例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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02 濡れた項(うなじ)








情事の後、必ずシャワーを浴びる京一は、恐らく、その躯に残り香を欠片も残したくないのだろう。
触れた事さえなかったかのように、全てを綺麗に削ぎ落としてしまう。

それを少しだけ、残念に思う。




扉を開ける音がして振り返れば、肩にタオルを引っ掛け、髪から雫を垂らす京一の姿。
トランクス一枚(意外と可愛い柄だ)だけを身につけて、真っ直ぐに背中を伸ばしている。

惰性を思わせる言動が目立つ為、普段は背中を丸めているのが目に付くが、やはり剣術家である。
正された姿勢は普段の生活にも片鱗を残すもので、特に八剣の前にいる時、京一はいつも背を伸ばしていた。
―――――それはつまり、京一が八剣に対して気を赦していない証拠でもある。


床に雫が落ちるのも構わず、京一はクッションの上にどっかりと腰を落とした。
勝手知ったるとばかりの横柄な態度を、八剣は咎める事はない。

気を赦していない割に、警戒している訳でもない。
まるで懐く一歩手前の猫のようだと思う。
自分から近付くが、此方が近付けば逃げる、けれども姿を消すことはなく、じっと此方の様子を窺って。







「京ちゃん」







呼ぶと、頭を拭く手がぴたりと止まった。

近付く為には、一度声をかけてから行動を起こさなければならない。
無断で近付けばあっと言う間に逃げてしまうし、運良く触れたとしても引っ掻かれてしまう。


京一の手からタオルを取り上げる。
雫の落ちる髪を、八剣は慣れた手付きで拭き始めた。






「言っただろう? そんな拭き方したら痛むって」
「………女じゃあるめェし、知ったことか」
「勿体無いよ」






こうして触れる事を赦されるようになったのは、いつからだろう。
関係を持つよりも先だったか、それとも後だったのか。


不思議な猫、気紛れな猫だ。
触れる事を赦されているからと言っても、機嫌が悪ければすぐに引っ掻いて来る。
よくよく見極めなければならない。

微細で気紛れな逆鱗に触れない為に、慎重に――けれどもそれを気取らせないように――髪を拭く。
程無く、八剣お気に入りの京一の髪は、余分な水気から解放された。






「折角、綺麗なんだからさ」
「……うぜェ。もう触んな」






髪を拭き終えたのだから気は済んだだろう、と。

最初の邂逅で触れた時に比べれば、幾らかしなやかになった毛先。
それにに指を滑り込ませて遊んでいると、京一は振り返らずにその手を打ち払った。






「つれないね」






――――つれない癖に、情交は赦すのだ。
全く、基準の判らない気紛れな猫である。

その気紛れな瞳が、己の手によって艶に染められた瞬間が、八剣は気に入っていた。



背中を向けたまま、京一はタオルを奪い取り、火照った躯の汗を拭く。
その薄らと紅を帯びた肌の色は、情事に見せる昂りとよく似ていた。






「京ちゃん」






呼んでも返事はない。
期待していなかったから構わない。

首を隠す後ろ髪を掻き揚げると、京一は何も言わなかった。
つくづく基準の判らない気紛れな猫だ。


掻き揚げた手の平をゆっくりと動かし、濡れた項に当てた。
八剣の手に冷たさを感じたのだろう、一瞬京一の肩がぴくりと跳ねた。






「てめェ、調子に――――ッ」






乗るな、という言葉は続かなかった。


濡れた項に、八剣の舌が這う。
ぬるりとした感触は情事を思い出させるかのように、官能のスイッチを掠める。

振り返ろうとする肩を押さえ、裏拳を打とうとする右の手首を掴む。






「…っう………ん……!」






誘われるかのように、八剣は繰り返し繰り返し、京一の項に唇を落とす。
じんわりと濡れた肌は、触り心地が良く、このままずっと触れていたいと思う。






「っは……てめ…ん……ッ」
「熱いね」
「…あ……!」






火照っているのは当たり前だ、つい先ほどシャワーを浴びたばかりなのだから。
けれどもその火照りは、情事の熱にもよく似ている。

京一の若く健康的な躯は、否応なく快感に素直になっていく。


手に持っていたタオルがするりと床に落ちて、空の手が拳を握る。
この少年が縋ってくる事はない、プライドの高い猫だから。




それがいつかは、縋ってくる事を期待して。












濡れた項に、束の間の所有の証を刻む。














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合意だけど、ラブでもなく。
こういう八京が書いてて楽しいかも知れない。

微エロ言う程エロくはないですが、京ちゃんが喘いでるので一応…


……うちの八剣は大体、紳士4:鬼畜6の割合(当社比。)。

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01 「お前の悲鳴は心地良い」









痛みに耐えるように、湧き上がる羞恥から逃れようとするように。
必死に歯を噛んで声を殺すのを、何度無理矢理開かせただろうか。

今も、こうして。







「………っぁ……!」







声を上げた方が、肉体的には楽になる。
けれど、そうすれば精神の苦痛は更に増す。

どちらか一つを選べと言われ、少年は迷う事無く、肉体的苦痛を耐える事を選んだ。


体の痛みは、過ぎれば消える。
心の痛みは、いつまでも残る。
一過性のものなら、耐えるのも楽だと。

涙ぐましい努力をして、少年は声を殺す、息を殺す、感情を殺す。
そしてきっと思い続けているのだ、さっさとこんな茶番は終わってしまえと繰り返し繰り返し。



貫いた秘部を、更に奥へと抉る。
痛みにか、それとも在るべきでない快感にか、少年は目を見開いて口を開けた。






「あ…ぅ……! っは……!!」





声を殺し、息を殺せば、酸素が不足する。
生命の危機を感じた本能が、理性に逆らって顔を覗かせる。
死んではならない、息をしろ、と。






「っは……が…ぁ………」






艶とは程遠い呼吸。
生命の危機から逃れようともがく、動物の本能。



早く終われ。
早く終われ。
さっさと終われ。

シーツを握り締める手が、彼のそんな心情を具に表した。


それを判っていながら、行為を止めない。






「て、めェ……いい、加減にッ……っは…!」






睨み付ける眦に、透明な雫が滲んでいる。
舌を這わせて拭い去れば、拒否するように顔を背けられた。
顎を捉えて固定して、執拗に舐め取ってみせる。


腰を打ちつけた。
びくりと若い躯が反応する。







「ひ、ぁ……!!」












短い悲鳴は、まだ艶を含まない。



―――――今は、それでいい。













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うちの八剣×京一は若干、大抵、無理矢理系です。
ラブラブだったら、八剣がしつこいくらい甘いんじゃないかな…

初の八京拍手がえっち系かい!

05 居眠りぐーぐー








どの学校、どの学年、どのクラスにも、一人はいるものではないだろうか。
授業中によく寝る生徒と言うものは。

真神学園3-Bでは、緋勇龍麻がその筆頭であった。



今日も今日とて、緋勇龍麻はよく寝ている。
マリアの指示で、居眠り防止の為に教卓の目の前の席に移動させられたのに、全く意味を成していない。
ついでにノートの落書きも相変わらずであると、京一は予想した。


すぅすぅと肩を揺らして寝ている龍麻。
黒板に向かっていたマリアも、その気配にはとうに気付いていたのだろう。
今まで何も言わなかったのは、自分で起きてくれる事を願ってのものか。

しかしついに見過ごせなくなったのか、くるりとマリアが振り返る。
いつものように教科書片手に、マリアが龍麻の前に立つ。






「緋勇君」






呼びかけても、龍麻は動かない。
その程度で彼が起きない事は皆承知している。







「緋勇龍麻君」







まだまだ起きない。
呼びかけ程度で起きる訳がないのだ。

しかし、目を覚まさなければ、丸めた教科書が落ちてくるのは必至。


マリアの限界ギリギリで龍麻が起きる確立は、凡そ三割。
さて本日はどうなるか。







「………緋勇龍麻君」







マリアの語尾が強くなって来た。



京一の隣に座っていた小蒔が、京一の肩をつついた。
視線だけを向けてみると、折り畳んだ小さな手紙。
開けば、龍麻が起きるか起きないかと言う賭けが始まっていた。

今日は起きる方に賭けた生徒の方が多く、ずらりと名前が書いてある。
京一は昨日の龍麻の様子を思い出しつつ、名前を書いて、小蒔とは反対隣の生徒にそれを回す。


欠伸をかみ殺しつつ前を見れば、マリアがそろそろ腕を上げて来た頃だった。
その手には、丸められた教科書。








「授業中よ、緋勇龍麻君」







最後通告の声だ。

教室内が静まり返り、各自動向を見守る。
京一は既に結果が予想できていた。










ぱこん!



「………いたい」










よし、勝った。



―――――――穏やかな午後の授業中の話である。
















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このお題はやっぱり龍麻でしょう。よく寝る子。
アニメ一話で居眠り龍麻とマリアのやり取りを皆楽しんでた節があったので、書いてみました。

04 ノートの端にラクガキ








龍麻は、サボらずに、起きてさえいれば授業中は至って真面目に見える。
じっとノートに向かい合って、忙しなくシャーペンを走らせる。
通常授業の時も、補習の時も、普段とあまり変わらない表情で。


所がどっこい。
真面目にノートを取っているのかと思ったら、やっているのは落書きである。

黒板に書かれた事は写しているのだろうが、それも時々途中止めになっていて、落書きに没頭する。
そんなだから、転入試験の時にはトップクラスだった成績が、補習組になってしまうのだとマリアは嘆いていた。
しかし、龍麻はそんな事は知ったこっちゃない風で、授業中は好きに過ごしている。






クラスメイト数名を伝って廻されてきた手紙。
京一はそれを受け取って、あーメンドくせと思いつつ開く。

開いて、溜息が漏れた。







(………どうしろってんだ、これ……)







其処に書いてあったのは、随分と見慣れてしまった落書き。
手裏剣を手に持ち、覆面を被った頭でっかちの忍者。


クラスメイトの女子の真似事をして、授業中に手紙を廻すようになって数週間。
根気良く付き合ってやっているが、未だにこれには対処に困る。

一回目、ヘタクソ、と書いて返事をしたら、その日一日、少々機嫌が悪かった。
二回目、取り敢えず学習して上手くなったんじゃねえのと返事をしたら、その時間中に5回程同じ絵が回ってきた。
三回目、無視して話を切り替えて返事をしたら、訴えるように手紙が返って来る度に同じ絵が落書きされていた。

落書きに関しては、とにかく何かリアクションが欲しいようで、無視しているといつまで経っても止めない。
あいつのノートの端は相当デコボコになってんじゃないかと京一は思う。
若しくは、手紙専用(破り専用)のノートを持って来ているのか。



京一も手元のノートの端を破って、返事を考える。
授業なんて耳に入らない。






(いつも同じ絵だな)






細部は変わっているが、全体的にはほぼ同じ構図、同じ描き方だ。
京一は美術の授業なんて殆ど受けていないが、印象的にそうインプットされていた。
手紙に描かれる事のないノートの落書きも、そうであったように思う。

他の絵描けねえのか、と描いた紙を折り畳み、前に座る生徒に渡す。



机に突っ伏そうとして、京一は思い出す。
今教卓に立っているのが、天敵・犬神杜人であると言う事を。

格好だけでも授業を受けている体でもしていなければ、後でまた嫌味を食らう羽目になる。
それならサボってしまえば良かったじゃないかとお思いの方もいるだろう。
しかし、単位ひいては卒業がヤバいとなったら、流石に逃げる訳には行かなかった。


とは言え、今更嫌いな授業で気持ちにハリが出る訳もなく。
京一は指先でくるくるシャーペンを遊ばせた後、開いたノートの隅でそれを無作為に動かした。






(………腹減ったな)






時刻は、4時間目。
あと少しで昼食、今日はラーメンの出前を注文してある。

そう思っていたら、ノートの端にはラーメンが。


注文したのはラーメンだけだが、育ち盛りの胃袋は元気だ。
ラーメンの事を考えていたら、餃子も食べたくなった。







(あと、チャーハンだろ。ああ、鴨南蛮食いてェな…それから……)






ぐるぐる、ぐりぐり。

黒板の内容など一つも写していないのに、不思議とシャーペンは動いている。
…描いているのは、授業には全く無意味な落書きばかりで。




ぱこん。
くすくすくす。

聞こえた音と笑い声に顔を上げると、龍麻が犬神に見下ろされている。







「緋勇……遊ぶのは構わんが、人の話は聞いていろよ」
「はい」






返事を聞いて、それだけで犬神からの注意は終わり。
犬神はまた教卓へと戻っていった。

その途中、








「お前も同じだぞ、蓬莱寺。腹は減ってるだろうが、話は最低限聞いていろ」








次に赤点を取って補習になるのはお前だぞ。

きっちり付け足された台詞に、京一は思い切り顔を顰めた。
落書きも多分見られただろう(どんな視力してやがんだと思ったのは言うまでもない)。




やっぱりアイツは嫌いだ。










早くこんな授業終わらねえかと、ノート端の落書きを眺めながら思った。














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よく考えたら、初めて犬神先生喋らせたような。
難しいな、この人……

京一(+龍麻)+犬神=補習の方程式が定着してます、私の中で。

03 あ、校庭に…








校庭に犬が迷い込んできた。
それだけで、体育の授業はしっちゃかめっちゃかになった。



赤い首輪をした犬は、仔犬ではなかったが、成犬と言うには少々落ち着きがなかった。
グラウンドでバスケットボールに興じていた男子集団に突入すると、体操服を引っ張るわ、集団の隙間を走り抜けるわ。
これでもかと言う程に尻尾を振って、楽しそうに走り回った。

踏みつけたり蹴飛ばしたりしては可哀想で、もう試合どころじゃない。
コート用に引いた線もすっかり消えて、男子生徒は犬に追い掛け回されて大変な目にあっていた。


体育館で授業をしていた女子が、校庭の喧騒に気付いて外に出てきた時には、もう燦々たる有様。


犬は噛み付く事はなかったが、一度ターゲットを絞ると、ロックオンされた相手は大変だった。
追い駆ける、飛びつく、じゃれ付く……体操服のズボンを引っ張られて、パンツ丸出しになった奴もいる。
犬が苦手な生徒等は近付けたものじゃないが、犬の方はそんな事はお構いなしだ。
目が合って、気になった人物にはとにかく突進し、気が済むまでじゃれついている。

追い掛け回された者は漏れなく転び、飛びつかれじゃれつかれた者は漏れなく服を引っ張られ。
体育教師は静かにしろと怒鳴ったが、出来る訳もなければ、生徒達はまるで聞こえちゃいなかった。




現在、犬がターゲットにしたのは、目立つアフロ頭の男子生徒。
目線は真っ直ぐアフロ頭に向けて、犬は一目散にそれを目指した。


―――――その様子を、龍麻と京一、醍醐の三人は、体育館の軒下に避難して眺めていた。







「可愛いねー、ワンちゃん」






笑ってそう言ったのは、小蒔だった。
聞き留めた京一の眉がピクリと上がる。






「あのな。こっちゃ散々だったんだよ」
「京一、凄く追い駆けられてたよね」






アフロ頭の男子生徒は、必死になって走っている。
ついさっきまで、京一がそのポジションだった。

走れば追い駆けてくるのは判っているが、追い駆けられれば逃げてしまうのが性と言うもの。
立ち止まっても、服を引っ張られたり、ズボンを擦り下ろされたりされてしまうから、止まる訳には行かない。
犬が興奮している所為もあって、正面から突進を受け止めて宥める、と言う選択は非常に困難であった。


女子は体育館の軒下で眺めているだけなので、追い掛け回される男子の苦労は判らない。
寧ろ可愛い犬だからいいじゃない、と言い出す者がいる程だ。




でも、授業は潰れたのでラッキーだ。
こっそり思う京一である。






「何処の飼い犬なのかしら……」
「さぁな」
「捕まえれば、判るんじゃないか?」
「そっか。名札とかあるかも」
「……じゃ醍醐、行け」
「なんで俺が!」
「お前が言い出したんだろ。オレはもう御免だ」






ぎゃああ、と言う悲鳴が校庭の真ん中で響く。
見れば、ついに追いつかれたアフロ頭が、犬にズボンを銜えられてぐいぐいと引っ張られていた。

はっきり言って、あの目には遭いたくない。
既に何人かズボンを引き摺り下ろされ、情けない姿を観衆の皆様方に疲労する羽目になったのだ。
増して醍醐は、好きな人が此処にいるという事もあって――――あれだけは絶対に嫌だった。



その時。
アフロ頭の生徒のズボンを奪取して、満足げに尻尾を振っていた犬が此方を見た。










「あ、こっちに来た」









ぽつりと呟いた龍麻の声は、隣に立つ京一に辛うじて聞こえた程度。

何が、と京一が問うよりも早く。
集団に突っ込んできた犬は、やっぱり嬉しそうだった。













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わんこが学校に入ってくると、何故か授業どころじゃなくなる。

昔、全校集会の真っ最中に体育館のステージの幔幕裏から犬がひょっこり出てきた時は驚いた。
構造上、先生達のいる場所を通らないと上がれない筈なのに、誰も騒いでなかったから…
何処からどうやって入って其処に行き着くんだ。


アフロ田ホントに好きな、自分(可哀想な事になってるけど)。