例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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STATUS : Enchanting 4













――――――この想いの、行き着く先は
























【STATUS : Enchanting 4】



























場所は、龍麻が一人暮らしをしているアパート。
其処で参加者二名限りの、ささやかな酒盛りが催されていた。






最初はビールに始まり、途中から日本酒や焼酎に切り替えて、最終的には酔い潰れて落ちる。
それが毎回のパターンだ。
その隣で、龍麻はマイペースに飲んでいた。

今日もいい具合に酔いが回ってハイになっている京一の、纏まりのない話を、ちびりちびりとビールを飲みながら聞いていた。







「っはー……」






一通り好きに喋って、好きに飲んで。
そこそこスッキリしたのだろう、京一はばたっと畳の上に大の字に寝転がった。
周りには空の缶ビールが散乱し、京一は足元にあったそれを蹴飛ばした。
文句も注意もせず、龍麻はそれを集め、邪魔にならない場所に押しやる。


のびのびと四肢を伸ばした京一の顔は、ほんのりと朱色に染まっている。
アルコールの助けにあって夢見心地になっているのだろう。

それが、例え酒気を帯びてあるものだとしても、ようやく見慣れた相棒の表情になった事に、龍麻は安堵した。







「気分良さそうだね、京一」
「おーよ。おめーも飲んでっかァ?」
「うん」
「そーか。へへっ」






此処に小薪か醍醐がいたら、締りの無い顔だと言うのだろう。
だがそれは今の龍麻も同じ事。
へらりと笑う京一に釣られたように、龍麻からも笑みが零れた。



――――――結局、学校にいる間中、京一は疲れた顔をしていた。

帰宅中の足取りも何処か覚束無いもので、途中擦れ違った吾妻橋達からは怒涛の心配ラッシュを食らった。
特に吾妻橋は、数日前の拳武館の一件もあって、京一の傷の具合を心配し、桜ヶ丘中央病院に引っ張っていこうとした程だ。
それを見た同じ帰路にいた葵、小薪、終いには遠野も加わって、後少しで本当に連れて行かれる所だった。
京一が頑としてあそこだけは嫌だと抵抗したので、未遂に終わったが。


龍麻の家に来てからも、しばらくはぐったりと座り込んで動かなかった。
適当に作った炒め物と白米と味噌汁、簡素な夕食を終えた頃、ようやく京一の気力は復帰し、
最後にアルコールで発破をかけて、現在に至る。







「あー……暑ィなあ」
「アルコールだからね」
「んー……」







火照った京一の頬に、手を当てる。






「お前、手ェ冷てえな」
「そうかな」
「んー…」






自分の体温が高いか低いかなんて、龍麻は考えたことがない。
両親の手はとても温かかったけれど、自分の温度とそれを比べたことは無かった。

京一に言われて、今初めて、そうか自分は冷たいのか――――と思った。






「なーに残念そうな顔してやがんだ、お前」
「え?」






触れる龍麻の頬に、猫のように京一が擦り寄って、呟く。
その言葉に、龍麻はきょとんとして京一を見下ろした。








「知らねェか? 手が冷たい奴ってのは、心があったけェんだとよ」








言って、京一は気持ち良さそうに目を細める。
アルコールの熱と、触れる龍麻の手のひらの冷たさと、相反する二つに酔いながら。






「……なんか、京一らしくない台詞だね」
「そうか? ま、そうかもなァ。酔ってんのかもなァ」
「酔ってるよ」






顔が赤いし、語尾が伸びてるし、奇妙なことを言い出すし。
常ならば、そんなものは思い込みだとか屁理屈だとか、厳しく言い捨てるだろうに。
何かと、人に嫌われることばかりしてみせる天邪鬼な性格だから。

それでも、根本はやっぱり、優しいのだろう。
恥も外聞もアルコールの所為にしてかなぐり捨てて、こんな言葉を口にする事もあるように。




だから、好きなんだ。




自分の言った事に後になって可笑しさを感じたのか、笑い出した京一の頬を突く。
くすぐったいから止めろ、と言いながら、京一は決して龍麻の手を振り払わなかった。







「酔ってねーよ」
「酔ってるよ」
「酔ってねぇって」







否定する京一の言葉に、同じ数だけ酔ってる、と返す。


それほどアルコールに強くもない癖に。
缶を開けるなり一気に飲み干したりなんかするから、こんな風に早くに酔いが回るのだ。
その後も自分のペースを無視してヤケクソのように飲んでいた。

それで酔わない訳がない。

龍麻だって今日の京一のペースに合わしていたら、程無く潰れてしまうだろう。
今もまだ素面を保っているのは、認識している自分の許容範囲とペースで飲んでいるからに過ぎない。







「もう。酔ってるって」
「お前の方が酔ってんだろ」
「僕は酔ってないよ」







そんなに飲んでないし――――という言葉は飲み込んだ。
言ったら最後、無理矢理飲まされるに決まっている。
……前科アリだ。


いつもならばそろそろ潰れる頃合なのだが、今日の京一はまだ眠りそうにない。
先程の自分の台詞も完全にツボに入ったようで、声を上げて笑い出した。

あまり遅くまで騒いでいると、隣家の住人に怒られてしまう。







「まぁ、どっちにしてもさ。そろそろお開きね」
「あぁ? ケチぃ事言うなよ」
「ケチで言ってるんじゃないよ」







京一の枕元にあった瓶を退かせると、京一の手がそれを追い駆ける。
起き上がる気はないようで、龍麻が瓶を遠退かせると、拗ねた顔をしてその手は床に落ちた。






「僕、布団敷いておくから、京一はシャワー浴びてきなよ」
「あー……? 面倒くせェ……」
「もう……ほら、シャツ脱いで。ばんざーい」
「…………自分で脱ぐ…………」






シャツに手をかけた時、京一はようやく起き上がる。

一人暮らしの龍麻の安アパートの部屋に、脱衣スペースなんて設けられていない。
のろのろと緩慢に、京一は赤いシャツを脱ぎ捨てる――――龍麻の目の前で。






(…………信用してくれてる、って言うか)






その様子を横目に、京一のシャツと学校指定のズボン、意外に可愛いパンダ柄のパンツを回収して、
シャツとパンツは自分のアンダーシャツも含めて、洗濯機に放り入れる。
学ランは二人とも酒の匂いが染み付いているので、後で消臭剤をかけておく事にする。


酒が回った覚束無い足取りで、京一は風呂へと向かう。
時々壁にでもぶつかったか、穏やかでない音がしたが、最終的には風呂のドアが開く音が聞こえた。







(うーん)







これは、日頃考えていることだけれど。
幾らなんでも、信用しすぎと言うか。

正直言って、逆に龍麻にとっては辛い状況だったりする。


龍麻が京一に想いを寄せるようになったのは、それ程昔の話ではない。
かと言って、昨日や今日なのかと言われると、もっとずっと前の話になる。
いつから――――と言われると、龍麻自身、明確にはっきりとした事は判らなかった。

気付いた時には好きになっていて、気付いた時にはそれを受け入れていて。
いつも隣で太陽のように輝いている彼に、すっかり骨抜きにされていたのが現実。



だから、泊まりに来てくれるのは嬉しいし、無防備な姿を見せてくれるのは信頼の証なのだとは思う。





―――――けれど。









(それってつまり……僕の事、ちっとも意識してないって事なんだなぁ…)









京一にとって、龍麻が傍にいるのは当たり前のこと。
龍麻が自分の傍にいるのも、ごくごく不思議な事ではなく、普遍的なもの。
出会ってから半年が経ち、今更気にするような事ではないのだ。

京一から龍麻に向かう感情のベクトルは、何処までも“親友”に向けるものであって、それ以上にはならない。


言葉なくても分かり合える関係と言うのは、龍麻にとってとても大切なものではあるけれど。




嫌われることはない。
このまま、ずっと“親友”でいれば。

何があっても、京一は龍麻を追い駆けて来てくれるだろう。





でも、それでは物足りない。










(どうすれば―――――――)











――――――ゴッ!!










………穏やかではない、硬い音がして、龍麻の思考は現実に返った。

まさか、と思って振り返るが、その先には誰もいない。
自分のと京一の学ランをハンガーにかけて、風呂に急ぐ。






「京一ッ」





中にいるであろう人物に、予告をする間も惜しんでドアを開ける。


京一は、一人分がようやくという風呂場の中でタイルの上に座り込んでいた。
ぶつけたのだろう、赤くなった額を抑えながら。






「………っつー………」
「京一、大丈夫?」






服が濡れるのも構わず、風呂場に入って京一に手を貸す。
温まって余計に酔いが回ったのか、京一の目はぼんやりとしていた。

濡れた髪の毛先から、透明な雫がぽたぽたと流れ落ちる。








(う゛)







いつも鋭い眼光が、今だけは虚ろ。
気持ち寄りかかっている体はアルコールと湯で火照り、ほんのりと色付いて。



じっと見つめる龍麻の視線に気付いて、京一が顔を上げる。







「あ……? …どした、龍麻……」
「えッ…あ、いや別に」






脳裏を過ぎった不埒な考えを振り払って、龍麻は京一の腕を取って立ち上がらせる。






「そんなに酔ってたんなら、シャワーもしない方が良かったかな。足滑ったんだろ」
「違ぇよ……眠かっただけだ………」
「昼間もあんなに寝たのに」
「……仕方ねェだろ、昨日寝れなかったんだから……」






そう言う京一の意識は、もう殆ど途切れ気味になっているらしい。
ぼんやりしているのは逆上せかけているのもあるだろうが、それよりも睡眠不足。
学校で寝てばかりいたのも、疲弊していた表情も、全てはそれが原因。

昨日は気の知れた人達の所に泊まったのではなかったのか。


うとうとと目を細める京一の身体を簡単に拭いてやり、寝巻きにシャツと下着を着せる。
自分とそう変わらない体躯を軽々と抱え上げると、龍麻は先に強いていた布団の上に京一を下ろした。







「寝れなかったって、昨日はごっくんクラブに行ったんじゃなかったの?」







吾妻橋の所ならば、寝不足になるのも判らないでもない。
舎弟を連れて一晩あちこち練り歩いて、時にはケンカ、時には博打に興じる事は多いようで、翌日寝不足―――なんて事も珍しくない。


しかし、昨日はごっくんクラブに行くと言って、帰り道は歌舞伎町の方へ向かうのを、龍麻は見送った。
その後京一が何処に行くかは京一の好きにされるから、本当に行ったのかどうかは、龍麻には判らない。

けれども、あそこは京一が随分長い間世話になっている場所だ。
割合、頻繁に利用している。
其処を拠り所にしている人達に、京一はとても愛されていて、過剰な愛の表現も、京一は嫌っていない。




他の所に行ったのかと問うと、京一はいいや、と小さく返した。







「行ったぜェ……飯も其処で喰ったし……」
「それで、なんで寝不足? お兄さん達と一晩話してたとか?」
「……寝れる状況じゃなかったんだよ……」







うとうと眠そうに目を擦り、京一は欠伸を漏らす。
龍麻が話しかけなければ、程無く眠りの淵に落ちるだろう。

寝落ちかけている京一の頬を突くと、うーと愚図るように京一は龍麻の手を払おうとする。
猫のような仕種に、龍麻は小さく笑っていた。



が、次の瞬間、爆弾を落とされる。
















「あの野郎が……寝込み襲って来やがるから…………」
















―――――――――なんだって?



思わず問い返した龍麻だったが、その言葉が出るまで、約30秒。
その間に、京一はすっかり夢の世界の住人になっていた。















黒龍麻で書こうと思ってたのに、意外に純情になってしまいました。
次回からガッツリ黒くして行きます(爆)。
PR

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