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家に帰ると、見知らぬ少年が蹲っていた。
「……間違いなく、京ちゃんだな……」
見知らぬ、けれどよく知る面影のある少年を見下ろして呟く。
明るい茶系色の髪に、癖っ毛気味の髪質、それに触れればむずがるように頭をふるふる揺らす。
頭には猫の耳、背中の方からは猫の尻尾、色は髪と同じ明るい茶系。
それらは、自分がよく知る子猫が持っているパーツと全く同様の色形をしていた。
しかし、ちょっと背伸びしたがりで生意気盛り、けれども子供らしく丸い頬は、今はシャープな形に輪郭を描く。
日中は尖らせた目尻は、眠っていれば一変して天使の寝顔なのだが、今は天使と言う表現は少々違う。
悪魔だとか見ていて気が悪くなるとかではないけれど、とにかく、いつもと印象が違うのだ。
それもその筈。
今此処で穏やかな寝息を立てているのは、子猫ではなく、猫であった。
「どうしてこうなっているんだか……」
今朝、家を出る時は普通通りだった筈だ。
仕事に出向く八剣を見送る訳でもなく、ベッドの上でシーツに包まって丸くなって眠っていた。
その姿は、人間の子供の五歳か六歳児程度の大きさだった。
だが今、目の前にいるのは、高校生程度の大きさにまで成長している。
単純に巨大化した訳ではなくて、身体全てが、まるで十年の歳月を一気に加速したかのように変化していたのである。
この猫が、八剣が面倒を見ている子猫と他人の空似である、なんて事は考えなかった。
子猫はいつも八剣に対して素っ気無い態度を取って見せるが、それはあの子が素直な性格ではないからだ。
世話になっている当人を前にして、好意と判る態度を取らないだけ。
だから言葉にした事は一度もないけれど、それでも子猫はこの部屋を自分の縄張りと定めている。
部屋のベランダに若い猫が迷い込んできた時、全力で威嚇して追い払っていた。
そんな子猫が、こんな大きな―――それも自分と同じ種と思しき―――猫の侵入を許すだろうか。
あまつさえ、子猫の指定席である座布団の上で丸くなって、すやすやと寝息を立てているなんて。
一先ず、猫を起こしてみよう。
安らかな睡眠を邪魔するのは忍びないが、このままにしておく訳にもいかない。
八剣が数回、猫の頬をぺちぺちと叩いて見ると、猫はいつもよりも低い声で鳴いて目を覚ました。
「にゃ……」
「おはよう、京ちゃん」
瞼を持ち上げた猫に、いつも子猫にしているように挨拶する。
猫はむっくりと起き上がり、ごしごしといつもの子猫のように目を擦る。
「おはよう」
「……ん」
短い返事の声は、やはり鳴き声と同じで、いつもよりも低い。
変声期をとうに終えた、見た目に合う声の低さだった。
子猫と同じ仕草、同じ反応、けれど違う声と違う姿。
これは一体どういう事なのか。
疑問に思っているのはどうやら八剣だけのようで、猫はじっと自分を見詰める八剣の瞳に、訝しげに顔を顰める。
「なんだよ。変な面しやがって」
変なのは俺じゃなくて、君なんだけどね。
思ったが言わなかった、恐らく憤慨すると思ったからだ。
そうなっては、話が先に進まない。
なんでもないよと答えた八剣に対して、猫は不可解そうに眉間に皺を寄せる。
子猫に比べて眦がきつくなったからだろうか、少々の凶暴性が其処に覗いたような気がした。
しかし怒り出す事はなかったので、このまま話を続ける事は可能だ。
―――――だが、その前に。
「取り合えず服を着ようか、京ちゃん」
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別に裸だった訳じゃないですよ(汗)。
ちょっと大きなタンクトップとかTシャツとか着てたので、上半身は問題ありません。
やばいのは下半身です(笑)。