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「バッカじゃねーの」
顔を見て第一声がこれだ。
思わず苦笑が漏れる。
でも、彼らしいとも思った。
八剣が、随分久しぶりに風邪というものをひいたのは、二日前の事。
最初は大した事でもないだろうと思っていたら、これがとんだ侮りで、昨日は39度の熱が出た。
何が原因だったか考えても特に浮かぶものはない、本当に急な出来事だった。
その昨日のうちに彼――――京一は寮に来ていて、八剣の部屋に泊まる算段だったらしい。
しかし入り口で壬生に逢い、風邪が移ると良くないからと帰って貰った。
もしも来たらそうしてくれと壬生に頼んだのは八剣で、何故だか壬生はそんな事まで彼に伝えてくれたらしく、案の定京一は不機嫌な足取りで帰っていったと言う。
それから一日が経ち、今日になって。
昨日のピーク時に比べると熱は下がったが、頭痛はまだ続いており、今日はずっと寝て過ごしていた。
そうして昼過ぎ頃から、今の今まで眠っていて、目が覚めたら。
彼がいて。
そう、
「バッカじゃねーの」
……と来たのである。
今日も無理だと、壬生に頼んでおいた筈だったのだが。
出掛けた隙だったのか、壬生の方がその頼みを放棄したか。
それとも、目の前の少年が押し切ったか。
それはともかく。
昨日の事が尾を引いているのか、京一は思い切り不機嫌な顔をしていた。
これでもかと言わんばかりに眉間に皺を寄せて、右肩に担いだ木刀がゆらゆら揺れる。
でも、その不機嫌な顔でも、数日振りに見ることが出来たのだ。
頭痛とだるさで滅入っていた気分が、これで少し楽になる気がするのだから、自分は相当彼に嵌っているのだろう。
今更の話だが。
「どうせ空調つけっぱなしで寝たとか、そんなのだろ」
「さてね」
空調は、どうだっただろう。
昨日と一昨日はつけていなかったと思うが、その前は。
考えている合間にも、京一はバーカ、とまた言った。
「あまり言われると傷付くね」
「はァ? お前が?」
「病人は気弱になるものだよ」
「ンなモンお前にゃありえねーよ」
がんっとベッドを蹴られた。
やはり不機嫌だ、恐らく昨日の分も加算されての。
でも昨日は家に上げてやることは出来なかった。
今日よりもダウンしていたから、いつものように出迎えることも出来ない。
彼は何度も此処に来ているから、茶菓子の場所は知っているし、一人にしていても好きに過ごすだろう。
けれど、それは八剣が嫌だった。
「バカだバカ。大バカ」
「京ちゃん……」
ちょっと勘弁してくれるかな、と。
言いかけて、八剣は声を詰まらせた。
「とっとと治せ、大バカ野郎」
心配なんかさせんな。
不安になるとか思わせるな。
逢わせないとかするんじゃねェ。
とっとと治して、いつもと同じ顔して出迎えろ。
風邪なんかひいてんじゃねえよ、バカ野郎。
見下ろす瞳は揺れていて、そんな声が聞こえてくるようで。
現実、耳に聞こえてくるのは、相変わらずの罵倒の台詞。
だけどどちらが真実なのかは、迷わなくてもすぐ判った。
優しい言葉が苦手な君の、精一杯の言葉だから。
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八剣が寝たら、色々世話焼くんじゃないですかね。
んで八剣は実は寝たフリだったりするといい。