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ひっく。
ひく。
聞こえてくるしゃっくりの音は、子猫から。
先に言って置こう、決して泣いている訳ではない。
…………酔っ払っているのだ、飼い主の八剣にとっては不本意ながら。
「……誰に貰ったんだい? 京ちゃん……」
「………うぃ?」
ひっく。
首を傾げながら、またしゃっくり。
部屋の中に酒の匂いはない。
日本酒などは冷蔵庫の中に数本入っているが、八剣がたまに飲むだけだ。
子猫の京一には味も匂いも刺激が強いのか、少し匂いがするだけで顔を顰める。
故に酔っ払っているとは言え、決して京一が酒を飲んだと言う事には繋がらない。
繋がらないのだが、猫が酔っ払うと言う現象は、酒以外でも起こるのだ。
そう、マタタビという植物によって。
「にぁ~」
「おっと」
珍しく抱きついてきた京一は、確かに酔っ払っていた。
赤い顔で気持ちの良さそうな表情をして、八剣の膝に擦り寄っている。
見た目こそ尻尾と耳があるだけで、人間の子供と変わらない京一。
八剣が拾った頃から人語を解す事は出来たし、本当に、耳と尻尾がある以外は普通の人間と同じだ。
しかしこういう時には、やっぱりこの子は猫なんだなと改めて認識する。
「マタタビなんて持って帰って来た覚えはないんだけどね」
「うー……にゃ」
「京ちゃん、誰かから何か貰った?」
首の後ろをくすぐりながら訊ねると、京一の尻尾がゆらゆら揺れる。
ある方向を示すように揺れるそれになぞって首を巡らせると、八剣がいつも使っている座布団に何かが散らばっていた。
京一を腕に抱いて近付いて確認すると、封の破られたビニール袋と、其処から零れた中身。
袋には『キャットニップ』と記されていた。
キャットニップは、マタタビと似た成分を持つ植物だ。
マタタビが成熟した大人の猫に効能を示すのに対し、キャットニップは子猫がよく好む。
猫に与える場合、普通はぬいぐるみの中身などに仕込んで、玩具として使う筈なのだが――――直接吸引してしまった事もあるのだろうが、やはり京一は普通の猫とはまた違うのか、マタタビ効果まで出てしまったらしい。
八剣は日本茶の茶葉なら買うが、ハーブはあまり興味がない。
それが此処にあると言う事は――――――
「そう言えば、紅葉が最近、手芸の布を染めるのにハーブを使っていたかな」
「んにゃ」
小さく鳴いて、京一がこくんと頷いた。
正解らしい。
袋に入っているのは乾燥ハーブで、壬生としては紅茶用のつもりだったのだろう。
先刻八剣が不在だった間に渡しに来て、代わりに京一が受け取った。
受け取った後、初めて見るものに興味を引かれた京一は、少しだけ封に穴を開けて匂いを嗅いでみた。
結果、夢中になって袋を破って中身を散らばらせた上、匂いに当てられて酔っ払い状態になってしまった。
ごろごろと喉を鳴らす京一に、八剣は苦笑するしかない。
散らばったキャットニップの片付けだとか、座布団がその匂いになっているとか、今はどうでも良い。
珍しく甘えてくる京一が可愛くて仕方がなかった。
「にぅ~」
「楽しそうだね、京ちゃん」
「んにゅ」
こっくり、素直に頷く。
腕に抱かれた京一は、八剣の胸にすりすりと頬を寄せる。
普段はちっとも甘えてくれないので、中々不思議な気分だが、やはり嬉しい。
「やつるぎ~」
「うん?」
甘えるような声で名前を呼ばれたのは、これが初めてだ。
一緒に暮らすようになってから数ヶ月が経つけれど、少し新鮮だ。
そんな事を考えていると、京一がぐっと体を伸ばして、
ぺろっ
頬を舐められたりなんてしたのも、これが初めての事で。
それから時々、同じハーブを壬生に注文する八剣の姿が見られるようになった。
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一日遅れでしたが、猫の日って事で。
拍手御礼で書いたちび猫京ちゃんと、飼い主の八剣です。珍しくラブ風味。京ちゃん酔っ払ってますけど(笑)。
うちの八剣は、大体どの話でも京一を甘やかしたいんですが、京一は基本的にツンデレなので甘える事をしません。
なので、酔っ払ってでも甘えてくれると嬉しいんです。
増して、京一の方からちゅーなんてされたらv(猫なんで今回は舐めてますけど)