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手に入れる事は出来ない。
手に入れる事など赦されない。
だけど、でも、だからこそ――――――……
「――――――隊長……?」
自分を見上げる子供の眼に、怯えという名の感情の色が灯ったのは、これが初めてだ。
いつだって子供は無邪気に、尊敬と言う感情をぶつけて来た。
それはあまりにも透明すぎる子供らしい感情で、裏切ってしまうのを躊躇わせる。
きっと誰にも劣ることなどなく、子供は真っ直ぐに相楽を見つめて来た。
その子供の純粋すぎる想いを、滅茶苦茶に壊してみたくなったのは、いつからだっただろうか。
「隊、」
「じっとして」
見上げた先にある大人の顔に、この子供は何を思うだろう。
これでもまだ、自分が信じた“隊長”を信じようとするのだろうか。
そして子供は何があっても、目の前の人間を嫌うことなどあるまい。
その考えは殆ど確信となっていて、相楽は小さく笑みを浮かべる。
例えばこのまま細い首を締め上げても、子供はきっと恨みもしなければ妬みもしないし、憎むこともない。
子供が相楽に向ける目は、余りにも透明すぎて、邪な感情など欠片も宿してはいないのだから。
まだ世界のことなど一握りにもならぬ程しか知らない子供だ。
相楽は、その子供の世界で、絶対神にも似た位置に存在している。
神に心酔した殉教者は、天から火の雨が降ろうと、地が割れ飲み込まれようとも、神を憎むことはないだろう。
これは神が己に課した試練であり、尚も神を信じようとするだろう。
――――――子供にとっての相楽は、それだった。
「んぐ……」
口付けて、その咥内を好きに蹂躙した。
容易く子供の息は上がり、息苦しさに目尻に涙が浮かんだ。
酸素を求めてか、抗議する様に小さな手が相楽の胸を押す。
止めるなら、今だ。
ちょっと揶揄い過ぎたなと、笑って流して、なかった事にすればいい。
子供はまだ、穢れていない。
まだ、この手の中に閉じ込めることはない。
赦されない領域に、まだ、踏み込んでは、いない。
止めるなら、止めるなら、止めるなら。
「た、い……ちょ………」
息が出来ない。
苦しい。
助けて。
そんな風に、子供が救いを求める相手は、今その呼吸を奪っている人間で。
己を追い詰めている人間が誰であるかぐらい、子供だって判っているだろうに。
それでも救いを求める相手を、迷う事無く、子供は選ぶ。
助けて。
助けて。
助けて、隊長。
自分の手で追い詰めて。
その相手に縋る子供が、無性に愛しくて。
手に入れる事は、赦されない。
それなら、せめて。
同じ場所まで、堕ちておいで。
ダークな隊長。
左之、食われるよ!