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息が上がるのに比例して、滲み出た汗が玉になってシーツに落ちる。
それを誤魔化すように手のひらで押し潰せば、其処からまた汗が滲んで、広がって。
「…っあ……ぅ……!」
干したばかりの筈だった、白いシーツ。
綺麗に糊付けされていた筈だったのに、今は見る影もなくぐしゃぐしゃに波を作っている。
耐えるように無造作に掴んで、指先が白くなるまで力一杯握り締めて。
漏れそうになる声を、布を噛んで押し殺す。
逃げを打つように揺らめいた脚は、何度となくシーツを蹴った。
「ん、うぅ……っは……!」
「息しないと、窒息するよ」
「……っる、せ……ん……!!」
奥を突いても、漏れるのは甘さとは程遠い、喉の奥からの呻き声。
痛いだとか。
嫌だとか。
言わない、言ってたまるか。
気持ち良いとか。
もっととか。
有り得ない、あってたまるか。
「ひ、ぅッ」
「………ッ……」
吐き出される、熱の塊。
刺激されれば勃ち上がる、そういう風に体の構造が出来上がっている。
後に残るのは、開放感と倦怠感。
どちらが大きいのかはよく判らない。
四つ這いで後ろから突かれて、まるで獣と一緒だ。
いや違う、人間も所詮は獣だから、これはごく普通。
其処に、種の存続に繋がる為の生産性がないだけで。
腰を引かれて、また奥を突かれる。
ぞくりとしたものが背筋を走る。
喉の奥から有り得ない音が漏れそうになって、シーツに顔を埋めた。
相手はまだ達していない。
近いとは思うけど。
「う、ん…ッ、いッ……!」
力一杯シーツを握り締めて、指先の血の気がなくなって行くのをぼんやりと感じた。
それでも緩めることはしない。
迫ってくるものを押し殺すように、固く固く閉じていた瞼。
揺さぶられる中で、自分の中で何がどう気紛れを起こしたのか、自分自身でもよく判らない。
判らないまま、薄ら眼を開いて――――――後悔した。
真っ白いはずのシーツ。
滲んで汚した、染み。
汗なんだか、他の何かなんだか、もう判らない。
ただ判るのは、どんなに洗い流したって、シーツと違って綺麗にならない自分自身。
綺麗でいたつもりはなかったけれど、それでも泣きたくなった自分がいた。
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段々救済しようがなくなって来たんだけど、どうしよう(うわあああ)……
京一が限界が来るのが先か、八剣が行動を起こすのが先か……
あ、後のお題でなんとか…なる…・(汗)?
例え何度穢しても。
例え何度、傷付けても。
例えどれ程、その身に消えぬ痕を残しても。
君は僕のものじゃない。
脇腹に残した行為の痕跡を、忌々しげに睨んでいる横顔を見つめる。
無遠慮なほどに見つめているから、きっと彼は視線に気付いているのだろうけれども、何も言わなかった。
恐らく、此方の顔など見たくもないと思っているのだろう。
しばらくそのまま停止していた京一だったが、動き出すと服を着る手を再開させた。
冬に着るには薄手の赤いシャツを着て、たったそれだけで肌の軌跡は隠される。
どうせなら、見える所に痕をつけたい――――消えない痕を。
無防備に晒されている鎖骨だとか、向き出しの腕だとか、髪の隙間から見える項だとか。
けれども、そうするとかなりの不興を買うから、滅多にした事はない。
「明日は体育があるってのに……」
着替える時に面倒臭い。
学生らしい呟きを漏らして、京一は赤シャツの上に学ランを羽織る。
最初に逢った時のワイシャツはどうしたのかと聞いたら、なんでもあの一着しか持っていなかったらしい。
余分に買えるような金銭は持ち合わせていない、と言う京一に、八剣はただ一回だけ、悪かったねと言った。
上辺だけの言葉と取られたか、京一は顔を顰めたが、別に、と言った。
木刀と学校指定の鞄を持って、京一は部屋の戸口へと向かった。
外は暗い。
時計を見れば、草木も眠る丑三つ時。
最も、彼が帰る場所としている所は、あの不夜城なのだけれど。
彼の腕は自分が何よりもよく知っているから、心配する事はない。
自分に勝った男なのだから、其処ら辺をうろついて屯しているだけの輩に、何かされるとも思えない。
それでも、この言葉を告げる事は、何も可笑しなものではないだろう。
「もう遅いし、泊まって行ったら?」
冬の真っ只中である。
今外界に出れば、当然冷気が肌を突き刺す。
だから、物騒事に置いて心配の要らぬ相手でも、可笑しな台詞ではない筈だ。
今までにも、こうして何度か引き止めた事がある。
暗いし、と言ったら、慣れてる、と言われた。
危ないんじゃない、と言ったら、今更何が、と逆に問い返された。
寒いよ、と言ったら、これもまた慣れてる、といわれた。
雨が降っていても、雪が降っていても、これは同じだった。
そして今回もまた。
しばらく八剣の顔を見た後、京一は何も言わずに踵を返した。
閉じた扉を見つめて思う。
あと何回抱き締めて、
あと何回口付けて、
あとどれ位穢して。
あとどれ位、傷付けたら、
君はこの手を取ってくれるだろう。
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八剣は京一が本当に好きなんだけど、京一がいまいちそれに気付いてないと言うか、信じてない感じ。
正面から言えば信じない、遠回りにすれば気付かない。
……この八京どうしよう(滝汗)。
中学生の頃、かなり荒れていた。
汚泥の中に身を沈めていた自覚があって、其処から抜け出す術を見つけ出せずにいた。
抜け出した後の事も酷く不透明で、現状維持に甘えるのが一番楽で、同時に一番苦しかった。
あの頃、どうするのが一番良かったのか、今でもよく判らない。
それでも全てを忘れると言う、何よりも楽で、何よりも愚かな事はしたくなかった。
病み付きになるよ、と言って薄汚れた袋を見せたのは、何処の誰だったか。
加工ではないボロボロの服を着て、雪駄を履いていて、髪はくすんだ黄色で、顔は覚えていない。
ガラガラの耳障りの悪い声で、男は京一に声をかけてきた。
見せられた袋の、透明な入れ物が何であるのか、すぐに気付いた。
横には女が虚空を見ていて、男の目は白くは無かったけれど今にも引っ繰り返りそうだった。
下らねェ、と言って背中を向けたら、男は追って来た。
いいよ、安くしとくよ。
初めてだからタダでもいいよ。
試しに一つ、どう?
しつこく言うので、金がねェ、と言った。
こういう輩の大元は大概金目当てで、それが無いと言うと、なんだ貧乏人かよ、と言って態度を一転させて去って行く。
しかし、この時は予想と違った。
男は鬱陶しく付き纏い、だからタダでもいいんだよ、初めてなんだから、と訳の判らぬ理屈を並べて袋を見せる。
楽しくなるよォ、嫌な事忘れられるよ、と、明らかに正常ではない眼で此方を見て。
嫌な事を忘れられると言う言葉は、場合によっては酷く甘美な言葉に聞こえるのだろう。
けれども京一は、忘れてしまいたいと思うような事など一つも無かったから、やはり下らねェと言って足を速めた。
が、やっぱり男はついて来る。
いい加減にぶっ飛ばしてやろうかと木刀を握る手に力を込めた時、男は言った。
金がなくても大丈夫だァ、お前ェだったら躯でいいぜ。
きっと直ぐに稼げるよ、だから一回どうだい?
どっちもきっと、直ぐに病み付きになるよ
―――――――立てない程に叩きのめして、そいつは路地の奥にある生ゴミ置き場に捨てた。
最悪の寝覚めだった。
覚えていた夢の内容が嫌にリアルで、それをはっきり覚えている、そのどちらもが原因だ。
起き上がってから更に、最悪だ、と小さく呟いた。
腰が痛い、背中が痛い、下半身全体がだるい。
その癖、躯は随分スッキリしていて、還って気分が悪くなった。
こん畜生、と誰に向けたのだか判らない―――それでも二択しかない―――罵倒を吐き捨てる。
と、するりと腰に何かが回って、それが人の腕だと気付くよりも早く、後ろへ引き倒された。
「起きた? 京ちゃん」
……最悪、三度目。
耳元で囁かれた声に、京一は顔を顰めた。
「続きしようか」
言われてから少しして、途中で意識を飛ばしたのを思い出す。
…情けない。
京一の返事など待つ暇もなく、胸の上を男の手が滑る。
ふざけんなダリーんだよと思いながら、拒否はしなかった。
どうせ聞きはしないし。
肌の上を、男の節ばった手が滑る。
竹刀蛸があるのが判った。
耳朶に生温い生き物が這う感触に、京一は息を漏らす。
「は……んっ……!」
下肢に手が伸びて、未だ萎えたままの熱に指先が触れる。
腰を引き寄せられて背後の男の膝上に乗せられた。
臀部の下に雄の熱を感じて、顔を顰めて後ろにいる男を睨む。
男はすぅと目を細めて、京一の中心を扱き始めた。
「ん、う……っは…あ……ッ」
「綺麗だよ、京ちゃん」
「…ざ、けん、な…ッ……っふ、ぅ…!」
ふと部屋の時計が目に付いて、意識を飛ばしてからそう時間が経っていない事を知る。
熱は下がっていたとは言え、官能のスイッチはオフになっていた訳ではないようで、躯は快楽に流される。
腰は痛いし、背中も痛いし、もう全体的にだるい。
けれども、知ってしまった悦楽の熱は、理性を捨てた獣には酷く甘美なもので。
溢れ出す白い液体を、忌々しげに睨んだ所で何が変わる訳でもなく。
背後の男に諸々全部の責任を押し付けた所で、この男が煽る手を止めるとも思えず。
「……………ッ……!」
更なる快感を欲する浅ましい自分を、今更隠した所で、無意味なだけで。
暴かれる事には既に抵抗は無くなっていて。
ゆっくり、ゆっくり、白い汚濁に、沈んで行く。
ほぅら、病み付きになっただろ。
耳障りの悪い声が聞こえた気がして、八つ当たり気味に掴んだ腕に爪を立てた。
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どんどん京一が病んで行ってる気がします(滝汗)。
八剣、どうにかしたって!!(←書いてるのお前だ)
惰性と言えば惰性なのだろう。
こんな関係をズルズル続けている事は。
受け入れたと言うには余りに殺伐としていて、拒否したと言うには近過ぎる。
どうしてこうなったのかすら、もう考えるのも面倒になった。
間違いないのは、切っ掛けと筋道を作ったのは目の前の男で、それを判っていながら逸れなかったのは自分だと言う事だ。
何も生み出さない、ただ熱を煽り吐き出すだけの行為を、何度繰り返しただろうか。
麻薬染みた常習性はないように思うのだが、それも自分の感覚が麻痺しているからとも言える。
不定期に摂取する苦味と熱は、恐らく、酷くゆっくりとした速度で体内に蓄積されている。
相手の顔と、湧き上がる熱と。
どちらを先に思い出すのかと言ったら、熱の方だった。
顔は後付のようなものだ。
思い浮かべてから、もっと他の顔があるだろうと思う。
流行の巨乳アイドルだとか、いつだったか見たAVの内容だとか、その類。
なのに浮かんでくるのは決まってあの顔。
それを消す為に熱を吐き出したくて、同じ相手に会いに行く――――――矛盾、していた。
開放感の余韻に浸る京一の頬に、冷たい手が触れる。
髪の毛先を弄ぶように揺れる指に、京一は顔を顰め、力ない手でそれを払い除けた。
つれないね、と呟くのが聞こえ、それに何か返すような気力も沸かず、京一は目を閉じた。
どうしてこうなったのだろう。
どうしてこの男なのだろう。
思いながら、考えるのが面倒臭いと言う思考も浮かんで来て、じゃあどうすりゃいいんだと自問してみる。
考え続けなければ惰性のまま、この風景が日常と化してしまいそうで、それは京一のプライドが許さなかった。
しかし考え続けている間に深みに嵌ると言うか、抜け出せない所までズブズブと足を進めてきたのも自覚がある。
でも今は脳が働きを拒否しているのも確かで、だったら今は眠いだけなんだと、それで思考をシャットダウンする事にした。
うつらうつら、酸素不足が睡魔を手繰り寄せるのに時間はかからなかった。
不思議なものだ、妙なものだ、可笑しな事だ、毎回思う。
此処は眠ってしまえるほど、安全な場所ではないだろうに。
――――――ほら、呼吸を塞がれた。
「ん…、ぅ………」
舌の侵入を拒まないのは、疲れているからだ。
意識の半分を睡魔に持って行かれたから。
「ん、ん………ふっ……」
それでも、このまま眠ってしまえば窒息しかねない事を、本能は正確に理解していた。
鼻のかかった呼吸が漏れて、僅かに唇が離れる。
一つ息を吸い込んだら、また直ぐに塞がれた。
また舌が侵入して、京一の舌と絡み合って、無理矢理外へと引き摺り出される。
好き勝手される事に良い感情は沸かなかったが、やはり抵抗が面倒だった。
普段、八剣はキスをしない。
躯に証は残す癖に、唇にだけは落としてこない。
唯一の例外が、こうして京一が意識を手放そうとしている間際の事。
夢現の境目で意識をぐらつかせている時だけ、八剣はこうしてキスをする。
程無く京一が眠ってしまうであろう瞬間にだけ。
変な奴。
そうは思うけれど、少しだけ、気が楽だった。
この時ならば、目を閉じていられるし、
「気持ち良い?」
ふざけた台詞の時にも、相手の顔を見ないで済むし。
どんな顔でどんな眼でどんな風に、自分を見ているのか、見ないで済むし。
「…………きもちわりィ…………」
否定の言葉を呟いて、直ぐに意識を手放したって赦される。
嘘吐きだねェと聞こえた声は、きっと夢だ。
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一番信実に近い答えを否定する。
なんか京ちゃん弱っちゃった……
ぐるぐる考え過ぎて疲れたようです。
バンッと勢い良く開かれた扉。
そちらを見遣れば、ギリギリと此方を睨み付けて来る強気の双眸。
「テメェ……痕つけんなっつっただろうが」
頚部を掌で隠して、今にも噛み付きそうな剣呑とした眼差し。
それを何処吹く風と受け流し、八剣はクスリと笑みを浮かべた。
「いいじゃない。直に消えるよ」
「消える消えないの問題じゃねェ。つけんなっつってんだ」
「どうせ判らなくなるんだ。少しの間くらいいいだろう?」
ズカズカと近付いて、京一の足が浮く。
スッと動いて、振り切られた蹴りを座したままで避けた。
手刀で軸足となっている左足を払う。
支えを崩されてバランスを失った肢体が倒れ込み、八剣はそれを難なく受け止めた。
衝撃を和らげる為に彷徨った手は、八剣の肩に添えられる形に収まった。
京一の頭が、八剣の肩口に落とされる。
じんとした鈍い痛みがあったが、八剣は気に留めなかった。
すぐ目の前にあった京一の首筋に唇を寄せる。
「んっ……!」
首筋の痕など、真神の詰襟の制服を着てしまえば見えなくなる。
けれども京一はいつもボタンを外してラフにしており、首を隠している事は滅多にない。
それを知っている者達から見れば、隠せば逆に目立つだろう。
舌を這わせた其処に歯を立てる。
びくっと、まだ少年の域を抜け切らない躯が怯えて跳ねた。
逃げないように頭部を抑えると、じたばたと手や足が暴れる。
構わずに立てた歯に力を入れると、犬歯が皮膚を破り、京一の躯が硬直する。
喉を食い破られれば致命傷になる、動物の本能的な恐怖だった。
「う…ぅ、あ……ッ」
歯牙によって出来た小さな穴から、紅が滲む。
それを動物が癒すかのように舐める。
微かな痛みは、快感に似ている。
熱の篭った呼吸が肩口に当たって、八剣は緩く笑んだ。
笑ったのが判ったのだろう。
敢えて拘束しなかった京一の手が、八剣の肩を押した。
「調子に、乗んなッ!」
食まれた首筋を隠して、京一は八剣を睨む。
今しがたつけられた痕を隠す代わりに、先ほどまで隠されていた痕が顔を覗かせた。
きっと京一の頭の中から、その古い痕の事は綺麗サッパリ忘れられている事だろう。
隠し切れない痕が、あと幾つあるのか。
いつになったら気付くかなと、八剣は薄く笑みを透いた。
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なんだかんだで流されかける京一。
ゆっくり染めていく。