例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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03 君といたいだけなのに












「あのさ、京一」

「あん?」

「お、京一。少しいいか?」

「………醍醐君…」

「ん? ……何か不味かったか…?」








「ねぇ、京一」

「なんだよ」

「あーッ! 京一、お前また掃除サボっただろ!」

「げッ、小蒔!!」

「逃げるな!」

「………」









「龍麻、」

「あら、緋勇君と京一君。あのね、この間生徒会で出た議題で相談があるんだけど」

「…………」

「…私、何かいけなかった?」

「……別に」









「京一、」

「京一、見て見て! 来週の記事、マリア先生特集よー!!」

「お、ちょっと見せろ」

「………」








「おい、龍麻、」

「蓬莱寺、補習だ。逃げるなよ」

「………わぁってんよ」








「龍麻、話が」

「緋勇君、ちょっといいかしら? アタシの今日の授業、また寝てたわね?」

「……ごめんなさい」









「京一、あのさ」

「アニキィィィ!!」

「おう、なんだ」

「………」


















一緒にいたいだけなのに。

なんでこんなに上手くいかない?





















呼び出されたり、追い駆けられたり、割り込まれたり、掻っ攫われたり。

恋人だからと特別に優先するほどにはなれない、友達以上の(気持ちが)恋人未満。
でも一緒にいたい。


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02 すれ違う想い












恋人同士になったからって、何が変わる訳でもない。










放課後に集まるメンバーは、既に見慣れたものだった。
龍麻を中心に、京一、葵、醍醐、小蒔、時に其処に遠野も加わる。

鬼との闘いも、近頃は五人揃ってのものが増えてきた。
京一が勝手な行動(無論、当人にとっては理に基くのだが、周りにそれを言わないから勝手も同然だ)も減ってきた。
何かと衝突が起きていたメンバー達だったが、そろそろ、各自の折り合いというものが着いて来た。


そんな調子で半年も過ごした頃になって、急に“親友”が“恋人”に変わったからと言って、今更付き合い方は変えられない。


変えられないし、京一は変える気もなかったのだ。
変えるとしても、何処をどう変えれば良いのかも判らない。

一日の内に初めて顔を合わせた時、声をかける時、隣に並ぶ時、一緒にサボる時。
鬼との闘いに赴く時、鼓動さえシンクロしたように同調した時、互いの無事をその眼で確認した時。
―――――既に何度となく繰り返してきた動作を、今更どう変えろと?





変えようがないだろう。

少なくとも、京一にとってはそうだった。
















今日は吾妻橋達と一緒に夜の街に繰り出す予定だった。
それは龍麻にも話してあったし、見たい映画があったから、放課後は一緒に過ごせない事も告げていた。

だと言うのに、別れ際に見た龍麻の顔。






(………言いたい事があんなら、さっさと言えってんだ)






老舗の映画館の真ん中を陣取って、スクリーンを見上げながら思う。
頭の中を巡るのは、別れ際の親友の表情ばかりで、一つもストーリーに集中出来ない。
折角、前々から楽しみにしていた映画だったというのに、これでは台無しだ。




――――――判っている、なんとなく予想はついている。
多分、今の京一の態度が、龍麻にとっては腑に落ちないのだ。

恋人同士になったからと言って、何が変わった訳でもない。
龍麻とて何も劇的な変化を期待しているのではないだろうけれど、京一は余りにも変化がなさ過ぎた。
スキンシップもいつも通り、声をかける時も、鬼と闘っている時も、その後もいつも通りで。



でも、それならそれで、京一にも言い分はある。



あの日、人気のない帰り道、歩道橋の直ぐ傍で。
「好きだよ」と告げて、「愛してるよ」と告げた、親友。
そして唇を塞がれた。

嫌ではなかったのは事実で、コイツなら悪くはないかもな、とも思った。
男同士で、変な話だとは思うけれど、本当にそうだったのだから仕方がない。


あれから“恋人”同士になった――――……一応は。
でも、それきりなのだ。







(……何も言わねェ、何もしねェ。なんなんだよ)







別れ際、何か言いたそうな顔をして。
でも結局、彼は「また明日ね」と言っただけ。



そう、あれっきり。
触れてきたのは、あの時限り。








(好きだったんじゃ、ねェのかよ)








龍麻がいつから自分の事が好きだったのか、京一にはよく判らない。
判らないけれど、別にいつからでも構わなかった。

男相手に面と向かって好きだといって、キスまでしてきた。
そんな行動に出てしまう位には、龍麻は自分の事が好きだったのではないのか。



―――――なのに、あれからノーアクションとはどういう事だ。









(ワケ判んねェ)








映画はもう終盤にさしかかっている。
前半の話がどういうものだったのか、ちっとも頭に残っていない。

映画の主人公が、イイ事を言っている。
でも、頭に入らない。
カラッポの、決められた台詞だとしか、思えない。




頭の中を巡るのは、あの時触れた、一瞬の熱と。
別れ際に見た、親友の顔。











嫌だとは思わなかった、嫌いとは思わない。
でも、感情は持て余したままで。

この感情は、「愛してる」と言った彼と、正しく同じベクトルを向いているのだろうか。















戸惑ったままで“親友”が“恋人”になって、それは嫌じゃないんだけど、
だからって何をどうすれば良いのか判らなくて、すっかり受身になってる京一。
龍麻が何も行動してこないので、余計にぐるぐる。

……この龍麻、ヘタってる……?

01 最高の相性










親友。

相棒。



そういう言葉が、一番しっくり来る。











言葉を告げた時、月並みな台詞に弱いらしい親友は、顔を赤くして「そうかよ」と言った。
ああ意味を判ってくれてないなと(予想はしていたけれど)思ったから、次は「愛してるよ」と言った。
親友はきょとんとした後、露骨に顔を顰めて、「なんの冗談だ、そりゃあ」と言って背を向けた。

そのまま見送っても良かったのだけれど、それでは今までの日々と変わらないから、追いかけて捉まえた。

「本当に愛してるんだよ」と正面から言ったら、ようやく理解してくれたらしい。
この言葉が冗談でもなければ、語弊でもなく、心の底からの言葉だと言う事を。


関係が壊れてしまうことは覚悟の上で、気持ち悪いと言われてしまうのも覚悟の上で。
龍麻は龍麻なりに、断腸の思いで京一にその言葉を告げたのだ。


京一は唖然とした表情で龍麻を見つめ、「……マジで?」と言った。
視線を逸らさずに頷いて、証拠を求められる前に、見せた。
いや、して見せた。
ぽかんと半開きになった唇にキスを。



唇を離した後、しばらく呆然としていた京一は、我に返ってから拒絶をしなかった。
真っ赤になって龍麻の頭を木刀で思い切り殴った後、脱兎の如く駆け出して、近くにあった歩道橋に昇っていった。

そして自分達以外、誰もいない、車の音だけが止まない歩道橋の上から、言ってくれた。





嫌いじゃねえよ、と。





感謝の気持ちだとか、好意だとかを素直に表せない性格だ。
それでも嫌いなものは嫌いだと、不満は不満ときっぱり告げて斬り捨てる、残酷さに似た優しさを持っている。

彼は、それをしなかった。
受け止めてくれたとも言い難いけれど、斬り捨てる事はしなかった。
あの時、真っ赤になっていたのも含めて、脈アリと見ても良いだろう。







だけど。














咆哮をあげて襲い掛かってくる鬼に、龍麻は怯む事無く踏み込んだ。
そのまま、鬼に向かって突進する。

正面から向かって来る無謀な人間を狙って、鬼が両腕の鎌を振り上げた。
しかしそれは下ろされる事無く、上腕部から切り離され、鮮血を散らして宙に舞う。
切断面は綺麗なものだった。


腕の痛みに絶叫を上げた鬼の腹部に、龍麻は正拳を打った。
餌付き、屈んだ鬼をそのまま力任せに上空へ打ち上げ、追って跳躍する。

鬼を挟んだ反対側で、剣線が閃いた。




再生能力を持った鬼。
それでも心の臓を砕かれれば、頭部が飛べば死に至る。



寸分狂わぬタイミングで、龍麻の拳が鬼の心臓を貫き、京一の木刀が鬼の頭部を切り取った。





鬼が消滅する。
京一は木刀を肩に担いで、フンと鬼のいた場所を一瞥する。






「図体デカかった割には、大した事なかったな」






懐に仕舞っていた太刀袋を取り出して、それに木刀を納める。
龍麻も体の埃を軽く払うと、右手の手甲を外した。


くるりと踵を返して、他のメンバーとの合流に向かう。
その体には傷一つなく、それは龍麻も同じ事。

庇い合う程に依存しあう関係ではなく、守りあう程に互いを信頼していない訳でもなく。
傷の一つ二つを負った所で、声をかける事はあっても、助けに行くほど柔ではない。







「まぁ、俺達にかかりゃ、あんなの雑魚だな」







背中を預けた関係は、守りあうものではなく、突き進む為に。

肩越しに振り返って笑う親友に、微笑み返す。
満足そうな京一に、龍麻もまた嬉しくなって。





だけど。

だけど。











親友。
相棒。

その存在は、とてもとても大切だけど。






“恋人”と言うには、なんだか程遠い気がして、溜め息が漏れた。















ずっと親友のスタンスだったから、急にスイッチの切り替えは無理ですよ。
全くいつも通りの京一と、やきもき龍麻。

05 夕暮れの帰り道









昼と夜の間。
一時の橙。

学校と家の間。
一時の道。








一人で歩いた、小学校の帰り道。
一人で歩いた、中学校の帰り道。

一人で歩いた、道場からの帰り道。


家に帰れば大好きな父が、母が、待っている。
ひーちゃんと優しい声が、眼差しが、待っている。

だから悲しくなんてなかった。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。
だけれど、悲しいなんて事はなかった。
これは本当。



ジャンケンをして、ランドセルを押し付けあって競争したり。
ちょっと寄り道をして、自分達だけの隠れ家に行ったり。
また寄り道をして、道の途中の小さな駄菓子屋さんに入ったり。

いつも遠くで見ていたそれに、いいなぁと思ってはいたけれど。
其処に入りたいと思う気持ちは、いつの間にか諦めになって消えて流れた。





ケンカなんてした事なかった。
する相手がいなかった。

ふざけあったりなんて覚えてない。
する相手がいなかった。


夕暮れの帰り道。
鞄を背負って、隣を手を繋いで通り過ぎていくクラスメイト達を見送った。

それから誰もいなくなった細い道を、一人で歩いて家に帰る。



夕暮れの田舎道。
一人で歩いた帰り道。

悲しくなんてなかった。






悲しくなんてなかった、けど。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。


だからほんの少しだけ、夕暮れの帰り道が嫌いだった。




























皆で歩く、高校からの帰り道。



家に帰れば誰もいない。
静かな空間だけがある。

だけれど、悲しくなんてなんてなかった。
寂しくだってなかった。
だって気持ちはそのまま此処にある。
明日に繋がる喜びがある。



ジャンケンをして負けて、6人分の鞄を持って、次の電信柱でまたジャンケン。
長い影が賑やかに動いて、子供のようなケンカが始まる。
ふとお腹空いたなぁと呟いたら、ラーメン食いに行くかと、暗黙に決まる寄り道先。

いつも遠くで見ていた賑やかさの中に、自分がいるのが少し不思議で。
諦めていたつもりの気持ちは、知らない間にまた芽を出して、当たり前にするする成長して行った。





時々ケンカもする。
直ぐに仲直りもする。

ふざけあう事もする。
冗談言い合うのが楽しいって、初めて知った。


夕暮れの帰り道。
分かれ道でそれぞれの家の方向へ別れて、それぞれ歩き出す。

帰る先がころころ変わる相棒は、今日はもう少しだけ一緒で。
繁華街のアーケードが見えてくると、彼は立ち止まる。
いつもの場所に行くようで、其処で挨拶一つ交わして別れた。




夕暮れの都心。
皆で歩く帰り道。

悲しくなんて、寂しくなんて、なかった。






悲しくなんてなかった。
寂しくなんて無かった。


だけど、物足りなくないと言ったら嘘になる。
明日はもう少しゆっくり歩こうか、そんな事も考える。




色々思うけど、一先ず帰りながら、今日一日を思い出そう。















「じゃ、また明日な」

















いつの間にか、嫌いから好きに変わった、夕暮れの帰り道。



――――――その言葉を胸に抱いて。


















うちのサイトにしては珍しく、龍麻単品になりました。
でもやっぱりちょっとだけ京一贔屓(笑)。

04 放課後の教室














「やってられっかああァァッッッ!!!!」











隣席から響いた声は、聞きなれたものではあったが、ボリュームが最大だった。
流石に鼓膜にキンと響いて、龍麻はわんわんと余韻を残す耳を手で押さえ、隣に座る人物を見る。







「京一、煩い」
「るせェ!!!」







龍麻の歯に衣着せぬ物言いを、京一はこれまた大音量で掻き消した。
詰まれたプリントの束を盛大にバラ撒いて。

プリントの内容は言わずもがな、サボりにサボった結果の産物である。







「あンの野郎、ムカ付くぜ! 嫌がらせかっつーの!」
「……先生としての職務を全うしてるだけだと思うけど」






京一が言うあの野郎、とは、真神学園生物教師の犬神だ。

とかく犬神が苦手らしい京一は、他の?%E:317%#ニ以上に生物の?%E:317%#ニをサボっている。
京一の前に詰まれたプリントの束の内容の殆どは、その大嫌いな犬神製作の生物のプリントだ。
これを片付けなければ、京一は卒業が出来なくなる?%E:221%#ナ、教師としてはそれは宜しくあるまい。
故に、この仕打ちは当然の結果とも言えるのだが。


バラ巻かれたプリントは、?%E:606%#フ周りに散らばっている。
それも後で綺麗に片付けなければならない事を思うと、やる事が倍量になった気がする。







「あーくそッ! もう止めだ、止め!」
「やらないの?」
「やってられねーよ!」






足元に置いていた薄い鞄に、これも少ない筆記用具を突っ込んで、京一は立ち上がる。
そのまま、京一の足は迷うことなく、教室の出入り口へと向かった。


―――――――が。








「京一、卒業できなくなるよ」








その言葉に、ぴたりと京一の足が止まる。
既に扉にかかっていた手は、目の前のそれを開ける為に動く事は無かった。




勉強は嫌だ。
詰まれたプリントも嫌だ。
ついでに、これを置いて行った生物教師は大嫌いだ。

けれども、卒業したくないと言う?%E:221%#ナはない。
正直に言えば、したいし、その時は毎日顔を合わせている面々と同時が良い。


一人残って見送って、もう一年間、高校三年生をする気にはならない。
その一年間は、今続いている一年間よりも、きっと色褪せたものにしかならないと思うから。





くるりと返った踵。

憮然とした表情で、相棒は隣へと腰を下ろした。
片付けた筆記用具を取り出して、散らばった中で辛うじて?%E:606%#ノ引っ掛かっていた一枚を引っ張り寄せる。


それと同時に、教室の後方のドアがからから音を立てて開けられた。








「おーい、捗ってるー?」
「おい、落ちてるぞ。京一か?」
「京一しかいないでしょ。あーあー、こんな一杯散らばっちゃって」
「あとどれくらいかしら。判らないところあったら言ってね」








小蒔、醍醐、遠野、葵。
いつもの、鬼退治部のメンバー。


肩越しにそれを見遣って、京一はまた前を向くと、がしがしと頭を掻いた。
うんざりしたように溜息を漏らしながら、その雰囲気は何処までも柔らかい。

そんな相棒に、龍麻は小さく微笑んで。











「皆で一緒に、卒業しようね」














ほんの少し賑やかになった、放課後の教室。


それを楽しいと思えるのは、きっと学生だけの特権。

















外伝弐話の補習プリントの量、凄かったな……
どれだけサボれば、あんな紙の塔が出来るのか。