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「―――――将来、オレ達はどうなってると思う?」
釣りの最中にあんまり暇だ暇だと言うから、そんな話題を振ってみる。
あまりにも陳腐な会話になりそうだったが、暇潰しなんだから、それぐらいで程度は丁度良いだろうと。
振られた幼馴染はきょとんとした顔をしたが、暇潰しになるならなんでもいいか、という結果になったようだ。
当たりの来ない釣竿をゆらゆら揺らして、左之助はうーんと想像を働かせている。
「どうってなぁ……将来って言っても、どの辺の将来だ?」
「じゃあ、改革が成った後の―――そうだな、10年後とか」
左之助が時期の提示を求めたから、適当に決めた。
一番判りやすくて手っ取り早い年数だと思った。
「10年か。そしたらオレ、19だな」
「赤報隊はどうなってるかな」
「隊長はもっと偉くなってんだろうなぁ。オレ達も偉くなってんのかな」
「どうかな。四民平等、が隊長の目指してるものだし」
「だからこそ、農民の子のオレも偉くなってるかも知れねえな」
偉い地位が欲しい訳ではないけれど。
自分達がそうなったならと想像すると、なんとなく判り易い縮図が出来るような気がしたのだ。
血縁も何も豪族と縁のない自分達が、隊長と同じような地位になったら、それは凄い事じゃないか。
今まで虐げられる一方で逃げ場もなかった人々が、上に上がって来れるのだから。
「でも案外、今と変わらないかもな、オレ達は」
釣竿を見ながら、克浩が呟く。
明確な想像が立てられないと、未来の予想図の固まり方もおのずと決まってしまうのか。
まだ世の中の成り立ちなど、子供の自分達にはよく判らなくて、知らない事を想像して形にするのは難し過ぎる。
そうすると明確な色も形も浮き上がるのは、今の生活の延長上のような未来。
背が伸びて、準隊士から隊士になって―――――10年も経てば、赤報隊は形を変えているかも知れないけれど。
それでも自分達は一緒にいて、そして前には隊長が歩いていて、自分達はそれを追い駆けている。
その頃には、もう彼の人と同じ目線の高さになっているだろうか。
「オレ、それがいいな」
「それって?」
「だから、今と変わんねェのがいい」
言いながら、左之助が釣竿をぐっと引き上げる。
肘から掌までと丁度同じ長さの魚が釣り糸の端に喰らいついていた。
魚篭代わりに設けておいた水溜りに魚を入れる。
元気な魚はしばらくじたばたした後、狭い水溜りの中をスイッと泳ぎ出す。
それを見てから左之助は餌を付け直し、釣り糸を投げた。
左之助の動作を一通り見守ってから、克浩が口を開く。
「改革が終わった後でもか?」
「お前ェが先に言ったんじゃねぇか」
「言ったけど」
「なんでェ、お前ェは嫌なのか? オレも隊長も、他の皆もいるんだぞ」
左之助の言葉に、克浩は目を剥いた。
それを見た左之助が不思議そうに首を傾げる。
「克、顔、変だぞ」
克浩の表情の変化の意味を汲み取れない左之助は、至極不思議そうで。
それに気付いた克浩は、慌てていつもの無表情を繕った。
が、その耳が赤い。
「おい、克?」
釣竿を石場に置いて、左之助が歩み寄ってくる。
顔を覗き込まれて、克浩はそっぽを向いた。
左之助は不満そうに唇を尖らせていた。
―――――鈍くて助かった。
「なんだよ。オレ、そんな変な事言ったかよ?」
「……いや、別に…ちょっと驚いただけだ……」
「だから。オレんな事言ったかっての」
「……いや………」
はっきりしない克浩に、なんだよ煮え切らねェなと左之助は憤慨した。
が、克浩はどうにも答えられそうになくて、と言うか左之助の顔すら見れない。
……だって驚いた。
隊長に傾倒しきっている左之助が、将来も隊長と一緒にいる事を願うのは簡単に想像できた。
19の大人になっても懲りずに雛みたいに、隊長の後ろをついて回る。
それも結構容易に想像が出来て、隊長は苦笑しながらそれを見ているのだと。
ただ其処に自分の存在もちゃんといたのだとは、思わなかった。
10年経っても、左之助の隣には、ちゃんと自分がいる予定なんだと。
「変な克」
ちらりと左之助を見遣れば、そう言って笑っていた。
10年後。
今は見えない、遠い未来の10年後。
同じ笑顔を、こうしてまた見る事が出来るなら。
そんな未来を、お前が望んでいるのなら。
隊長を追い駆けて、隣に自分がいて、そんな未来を望んでいるなら。
ずっとずっと、傍にいよう。
キミが望む未来の為に。
子克は、こういう不意打ちにやられてるといい。