例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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10 その懇願に勝てるものなど居はしない









悲鳴にも似た声は、鳴いているようにも、泣いているようにも聞こえて。
シーツを握り締める手は、少し力加減を間違えれば、爪がその皮膚を食い破りそうで。

それらが心配ではない訳ではないけれど、ギリギリの場所で矜持を保つ少年の気持ちも判らないでもない。
無理やり暴かれた感情から、逃げる余裕も向かい合う時間を持たせなかったのは、八剣の方だ。
これ以上の屈辱は御免だと歯を食いしばる事さえ、封じてしまっては彼から全てを奪う事になる。







「…っい……あ……!」







細身の体躯を抱き寄せて、深くまで自身を沈ませる。
触れ合った熱に、京一の身体が震えた。

今まで見ない振りをしてきたそれに、八剣は目を窄めると、京一の肢体を溶け合うほどに強く抱き締めた。







「大丈夫だから」
「ん、う……っひ……!」







シーツに顔を埋める京一に髪を撫でるように手櫛で梳く。
その手を拒絶しようとしたのだろう、京一の右手が浮きかけて、またシーツに戻った。


嘔吐を堪えているようにも見える。
縋るのを戒めているようにも見える。

どちらもが恐らく正解であり、京一はそれらを表に出すまいと必死になっている。
先刻暴かれたばかりに、これ以上の弱味を見せまいとして。
……一番最初に互いに見っとも無い姿を晒しているのだから、八剣は今更のようにも思うけれど。






「う、う……ぐ……ッ」






背を丸めて苦痛をやり過ごそうとする京一の頭を、また撫でた。
目尻に浮かんだ涙を舐め取ると、親からの愛撫を嫌がるような子供みたいな顔をする。
けれども、もうシーツを握る手が拒絶を示そうとする様子はなかった。






「ふッ……ぅあ……」






繋がりが深くなると、京一の左手が浮いた。
数瞬の間彷徨ったそれは、そろそろと八剣の肩を掴む。

小さく震えるその腕を自分の首に回して、八剣は京一の顔に自分のそれを近付ける。
以前はアルコールによって強引に剥がした仮面は、今は既になく、子供が泣き出す一歩手前の顔が其処にある。
本人は、きっと気付いていないだろうけど。



口付けた。
京一の意識がはっきりとしている今、初めて、正面から。


京一が驚いたように瞠目し、舌が逃げを打った。
追って捕らえれば、たどたどしくも答えてくる。

そうしている間にも、細い躯はまた震えて。






「ん、ぅ…んん……」
「……いいよ、爪立てても」
「う……あ……」






囁いた瞬間、ガリ、と背中を尖ったものが引っ掻いた。
びり、としたものが背中を奔る。

今までにも何度か爪を立てられた事はあったけれど、今ほど痛くはなかった。
跡など残して、残されて堪るものかと、恐らく無意識に抑制が働いていたのだと思う。
それらから解放された今、其処にあるのは“独り”を恐れる子供の素直な感情で。




置いて行かれたくない。
独りになりたくない。

あの日の痛みを、もう二度と知りたくない。


だから置いて行かれる心配もしないように、独りでもいられるように、誰も此処には来させずに。
たった一人で歩いて行けば、誰かに置いて行かれる事もなくて、温もりに安寧する事もなくて。
守りたいものも、失いたくないものも持たなければ、失った瞬間は二度と来ない。



だけど、本当は、








「…………く、な………」








背中に精一杯爪を立てて、精一杯の跡を残して。
まるで鈎爪を打ち込むように。













「…………置いて……行く、な…………!!…」














遠い日の面影が消えなくて。
遠い日の痛みが消えなくて。

埋め合わせられるものを見つけるのが、また失うことへのカウントダウンのようで。


いつかの記憶を置き去りにして、気付かぬ内に自分の悲鳴に耳を塞いで。




ようやく引き摺り出された言葉は、本音と言うよりも、懇願に近い。













――――――言葉ではきっと信じられないだろうから、


君を縛る鎖ごと、抱き締める。















----------------------------------------

………終わりました。
……救済できてる……?

お題が進むに連れて、どんどん京ちゃんが病んでしまってすみません……
此処までドシリアスになる予定じゃなかったんだけどなあι
父ちゃんや師匠の事まで引っ張り出しちゃった。
二人の事がトラウマになる位、父ちゃんと師匠が好きだったらいいなーとか思って…


一応、ラブENDです(殺風景ですけどッ!)。

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09 暴かれた秘蜜









幼年期の体験は、周囲や当人が思っている以上に心に残る。
物心つく以前のことでも、記憶になくとも感覚と感情は根付く。












「―――――そんなに怖い?」








八剣の言葉の意味が判らず、京一は眉根を寄せた。

主語のない突然の会話は、自分の相棒も時折して来るので、理解に時間を要するものの戸惑うことはない。
しかし、目の前の男がそれをしてくる理由が見当たらず、京一は首を捻った。


なんの話だと言外に問うように睨んでいると、八剣の眼が京一を捉えた。







「置いていかれるかも知れない事が、そんなに怖いかな」







京一の眼が見開かれる。
それを見て、ああ自覚はなかったんだと八剣は呟いた。



とっつき難い顔をして、他者の介入を自ら拒む。
反面、一度懐に入れた人間には、年相応の笑顔を見せる。

なのに、その奥底の一番柔らかい部分には、誰にも触れさせることはない。
自らでさえまるで忘却したかのように、仕舞い込んで蓋をする。
誰かにそれを見付かっても、取り出せないように何重にも鍵をして。


けれどもふとした瞬間に、その仕舞い込んだ感情の片鱗は顔を覗かせる。


会話と会話の僅かな隙間、伸ばした手が届く直前のほんの一瞬、またなと言って手を振った後の微かな静寂。
小さな小さな記憶と感情の欠片が、無自覚に表に表れる。



暴かないのが正解なのか、暴いて引きずり出して見せるのが正解なのか。
八剣には判らなかったが、今のままでいる事が正解であるとも思えない。

少なくとも、自分が見たいものを見る為には。







「調べたんだ」
「……何をだよ」
「色々。例えば、お父さんの事とか」




―――――――剣の師匠の事とかね。







瞬間、空気が凍った。
風を切る音がして、その直後には数センチ先に剣の切っ先。




道を示してくれる筈だった父。
力を得る為の指標を見せた師。

そのどちらもが、京一を置いていなくなった。


“置いて行かれた”過去に、京一は無自覚のまま心の一部を落としたままでいる。




其処は恐らく、京一にとって、絶対不可侵の領域だったのだろう。
過去の事を話したがらない京一の、一番奥に根強く残る記憶。

許可なくテリトリーに踏み込んだ人間は、須く京一にとって敵になる。


それでも、餓えて泣くのを見るよりも、落として来てしまった感情を、もう一度拾い集められるなら。






「防衛線を張ってるのかな」
「………」
「置いて行かれてもいいように」
「………るせェ」






覚悟があれば、想定していた出来事であれば。
起こりうる事態であったと思っていれば、喪失したと思う事はない。

手放した時の傷は浅くて済む。


気にしていないと思っていれば、気にされていないと思っても傷付かない。
愛していないと思っていれば、愛されていないと気付いても傷付かない。
失うものだと思っていれば、なくした時に、何も悲しむことなどない。

全ては傷付かない為の予防線。
過去の傷みと同じ傷み、それ以上の傷みを負わない為の、無自覚な予防線。



気にしてなんかいない。
気にしたら、気付きたくない事に気付いてしまうから。

愛してなんかいない。
愛したら、離れる時が怖いから。


どうせいずれば失うものだ。
失わないなんて、この世に一つもないんだから。

―――――――――置いて行かれたあの日のように。









「だから苦しいんだよ、京一」








子供が愛を望むのは当然で。
子供が失うことを恐れるのは必然で。

成長しても、それは同じ。
人は一人で生きることは出来るけれど、結局独りにはなれない。
誰かと一緒にいて、初めて“己”を知る事が出来る。


それを恐れて遠ざけていたら、いつか息が出来なくなる。




失って。
奪われて。

騙されて、傷付けられて。


キレイなくらいに透明な部分一つが、悲鳴を上げている事にすら気付けないほど傷付いて。





知らない部分を暴かれて、強気な瞳が僅かに揺れる。

自覚していない感情を、他人によって自覚させられる事は、酷く苦痛を伴うだろう。
覚悟をする暇を与えられていないから。


でも覚悟する日を待ち続けていたら、この子は一生気付かないかも知れない。



求めることも怯えることも、何も罪ではない事を。










「俺はお前を置いていかない」









その言葉に明確な保障なんてない。
言葉一つで何が変わる訳でもないだろう。


愛を囁いても、愛に怯える子供は、その愛を信じることが出来ない。
約束をしても、破られる恐怖を覚えた子供は、その約束を信じて良いのか判らない。

無数に絡まった重い鎖が、届けたい想いの邪魔をする。



それなら、その鎖ごと愛するから。











「だからおいで、京一」












俺ごとその鎖に絡め取ってしまっていいから、

どうか、この手を―――――――
















----------------------------------------

うちの八剣は、京ちゃんに対して何処までも寛容的ですね……
ひょっとすると龍麻よりも。

最初は八京でちょっとアヤシイ雰囲気の話にするつもりだったのになー。
何処から連作になって、挙句こんなドシリアスな展開になったんでしょう(滝汗)。
……この拍手、楽しんでる人いるんだろうか……

08 泣きながら縋る爪がひっかいた









傷付けたい訳じゃなく。
出来るなら、真綿に包むように大事に大事にしてあげたい。

でも、あの子はそれを受け入れられる程に、温もりに慣れていないから。



声を上げずに泣いたりするから、抱き締める事も出来なくなる。
みっともない程、まるで赤子が親を求めるように泣くなら、大丈夫だよと囁いてあげる事も出来るかも知れないのに。







血の気を失うほどに強く強く掌を握り締めて、歯を食い縛る。
声を、悲鳴を、押し殺して、弱い自分を隠して押し込めて見ない振りをして。
気付かれたくないと望む彼のプライドを傷付けたくないから、自分も知らない振りをする。
そうして熱と痛みの所為にして漸く泣ける子供を、別の意味で傷付ける。

彼のプライドを踏み躙るような行為を繰り返しながら、傷付けたくないと願う。
矛盾しているそれはどちらも、彼の心中を尊重してのもの――――とは言い切っては、自分はただの偽善者だ。
彼の望むとおりに自分を演じて、自己満足に浸っている事になる。



違う。
そうじゃない。

けれど、こうする以外に今は判らない。



触れる度、まるで彼は吐き気を催しているようだった。
実際に吐いた事はなかったが、苦しげに喘ぐ様子は、艶よりも眉間の皺がよく目に付く。
でも、彼はそれも押し殺してしまう。

熱に浮かされて意識が飛びかける頃になって、彼は漸く、息をする。
生命が生きていく為に必要不可欠な呼吸を、その時になってやっと取り戻す。


悲鳴のような嬌声を上げて。







「あ、う……っは、……うぁ」






揺さぶられるままに声を上げて、瞳は宙を彷徨っている。

熱よりも、まるで痛みに酔っているように見えた。
快楽に笑むのではなく、痛みに安堵しているように。






「気持ち良い?」
「……あ、あ……ん、っは…」






問い掛けた言葉に、返事はない。
気持ち良いとも、常のように気持ち悪いとも言わず。



行為の前に、酒を飲んだ。
京一はアルコールに弱いとは言わないが、強くもない。
そのアルコールが、京一のストッパーの一つを外していた。

明日になれば何も覚えていないだろう。
酒に流されて行為に及んだ事以外は、恐らく、何も。






「…っふぁッ……や、熱……」






何か企みがあった訳ではない。
ただ、いつも苦しげに息をするから、ほんの少し助けになるものがあればと思った。
眉間の皺が少しぐらいは消えればいいと。

……ああ、やっぱりただの自己満足かも知れない。
だってそうしたのは、自分が彼のあの顔を見たくないからで。



この少年が真に何を望んでいるかなんて、結局、自分には判らない。




抱き寄せて、唇を己のそれで塞ぐ。
行為の最中に交わしたのは、これが初めてだった。
いつもは彼が寝入りかけた時にだけ、一方的に。

嫌がられるのも、無理に我慢して受け止められるのも、どちらも嫌で。
だから自分の気持ちも、京一の赦しも、誤魔化すように夢の縁に漂う彼に口付けた。


今なら同じだ。
明日になれば、京一はきっと覚えていない。

された事も、拒絶しなかった事も、苦しげな顔をしないままで受け入れたことも――――きっと覚えていない。



滑り込ませた舌に、たどたどしく絡みついて来るものがあった。
一瞬驚いて離れようとすると、いつの間にか肩を掴んでいた手がそれを阻む。






「ん……ん、ぅ……ふぁッ……」





どうしたの。
いつもはこんな事しないのに。


問い掛けても、返事はないだろう。
熱だけを追う京一に、八剣の声は届かない。

……現実に返してしまうのは虚しくて、届かなくて良いと思う。



思ったよりも長い時間口付けている事にようやく気付いて、解放する。





そして、見つけた雫に目を瞠る。











「………や、……る…、…ぎ…………」










それは、単なるアルコールの所為?
それとも、苦しかった所為?






………置いて行かれた子供のような泣き顔と、縋るように肩に立てられた爪と。



その理由を知る事が出来たら、君はもう、傷付かないようになれるのだろうか。













----------------------------------------

この京ちゃんをどーやって泣かせようと思った結果、酒の力に頼りました。
さぁ八剣、此処からがお前の男の見せ所だぜ!(←雰囲気台無し)

07 清廉なシーツに落ちた染み








息が上がるのに比例して、滲み出た汗が玉になってシーツに落ちる。
それを誤魔化すように手のひらで押し潰せば、其処からまた汗が滲んで、広がって。







「…っあ……ぅ……!」






干したばかりの筈だった、白いシーツ。
綺麗に糊付けされていた筈だったのに、今は見る影もなくぐしゃぐしゃに波を作っている。

耐えるように無造作に掴んで、指先が白くなるまで力一杯握り締めて。
漏れそうになる声を、布を噛んで押し殺す。
逃げを打つように揺らめいた脚は、何度となくシーツを蹴った。





「ん、うぅ……っは……!」
「息しないと、窒息するよ」
「……っる、せ……ん……!!」





奥を突いても、漏れるのは甘さとは程遠い、喉の奥からの呻き声。


痛いだとか。
嫌だとか。

言わない、言ってたまるか。


気持ち良いとか。
もっととか。

有り得ない、あってたまるか。







「ひ、ぅッ」
「………ッ……」







吐き出される、熱の塊。
刺激されれば勃ち上がる、そういう風に体の構造が出来上がっている。

後に残るのは、開放感と倦怠感。
どちらが大きいのかはよく判らない。



四つ這いで後ろから突かれて、まるで獣と一緒だ。
いや違う、人間も所詮は獣だから、これはごく普通。

其処に、種の存続に繋がる為の生産性がないだけで。



腰を引かれて、また奥を突かれる。
ぞくりとしたものが背筋を走る。
喉の奥から有り得ない音が漏れそうになって、シーツに顔を埋めた。

相手はまだ達していない。
近いとは思うけど。






「う、ん…ッ、いッ……!」






力一杯シーツを握り締めて、指先の血の気がなくなって行くのをぼんやりと感じた。
それでも緩めることはしない。




迫ってくるものを押し殺すように、固く固く閉じていた瞼。
揺さぶられる中で、自分の中で何がどう気紛れを起こしたのか、自分自身でもよく判らない。

判らないまま、薄ら眼を開いて――――――後悔した。










真っ白いはずのシーツ。
滲んで汚した、染み。


汗なんだか、他の何かなんだか、もう判らない。



ただ判るのは、どんなに洗い流したって、シーツと違って綺麗にならない自分自身。







綺麗でいたつもりはなかったけれど、それでも泣きたくなった自分がいた。














----------------------------------------

段々救済しようがなくなって来たんだけど、どうしよう(うわあああ)……
京一が限界が来るのが先か、八剣が行動を起こすのが先か……
あ、後のお題でなんとか…なる…・(汗)?

06 僕のものではないという事実












例え何度穢しても。
例え何度、傷付けても。

例えどれ程、その身に消えぬ痕を残しても。



君は僕のものじゃない。











脇腹に残した行為の痕跡を、忌々しげに睨んでいる横顔を見つめる。
無遠慮なほどに見つめているから、きっと彼は視線に気付いているのだろうけれども、何も言わなかった。
恐らく、此方の顔など見たくもないと思っているのだろう。


しばらくそのまま停止していた京一だったが、動き出すと服を着る手を再開させた。
冬に着るには薄手の赤いシャツを着て、たったそれだけで肌の軌跡は隠される。

どうせなら、見える所に痕をつけたい――――消えない痕を。
無防備に晒されている鎖骨だとか、向き出しの腕だとか、髪の隙間から見える項だとか。
けれども、そうするとかなりの不興を買うから、滅多にした事はない。






「明日は体育があるってのに……」






着替える時に面倒臭い。
学生らしい呟きを漏らして、京一は赤シャツの上に学ランを羽織る。

最初に逢った時のワイシャツはどうしたのかと聞いたら、なんでもあの一着しか持っていなかったらしい。
余分に買えるような金銭は持ち合わせていない、と言う京一に、八剣はただ一回だけ、悪かったねと言った。
上辺だけの言葉と取られたか、京一は顔を顰めたが、別に、と言った。



木刀と学校指定の鞄を持って、京一は部屋の戸口へと向かった。


外は暗い。
時計を見れば、草木も眠る丑三つ時。
最も、彼が帰る場所としている所は、あの不夜城なのだけれど。

彼の腕は自分が何よりもよく知っているから、心配する事はない。
自分に勝った男なのだから、其処ら辺をうろついて屯しているだけの輩に、何かされるとも思えない。


それでも、この言葉を告げる事は、何も可笑しなものではないだろう。







「もう遅いし、泊まって行ったら?」







冬の真っ只中である。
今外界に出れば、当然冷気が肌を突き刺す。

だから、物騒事に置いて心配の要らぬ相手でも、可笑しな台詞ではない筈だ。



今までにも、こうして何度か引き止めた事がある。


暗いし、と言ったら、慣れてる、と言われた。
危ないんじゃない、と言ったら、今更何が、と逆に問い返された。
寒いよ、と言ったら、これもまた慣れてる、といわれた。

雨が降っていても、雪が降っていても、これは同じだった。




そして今回もまた。








しばらく八剣の顔を見た後、京一は何も言わずに踵を返した。


















閉じた扉を見つめて思う。






あと何回抱き締めて、
あと何回口付けて、

あとどれ位穢して。


あとどれ位、傷付けたら、




君はこの手を取ってくれるだろう。



















----------------------------------------

八剣は京一が本当に好きなんだけど、京一がいまいちそれに気付いてないと言うか、信じてない感じ。
正面から言えば信じない、遠回りにすれば気付かない。

……この八京どうしよう(滝汗)。