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この手がいつまで此処に在るのか。
この手が、いつまで届くのか。
不安に思うよりも、先に。
子供特有の熱が、手袋越しに伝わってくる。
同じ子供でも、克浩はこんなにも熱くはなかったと思うのだけれど。
でも、この子供の手が冷たい事も想像がつかなかった。
恥ずかしそうに照れ臭そうに、でも嬉しそうに、子供らしい力で握られる、己の手。
決して綺麗とは言えない自分の手を、宝物のように包んでくれる、小さな掌が愛しかった。
見下ろせば、見上げる瞳とぶつかって、
「寒いっスね」
その言葉に、そうだなと返す。
寒い。
でも、繋いだ手は暖かい。
吐く息が白くて、それが益々体感温度を下げるような気がした。
「早く、春になって欲しいっスね」
「…そうだな」
春になれば、山の行軍も幾らか楽になるだろう。
でも、その頃になっても、繋ぐ手は変わらないのだ、きっと。
「克が寒い寒いって、煩いんですよ」
「お前は、寒くはないか?」
「オレぁ平気っス」
にっと笑って、寒さの所為か照れ臭さか、紅くなった鼻頭を掻く。
繋いでいた手を、ぎゅっと握れば、嬉しそうに握り返してきた。
握れば握り返してくる、小さな手。
まだ子供らしく柔らかさを残す、幼い手。
その手がとても愛しくて。
―――――――でも、きっといつかは手放さなければならないのだろう。
近い日か、遠い未来か、それは知らない。
知らないけれど、いつまでもこうして手を繋いでいる事は出来ないだろう。
子供の成長は、遅いようで、早いのだから。
大人になれば庇護など必要なくなるし、左之助も己の道を探すようになる。
今は盲目的に自分の事を慕ってくれるけれど、その内、もっと外の世界を見るようになる筈だ。
出来る事なら、それを妨げてしまいたいと思う自分は、なんて身勝手なのか。
いつかこの手は大きくなり、必然、相楽の手から離れていくだろう。
それを、いつの間にか惜しく感じて、このままでいたいなんて。
「隊長?」
不思議そうに呼ぶ声に、なんでもないよと微笑んだ。
左之助はきょとんとして首を傾げる。
そんな左之助の右目の上、瞼に口付けを落とす。
「隊長、どうかしたんですか?」
触れ合い程度にしか、意味を理解していない子供。
なんでもないよともう一度言って、また口付ける。
左之助はくすぐったそうに笑って、繋いだままの手にまた力を込めた。
いつまで、一緒にいられるだろう。
いつまで、この手を繋いでいられるだろう。
出来る事なら、ずっと離さないでいたいと願う。
左之助は“ずっと一緒にいる”ともう決定事項的に思ってるかと。
まだまだ子供なので。