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のんびりと欠伸をする猫―――京一は、此方の狼狽具合などまるで気に留めていない。
いつもと同じように眠そうに目を細め、定位置の座布団の上に座っている。
しかし、その姿形は、常の幼い子供のようなものではなく、10代後半にさしかかろうと言う少年のものへと変貌していた。
見た目は15歳程になった京一だが、中身までが成長している訳ではないらしく、仕草も見た目に比べると少々不似合いだ。
目覚めた時の自分の格好―――寸足らずになったタンクトップ一枚のみ、下半身は隠しもせず―――に疑問を持つ事もなく、八剣が着替えを促した時も、その理由を察せずに首を傾げていた。
隠さないといけないだろう、と言っても、何が? と反対側に首を傾ける始末である。
そんな少年を取り敢えず強引に着替えさせ終えたのは、着替えようと言ってから一時間後の事だ。
「………そんなに嫌かい?」
問えば、当たり前だと言わんばかりに京一の瞳が尖る。
京一が着ているのは、いつものようなタンクトップやシャツにゴムの短パンではない。
急成長した京一の体に合うサイズの服は八剣の手元にはなく、そうなると八剣の服を貸す以外になかった。
のだが、どうにも京一はそれがお気に召さないらしい。
八剣が持っている服はほぼ全て和装で統一されている。
その中から、寝巻きに使用している生地の薄い襦袢に着替えさせたのだが、それ以来、京一はずっと仏頂面だ。
「おめーの服なんか、なんで着なきゃなんねェんだよ」
専ら、京一はそれを言っている。
着替えさせている間も延々と。
それに対して、八剣も、延々と同じ事を繰り返していた。
「仕方がないだろう? それ以外に今の京ちゃんが着れる服はないんだから」
「つーか! なんで着替えなきゃいけなかったんだよ!?」
言い返した京一だが、これも延々と繰り返されている反論の言葉である。
それに対して、やっぱり、八剣も同じ言葉を返す。
「裸でいる訳にはいかないよ」
「別に裸じゃなかったぜ。シャツ着てたし。きつかったけど」
「履いていたズボン、今の状態じゃ履けないよ」
「履けてたモンがいきなり履けねえ訳あるか」
ブスッとした顔で告げる京一は、どうやら、自分の姿の有様が判っていないらしかった。
シャツがきつかった、寝る前は履いていたズボンが脱げていたと言う事実は理解しても、その原因には辿り着けない。
脱がせたシャツを見て、いつもより小さく見える事に頸を傾げるのが精々だ。
そんな子供に理論で説明しても意味はない。
となると、一番判り易いのは、ありのままをその目に見せると言う事だ。
八剣は一つ嘆息して、京一の手を取って立ち上がった。
「ちょっとおいで、京ちゃん」
「なんだよ、離せよ!」
いつも通りの抵抗があったが、八剣は気に留めなかった。
常よりも逆らう腕の力強かった事以外は。
全身を移す姿見と言う物は、此処にはない。
しかし幸いにも時刻は既に夜を迎えており、部屋の外は暗闇に覆われている。
そんな時、明るい場所から見た窓ガラスと言うのは、鏡と同様の役割を果たしてくれるのだ。
京一を窓から一メートルの距離に立たせて、窓を覆っていたカーテンを開けた。
すると、くっきりと京一の姿形がガラスに映し出され、
「………ん?」
暗闇の中に浮かび上がった人物に、京一は首を傾げて、後ろを振り返る。
知らない人間が其処にいると思っての行動や、八剣には可笑しくて、笑いを噛み殺すのに少々の苦労を要した。
しかし、振り返った其処に人がいる訳もなく。
もう一度ガラスを見て、今度は其方に近付いて見た。
そうすると、暗闇の中の人物も同じように自分に近付いて来る。
その人物が手足を動かすタイミングが自分と一緒だと気付いたか、京一の目が丸く見開かれていく。
ガラスに顔が当たると思う程に顔を近付けて、其処で目がぐるぐると動く。
それから自分の手を持ち上げて見下ろし、足元を見て、尻尾の生えている後ろを体を捻って見て。
「―――――ンだァ、これッ!?」
ようやく自分の有様を理解した子猫の尻尾が、一気に三倍に膨らんだ。
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高校生の京一が子供みたいな事してたら、可愛いなって(要はそれだけの為の話(爆))。