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とすっ、と。
背中に乗った重み。
何かと思って振り返ろうかと思ったが、寸での所で止めた。
風呂上りの火照った体温が、背中越しに伝わってくる。
拭き切っていない髪から雫が滴っているのが判ったが、今は何も言わなかった。
珍しい事もあるものだと思ったが、それ以前に、そう言えば今日は少し様子が可笑しかったと思い出す。
受け答えはいつも通りで、「京ちゃん」と呼んだ後の返す言葉も代わらなかったけれど、何かが違った。
あまり目線を合わせなかった気がするし、しかし避けられてる訳でもない(それなら、最初から此処に来ない筈だ)。
風呂に入ると言うから見送って、八剣はその間、本を開いていた。
彼が風呂から上がったのも物音で判ったが、特に気にせずにいたのだが―――――
「湯加減、どうだった?」
「別に」
「そう」
良いとも悪いとも言わない。
別にどちらでも構わない――――出来れば良い方が良いとは思うが。
会話の糸口にしただけだ。
「外、寒かっただろう。ちゃんと温まった?」
「んー………」
重みが寄り掛かってくる。
すっかり体重を預けているようだった。
背中越しに伝わる体温は、いつもより高め。
まだ風呂に入っていない八剣には、ちょっとした湯たんぽ代わりだ。
ふと、八剣が窓へと眼をやると、其処には自分たちの姿が映りこんでいた。
寄り掛かっている京一は俯いていて、鏡代わりとなった窓には気付いていない。
盗み見しているような気分だったが、八剣はそのまま、窓を見つめていた。
俯く京一の表情は、何かに心奪われているとか言う様子はない。
だが頬が赤くなっているのは、風呂上りだからという理由一つではないような気がする。
時々、照れ臭そうに恥ずかしそうに鼻頭を掻いているのが見えた。
どうやら、何か気になることがあったとか言うのではなく、単純にこうしていたいらしい。
本当に珍しいものだ。
―――――珍しいが、甘えてくれるのは悪い気がしない。
「明日も寒いらしいよ」
「…ふーん」
「厚着した方がいいね」
「……ふーん」
「その前に、今夜の内から冷え込むかな」
「…………」
もぞり、背中の重みが動く。
八剣の八掛の裾が引っ張られた。
振り向きたい。
が、恐らくそれはやってはいけない。
だから窓に映り込んでいるのを見た。
眉根を寄せて、何かを言おうとして止めるのを繰り返す仕草。
素直じゃない彼の、多分これが精一杯。
くすり、笑みが漏れる。
それが聞こえてしまったらしい。
京一の顔が真っ赤に染まる。
「今日は一緒に寝ようか、京ちゃん」
寒いしね、と。
言い訳になる一言を付け加えて。
頷かない代わりに、赤い額を押し付けてくるのに、また笑みが漏れた。
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気紛れを起こして素直になってみたけど、スッゲー恥ずかしい京ちゃん(笑)。
そんな京一を「可愛いね」と思ってる大人な八剣が好きです。