例えば過ぎる時間をただ一時でも止められたら。 忍者ブログ
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01 慣れない優しい言葉









「バッカじゃねーの」







顔を見て第一声がこれだ。
思わず苦笑が漏れる。

でも、彼らしいとも思った。








八剣が、随分久しぶりに風邪というものをひいたのは、二日前の事。
最初は大した事でもないだろうと思っていたら、これがとんだ侮りで、昨日は39度の熱が出た。
何が原因だったか考えても特に浮かぶものはない、本当に急な出来事だった。

その昨日のうちに彼――――京一は寮に来ていて、八剣の部屋に泊まる算段だったらしい。
しかし入り口で壬生に逢い、風邪が移ると良くないからと帰って貰った。
もしも来たらそうしてくれと壬生に頼んだのは八剣で、何故だか壬生はそんな事まで彼に伝えてくれたらしく、案の定京一は不機嫌な足取りで帰っていったと言う。


それから一日が経ち、今日になって。
昨日のピーク時に比べると熱は下がったが、頭痛はまだ続いており、今日はずっと寝て過ごしていた。

そうして昼過ぎ頃から、今の今まで眠っていて、目が覚めたら。



彼がいて。
そう、






「バッカじゃねーの」






……と来たのである。




今日も無理だと、壬生に頼んでおいた筈だったのだが。
出掛けた隙だったのか、壬生の方がその頼みを放棄したか。

それとも、目の前の少年が押し切ったか。


それはともかく。


昨日の事が尾を引いているのか、京一は思い切り不機嫌な顔をしていた。
これでもかと言わんばかりに眉間に皺を寄せて、右肩に担いだ木刀がゆらゆら揺れる。

でも、その不機嫌な顔でも、数日振りに見ることが出来たのだ。
頭痛とだるさで滅入っていた気分が、これで少し楽になる気がするのだから、自分は相当彼に嵌っているのだろう。
今更の話だが。






「どうせ空調つけっぱなしで寝たとか、そんなのだろ」
「さてね」






空調は、どうだっただろう。
昨日と一昨日はつけていなかったと思うが、その前は。

考えている合間にも、京一はバーカ、とまた言った。






「あまり言われると傷付くね」
「はァ? お前が?」
「病人は気弱になるものだよ」
「ンなモンお前にゃありえねーよ」






がんっとベッドを蹴られた。
やはり不機嫌だ、恐らく昨日の分も加算されての。


でも昨日は家に上げてやることは出来なかった。
今日よりもダウンしていたから、いつものように出迎えることも出来ない。

彼は何度も此処に来ているから、茶菓子の場所は知っているし、一人にしていても好きに過ごすだろう。
けれど、それは八剣が嫌だった。






「バカだバカ。大バカ」
「京ちゃん……」






ちょっと勘弁してくれるかな、と。
言いかけて、八剣は声を詰まらせた。











「とっとと治せ、大バカ野郎」










心配なんかさせんな。

不安になるとか思わせるな。

逢わせないとかするんじゃねェ。


とっとと治して、いつもと同じ顔して出迎えろ。



風邪なんかひいてんじゃねえよ、バカ野郎。











見下ろす瞳は揺れていて、そんな声が聞こえてくるようで。
現実、耳に聞こえてくるのは、相変わらずの罵倒の台詞。

だけどどちらが真実なのかは、迷わなくてもすぐ判った。




優しい言葉が苦手な君の、精一杯の言葉だから。














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八剣が寝たら、色々世話焼くんじゃないですかね。
んで八剣は実は寝たフリだったりするといい。

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