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場所は、崩れ落ちた工事中の道路下。
周りにあるのは、瓦礫と埃と血の匂い。
落下した場所の地盤は、老朽化の所為だろうか、酷く脆くなっていた。
工事もその為に敷かれたもので、その上で動き回ればこうなるのも予測は出来る事だったのだ。
でも仕方がない。
鬼がこんな所に来てしまったのだから、追いかけて来るのは当然だ。
最も近い場所で鬼と対峙している間に、周りを省みる暇など、ある訳がない。
はぁ、と息が漏れた。
溜息のような、呼吸のような。
早く此処から出たいと思っているのに、体は一向に動かない。
先の戦闘で鬼の一撃を受けた時からだ、恐らく麻痺毒か何かだろう。
受けた時には傷口の付近がピリピリとする程度だったから放って置いたのだが、時間が経って巡ったか。
心拍数に異常は見られないので命に別状はなさそうだが、現状で見て、厄介なものである事は確かだ。
頭が確りしているのは、幸いだろうか……
ああ、それともう一つ。
別の意味で幸いな事と言ったら、此処に落ちたのが自分一人ではないと言う事だ。
「んー……」
ガラリ、音がして瓦礫の一部が崩れ、其処から龍麻が姿を見せた。
「よう、ねぼすけ」
「あ、京一」
埃を払って、龍麻は京一の傍に歩み寄ってくる。
その足取りは確りとしていて、京一のように動けなくなっている訳でもなさそうだ。
京一が横になっている瓦礫の傍で、龍麻は立ち止まった。
起き上がる様子のない京一に首を傾げ、すぐ横にしゃがんで京一をじっと見下ろす。
「どうしたの?」
「……動けねェんだよ」
「なんで?」
「…一発やられた」
「京一、まぬけ」
「なんにもねーのに落ちたお前の方が間抜けだ」
京一の言葉に、龍麻がむぅと唇を尖らせる。
それでも京一がニィと笑うと、いつもの笑みがひょっこり出て来た。
醍醐はまだ来る様子がない。
何をチンタラしてんだと思うが、落ちたのは自分のミスなので、助けに来られるのもそれはそれで癪だ。
小蒔なんかは絶対に何某か言って茶化してくるに違いない。
助けを来るまで此処で転がっていろなんて、そんなのはお断りだ。
………体はまだ動かないけど。
指先さえも動かなくて(動いているかも知れないが、感覚がない)、舌打ちが漏れた。
さてどうするか―――――と思っていたら、
目の前に、差し出される手。
見上げた先にある顔は、いつも通り、どこかぼんやりとした印象の。
口元に浮かべた笑みも、深い蒼い瞳も、差し出される手も。
他でもない、相棒のもので。
醍醐だったらいらない世話だと言うし、小蒔なら確実に揶揄の言葉が一緒に出て来るし。
葵だったら先ずは治療が先で、麻痺が解ければ京一は自分で起き上がって此処を抜け出す。
でも此処にいるのは龍麻だ。
動けないまま、差し出された手を取らずにいれば、勝手に腕を取って引っ張り起こす。
そのまま京一に肩を貸して、歩き出す。
足を殆ど引き摺っている事はまるで気に留めずに。
「京一、重い」
「るせェ」
足元の瓦礫がガラガラと煩い音を立てる。
その音の原因は、まともに足が動かずに浮かせることさえままならない京一の所為だ。
瓦礫の山を登っていけば、落ちた場所からは少し移動するが、地上には戻れる。
いつもなら一飛びで抜け出せるのだが、今の京一には無理だ。
そんな京一を背負っている状態なので、龍麻も地道に歩いて登るしかない。
程なく腕を上げれば地上に届くという所まで辿り付く。
が、龍麻は其処からどうしようかと立ち尽くした。
京一はまだ動けない。
龍麻が先に行けば京一は上がれないし、京一を先に上げようと思っても、京一は自分の体を支える力さえないから、地上に上る事はできない。
龍麻同様、京一もどうしたもんかと考えていたら、
「京一ー! 緋勇ーッ!」
「緋勇君、京一君!」
「二人とも、大丈夫ーッ?」
降ってきた声は、仲間の声。
見上げれば、明け方の空を背にした三人がいて。
すぐ傍らで、いつもの笑う気配がする。
二人を引き上げる為に、醍醐が手を伸ばす。
龍麻は京一の腕を持ち上げて、醍醐に捕まらせた。
まともに力が入らずにいると、醍醐の方が京一の腕をしっかりと捕まえて持ち上げる。
麻痺毒にやられた事を龍麻が説明すると、直ぐに葵が治療を始めた。
自力で登った龍麻にも、小蒔が怪我をしていないかと声をかけている。
龍麻は小さく笑って、落ちた時に打った程度だと言った。
ようやく麻痺が消えて立ち上がる。
少し足元がふらついたが、直に感覚は戻ってくるだろう。
「さてと……飯でも食いに行くか」
「いいねー! ね、葵も行くよね?」
「ふふ、勿論よ。夕飯まだだものね」
「緋勇はどうするんだ?」
「僕も行くよ」
いつものラーメン屋でいいよな、と。
言った京一に、誰も嫌だなどと唱えるものはなく。
そして僕らは歩き出す。
束の間の非日常から、いつもの日常へ。
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………お題、添えてるのか……?
自由度の高いお題はいつも悩まされるなぁ……
好きなんですけどね、こういうの。