見てるなぁ、と。
そう言ったのは、壮年の隊士だった。
人を観察するのが趣味だというこの人物は、一番隊の面々の癖というのもよく知っていた。
初めてそれを聞いた時は変な趣味だと思ったものだが、聞いて見ると色々と面白い。
その人その人にある些細な仕種一つで、嘘を見破ってみたりするのだから、いつしか素直に凄いと思うようになった。
しかしこの事を言われた時―――自覚はしていたけれど、ヤバい、と思った。
何故なら言われた時に、左之助が隣にいたからだ。
「なんでェ、そりゃあ。オレ見て楽しいのか? 克は」
「……いや、楽しいというより……危なっかしいから目に付くというか」
「ハハハ。そりゃあそうだなァ」
克浩の言葉に、左之助はカチンと眉根を寄せ、壮年の隊士は手を叩いて笑った。
実際、後先考えずに突っ込む気質の左之助だ。
慎重派と言って相違ないであろう克浩にしてみると、実に危なっかしくて放って置けない。
――――――でも、理由がそれだけじゃないのは、自分が一番よく判っていた。
「しかし、それにしたってよく見てるな」
「そんなに見てんのか?」
隊士の言葉に、左之助がまた聞いてきた。
本心を知られたくなくて、また同じ台詞――「危なっかしいから」と返す。
繰り返し言われれば、腹が立つのも当然で。
増して左之助なのだから、そういう結果も予想できなかった訳ではない。
案の定拳が振ってきて、克浩は慌ててそれを避けた。
そのまま追いかけっこになった幼い準隊士を、壮年の隊士は笑って眺めていた。
―――けれど、それも長くは続かなかった。
「左之助ー、左之助ー」
遠くから投げかけられた声に、ぴたりと左之助が止まる。
「隊長ー!」
克浩を追い掛け回していた事だとか、それに至る理由だとか。
キレイさっぱり見事に忘れたように、左之助はぱっと笑顔になって、声のした方向へ駆け出した。
それを、克浩は目で追い駆ける。
呼んだのはやはり、相楽隊長で。
呼ばれた左之助はやはり、至上の幸福でも受けたかのように嬉しそうで。
克浩はいつも、それを遠くから見ている。
克浩の向ける視線の意味を、左之助が知る事はない。
克浩がどんなに左之助を想っても、それを左之助が知る事はない。
ずっと、ずっと、ずっと。
それは時々、とても歯痒くて、辛くもなる、けれど。
「克ー! 克!」
左之助が、嬉しそうに此方に手を振っている。
一体何を言われたのか、聊か興奮しているようにも見えた。
傍らに膝をついている相楽隊長は、苦笑している。
壮年の隊士が、ほら行った行ったと手を振った。
言われなくても行くと言うと、やはりその隊士は声を上げて笑う。
走り出せば、早く早くと急かす声がした。
「おもしれェもん隊長が見せてくれるってよ! 早く来いよ!」
言って、左之助が手を伸ばす。
答えるように、克浩も手を伸ばした。
この、想いが。
想いを乗せた、言の葉が。
届くことはないと、思う、けれど。
今はこの手が君に届けば、幸せだから、いいんだ。
段々報われなさ過ぎて可哀想になってきたかも知れない(汗)。
報われる克浩ってどう書いたらいいですか(えぇ!?)