例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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07 手に入れることなど出来ない














手に入れる事は出来ない。
手に入れる事など赦されない。

だけど、でも、だからこそ――――――……













「――――――隊長……?」







自分を見上げる子供の眼に、怯えという名の感情の色が灯ったのは、これが初めてだ。


いつだって子供は無邪気に、尊敬と言う感情をぶつけて来た。
それはあまりにも透明すぎる子供らしい感情で、裏切ってしまうのを躊躇わせる。
きっと誰にも劣ることなどなく、子供は真っ直ぐに相楽を見つめて来た。

その子供の純粋すぎる想いを、滅茶苦茶に壊してみたくなったのは、いつからだっただろうか。






「隊、」
「じっとして」






見上げた先にある大人の顔に、この子供は何を思うだろう。
これでもまだ、自分が信じた“隊長”を信じようとするのだろうか。

そして子供は何があっても、目の前の人間を嫌うことなどあるまい。


その考えは殆ど確信となっていて、相楽は小さく笑みを浮かべる。
例えばこのまま細い首を締め上げても、子供はきっと恨みもしなければ妬みもしないし、憎むこともない。
子供が相楽に向ける目は、余りにも透明すぎて、邪な感情など欠片も宿してはいないのだから。

まだ世界のことなど一握りにもならぬ程しか知らない子供だ。
相楽は、その子供の世界で、絶対神にも似た位置に存在している。
神に心酔した殉教者は、天から火の雨が降ろうと、地が割れ飲み込まれようとも、神を憎むことはないだろう。
これは神が己に課した試練であり、尚も神を信じようとするだろう。

――――――子供にとっての相楽は、それだった。







「んぐ……」






口付けて、その咥内を好きに蹂躙した。
容易く子供の息は上がり、息苦しさに目尻に涙が浮かんだ。

酸素を求めてか、抗議する様に小さな手が相楽の胸を押す。



止めるなら、今だ。
ちょっと揶揄い過ぎたなと、笑って流して、なかった事にすればいい。


子供はまだ、穢れていない。
まだ、この手の中に閉じ込めることはない。

赦されない領域に、まだ、踏み込んでは、いない。




止めるなら、止めるなら、止めるなら。







「た、い……ちょ………」







息が出来ない。
苦しい。

助けて。


そんな風に、子供が救いを求める相手は、今その呼吸を奪っている人間で。
己を追い詰めている人間が誰であるかぐらい、子供だって判っているだろうに。
それでも救いを求める相手を、迷う事無く、子供は選ぶ。




助けて。
助けて。

助けて、隊長。




自分の手で追い詰めて。
その相手に縋る子供が、無性に愛しくて。













手に入れる事は、赦されない。



それなら、せめて。







同じ場所まで、堕ちておいで。
















ダークな隊長。
左之、食われるよ!
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