例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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意地っ張りウォーズ








見事に残った青痣と、それらの手当てもしないで背中を向け合う子供が二人。






ほんの少し目を離していた間に、一体何があったのか。
聞かずともなんとなく予想が付いたが、しかし俄かには信じ難かったので、傍で見ていた隊士に聞いてみる。

―――――と、案の定。






「喧嘩ですよ。喧嘩」
「それもかなり派手にやらかしやがりまして」






二人の初老の隊士は笑う。
克弘がやり返すのは珍しかったなァ、と暢気に言いながら。

なる程、確かに派手にやらかしたようである。
何せ克弘がやり返したのだ。


口よりも先に手が出る左之助に比べると、実に克弘は大人しい(自分で自分を根暗と称する事もある程だ)。
性格が正反対の二人であるが、それが不思議と調和するのか、よく二人で一緒に過ごしている。
その合間に左之助が癇癪を起こしたり、克弘に揶揄われて口で反撃できず、手が出ることは珍しくない。
克弘もそれをいつも甘受しているばかりで、やられた事に拗ねた顔はしても、怒る事は殆どなかった。

そんな克弘が左之助に仕返しをしたなんて事になれば、後はもう大変としか言いようが無い。
左之助の負けず嫌いは克弘よりも何倍も強いから、やり返されれば更にやり返すに決まっている。



かくして大人達の目の届かない所で勃発した大喧嘩は、数人の隊士が戻ってくるまで続いたようで、止める時も子供二人に大の大人数人がかりという有様にまで発展した。






「それで、ずっとあの状態か?」
「ええ」






二人背中を向け合ったまま、唇を尖らせて静止。

一触即発のようにも見えるけれども、ただの意地の張り合いのようにも見えた。
特に左之助の方は、熱し易い変わりに冷め易い所があるので、そろそろこの状況が辛くなって来ているようだ。
が、其処でも負けず嫌いの意地があって、先に謝るという行為が中々出来ない。


大人達は傍で見ているだけで、仲直りの催促も、火に油を注ぐような事もしない。



沢山の視線に見つめられて、左之助が尚更居心地が悪そうに縮こまる。

克弘は目を閉じて動かなかったが、その眉が不愉快そうに歪められていた。
人目に晒され続ける事に関しては、左之助よりも克弘の方が限界が早いだろう。





左之助の体がぐらりと揺れて、後ろに倒れる。
床に落ちることはなく、左之助は肩から頭を克弘の背中に押し付ける姿勢になっていた。

どすっと左之助の頭が背中に落ちてきた瞬間、克弘の肩が跳ねた。
それから暫くして、克弘は閉じていた目を開き、肩越しに背後の幼馴染を見遣り。
判り易いほどに溜息を吐いてから。






「………おい、左之」
「……………なんでェ」






呼びかけに、少々の間はあったが、左之助は返事をした。
そして克弘はもう一つ溜息を吐いて、








「……饅頭食いに行くか」











―――――……“ごめん”なんて殊勝な言葉は、中々出て来ないものなのだ。

だって意地っ張りだから。













----------------------------------------

何が原因で喧嘩してたんでしょうね。
あれだ、どっちかがどっちかの饅頭食ったとかそんなのだ、きっと(アバウト)。



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祭り半被(携帯)


----------------------------------------

朝起きたら、地元が秋の神輿祭りで、行進の鐘の音と子供達の掛け声が聞こえてきました。
そんな訳で、チビ京に半被着せてみた。

最初はネタ粒置き場に放置予定の落書きだったんですが、加工していじくってる間に結構気に入っちゃったのでこっちへ。
しかし元が落書きであった為、半被の細かい部分や、デカい祭り団扇については全くの資料不足だったりします(汗)。
可笑しなトコは見逃して……! 特に団扇!!


表情アップ↓

祭り半被




朝起きたら、地元が秋の神輿祭りで、行進の鐘の音と子供達の掛け声が聞こえてきました。
そんな訳で、チビ京に半被着せてみた。

最初はネタ粒置き場に放置予定の落書きだったんですが、加工していじくってる間に結構気に入っちゃったのでこっちへ。
しかし元が落書きであった為、半被の細かい部分や、デカい祭り団扇については全くの資料不足だったりします(汗)。
可笑しなトコは見逃して……! 特に団扇!!


そういや私、本編中に出たチビの服装で描いたこと一回もないな……

05 この街で








数日前に、愛用している三味線の弦が切れた。



好きで愛用しているものでもないが、商売道具である。
古ぼけた三味線であるが、良い音を鳴らすもので、客には評判が良い。
禿達もこの音は好きだと言うし、京一もそれ自体は嫌いではなかったから、ずっと同じものを使っている。

そうして長く使っているという事もあるから、多少の愛着――のようなもの――は湧いていた。

新しいものを買おうと言う楼主の言葉を、京一は毎回断っている。
大体、弦が切れたぐらいならば張り直せば良いのだから、新品を買う程大袈裟な事ではないと思う。




どの道、弦を張り直すついでに調弦もした方が良いかと思う頃合であった。
時期が良いと言えば良かったので、京一は長袋に三味線を包んで、それ一つ抱えて伎楼を出た。





伎楼の中では女物の着物を着ている京一だが、外に出る時は普通に男の着物を着る。
その方が奇妙な目に遭う事も少ないし、女の格好で外に出るよりは好きに歩き回る事が出来る。

とは言え、特に気紛れで寄るような道がある訳でもない。
伎楼に来る客はあれこれと廓の中の話も外の話もよくするが、京一は基本的に聞き流している。
だから何が流行っているかなど京一の頭には残っておらず、そんなものだから、外に関する情報が何も無い。
外に出たらあれが見てみたい――――等と思う事もないのである。



向かうのはいつも決まっている。
伎楼の場所から四半刻も歩いた先にある茶屋だ。

廓の女を引き連れた男が集まる場所だったが、一人で出入りする客も少なくない。
その雑多な客の出入りに混じって、京一も茶屋の奥へと足を運んだ。


少し奥まで行くと、途中で茶屋の親父に止められた。
が、京一は何度となく此処に来ているし、親父とも馴染みである。
それどころか、京一が太夫になる以前、この親父は数回に渡って京一の伎楼に足を運んでいた。

顔を確認すると、親父はどうぞと言って奥を示した。
それを見ることなく、京一はさっさと足を進ませる。




表口の喧騒から離れた店の奥。
表と違って個別に仕切られた座敷の一室の戸を、京一は躊躇わずに開けた。







「よォ、ムッツリ」







それは其処にいた人物の名前ではなく、けれども京一にとっては彼を形容する呼び名。
呼ばれた相手はいつも眉間に皺を寄せるが、何も言ってくることはなかった――――言っても無駄だからだ。






「弦が切れた」






座敷に上がりながら言うと、相手――――如月翡翠はまた更に顔を顰める。






「…もう少し大事に扱え。月に一度でも持って来れば、まだ暫くは長持ちするんだぞ」
「ンなこたァオレの勝手だ」






長袋から三味線を取り出す京一の手付きに、如月は溜息を漏らす。


如月は廓の外にある骨董品屋の若い主だ。

京一はその店を見た事もないし、骨董がどういうものか知らないが、どうせ暇な店なんだろうと思う。
何故なら、京一がこうして調弦を頼みに此処へ来る時、一度も擦れ違うことなく彼は此処にいるのだ。
つまり、如月は毎日のように店を開けてこの茶屋へ通っていると言う事になる。


骨董品屋の主が、どうして三味線を調弦する事が出来るのか。
京一は知らないし、聞こうとも思わないから、如月が自らそれを語ることもない。
取り敢えず、見た目は出来て可笑しくなさそうだなと思うから、昔取った杵柄か何かだろうと勝手に予想を立てている。

まぁ真実がどうであるとしても、京一にとっては、調弦をしてくれさえすれば問題ない。
如月の腕は他のどの調弦師よりも良かったから、こうして彼を頼っているだけの事だし、店が暇であろうと暇でなかろうと、如月が毎日此処に通っているなら、他の宛てを探さなくても済む。




受け取った三味線の残った二弦を鳴らして、酷いな、と如月が小さく呟いた。






「全く、とんだ主に気に入られたな。この三味線も」
「そりゃァお互い様だ」






座敷奥の壁に背中を押しつけて、京一は机に置かれていた徳利の酒を猪口に注ぐと口をつける。






「こんな所で、とんだ奴に気に入られねェ事の方が珍しいだろ」






まともな奴の方が少ねェんだからよ――――と。
零す京一の表情は嘲笑を含み、それは自分自身にも向けられていた。



此処に、この街にいる限り、そんなものはいつまでも纏わり付いてくる。
妙な趣味をした客だったり、他者を貶めることしか考えていない女だったり、労咳だったり、呪いや祟りの類だったり。
人が溢れかえって零れて堕ちる場所だから、此処にはそんなものがつき物だ。


妙なものに取り付かれない訳がない。
更に言うならとんでない奴の方が少ない、と京一は思っている程だった。

そして自分自身も、“まとも”と言える人間ではないだろうと。







「此処にいるだけで、色んなモンが麻痺して来やがる」

「女侍らせてだらしねェ面してる野郎の横で、金なくした男が女に袖振られてる」

「今日まで男の下で何十両って稼いでた奴が、明日になったら血ィ吐いて死んでる―――――」


「………そんな所で、いつまでもまともな頭してらんねェよ」







極楽浄土のように華やかで。
地の底のようにくすんでいて。

一人の人間の間で、その色は一瞬の間で言ったり来たりを繰り返す。


そんな場所で京一の記憶は始まり――――きっと終わる時も同じなんだろうと思うから。



如月はそれを黙って聞いていて、時折調弦を確かめる音だけが二人の間に響く。






「ま、オレは最初からまともな頭してなかったけどな」






空になった徳利を放り投げる。
ころりと床に転がったそれは、京一の足に当たって止まった。


調弦の音が止んで、如月が三味線を差し出す。
受け取って長袋で包み、座敷を立つ。

通路に下りて草鞋を履いた所で、如月が声をかけて来た。






「おい」
「ンだよ」






首だけをめぐらして肩越しに見遣ると、如月は既に京一に背を向けていた。
そのままの姿勢で、如月は続ける。






「次は弦が切れる前に持って来い」
「なんでェ、急に。今までンな事――――」
「いいから来い」






急かされた事などなかったと、言おうとして。
遮った如月の声は、低く強い音で、拒否する事を先に拒絶していた。


抱えた三味線は商売道具で、愛着―――のようなもの―――は確かにある。
あるけれど、それと大事にするか否かは、京一の中で全く別の話だった。

少しでも三味線が面白いと感じる事があったなら、如月が言うように、月一でも皮張りや、弦や駒に気を配るだろう。
けれども京一が三味線を覚えたのは、楼主の教育によるもので、本人が好きで覚えた訳ではない。
客が音を聞いて喜ぶことも、京一の喜びに繋がるには程遠く、客の叩く囃子の音も乾いた音にしか聞こえなかった。



返事をせずに立ち尽くしている京一に、如月はやはり振り向かないままで、







「……良い三味線なんだ。もっと大事にしてやれば、今よりもっと良い音が出る」







そうかよ、と。
一言だけ呟くと、京一は外へと足を向ける。




奥から出て来た京一に、茶屋の主が頭を下げる。

今は愛想の良い膨らんだ顔が、夜は酷く卑下た構えになるのを京一は覚えていた。
……さっさと忘れてしまいたいのに、この男の顔を見る度に何故か思い出す。


ガヤガヤと煩い表口を出ると、今度は別の煩い音が京一の鼓膜に届く。
それらから早く解放されたくて、京一は戻りたくもない―――けれども他にない―――場所へと足を速めた。

此処には雑多な音が有り触れていて、酷い時には耳鳴りもする。
耳鳴りがするのは近くに霊がいるからだとか、何処かで誰かが言っていた。
じゃあ女に溺れて死んだ莫迦な男か、足抜け損ねて投げ込み寺に放られた女か。
そういう輩は同業や男だけでなく、陰間にも祟るのか、と何もない空を眺めて思う。


まぁ――――どうせ碌なのがいない街なんだ、何がいても可笑しくはない、と。
女に袖を振られて泣く男と擦れ違いながら一人ごちた。





先程の如月の言葉が、脳裏で蘇る。



どんなに良い音を鳴らす三味線でも、乱暴に扱えば弦が切れて、皮が破れ、棹も折れる。
だから大事にしてやれば、勿論逆で、もっと良い音が出る。

けれども、京一にはどうしても、腕に抱えた商売道具を特別大切には思えない。
碌でもない奴が弾いてるんだから、碌でもない音しか出ないのは当たり前だろうとしか考えられなかった。


此処は碌でもない街だから。

この碌でもない街を、もう少し愛することが出来たなら、何か変わる事があったのかも知れないけれど――――……









もっと大事にしてやれば、今よりもっと良い音が出る。


    (――――――………人も、な。)









別れ際。

言葉の後に呟かれた音は、京一の耳には聞こえなかった。
聞こうと思えば聞けた言葉は、向けられた京一自身の意識によって掴む者なく流れて消えた。











大事にされた事がないから、

大事にしたいものがない。


だってこの街は、碌でもないもので溢れている。













----------------------------------------
如月の台詞は深読み希望。


っつか、な が い … … !

しかも内容が内容なので、これ拍手御礼でいいんだろうかと(滝汗)…
毎回こんな拍手が一つは混じってるような気はしますけども。


如月を出したい出したいと思っても、中々本編に登場予定がなくて…
パラレルにすると毎回役所に困ると言うのも理由の一つだったり(爆)。

あと、未だに私の中でこの二人はケンカしてるイメージが強くて、中々喋ってくれないのですι



プレ版にお付き合いありがとう御座いました。
イメージも固まりましたので、そろそろ本腰入れて書こうと思います。
宜しければ、またお付き合い下さいませ。

04 笑顔の下に








―――――――機嫌がいいねと言われた。






「………そうか?」






問い返すと、うん、と龍麻は頷く。
それから手に持っていた杯を傾けて、其処に浪波としていた酒を飲み干す。

京一の手にも同じ杯はあったが、中身は既に空だった。
徳利を取って自分で注いで、また空にする。
龍麻の土産話を聞いている間、京一は専らそうしていた。


土産話に京一が質問や相槌を打つ事は少ない。
他の客の対応と、龍麻への態度で言えば確かに違いはあるが。

今日も、聞いているのかいないのか、端から見ればそんな態度を取っていた京一である。
何か違う事などしたかと思っていると、龍麻はそんな京一の胸中を汲んだようで、






「笑ってるね」






京一の顔を指差して、口元に笑みを浮かべながら龍麻は言った。


杯を置いて、京一は口元に手を遣った。
言われて見れば、確かに頬の角度が僅かに上がっているような気がする。






「酒が美味ェからだろ」
「そう?」
「何処の酒だ?」






普段の味と違うと言ったら、龍麻は小さく笑んだ。
どうやら、また旅先からの土産物だったようだ。


口当たりが良く、けれども甘ったるくはない、京一好みの辛めの酒。
喉を通り、液体が胃に入った瞬間から、焼けるような熱さが腹の奥から湧いてくる。
酔いが回るのも早いだろうが、京一は気にせず、また徳利を傾けた。

此処の伎楼が用意する酒も決して不味いものではないが、京一は座敷に上がると大抵飲んでいる。
いい加減に飽きが来ていたものだから、龍麻のこの土産はありがたかった。




また杯を空けた所で、ねえ、と龍麻が声をかけた。






「さっき、」
「あん?」
「……伎楼(みせ)に入った時、見た事ある子がいたんだ」






それはそうだろう、と京一は思いつつ、また酒に手を伸ばす。

龍麻は放浪癖があるから、一度街を離れると、一月は戻って来ない。
しかし街にいる間は頻繁に此処へ来るから、その間に顔だけ覚えた男娼や色子もいるだろう。










「あの子って、京一の禿だった子だよね」









ぴくり、と。
徳利に触れた手が、一瞬揺れた。

………京一の自覚のないままに。



肩よりも少し下まで伸ばした髪を、項で結った色子。
まだ幼い顔立ちをして、左目の泣き黒子が印象的な少年。

それは確かに、昨日まで京一付きの禿として、京一の身の回りの世話をしていた少年である。






「……十二になったからな。今日から水揚げだ」






少年が伎楼に売られてきたのは、三年前の事。

両親の借金苦に泣く泣く売られて来たが、当人はそれを判って、自ら受け入れて此処に来たと言う。
十年程働いて年季が明ければ自由になるのだから、それまでの辛抱だと。


その十年と言う歳月が、此処で生きる人間にとってどれ程長いか―――――京一は歯に衣着せずに教えた。
それで此処に来た事を後悔しようと今更遅いのだから、それならば最初に現実を教えた方が良いと。

だが、それでも少年は笑っていた。
読み書きも、琴も三味線も、京一よりもよっぽど熱心にこなしていた。
他の禿への世話も焼いて、器量の良い、京一にしてみれば人の良過ぎる性格をした少年だった。


……けれど、疲れた京一を労わる時に見せる笑みは、少なからず気に入っていた。



この伎楼の陰間の多くは、十二になると客を取るようになる。
例に漏れず、少年も今日から客の相手をする事になった。






「そう」
「ああ」






短い、意味のない言の葉を交わしてから、京一は杯に酒を注いだ。

酒の減りはいつもよりずっと早かったが、京一はそんな事は気に留めなかった。
杯に酒があれば飲んで、なければ注ぎを繰り返す。
そんなものだから、元々真摯に聞いてはいなかった龍麻の土産話の内容は、既に頭から失せていた。



だが注いだばかりのそれを口につけようとして、腕を掴まれて阻まれる。






「龍――――――」






他にいない男の名を呼ぼうとすると、塞がれた。
ぬるりと熱いものが咥内に滑り込んできて、呼吸と理性を奪おうとする。

手の中で持て余していた杯を取り上げられた。
少し勿体なかったが、零した訳でもなく、膳に置かれたから後ででも飲めるだろうと思う事にした。
その時になって、酒の事まで記憶しているかどうかは、知らないが。


水音が交じり合って音を鳴らし、鼓膜を犯す。
着物の帯が解かれて袂が開き、当人の印象よりは少し無骨さのある龍麻の手が、布の内側に侵入する。






「ん、ん……ふ………ッ」






用意された床になど入る余裕も与えられず、畳の上に押し倒される。


暫くの間、龍麻は口付けを繰り返した。
京一もそれに応える。

ゆっくりと離れて行って、見上げた龍麻の顔は、灯りの影になっていて京一からは見えなかった。






「やっぱり――――機嫌、いいね」
「……ん……?」
「だって嫌がらないから」






言われてから、そういや畳だったか、と背中に当たる固さを感じて思い出す。
普段だったら、幾ら相手が龍麻でも、こんな所でなんか御免だと蹴飛ばしている所だ。







「いいの?」






このまましても――――、と。
問う龍麻に、溜まってんのかと下世話な事をふと考える。


月に二、三度来るなんとかのお偉いと違って、龍麻は京一に無理を強いることはない。
此処で嫌だと言えば褥に移動するだろうし、京一としてもその方が良い。
固い畳の上での行為は、勿論躯の負担になって、最中も決して楽な事はなかった。

けど溜まってんじゃァな……等と、ぼんやりと考えて。
結局京一は考えるのが面倒臭くなって、思考するのを止めて龍麻の首に腕を絡めた。






「してェんだろ?」
「……畳だよ」
「いいからやれよ。気が変わるぜ?」






美味い酒もありつけて。
相手は龍麻だから、明日に支える事もあるまい。

仕事の事なんて滅多に心配しないのにそんな事を考えて、ああ酔ってんな、と他人事のように思う。




……頬に龍麻の手が触れた。









「また、笑ってるね」










呟いて、落ちてきた口付けに身を任せて。


目を閉じる間際、浮かんだ幼い笑顔は、きっともうこの世に咲くことはないんだろう。















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深読み希望の話(爆)。


昨日傍で笑っていた子が、次に逢った時には焦点も合ってない。
守りたいけど守れない、助けたいけど助けられない。

……そんな話でした。
…………重ッ……(滝汗)ι