[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
頭が痛い。
がんがん。
ずきずき。
じんじん。
ぎりぎり。
……そんな音が頭から聞こえてくるような気がしてならない。
はっきり言って鬱陶しい。
熱はない。
堰もない。
何が原因だか判らない。
判らないけども、痛いものは痛い。
ずっと鈍器で殴られているような気がする。
単位がヤバかったから、学校を休めなかった。
こういう時、普段もう少しマトモに出てりゃ良かったなと後悔する。
出席日数に余裕があれば、こういう不調の時に遠慮なく休める。
担任に欠席理由を信じられようと疑われようと、何も気兼ねしないで寝ていられる。
普段無作為にサボったりしているから、こういう時に辛い。
授業は面倒くさくても卒業はしたいと思うから。
……まぁ、後悔こそすれ、反省はしないのだけど。
机に突っ伏して、少しでもいいから収まらねェかと頭痛のピークが去るのを待つ。
けれども、京一の思いとささやかな忍耐と裏腹に、一向に治まる気配はない。
なんでだ。
腹痛だって大人しくしてりゃ収まるじゃねェか。
頭痛もちったぁなってくれたっていいだろ。
無茶苦茶な理屈を考えながら、もう少しもう少しと耐える。
そんな京一の頭に、何かがぽんと乗せられて。
なでなで、撫でる。
「……何してんだ、オメーは」
顔を上げずに問う。
其処に立っているだろう、相棒に。
「んー………」
なでなで。
ぽんぽん。
しながら、聞こえてきた考えるような声は、やっぱり龍麻のものだった。
当たり前だ。
自分のこんな真似を平然として来るのは、『女優』の人達を除けば、彼しかいない。
怖いもの知らずで、何を考えているのか判らない彼しか。
尚も頭を撫でながら、龍麻は京一の問いに答える。
「お疲れみたいだったから」
「……まァ間違っちゃいねェがよ」
お疲れと言えばお疲れだ。
頭痛と戦い続けて、お疲れだ。
「風邪?」
「いいや」
「熱ないの?」
「ない」
「病院は?」
「行かねェ」
病院=桜ヶ丘中央病院=岩山たか子=鬼門。
これが京一の認識。
龍麻もそれを知っていて、
「病院、岩山先生のとこ以外は行かないの?」
「………行く気しねェ」
あそこは嫌いだ。
子供の頃からそうだ。
半分トラウマだ。
だけれど、一番信頼している医者であって、京一は彼女の腕も知っている。
今はまだ学生で、医療費なんてろくろく持っていない京一を、あそこだけは無償で見てくれる。
京一が荒れていた時だって彼女は態度を変えずに付き合ってくれて、喧嘩に明け暮れた傷に治療もしてくれた。
京一が他の病院に行かないのは、医療費に回せる程、懐に余裕がない為と。
彼女以上に信じることの出来る人がいない為。
「わがまま」
「………ほっとけ」
なでなで。
ぽんぽん。
なでなで。
子供にするように頭を撫でる相棒の手を、払い除ける気にはならない。
除けた所で、しばらくしたら同じように撫で始めるような気がするし。
……いや、それよりも。
何故だろう。
少しだけ、痛いのが……なくなった、ような――――――……
「京一?」
撫でる手が止まった。
寝ちゃった? と覗き込んでくる気配。
目を閉じているから、そういう風にも見えるだろう。
教室のざわめきが遠い。
頭が痛いのも、少し遠くなった。
「きょーいち」
間延びした呼び方をされる。
京一は沈黙したまま、目を閉じたまま、机に突っ伏したまま。
次の授業は科学で、実験授業。
ガタガタとあちこちで音がして、クラスメイト達が教室を出て行く。
勿論、京一と龍麻も行かなければならない。
頭痛を抱えていようと、科学の授業も単位がヤバめであることは間違いなく、多少の不調は押してでも行かなければ。
このまま此処で過ごしてチャイムが鳴ってしまったら、遅刻決定、そのままサボってしまう可能性大。
科学の補修は面倒臭い。
京一の場合、どれでも面倒臭いのだが。
龍麻は気に止めはしないだろう、何せ編入試験をトップクラスで抜けた経歴を持つ人物だ。
彼の成績が、編入後急激な下降線を辿り、万年補修組に加わってしまったのは、京一と揃ってサボタージュするようになったからだ。
これについて、マリアはよく愚痴を零しているらしい。
まぁ、京一には関係のない話だ。
確かに龍麻のサボタージュは自分が誘ったのが始まりで、声をかけることは多いが、応じるか否かは龍麻の勝手なのだから。
いや、それよりも今日の科学だ。
行かないと――――
(………ま、いいか)
(頭、痛ェし)
(面倒だし、授業)
京一はそう思ったのだけれど。
触れていた相棒の手が離れようとしたのが判って。
起きないまま、その手を捉まえた。
「京一?」
掴んだ手は離れない。
突っ伏したまま起きない。
手を離すようにと、龍麻は言わなかった。
言われたところで、京一に離す気はさらさらなかったが。
騒がしかった教室が静かになる。
音が遠のいた訳ではなくて、音を発するものがなくなった。
クラスメイト達は、揃って実験室に向かったらしい。
もう此処に残っているのは、京一と龍麻の二人だけだ。
まだ間に合う。
起きて走れば、授業開始のチャイムぎりぎりには滑り込める、多分。
まだ、間に合う―――――
ぽん、ぽん。
なでなで。
また頭を撫でられる。
だからやっぱり、京一は起きない。
頭が痛い。
それは変わらない。
でも少しはマシになった―――――ような気がする。
なでなで。
なでなで。
「龍麻ァ」
「なに?」
「…頭痛ェ」
「うん」
なでなで。
なでなで。
二人きりの教室。
聞こえたチャイムの音は、なんだか随分遠かった。
====================================
ツンデレだって、たまには自分から甘えたい時がある。と、思う。
でも次の日になって調子が戻ったら、消したい過去になっちゃうんじゃないかな!
「昨日のオレ何してた!?」みたいなね。